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アリス IN 異世界日本

アリスの笑顔

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【キャンプ場】
「佐々木君だったかな?アリスちゃんと大切な話があるんだ。少し外して欲しい」

「えっ?」

アリスと佐々木に話し掛けてきたのは徳川夫婦だった。2人目の神隠し被害者【徳川有栖】のご両親。もちろん市内では有名人なので佐々木は知っていたが、席を外して欲しいと言われた事が気になった

「すまない、宗一郎達と食事の準備でもしていてくれないか?」

師範代もやって来て、退席を促されたので佐々木は素直に言う通りにした

……………………………………………

「キミがアリスちゃんだね、初めまして。私達は【徳川有栖】の親なんだ。キミは…娘と同じ名前なんだね…キミは私達の娘を知っていると聞いたのだが…教えてもらえないだろうか?娘の事を…」

「お願いします!あの娘は私達の大切な娘なんです!」

両親からの切実なお願いをされたアリス。我が子を心から心配するその姿は、9歳の頃ヴォィドルフの群れに里を滅ぼされて、孤児院に行き義父と死に別れ、義理の兄と妹2人との生活を続けていたアリスには特に新鮮に映った


「一条さんの息子さんは勇者見習いに励んでいて、沖田さんの叔母さんは臥龍族の王女を務めているのですか?……
いやはや、皆さん人々の為になる立派な事に励んでいるのですね。それで…私達の娘は?」

「徳川の有栖さんはね…消去の魔女って呼ばれているよぉ!」

「ま、魔女!?」

その報告を受けた徳川夫婦の表情は驚きに染まった。優輝の勇者見習いは人々の希望の仕事と言えるし、小町の1国の王女に関しては、言うまでもなく尊敬され慕われる立場だ
天才少女と持て囃(はや)された自分達の娘は、一体どんな立派な仕事をしているのか?期待していた徳川夫婦にとって【魔女】の単語は意外でしかなかった

「あ、あなた…魔女と言っても先入観で悪く思うのは良くないわ。アリスさん、私達の娘がしているその【魔女】と言う職業は何をする仕事なのかしら?」

【母は強し】だった。魔女という単語に怯まず希望を持ったのだが…

「有栖さんはね、ベイ・ガウザーって言う魔族の将に付き添う魔女なんだよぉ。【消去の魔女】とか【最強の魔女】って言われて世界中から恐れられてる!って聞いたよォ!」
 

アリスは言葉に含みを持たせる。とか、そういう考えは一切なく、今まで聞いた事を包み隠さずストレートに話した

「魔女…だと?…しかも、人間側と敵対する魔族の将に付き添う【最強の魔女】だなんて…な、何かの間違いじゃないのか?」

徳川夫婦は失意の底に叩き落とされた。天才少女と言われ、失業寸前まで追い込まれていた仕事を立て直してくれた自分達の娘が、遠い星で世界中から恐れられる魔女になっている。と言われたのだから無理もない

「あっ!でもね、国家災害級って言われる魔獣【マルバァス】が現れた時に、お友達と一緒にやっつけてくれたんだよぉ!」

「え!?…そうなのか?」

「敵対してるとは言え、悪。という訳でもないのかしら?あの娘は…立場よりも本質を大切にする娘だったし…」

娘が悪に染まった訳でもなさそうだ。という情報を得てとりあえず一安心した徳川有栖の両親

……………………………………………
【調理場】
「食事の手伝いか…」

子供たちを手伝ってあげてくれ。と言われたのだが…遠目から見ても和気あいあいと調理している優香と父親と宗一郎。その中に入っていくのは、先程のアリスの拒絶反応の事もあるし、人見知りガチな佐々木には抵抗を感じた
佐々木は皆から離れ、岬の先端に足を運んだ。海から押し寄せる波が岸壁に叩き付けられている。自然の壮大さを感じさせた

「んっ?あの花は?」

その岸壁沿いに目線を下げると…5メートル程降りた所に【ツツジ】が咲いていた。アリスの髪色の様に、鮮やかな朱色の花を咲かせていた

(アリスちゃんも14才の女の子。綺麗な花には心を癒されるだろう)

先程、宗一郎に無神経に腕を掴まれ過去の苦い思い出が蘇り傷付いたアリスの為に、佐々木はその花を取りに行く事にした

(なに、たかが5メートル程度だ。あの花を取って戻ったらアリスちゃんに渡してあげよう。キット笑顔を魅せてくれるハズだ)

アリスの明るい笑顔がみたい佐々木は、1人で岸壁を降りて行った

(良し、後1メートル…手を伸ばせば届く…もう少し…)

「うわっ!?」

佐々木が掴んでいた岩が、急に抜け落ちた為にバランスを崩した


「あれ?今ナニか言ったぁ?」

「いや、何も言っていないが…」

佐々木の居る岸壁はアリス達から50メートル以上離れている為、佐々木の声が拾えたのは獣人族のアリスだけだった

(くそ!向こうの岩を掴めば…)

別の岩に捕まろうと体勢を動かす佐々木「ボコンっ!」その時、もう片方の手で掴んでいた岩までもが抜け落ちた!

「うあっ!?」


「やっぱり!聞き間違いじゃない!」

悲鳴のような声を聞いたアリスは、佐々木の声が聞こえた方に猛ダッシュした

佐々木は片手で岸壁から生えている枝を掴んで、宙吊り状態になって耐えていた

(この枝では長くもたない…もうすぐ落ちる…)

佐々木が諦めかけた時

「ここに居るのぉ!?」

岸壁の上から顔を出したアリスが下を覗き込むと、今にも下に落ちそうな佐々木を見付けた

「待ってて!」

そう言うとアリスは斜面を下り始めた。有り得ないが、漫画の様に斜面を走って降りて来た

「ガシッ!」アリスは左手で佐々木を掴むと、右手で岩を掴んだ。が、岩ひとつでは2人分の体重には耐えられそうにない

「氷結(アイスクル)!」

アリスは躊躇わずに獣人族の能力を使い、右手で掴んでいる岩の周辺数メートルごと氷漬けにした

「手が凍った!?…いや、冷気を出して固めたのか?」

「佐々木さん、上に放り投げるから…上手く着地してねぇ」

「えっ?あ、分かった」

実はどうする気なのか?理解していない佐々木だが、何らかの方法で助けてくれる気なのは理解した

(あっ、あの花は!)

佐々木は先程見付けた花が、アリスの能力で氷漬けになっているのを見付けた

「行くよ!…wryyyyyyyyyy!」

アリスはヴォィドルフ化した
身体はひと回り大きくなり筋力も倍増した。そのパワーで佐々木を岸壁の上に放り投げた

……………………………………………

「アリスちゃん。佐々木の前で能力を使ったんだね…ともかく助けてくれて、ありがとう」

師範代はアリスに礼を言った

「迷惑をかけてしまった。助けてくれてありがとう…それと、この花をアリスちゃんに…」

佐々木はアリスの能力で氷漬けになっている【朱色のツツジ】を手渡した

「うわぁ綺麗だねぇ!ありがとうっ!」

その花を手渡されたアリスは、満面の笑みを佐々木に向けた。みんなに迷惑と心配を掛けてしまったが、アリスの眩しい笑顔に癒される佐々木だった



続く
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