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夢忘れ編
在りし日の魔女たち
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【ヒルドゥルブ砦 北北西林街道】
「エリエス。もっとじゃ、もっと足場をおくれっ!」
エリエスが渇望の魔女フュールに向けて放って、回避された衝撃波を精霊剣ロマーニャの精霊力で固めた物を足場として飛行能力を持たないアテナが、フュールと空中で互角の戦闘を繰り広げていた
(くっ。身内で師弟の間柄とは言え、ここまで完璧な意思疎通はおかしい!武闘女神アテナの戦闘経験値が為せる業(ワザ)なの!?)
フュールは焦っていた
魔族にも人族にも【火炎の魔法使い】として強い認識を受けている彼女と闘った者は、火炎魔法とほぼ同じレベルの彼女の飛行魔法に追い詰められ、敗れていったのだが…
「ほれほれほれ!余裕が無くなってきておるのぅ。1対2で勝負しておいてナンじゃが、そろそろ限界じゃないのかえ?」
アテナ&エリエス VS フュールの闘いは、徐々にフュールが押され始めていた
(流石はお祖母様ですわ。この数分間で、あの魔女の回避と攻撃のパターンを読み解いたのですね。では私も…)
「はぁぁぁぁぁ!唸れロマーニャっ!」
エリエスは戦闘レベルを上昇させ、これまで放っていた衝撃波の数を倍に増幅させた
「この程度のこと!」
ジワジワとアテナに追い込まれつつあるフュールだが、魔力を増幅させてエリエスの衝撃波を絶対に回避しきる覚悟をしたのだが…
「バチィィィん!」
エリエスが放った多数の衝撃波は、ほぼ全てが同じ速度で飛んで来ていたが…今回はその中の幾つかが、他の衝撃波よりも速い速度で飛んでいた。そして、別の衝撃波と激突し、その衝撃で衝撃波は方向を変化した
「馬鹿なッ!?」
急激な方向転換を見せた衝撃波は、フュールの回避方向に飛んできた
「間に合わない…くそぅ!」
仕方なくフュールは火炎魔法を放ち、それで方向を変えた衝撃波を叩き落とした。が…その僅かな隙を突いて、彼女の背後を取った人影
「ようやく、隙を見せたのぅ(ニヤ)」
武闘女神アテナが彼女の背後を取り、左手に闘気を集中させフュール目掛けて振り下ろす
「舐めるなよ」
左手から出した火炎魔法でエリエスの衝撃波を落としたフュールは、ほぼ同時に右手にも魔法力を集約させ、身体を半捻りして攻撃してくるアテナへ放出した
「なんて反応速度じゃ…じゃがっ!」
アテナは振り下ろした、握りしめていた左手を開いて止めて衝撃波を生み出し、フュールの火炎魔法を弾き飛ばした
「破壊力ぅぅぅぅ!!…ドベキッ!」
空中で急停止させたパーの形をしている左手に、握り締めた自らの右拳を叩き付け両手でフュールの肩口に、渾身の1激をようやく叩き込むことに成功した
「バゴォォォん!…かはっ!?」
SSランクの武闘家アテナの渾身の1激で、地面に叩き付けられたフュール
「今ですっ!地上戦ならエリエスは、魔女にも遅れは取りませんっ!」
精霊剣ロマーニャを操る古代人の遺し子である基礎型超人類のエリエスが、魔族のトップクラスの魔女フュール目掛けて斬りかかった
(…くっ。私がこんな所で討ち取られると言うの!?)
このマナティート攻略戦に、次期魔王メイビーに語り掛けて参加したものの、失敗続きだったフュールの心はこの土壇場で砕かれようとしていたが…
……………………………………………
「はぁはぁはぁはぁ。私には難し過ぎる…」
今から約22年前の大戦直後のアレクス城付近の山中で、魔法の修行をしているフュールが居た
「あれあれ~?フュールなら、そろそろコツを掴んできても良い頃だと思うんだけどな~…」
思うように新しい魔法が使えず、その為の修練の疲労から地面に両手をつき、自信を無くした表情を浮かべる彼女の傍らに、笑顔で彼女を見つめる徳川 有栖が立っている
「知っているだろう有栖。私は各精霊の中でも圧倒的に、火炎系の魔法と深い絆を結んでいる。七つの魔法を極大魔法のレベルまで使いこなし尚且つ、それらを均等なパワーで同時使用して初めて形を成す【七精守護霊(ハーロウィーン)】は、私には相性が悪過ぎるだろ?」
「んー、そうかなぁ?」
そう言いながら有栖は、座り込むフュールを中心にして円を描くようにグルグルと歩く
「この魔法はさ、全ての精霊魔法を極大レベルまで発現させられる魔法の才能の持ち主が、諦めずに努力し続けないと修得出来ないのよ。私が知る中で、それが可能なのは貴女を除いて他には居ないと思うんだけどな~」
彼女の周りを歩きながらそう言う有栖は、途中で何度もフュールの顔をチラチラ見ていた
「有栖。私はお前ほどの才能は持ち合わせてはいないよ。ハッキリ言ってこの魔法は、天才の中の天才であるお前にしか無理だ…」
世界には大きく分類して【火・水・風・土・木・光・闇】の七つの精霊のチカラが存在していると考えられている
それら七つの魔法を極大まで極めながら、同時に全てを並行使用しながら1つの魔法へと錬成しなければ使えないのだ
「そっかな~。たしか、フュールってこの星の最古参の民族の生き残りなんでしょ?かつては世界を1つにまとめあげていたって…」
「そんなのは…長寿で有名なエルフ族が何世代も遡ってようやく、おとぎ話に出てくるほどの昔の話よ。流石に私には、そんな神がかったチカラは無いわ。私は貴女と違って…」
あまりにも高難易度過ぎる【七精守護霊】の前に、珍しく愚痴をこぼし続けるフュールの真横で…
「私の前にその姿を魅せよ【七精守護霊(ハーロウィーン)】!」
突然、有栖は詠唱を始め夕陽のオレンジが美しく染まり始めている空の彼方(かなた)目掛けて、超極大魔法をぶっぱなした!
「ほおぉぉ…相変わらず美しい魔法だな。やっぱり神の領域の魔法だわ。地球という星で化学とかいうのを極め、この世界で消去の魔女と言われるまで上り詰めた有栖にしか使えないわね。あはは(笑)」
フュールが魔族に魔女として仕えた日。その星の始祖の種族として生まれた彼女の圧倒的な魔法に、彼女こそが魔族No.1の魔法使いであり「彼女を超える者など絶対に現れない!」と、魔族全ての者が口を揃えて言っていたのだ。そう、有栖が寝返って来るまでは…
「ねぇフュール、向こうの空を見てよ」
「空がどうした?」
有栖に言われた方角を見るフュールが目にしたモノは…
「ほら、美しい虹よね?虹って七つの色が決してお互いを破壊したりせずに、同時に存在していることで成り立っているの。【七精守護霊(ハーロウィーン)】は魔法でアレと同じことをするだけなのよ?」
「そうか虹か…誰もアレがそんな高度な存在だとは思っていないでしょうね」
「そうよ。小さな頃から見ているから、あまりにもソレが普通に存在しているから、自分で創り出そうとして始めて高度なモノと理解出来るわね」
「しかし、その高度さ故に使いこなすのは無理がある。有栖ほどの才能を持ってなければ…」
「違うわよフュール。普通の人は虹が、そんな高度な存在だと知る事もないの。でも貴女はそれを知った。後は模倣するだけなの。そして私は貴女と私だけが、それを可能にすることが出来る魔法使いだと思っているわ」
「ふふ。分かったよ有栖。もう1度チャレンジするから、私の魔力バランスを見てくれないか?」
「そうこなくっちゃね♪それにしても…渇望の魔女様も案外、手とり足とり面倒見てあげないとイケナイのね。あはは(笑)」
「笑うなよ有栖。あはは(笑)」
「誰も見てないからイイじゃない♪」
有栖の言葉に「いつしか自分もこの魔法を修得出来る!」と確信したフュールは、この日から数ヵ月後に見事修得したのだった
……………………………………………
「ふぅーふぅー…」
(そうだった。また私は炎と飛行にだけ頼っていたわ。有栖が最強と言われているのは…七つの魔法を自在に使えるからじゃない!)
「頂きますっ!」
上空から地面に叩き付けられ、ゆっくりと立ち上がろうとしているフュール目掛け、今こそが好機!と、ばかりに突っ込むエリエス。だが…
「待つんじゃエリエス!何やら不穏な…」
フュールから立ち込み始めた別のチカラに嫌な予感を覚えたアテナは、慌てて孫娘を止めようとしたのだが…
「グニョン!」
「これは!?」
フュールが見つめた先の、エリエスが踏み込むだろうと予想した場所が突然、そこだけが泥のように柔らかくなり彼女の足に絡み付いた
「この程度でっ!」
それでもエリエスは、一瞬身体を縮めた後に全身を爆発させるように伸ばして、イッキにフュールに接近したのだが…
「ビュォォォ!!」
「今度は風が…」
林の奥からエリエス目掛けて、台風並みの突風が吹き込んできた
「エリエスや、一旦引くのじゃ!」
「この期は逃せませんっ!」
先程まで空中を自在に浮遊していたフュールを、地面に降ろすまでにかなりの消耗をさせられたエリエスは、もう1度彼女に空に舞い上がられるのはマズイと感じていたので、立て続けの不意の現象にもめげずに振り上げた剣を打ち下ろしたのだが…
「ヒョーイ」
まるで風が遮蔽物を避けて自動で、すり抜けて行くかのような動きでフュールの身体は宙に浮き、必要最低限の動きでエリエスの斬撃を回避した
「そんな馬鹿な!?」
「逃げろと言っておるじゃろがっ!」
エリエスの斬撃を回避したフュールは、振り返りながら右手から火炎魔法を打ち出していた
「ドシンッ!!」
「ぐおおお…」
「お祖母様っ!」
不自然過ぎるフュールの回避に、一瞬戸惑った隙を逃さなかった彼女の火炎魔法が、エリエスを焼き尽くそうと接近していたので、アテナはエリエスに体当たりをして突き飛ばし、代わりに自分がフュールの火炎を浴びてしまった
(エリエス!しっかりしなさい!)
冷静さを欠いているエリエスを叱咤する精霊剣ロマーニャ。彼女は自らの魔法で、アテナに水の固まりをぶつけて消火した
「ありがとうロマーニャ!…ん?魔女は何処に!?」
1連の出来事に目が追いつかなかったエリエスは、敵であるフュールの姿を見失った
「上よ♪」
すぐさま真上10メートルくらいの位置に浮いているフュールから、声を掛けられたエリエス。フュールはすかさず右手の平を、エリエスに向けて伸ばした
(マズイ!火炎魔法が来る)
「ジョパアァァ…」
フュールからの火炎魔法攻撃を警戒したエリエスは、ロマーニャの斬撃でその炎を吹き飛ばそうと身構えたのだが…フュールから打ち出されたのは、直径10メートル程の水の固まりだった
「タダの水のハズがない!」
ソレを浴びるのは危険だと感じたエリエスは、慌てて回避しようとしたのだが…
「バキバキバキバキ!」
フュールから撃ち出された水はエリエスに接触した途端、一瞬で凍りつき彼女の左腕と髪の毛の1部を包み込んだ
「し、しまった!」
目の前に現れた直径10メートルの氷の塊。しかも、その中に自分の左腕が飲み込まれて動けなくなったエリエス
「ふふふ。もう終わりかしら…ねぇ(笑)」
「グニョン…」
ロマーニャの水で火炎魔法から脱出出来たアテナは、孫娘を襲おうとするフュールを、足音を消して背後から攻撃しようとしたのだが…
「こ、これは何じゃ!?見えない塊があるぞい?」
「空気の塊よ。武闘女神アテナ様と言っても、視認出来ないモノには弱いようね」
「バゴォォォン!!」
見えない塊に、打ち込んだ正拳突きごと捉えられてしまったアテナは、その空気の塊が突然爆発した際の爆風に10数メートル吹き飛ばされた!
「ぐぬぉぉぉ…ん!?」
「ふしゅしゅうぅぅ…」
それでも起き上がろうとしたアテナだが…その時、惑星神エリスア様から注入していただいた神聖力が抜け切り、本来の60歳以上の姿に戻ってしまった
「なんと!こんな時に…」
「あら~。それが武闘女神アテナ様の本来の姿な訳ね。申し訳ないけれど、貴女の目の前で大切な孫娘にトドメを刺させてもらうわ!」
長時間アテナを若返らせてくれていた神聖力が、最悪のタイミングでカラになってしまい、孫娘エリエスの救出のタイミングを逃すアテナ
全ての精霊のチカラを攻防に用いることにより、本来の強さを12分に発揮することを思い出したフュールの前に、アッサリと立場をひっくり返されてしまった
巨大な氷塊に左腕を飲み込まれたエリエスは、このままフュールの魔法でやられてしまうのか?
続く
「エリエス。もっとじゃ、もっと足場をおくれっ!」
エリエスが渇望の魔女フュールに向けて放って、回避された衝撃波を精霊剣ロマーニャの精霊力で固めた物を足場として飛行能力を持たないアテナが、フュールと空中で互角の戦闘を繰り広げていた
(くっ。身内で師弟の間柄とは言え、ここまで完璧な意思疎通はおかしい!武闘女神アテナの戦闘経験値が為せる業(ワザ)なの!?)
フュールは焦っていた
魔族にも人族にも【火炎の魔法使い】として強い認識を受けている彼女と闘った者は、火炎魔法とほぼ同じレベルの彼女の飛行魔法に追い詰められ、敗れていったのだが…
「ほれほれほれ!余裕が無くなってきておるのぅ。1対2で勝負しておいてナンじゃが、そろそろ限界じゃないのかえ?」
アテナ&エリエス VS フュールの闘いは、徐々にフュールが押され始めていた
(流石はお祖母様ですわ。この数分間で、あの魔女の回避と攻撃のパターンを読み解いたのですね。では私も…)
「はぁぁぁぁぁ!唸れロマーニャっ!」
エリエスは戦闘レベルを上昇させ、これまで放っていた衝撃波の数を倍に増幅させた
「この程度のこと!」
ジワジワとアテナに追い込まれつつあるフュールだが、魔力を増幅させてエリエスの衝撃波を絶対に回避しきる覚悟をしたのだが…
「バチィィィん!」
エリエスが放った多数の衝撃波は、ほぼ全てが同じ速度で飛んで来ていたが…今回はその中の幾つかが、他の衝撃波よりも速い速度で飛んでいた。そして、別の衝撃波と激突し、その衝撃で衝撃波は方向を変化した
「馬鹿なッ!?」
急激な方向転換を見せた衝撃波は、フュールの回避方向に飛んできた
「間に合わない…くそぅ!」
仕方なくフュールは火炎魔法を放ち、それで方向を変えた衝撃波を叩き落とした。が…その僅かな隙を突いて、彼女の背後を取った人影
「ようやく、隙を見せたのぅ(ニヤ)」
武闘女神アテナが彼女の背後を取り、左手に闘気を集中させフュール目掛けて振り下ろす
「舐めるなよ」
左手から出した火炎魔法でエリエスの衝撃波を落としたフュールは、ほぼ同時に右手にも魔法力を集約させ、身体を半捻りして攻撃してくるアテナへ放出した
「なんて反応速度じゃ…じゃがっ!」
アテナは振り下ろした、握りしめていた左手を開いて止めて衝撃波を生み出し、フュールの火炎魔法を弾き飛ばした
「破壊力ぅぅぅぅ!!…ドベキッ!」
空中で急停止させたパーの形をしている左手に、握り締めた自らの右拳を叩き付け両手でフュールの肩口に、渾身の1激をようやく叩き込むことに成功した
「バゴォォォん!…かはっ!?」
SSランクの武闘家アテナの渾身の1激で、地面に叩き付けられたフュール
「今ですっ!地上戦ならエリエスは、魔女にも遅れは取りませんっ!」
精霊剣ロマーニャを操る古代人の遺し子である基礎型超人類のエリエスが、魔族のトップクラスの魔女フュール目掛けて斬りかかった
(…くっ。私がこんな所で討ち取られると言うの!?)
このマナティート攻略戦に、次期魔王メイビーに語り掛けて参加したものの、失敗続きだったフュールの心はこの土壇場で砕かれようとしていたが…
……………………………………………
「はぁはぁはぁはぁ。私には難し過ぎる…」
今から約22年前の大戦直後のアレクス城付近の山中で、魔法の修行をしているフュールが居た
「あれあれ~?フュールなら、そろそろコツを掴んできても良い頃だと思うんだけどな~…」
思うように新しい魔法が使えず、その為の修練の疲労から地面に両手をつき、自信を無くした表情を浮かべる彼女の傍らに、笑顔で彼女を見つめる徳川 有栖が立っている
「知っているだろう有栖。私は各精霊の中でも圧倒的に、火炎系の魔法と深い絆を結んでいる。七つの魔法を極大魔法のレベルまで使いこなし尚且つ、それらを均等なパワーで同時使用して初めて形を成す【七精守護霊(ハーロウィーン)】は、私には相性が悪過ぎるだろ?」
「んー、そうかなぁ?」
そう言いながら有栖は、座り込むフュールを中心にして円を描くようにグルグルと歩く
「この魔法はさ、全ての精霊魔法を極大レベルまで発現させられる魔法の才能の持ち主が、諦めずに努力し続けないと修得出来ないのよ。私が知る中で、それが可能なのは貴女を除いて他には居ないと思うんだけどな~」
彼女の周りを歩きながらそう言う有栖は、途中で何度もフュールの顔をチラチラ見ていた
「有栖。私はお前ほどの才能は持ち合わせてはいないよ。ハッキリ言ってこの魔法は、天才の中の天才であるお前にしか無理だ…」
世界には大きく分類して【火・水・風・土・木・光・闇】の七つの精霊のチカラが存在していると考えられている
それら七つの魔法を極大まで極めながら、同時に全てを並行使用しながら1つの魔法へと錬成しなければ使えないのだ
「そっかな~。たしか、フュールってこの星の最古参の民族の生き残りなんでしょ?かつては世界を1つにまとめあげていたって…」
「そんなのは…長寿で有名なエルフ族が何世代も遡ってようやく、おとぎ話に出てくるほどの昔の話よ。流石に私には、そんな神がかったチカラは無いわ。私は貴女と違って…」
あまりにも高難易度過ぎる【七精守護霊】の前に、珍しく愚痴をこぼし続けるフュールの真横で…
「私の前にその姿を魅せよ【七精守護霊(ハーロウィーン)】!」
突然、有栖は詠唱を始め夕陽のオレンジが美しく染まり始めている空の彼方(かなた)目掛けて、超極大魔法をぶっぱなした!
「ほおぉぉ…相変わらず美しい魔法だな。やっぱり神の領域の魔法だわ。地球という星で化学とかいうのを極め、この世界で消去の魔女と言われるまで上り詰めた有栖にしか使えないわね。あはは(笑)」
フュールが魔族に魔女として仕えた日。その星の始祖の種族として生まれた彼女の圧倒的な魔法に、彼女こそが魔族No.1の魔法使いであり「彼女を超える者など絶対に現れない!」と、魔族全ての者が口を揃えて言っていたのだ。そう、有栖が寝返って来るまでは…
「ねぇフュール、向こうの空を見てよ」
「空がどうした?」
有栖に言われた方角を見るフュールが目にしたモノは…
「ほら、美しい虹よね?虹って七つの色が決してお互いを破壊したりせずに、同時に存在していることで成り立っているの。【七精守護霊(ハーロウィーン)】は魔法でアレと同じことをするだけなのよ?」
「そうか虹か…誰もアレがそんな高度な存在だとは思っていないでしょうね」
「そうよ。小さな頃から見ているから、あまりにもソレが普通に存在しているから、自分で創り出そうとして始めて高度なモノと理解出来るわね」
「しかし、その高度さ故に使いこなすのは無理がある。有栖ほどの才能を持ってなければ…」
「違うわよフュール。普通の人は虹が、そんな高度な存在だと知る事もないの。でも貴女はそれを知った。後は模倣するだけなの。そして私は貴女と私だけが、それを可能にすることが出来る魔法使いだと思っているわ」
「ふふ。分かったよ有栖。もう1度チャレンジするから、私の魔力バランスを見てくれないか?」
「そうこなくっちゃね♪それにしても…渇望の魔女様も案外、手とり足とり面倒見てあげないとイケナイのね。あはは(笑)」
「笑うなよ有栖。あはは(笑)」
「誰も見てないからイイじゃない♪」
有栖の言葉に「いつしか自分もこの魔法を修得出来る!」と確信したフュールは、この日から数ヵ月後に見事修得したのだった
……………………………………………
「ふぅーふぅー…」
(そうだった。また私は炎と飛行にだけ頼っていたわ。有栖が最強と言われているのは…七つの魔法を自在に使えるからじゃない!)
「頂きますっ!」
上空から地面に叩き付けられ、ゆっくりと立ち上がろうとしているフュール目掛け、今こそが好機!と、ばかりに突っ込むエリエス。だが…
「待つんじゃエリエス!何やら不穏な…」
フュールから立ち込み始めた別のチカラに嫌な予感を覚えたアテナは、慌てて孫娘を止めようとしたのだが…
「グニョン!」
「これは!?」
フュールが見つめた先の、エリエスが踏み込むだろうと予想した場所が突然、そこだけが泥のように柔らかくなり彼女の足に絡み付いた
「この程度でっ!」
それでもエリエスは、一瞬身体を縮めた後に全身を爆発させるように伸ばして、イッキにフュールに接近したのだが…
「ビュォォォ!!」
「今度は風が…」
林の奥からエリエス目掛けて、台風並みの突風が吹き込んできた
「エリエスや、一旦引くのじゃ!」
「この期は逃せませんっ!」
先程まで空中を自在に浮遊していたフュールを、地面に降ろすまでにかなりの消耗をさせられたエリエスは、もう1度彼女に空に舞い上がられるのはマズイと感じていたので、立て続けの不意の現象にもめげずに振り上げた剣を打ち下ろしたのだが…
「ヒョーイ」
まるで風が遮蔽物を避けて自動で、すり抜けて行くかのような動きでフュールの身体は宙に浮き、必要最低限の動きでエリエスの斬撃を回避した
「そんな馬鹿な!?」
「逃げろと言っておるじゃろがっ!」
エリエスの斬撃を回避したフュールは、振り返りながら右手から火炎魔法を打ち出していた
「ドシンッ!!」
「ぐおおお…」
「お祖母様っ!」
不自然過ぎるフュールの回避に、一瞬戸惑った隙を逃さなかった彼女の火炎魔法が、エリエスを焼き尽くそうと接近していたので、アテナはエリエスに体当たりをして突き飛ばし、代わりに自分がフュールの火炎を浴びてしまった
(エリエス!しっかりしなさい!)
冷静さを欠いているエリエスを叱咤する精霊剣ロマーニャ。彼女は自らの魔法で、アテナに水の固まりをぶつけて消火した
「ありがとうロマーニャ!…ん?魔女は何処に!?」
1連の出来事に目が追いつかなかったエリエスは、敵であるフュールの姿を見失った
「上よ♪」
すぐさま真上10メートルくらいの位置に浮いているフュールから、声を掛けられたエリエス。フュールはすかさず右手の平を、エリエスに向けて伸ばした
(マズイ!火炎魔法が来る)
「ジョパアァァ…」
フュールからの火炎魔法攻撃を警戒したエリエスは、ロマーニャの斬撃でその炎を吹き飛ばそうと身構えたのだが…フュールから打ち出されたのは、直径10メートル程の水の固まりだった
「タダの水のハズがない!」
ソレを浴びるのは危険だと感じたエリエスは、慌てて回避しようとしたのだが…
「バキバキバキバキ!」
フュールから撃ち出された水はエリエスに接触した途端、一瞬で凍りつき彼女の左腕と髪の毛の1部を包み込んだ
「し、しまった!」
目の前に現れた直径10メートルの氷の塊。しかも、その中に自分の左腕が飲み込まれて動けなくなったエリエス
「ふふふ。もう終わりかしら…ねぇ(笑)」
「グニョン…」
ロマーニャの水で火炎魔法から脱出出来たアテナは、孫娘を襲おうとするフュールを、足音を消して背後から攻撃しようとしたのだが…
「こ、これは何じゃ!?見えない塊があるぞい?」
「空気の塊よ。武闘女神アテナ様と言っても、視認出来ないモノには弱いようね」
「バゴォォォン!!」
見えない塊に、打ち込んだ正拳突きごと捉えられてしまったアテナは、その空気の塊が突然爆発した際の爆風に10数メートル吹き飛ばされた!
「ぐぬぉぉぉ…ん!?」
「ふしゅしゅうぅぅ…」
それでも起き上がろうとしたアテナだが…その時、惑星神エリスア様から注入していただいた神聖力が抜け切り、本来の60歳以上の姿に戻ってしまった
「なんと!こんな時に…」
「あら~。それが武闘女神アテナ様の本来の姿な訳ね。申し訳ないけれど、貴女の目の前で大切な孫娘にトドメを刺させてもらうわ!」
長時間アテナを若返らせてくれていた神聖力が、最悪のタイミングでカラになってしまい、孫娘エリエスの救出のタイミングを逃すアテナ
全ての精霊のチカラを攻防に用いることにより、本来の強さを12分に発揮することを思い出したフュールの前に、アッサリと立場をひっくり返されてしまった
巨大な氷塊に左腕を飲み込まれたエリエスは、このままフュールの魔法でやられてしまうのか?
続く
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