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第15話 爺、少女に首輪をつける
しおりを挟むシリウスに魔法を教えると決まってからおよそ三日後。
二人は改めて街郊外の木立にやってきていた。
「待たせた。色々と準備があったもんでな」
「それは別に問題ないんだけど……これから私は何をすればいいのかしら?」
「早る気持ちは分かるが、しばらくは地味な訓練になる」
「別にそれはまぁ問題ないけど……」
「お前さんの出来次第じゃ今日中に終わるかもしれんな。流石にそれは無理じゃろうけど」
会話の最中にも、シリウスは収納箱の中から色々と物を取り出していく。さまざまな薬草や、モンスターの一部。元々は迷宮で採取しギルドに卸さなかった類に加えて、市場で購入したものも混ざっている。
「そういえばお前さん。指輪と腕輪と首輪。付けるならどれがいい?」
「何よその質問」
「いいから答えんさい」
「その中だったら……首輪?」
「まさかのチョイスじゃよ」
「指輪と腕輪って、ちょっと窮屈な感じがするのよね。だったら首輪かなって」
「なるほど、首輪と。勢いで用意したんじゃがな」
最後に収納箱から革製の首輪を取り出す。
「シリウス、悪いがお前さんの血を貰えんか?」
「まさか呪いの儀式でもするんじゃないでしょうね」
「当たらずとも遠からず……といったところかな」
うへぇと顔を歪めながらも、シリウスは懐からナイフを取り出すと自身の指先を切り裂く。イリヤはそれを首輪の表面に擦り付けると、魔法でシリウスの指先にある傷を癒した。
傷跡すら無くなった指先を繁々と眺めるシリウス。
「私も魔法を覚えればこんなことができるのかしら」
「どんな魔法を覚えられるかは個人差があるからなわからん。あ、それと髪の毛も」
「はいはい」
髪の一房を切り取るとイリヤに手渡すと、彼に首輪と共に地面に設置。それを中心にあらかじめ出していた素材を並べていく。見覚えのある光景に、イリヤがこれから何をするのか分かった。
「もしかして、収納箱を作った時みたいに」
「猟兵風にいえば、魔術機の|作成(クリエイト)じゃな。もっとも、こいつは普通の魔術機とはちと毛並みが違う」
イリヤが両手を叩いてから地面に触れると、いつかのような魔法陣が生じる。だがよくよくみれば雰囲気こそ近いが描かれている紋様がまるで違うのが分かった。
「今回はあらかじめ地面に書かないんだ、魔法陣ってやつ」
「収納箱を作るのに比べればお遊戯レベルの楽なもんじゃからな。素人からしてみりゃぁどっちも妙技と呼ばれるかもしれんがな」
配置された素材が光に包まれると形を崩し、中央に配置された首輪に吸い込まれていく。髪も同じく形をなくし溶け込んでいった。
やがては、魔法陣も消滅し残されたのは黒塗りに変じた首輪だけとなった。
「完成じゃ」
最後に首輪を手に取ると、目元に魔法陣を浮かべて首輪を色々な角度から観察していく。
「前々から目のところに浮かんでるのをみるけど、それも魔法?」
「ああ。対象の魔力の流れを読み取ったり状態を確認する解析魔法じゃ。分かるのは使用者が蓄積した知識が元になっておるから万能とは程遠いが、覚えておくと何かと役に立つでな」
確認を終えたイリヤは、首輪をシリウスに差し出した。
「ほれ、付けてみろ」
「……本当に呪いの魔術機じゃないでしょうね」
「呪いだろうがなんだろうがつけないことには始まらないぞ」
有無言わさぬイリヤの様子に観念したのか、シリウスは諦めて首輪を受け取ると己の首に装着する。
「……特に変わったところはないわね」
本当に呪いか何かが襲ってくることを覚悟していたのか、シリウスはいささか拍子抜けの様子だ。それを眺めていたイリヤがポツリとぼやく。
シリウスは狼の獣人だ。つまりは狼耳と尻尾があるわけで、そこに首輪が合わさると相乗効果で何やら背徳感が湧き上がってきそうになる。
「これはあれじゃな。下手すりゃ一種のプレイに見えるの」
「どうしたの?」
「い、いや。なんでもないぞ。ああ、なんでもない」
変な空気になりかけたところを、咳払いで強引に打ち消したイリヤ。気を取り直してから新たな指示を出す。
「ちょいと剣を抜いて振ってみろ」
意図はわからなくとも今は従うのが正しいと判断し、シリウスは疑問を口にすることなく背中の鞘から剣を引き抜いた。
「くっそ重い剣じゃよなそれ。肩が抜けるかと思ったわい」
初めて会った時に、ドラゴンの攻撃から逃れるために一緒に飛んだのだが、のしかかる負荷は相当なものであった。
「一応は軽くて強度のある金属の合金だから、純粋な鉄よりかは軽いわ。でも、このくらいの重さがないと、魔術機が使えない私じゃ攻撃力が圧倒的に足りないのよ」
重い、とは口にしつつもシリウスは手慣れた動きで大剣を振るう。切っ先が翻る都度に風を切り裂く音がイリヤの耳にも届く。
「よくそんなに軽々しく振るえるな」
「いや、重いのは間違い無いんだけど、昔からね。持ち上げようって思うと結構なんとかなっちゃうのよ。これ以上の重さになると流石に無理だけど」
「ほぅほぅ、そうかそうか」
シリウスが何気なく口にした内容に、シリウスはしたり顔で笑った。
「シリウス。剣を正眼に構えてくれ」
言われた通りの構えをとるシリウス。見たところ剣術は我流であろうが、それでもモンスターを相手にこれまで立ち回ってきた経験からくる堂の入ったものだ。
「じゃ、しっかり構えておれ」
「構えてるわよ」
「本気でじゃ」
「わ、分かったわよ」
声色の重さに少し驚きつつ、シリウスは改めて柄を握りしめる。
そこへ、イリヤが告げた。
「『|出力制限(リミット・オン)』」
ズンっ!
「────────ッッッッ!?」
シリウスの首輪が淡く光った次の瞬間、彼女は危うく剣を取りこぼしそうになった。イリヤにあらかじめ言われていなければ間違いなく手から落としていただろう。
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