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最終章 悪意と希望

閑話 悪意

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 ◇


 その日から公爵邸には黒い精霊たちが飛んでくるようになった。

 その精霊たちはどういう訳か、薬の力が効かなかった。
 黒を落とすことができなかったのだ。

 いつも通り触れようとしても薬にならず毒になる。
 毒に触れた精霊たちはそのままチリとなった。

 これが意味するのは、この精霊たちは私に悪意を持って飛んできているということ。


 初めは数匹程度だったその数も、ノルヴィス様が屋敷に戻って来た時には一日数十匹となっていた。

 日に日に多くなっていく数に、私の力が追い付かなくなっていった。
 いつの間にか私の体には悪意にまみれた精霊たちがまとわりつき、ゆっくりと悪意が染み渡るように体調が悪くなっていく。


 今のところこの精霊たちは私にだけ向かってきている。
 けれどノルヴィス様や公爵邸の皆に向かわない保証などなかった。

 だから私は人を遠ざけ、部屋にこもることを決めたのだ。

 ―――
 ――
 ―

 どれだけの時間が経ったか。
 ふと体が軽くなり目が覚める。

「――ノルヴィス、様?」

 部屋の中には私一人。

 眠りに落ちる前と何ら変わらない光景。
 けれど今まで感じていたつながりのようなものが薄れていくようなそんな気配がする。

 今を逃せばもう二度と会えなくなるような、自分から背を向けて遠ざかっていくような……。

(いかないで……)

 ようやくできた大切な縁を手放したくなくて、私は無意識に腕を伸ばした。


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