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【第10話】それが逆に火を着けた
しおりを挟む湖の中から鍵を見つけられたのは【把握】のお陰だった。
泥の丘が広がった、湖の底。
キノーの目は水中でも地上と同じように周囲を見通せたが、それでも鍵は見あたらなかった。
(もしかして……泥の中に沈み込んでいるのではっ?)
まずはリュンヌに鍵のサイズを確認。
「鍵ってどのくらいの大きさでしょう?」
「う~ん……こんくらい?」
二本の指で示されたのは約八センチ。
「わかりましたっ!」
再び水中へ。
後は単純である。
直径八センチくらいの金属をイメージしながらスキルを発動。
海洋生物のように身体をバタつかせて数分間、水中の泥を巻き上げる。
すると。
『“青銅”。直径七十五ミリ。幅二十ミリ。重量十三グラム。』
水中を舞う泥の中から、目的の物質情報をキャッチした。
(想像力だっ! この【把握】は、想像力があれば何でも探し出せるぞっ)
その後はリュンヌの部屋にて、飛んできたオルゴールをキャッチ。
突如視界に入った“何か”に意識を向け、時間を遅くしたのだ。
(視野に入れば遅くできる……“動き”に注意すれば、大抵の事には対応できるっ)
しかし、そのまま掴んだら破損する恐れがあった。
丈夫な身体も時には凶器だ。
とっさに身を引いて、衝撃を逃そうとした。
そうしたら体を引きすぎて、後方の階段を落下してしまった。
またやらかした……転がり落ちながらそう思ったが、オルゴールは無傷だったので結果オーライである。
何はともあれ、スキルあっての任務達成。
習得のタイミングも含めて、幸運だった。
◇◇◇◇◇
バスルームを出ると、カゴの中に着替えと置き手紙を見つけた。
『これ着て』
(お嬢様っ……!)
素っ気無い一文だが、きっと彼女なりの感謝の表れなんだろう。
温かみを感じる。
着替えはカジュアルな女物だった。
ブラウスとワイドパンツ。シンプルだが何処か品がある。
(奥様のかな……?)
丈は少し短かいが、袖を畳むなどして良い感じに調整した。
着替えを終え、鏡の前に立つ。
(こういう服着るの、いつ振りだろう……)
放浪中は、丈夫さだけで服を選んでいた。
フォマローに支給された服も、彼のぶかぶかな着古しだった。
ようやく……ようやく着用できた女物の服だった。
鏡に映る、自分の身体を見つめる。
なんとなく、色々とポーズを取る。
(お嬢様とも今後は上手くやっていけそうだし……この幸運、絶対に手離さない様にしなくてはっ)
エプロンも新しいものを着用し、意気揚々と廊下に出た。
すると。
「随分、ゆっくりシャワー浴びてたじゃん」
モップを手に持ち、壁に寄り掛かかるリュンヌの姿があった。
「すいませんっ。つい……」
「別にいーよ。それより、はい。これー」
モップが手渡された。
「私は着替えて来るから、その間に広間の掃除お願いねー」
「わかりましたっ」
「制限時間は五分」
「はいっ……え!?」
「“あの人”が、そろそろ帰って来ちゃうからさー」
そう言いながら、リュンヌは窓枠を指でなぞった。
「綺麗好きなんだよねー。ここの夫人は」
フッ、と短い息を吐き、指先のホコリを払った。
「まー、床の汚れも残りの時間も自業自得と思って頑張ってよ」
「……」
「私も今から急いで、この汚れた服を着替えなきゃいけないしさー」
キノーは、思わず俯いた。
何故、私がシャワーを浴びてる間に着替えなかったのか?
否、着替える時間がなかったんだろう。
私の着替えや、モップを用意してくれていたから。
私のせいなのだ。
部屋が汚れているのも。
少女の服が汚れているのも。
制限時間が少ないのも。
すべて私のせいなのだ。
そう言いたいのだろう、とキノーは思った。
「じゃー、よろしくー」
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべ、少女は階段を昇っていった。
(お嬢様……)
彼女の背中を見送ると、キノーは己を恥じた。
考えが甘い。自分はなんて甘ちゃんなんだ、と。
もうすっかり、彼女の心を掌握できたつもりでいたのだ。
思えば、だ。あの少女は最初から変だった。
なぜ新人の家政婦に、自分の足を舐めさせようとするのか。
次は湖から鍵拾い。
で、今度は罪の意識を植えつけようとしている。
でもこの状況は、そもそも湖の中に入ったせいだし、夫人の帰りが近い事を知っていれば、急いで掃除する事にもならなかった。
これは、リュンヌによって仕組まれた罠だ。
把握するべきは、少女の心だった。
理由は不明だが、どうやら自分に失敗をさせたいらしい。
なんなら、クビにしたいのかも。
普通なら胃の痛くなる状況だった。
しかしそれが逆に、キノーのやる気に火を付けた。
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