ダブルソード 第三章 ~サリア帝国編~

磊蔵(らいぞう)

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第64話 新たな依頼

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和哉とギルランスは、翌日クロエを港まで送り、彼女を迎えに来たデフォーから護衛の報酬を受け取った。
娘の無事な姿と袋一杯に詰められた薬草に、満面の笑みで「ありがとうございました」と頭を下げるデフォーの横で、クロエは寂しそうな笑顔を和哉とギルランスに向けた。

「お世話になりました。お二人の旅のご無事をお祈りしております」

「ありがとう、クロエさんも元気でね!」

二人に別れを告げながら深々と頭を下げるクロエに和哉が手を振り応えると、彼女は目に涙を溜めながらも笑顔で手を振り返してくれた。

そうして、和哉とギルランスはクロエを乗せたデフォーの舟が見えなくなるまで見送った後、その足で預けていた馬車を引き取りに向かった。
厩舎ではルカが二人を待っていてくれたようで、二人の顔を見るなり嬉しそうに尻尾を振って出迎えてくれた。

「ルカ、お待たせ!」

ルカの姿を見るなり駆け寄った和哉がその首を優しく撫でれば、ルカもまた甘えるように頭を擦りよせる。
そんなルカの仕草がくすぐったくて肩を竦めながら笑っていた和哉は、「あ、そうだ――」と思い出しルカに話し掛けた。

「ルカ、見てコレ!ルカにそっくりだろ?ギルに買って貰ったんだよ!」

そう言って和哉が襟元から覗かせてみせたのは、先日ギルランスからプレゼントされたばかりのネックレスだ。

「どうかな?似合ってる?」

首を傾げながら問い掛ける和哉に、ルカは「ブルルッ(素敵ですね)」と鼻を鳴らすと嬉しそうに和哉の顔をペロリと舐めた。
どうやらルカも気に入ったようだ。

「だろ?えへへ」

ルカのお墨付きをもらえて喜ぶ和哉に、ルカは続けて語りかけるように「ヒヒンッ(でも、私のほうがもっとカッコイイです)」と鳴いた。
その言葉に和哉は一瞬キョトンと目を開いた後、プッと吹き出す。

「はははっ!だよねぇ」

ルカの可愛らしい自己主張にくすくすと笑いながら同意してやると、「ヒヒィン!(当たり前ですよ!)」と鼻を鳴らすルカの声が和哉の頭の中に響いた。
動物との会話スキルが上達した和哉がルカと笑い合っていると、その姿を見ていたギルランスが興味深そうに話しかけてきた。

「なんだ?随分と楽しそうだな。ルカはなんて言ってんだ?」

「フフ、『自分の方がもっとカッコイイ』ってさ」

和哉から伝えられたルカの物言いに、ギルランスもまたクッと笑った。

「ククッ、そうかよ!まあ、そうだよな」

主であるギルランスの同意が嬉しかったのか、ルカは「ブルルッ!(でしょう!?)」と鼻高々に胸を張った。
そんな可愛らしい一面を見せるルカがまた可笑おかしくて、再び「アハハ」と笑い声をあげる和哉に、ギルランスは続けて声をかけた。

「それにしても、お前のそのスキルいいよな。俺もルカと話ができたらいいのによ」

ギルランスは少し羨ましそうに言いながらルカの鼻を撫でると、ルカはくすぐったそうにしながらブルルと鼻を鳴らした。
和哉はルカの気持ちを代弁しギルランスに伝えてあげる。

「ふふっ、ルカが言ってるよ『私の敬愛なるご主人様、あなたの声は届いています』って」

「そうなのか!?」

それを聞いたギルランスは一瞬驚いた顔をした後、「そうか……」と言いながら嬉しそうにルカを見つめ、その鼻をそっと撫でた。

(きっとルカの言葉が分かったら喜ぶだろうな。いつか、言葉が通じたらいいね……)

そんな事を思いながら和哉はルカを撫でているギルランスの隣に寄り添うように立って、彼の肩に寄りかかった。
するとギルランスもそれに応えるように身体をずらし、和哉の肩を抱き寄せてくれる。
それだけで和哉の心は温かな気持ちでいっぱいになった――そっと目を閉じて身を任せながら、肩を抱いてくれるギルランスの手のひらから伝わってくる温かさを実感していた。

****
****

二人と一頭で暫しの楽しい時間を過ごした後――ルカに繋いだ馬車へ荷物を載せ、座席に乗り込んだ二人がいざ出発しようとしたその時だった。
不意に馬車の横から現れた人物に声を掛けられた。

「すみません、お二人は先日この街にいらしたアドラギルド所属の冒険者様ですよね?」

振り向くとそこには、ここソルダンギルドの受付嬢が立っていた。
彼女は二人がこの街に到着した当日、ソルダン支部へ活動許可を届け出たときに対応してくれた女性だった。

(あれ?なんでここに?)

「はい、そうですけど……?」

戸惑いつつも和哉がうなずくと、彼女はホッとしたような笑みを浮かべて頭を下げた。

「ああ良かった!突然お呼び止めして申し訳ありません」

そう言って顔を上げると、今度はキュッと真剣な面持ちになり二人にこう告げた。

「実は、お二人にお願いしたい事があるのです」

彼女の必死な形相を見て、和哉とギルランスは顔を見合わせた。

(一体なんだろう?)

(何か困り事か?)

(もしかして……)

(まさか……)

((また厄介な事に巻き込まれるんじゃ……?))

二人は同時に同じ事を思ったのか顔を見合わせると、ほぼ同時に苦笑いを浮かべてしまった――。

****
****

そして現在、二人はソルダンギルドの応接室に通されていた。
和哉とギルランスは二人掛けのソファに並んで座り、テーブルを挟んだ反対側には先程声を掛けてきた受付嬢が座っている。

「……それで、僕達に頼みたい事って何でしょうか?」

代表して尋ねる和哉に受付嬢は慌てて立ち上がり頭を下げた。

「あっ!ま、まずは自己紹介させていただきます!私はここのギルドで受付をしているエマと申します、よろしくお願いします!」

「僕はカズヤと言いますよろしくお願いします」

「ギルランスだ」

なかなかに元気の良いエマの挨拶にやや気圧されながら頭を下げる和哉の横で、ギルランスも(相変わらずの仏頂面ではあるものの)短く自己紹介を済ませた。

「それでは――」

そう言いながら椅子に座り直したエマは、深刻な表情で早速本題に入った。

「お二人にお願いしたい事と言うのは……ハーレイという村での村人達への治療、およびソバリエ溪谷に自生している貴重な薬草を採って来て欲しいというものです」

エマのその言葉を聞いた途端、ギルランスの表情は一変して険しいものになったが、隣に座っている和哉には見えていないため、気付くことが出来なかった。
和哉はギルランスの変化に気付くことなく、そのまま話を進めていく。

「それは構わないのですが……なぜ僕達なんですか?こちらのギルド所属の冒険者の方達のほうが適任だと思うんですけど……?」

和哉が疑問を投げかけると、エマは困ったような顔をして答えた。

「実は……ここ、ソルダンから西へ数キロ行ったところにあるハーレイ村に、先日毒霧を吐く大型の魔物が現れまして、ギルドの冒険者たちでその魔物の討伐に向かったのですが――」

そう切り出したエマの話によると……。
その魔物自体は多くの犠牲者を出しながらもなんとか討伐出来たのだが、魔物の吐いた毒のせいで戦った冒険者たちと村人の殆んどが、その毒に侵されてしまい命が危ぶまれる状態になってしまったのだという。
しかもその毒は非常に特殊で解毒剤も魔法も効かず、唯一その毒に対抗する手段がソバリエという渓谷にある特別な薬草だけだと言うのだ。

しかし、その谷は魔物の巣窟となっており危険な場所なようで、かなり実力のある冒険者でなければ行く事が出来ないのだそうだ。
先日、その薬草を採取する為にこちらのギルドから何人か冒険者たちを派遣したのだが、全滅してしまったらしい。

今はとにかく患者の症状の進行を少しでも抑えるために薬や回復魔法を使える者――ソルダンギルド所属の医師――を村へ遣い対処しているらしいが、生憎現在その魔法が使える者がエマを含め二名しかいないため全く手が回らない状態なのだそうだ。
回復魔法の使い手と実力のある冒険者を求めて近隣のギルドにも応援を要請したそうだが、そちらも今ちょうど魔獣被害が多発していて人手を割けないらしい。
困り果て、途方に暮れていた時にちょうどアドラからやって来た二人を見つけ、藁にもすがる思いで声を掛けたのだとエマは説明した。

(なるほど……)

一通り話を聞き終えた後、和哉はエマに確認の意味を込めて質問した。

「事情はよく分かりましたけど、エマさんはなぜ僕達の事を知っているんですか?それに、何で僕が回復魔法が使えると分かったんですか?」

先日の手続きの際にも自分の能力やスキルの申告は一切していないはずだし?――と疑問に思う和哉にエマは少し表情を緩めながら意外な答えを告げた。

「実は、お二人の事を以前から知っていたのです」

「え?」

「今、世界中のギルドであなた達お二人の事は既に有名なんですよ?」

思いもよらないエマの言葉に、和哉は驚きと困惑を隠せなかった。
破格の強さを見せるギルランスだけならいざ知らず、まだまだ駆け出しに毛が生えたくらいの自分が有名になっているなど夢にも思わなかったからだ。

そして、元来世間のことなど全く興味のないたちであるギルランスもまた、自分の名が他所でも知られていることに驚いたのか片眉を上げ怪訝そうな顔をしていた。
そんな二人の様子を見て察したのだろう――エマは更に詳しい情報を教えてくれた。

「『孤高のシルバーウルフ』の異名を持つギルランスさんは既にどのギルドでもその名を知らない者はいない程の方です。そして、誰ともパーティーを組まない事で有名なギルランスさんが最近黒髪の美しい弓使いの男性と一緒に行動しているという噂は、アドラ以外でも今や有名なんですよ?ですから――」

そこで一旦言葉を区切るとエマは申し訳なさそうな顔で続けた。

「あの……失礼かと思いましたが、私のほうでお二人のスキルを調べさせていただいた次第です……すみません」

そう言って頭を下げるエマの謝罪よりも、和哉は先に告げられた情報の内容に意識を持って行かれていた。

(『孤高の~』って……なにその厨二病っぽい異名――ってか『黒髪の美しい~』って誰だよ!?まさか僕か……!?)

エマの話を聞き、和哉は一人内心でいろいろと突っ込んでいた。

「……ははは……」

(何でそんな話になってるのさ……!恥ずかしすぎるっ!!)

おそらく噂が噂を呼んで、尾ひれが付きまくっての評価なのだろうが、それでも自分を平凡な容姿だと自認している和哉としては居た堪れないことこの上なかった。
乾いた笑いで誤魔化す和哉の反応などよそにエマの話はまだ続く。

「――で、調べた結果、ギルランスさんはお噂通りのA級――そしてカズヤさんは弓術の他に回復魔法も習得されていらっしゃる事を知った次第です。……なので……報酬は出来る限りの金額を出させていただきますので……どうかお願いします!!」

エマは申し訳なさそうにしながらも縋るような目で二人を交互に見つめる。

「……できればカズヤさんには村で患者の対応にあたって頂き……ギルランスさんにはソバリエ渓谷で薬草を取って来て頂きたいのですが――」

と、そこでエマの言葉に被せるように、それまで黙って話を聞いていたギルランスが唐突に口を開いた。

「事情は分かった――つまり、ソバリエ渓谷へは俺一人が行き、カズヤは村に残るんだな?」

「はい、申し訳ございません……でも、もし――」

エマは少し顔を曇らせながら謝罪をした後、再度何かを言おうと口を開きかけると、またもやそれを遮るようにギルランスが言葉を被せた。

「いや、それならいい……俺は構わない」

「……えっ!?」

その言葉に驚いて顔を上げたエマを見て、ギルランスは静かに首を横に振った。
その時、和哉は二人のやり取りに何か違和感の様な物を感じた。

(何だろう……?何か引っかかるような……?)

エマは何かを察した様な表情を見せた後、念を押すかのようにギルランスに確認してきた。

「……あの……本当に……よろしいのですか……?」

「ああ、別に構わねぇよ――なぁ?カズヤ」

「え……あ、うん」

笑みを見せながら同意を求めるギルランスに和哉も笑顔を作りうなずくも、先ほど抱いた何とも言えない違和感が拭えずにいた。

(なんだ……?この感じ……?)

自分の中の何かが訴えかけて来ているような不思議な感覚だ。

(なんだろう……?何か大切な事を忘れているような……?)

和哉は何かとても大事な事を忘れてしまっているような気がしてならなかった。
言い知れぬ不安感が押し寄せて来る。

(何だろ……?すごく嫌な予感がする……)

そんな思いを抱えながらも、和哉たちはエマの依頼を引き受ける事にしたのだった――。
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