家庭菜園物語

コンビニ

文字の大きさ
42 / 95

39 米襲来

しおりを挟む
 麦は思った以上に収穫できた。
 お酒の布石として必要な分を残して、大麦などに切り替えて保存庫に眠らせている。

 大麦の入った袋がどんどん増えてきたことで、姉さんがやや怪訝な顔をしていた。
 これ以上増やすのは難しそうなので、小麦でパンを繰り返し焼いて、少しずつ売りにも出している。
 原料として売っても非常に安価なのは致し方ないが、家の中は常に焼きたてパンの香ばしい匂いで満ちていた。

「にゃーん」
「仕方ないじゃないですか。小麦だってもったいないし、少しの匂いくらいは我慢してください」

 パンは我が家の定番メニューとなり、ジャムを舐めたいモモの意向で朝食の登板回数がやや多めになっている。

 まぁパンも美味しいからいいのだけど、今度こそジャムは取り上げるべきかもしれない。
 一度は取り上げようとしたけれど、涙目で見つめられてしまえば、俺もイチコロである。

「にゃーん」
「あ、甘やかしてるつもりはないんですよ。パンだって美味しいし、体に悪い物じゃないですし」
「にゃーん」

 姉さんは常にただようパンの匂いに、若干不機嫌気味だ。

「まぁまぁ、これからは米のシーズンに入りますから。炊き立ての新米ですよ!」
「にゃーん」

 いいですねえ、漬物に魚に味噌汁。
 最近は漬物壺なる商品も購入し、茄子や胡瓜、大根、人参などの漬物シリーズも自家製で楽しめるようになった。

 ……よく考えたら、味噌汁って姉さん、猫舌じゃなかったっけ? まぁ今さらか。

 漬物については、ジャムの影響でパン派になりかけているモモには若干の不評。
 ここで改めて米の美味しさを実感してもらって、米の良さを再認識してもらいたい。



 ——十月になって、ついに田んぼがラインナップに追加された。
 米を育てるための環境を整えていく。

 先月あったお金は使い切ってしまったが、パンやカボチャなど高額野菜の売上が伸びたおかげで、ひと月でそこそこの金額を用意することができた。

 平均単価が上がっているとはいえ、必要な物の単価も上がっていくのは世の常。
 とはいえ、溶けていく金額を見ていると、心が少し沈むのも事実だ。

 田んぼを購入して設置。
 うんうん、水が張っていないカピカピの田んぼ。アイコン上に「水が必要」と出ている。

 田んぼの側に小川を設置すると、妖精さんが現れ、数時間で小さな滝から川が引かれていく。
 小川が近くにあることで、用水路の設置も最小限の長さで済んだ。

 田んぼ側には排水口と給水口ができ、アイコン上でも田んぼの使用が可能になったと表示される。
 選択してみると、米の収穫までの流れや、何日目で水を抜くか、水の量の調整など、水の管理が必要であることが記載されている。

 手間はかかるが、美味しいお米のためなら頑張ろう。

「お父さん、これは種じゃないですよね?」
「ああ、これは稲の苗なんだ。水を張った後にこれを田んぼに植えていくんだけど……モモも手伝ってくれるか?」
「わん!」
「お前に言ってないんだが。いいか、大福、これは泥遊びじゃないから、絶対に入ってくるなよ?」
「わん」
「先っちょだけでもダメですかって、大福様が」

 なんで犬ってああも泥遊びが好きなのか。
 猫じゃらしの誘惑に勝てない姉さんのようなものなのかもしれない。

「大福、今日だけだぞ」
「わん!」

 勢いよく飛び出した大福が泥団子と化していく。
 洗うのがしんどそうだ……あ、小川に自分で入ってもらって、少し汚れを落としてもらうのはアリか?

「じゃあ、こっちはこっちで植えていこうか」
「はい!」

 子供の頃、田植え体験はしたことがあるが、基本的に暖かい季節の行事だったので、半ズボンに素足でやっていた。
 今は気温も下がってきているので、汚れ防止も兼ねて「ウェダー」なるゴム製の長ズボンを子供用も含めて購入。

 モモには帽子で髪をまとめてもらい、ウェダーを着せる。
 うちの子は何を着ても可愛いな……。

 最近は俺の着ているツナギを気に入ったらしく、子供用のツナギも着ているが、どんな服でも着こなせてしまう。恐ろしい子だ。

「できるだけ、均等に植えていこう!」
「頑張ります!」

 腰に苗を入れる袋を装備し、腰を落として、ひとつまたひとつと苗を植えていく。
 ふと隣を見ると、モモが消えていた。

 ははーん、俺のスピードについてこれず後ろに——いないだと?
 うん、知ってた。これは麦の時と同じパターン。

 モモは俺よりずっと先に進み、しかも真っ直ぐ綺麗に植えている。
 それに引き換え、俺の苗は……根性が捻じ曲がっているとしか思えない。

「にゃーん」

 横で見守っていた姉さんが、「曲がってるのは苗じゃなくてお前の性根だ」とツッコミを入れてくる。

 そこまで曲がっていないつもりなんですがねぇ。
 麦の時と同様に、モモの方が早く終わったので、モモの応援を背に、自分の分をなんとか完了させる。

「お米って、何日後に収穫できるんですか?」
「この庭の仕様だと、十五日後の予定だよ」

 田んぼと苗だけで、二十二万円も使った。
 さらに精米器が十万円。お金の工面がまた必要になる。
 小川の設置、用水路のための石材加工にもお金がかかったし、常に金欠状態だ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた

Mr.Six
ファンタジー
 仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。  訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。 「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」  そう開き直り、この世界を探求することに――

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル
ファンタジー
 異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!  主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。  亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。  召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。  そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。  それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。  過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。 ――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。  カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

弓術師テイマー少女の異世界旅 ~なぜか動物系の魔物たちにめちゃくちゃ好かれるんですけど!?~

妖精 美瑠
ファンタジー
高校弓道部の部長・赤上弓美は、大学合格発表の日に異世界クラシディアへ突然転移してしまう。 弓道一筋で真面目な彼女には密かな悩みがあった。それは“動物にだけはなぜか嫌われてしまう体質”――。 異世界で女神様に謝罪されながら三つの能力と「テイマー」という職業を与えられ、さらに容姿まで10歳の赤髪少女に変わってしまった弓美。 それなのに、なぜか動物系の魔物たちにはやたらと懐かれまくって……? 弓術師+テイマーという職業を駆使し、回復・鑑定・アイテムボックスまで兼ね備えた万能少女となったユミは、 この世界で出会いと冒険を重ねながら、魔物たちに囲まれて異世界旅を始めていく! 弓術師&テイマーになった幼女、癒しスキルでモフモフ魔物に囲まれてます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー ※素人ですが読んでくれると嬉しいです。感想お待ちしています。 毎週月曜日12時公開です。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...