キミを絶対、世界のみんなに自慢する。〜ポンコツな家政婦とナマイキ少女の下克上〜

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【第5話】空から降ってきた女(26)

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 リュンヌは酒蔵のある丘を下り、新鮮な果物が実った果樹園をも走り抜けた。

 低い柵を軽い身のこなしで何個も飛び越え、道の終わり、村の端っこにある村長の邸宅へと駆け込んだ。

 中に帰るや否や、リュンヌはすぐさまドアを閉めた。
 鍵穴に目を近づけて外を見る。
 静かに揺れる庭の草木。そのいつも通りの風景を数分ながめ、心を落ち着かせた。

(良かった……追ってきてない……)

 胸を撫で下ろすと、リュンヌは階段を駆け上がり、父親の自室へと向かうのだった。



「おとーさん!! なんなのあの人!! ありえないんだけど!!」

 父親は机で書き物をしていた。
 窓から差し込む陽射しが、眼鏡を掛けた彼の顔を照らしている。

「まだ仕事中だ。急にどうした?」
「あの新人家政婦! 私の足を舐めようとしたの!!」
「君が舐めさせようとしたからだろう」
「確かにそーだけど……え? なんでそんか冷静なわけ?」
「日頃の行いかな」
「……あの人ヘンタイだよ! 今すぐクビにして!」

 父親は驚き、ようやく顔を上げた。

「それは興味深い。今まで八人の家政婦を雇ったが、皆泣きながら退職願を出してきた」
「みんな“普通”だったからじゃん?」
「それなら新しい試みになるな。さっそく初めての事態だ。リュンヌからクビを懇願こんがんするなんて」

 彼は席を立ち、窓から外を眺めた。
 すると、庭をキョロキョロと見回すキノーの姿が見えた。

「ひっ!?」

 リュンヌも彼女の姿を見つけ、思わず父親の背中に隠れる。

「すぐ!! ねえお願い!! おとーさん!! 今すぐクビにしてよ!!」
「まあ落ち着きなさい」

 カーテンをそっと閉め、今にも泣き出しそうな娘の頭に優しく手を添えた。

「大丈夫、彼女は決して悪い人じゃない」

 リュンヌの父は、昨日の出来事を語り始めた。

「あれは村に帰る途中、砂嵐に巻き込まれた時だ……」



◇◇◇◇◇

 二十時間前。


 強い陽射しを背に、一台の馬車が道なき荒野を駆けていた。  

「あ~、フォマロー様。砂嵐ですよぉ」

 御者ぎょしゃの声に、客車にいた眼鏡の中年男は顔を上げた。

 窓から外を眺める。
 砂埃が巨大な渦となり、馬車の方へ近づいて来るのが見えた。
 
「またか……ツイてないな」
「全くですよぉ。いま作動させますね」

 溜息を吐きながら、御者はくらから伸びるアームの先に視線を移した。
 そこには手のひらサイズの薄い板が収まっており、彼が手をかざすと表面にいくつもの小さな画像が浮かび上がった。

「【防壁の魔法】を、っと」

 指先で画像をタッチした直後、板が淡い光を放つ。そして板からアーム、鞍へと光が伸びて行き、やがて馬車全体を包み込んだ。

「これでバッチリですよぉ」
「ありがとう。使用料はまだ大丈夫かい?」
「ええ、まぁなんとか。まだカミさんに怒られない程度ですよぉ」

 そう言いつつ、御者は板を操作し【今月の魔法使用料】を確認すると乾いた笑い声を上げた。

「そろそろ……流行りの定額制に乗り替え時ですかねぇ」
 


 砂嵐が馬車を飲み込む。

 舞い上がった砂と、暴風による轟音。
 しかし防壁魔法を張った馬車には何処吹く風。何事もなく走り続けた。

 そんな時だった。
 
「あ!? なんだありゃあ~!」

 驚く御者の声とともに、突如、馬もいなないた。
 
「人だぁ!?」

(野盗か!?)
 フォマローは素早く足元のクロスボウを手に持った。
 砂嵐に紛れて馬車を襲う……視界が悪い状況を利用した犯行は、決して珍しい事ではなかった。

「女だぁ!?」

(ん、女盗賊か?)
 珍しいが、油断はしない。

「こっちに飛んで来るぅ……!」

(え???)

 防壁の魔法を張らずに飲まれたのか? 
 気になり、フォマローは馬車から身を乗り出した。

 直後。

「危なあああぁぁぁぁ……っ」

 ごんっ。

 女は声を上げながら、馬車の周囲に張られた光の壁に勢いよくぶつかった。
 
「ああああああぁぁぁぁい……!!」

 そして声を上げたまま、再び飛ばされて行った。

 御者とフォマローは唖然とした表情で、しばらく女の飛んでいった先を見つめた。

「フォマロー様ぁ……おれ、しっかりと見ちまいました……。
 ほらぁ、砂嵐んなか進むってんで【暗視ゴーグル】着けてたからさぁ……」

 御者はそう言いながら、淡く光るゴーグルを着けた顔をゆっくりとフォマローの方へ向けた。

「あの女……あんなスピードでぶつかったのに……傷一つ付いてなかったんですよ……!」
「何かしらの魔法を使っていたのでは?」
「それがぁ! 光ってなかったんですよぉ! 
 普通光るでしょう!? 魔法使ってたらぁ!! 
 生身だったんですよぉ!!」

「……」



 そうこうしていると、馬車は砂嵐を抜けた。

 再び陽射しが降り注ぐ。
 開けた視界に、御者も【暗視ゴーグル】を外した。
 
「全く……変なもん見ちまいましたよぉ。
 この仕事も五年やってるんですけど、こんなの初めて……」

 御者が突如、言葉を詰まらせた。
 フォマローも彼の目線の先を見る。

 地面に倒れ込む、先ほどの女の姿があった。
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