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第一章 転生した身体は、木でできていた
第7話 荒れ地を拠点に
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数日後、アプレンテスに到着した。
想像以上に、環境が厳しい。草原も木もなく、吹きさらしだ。ゴツゴツした岩のせいか、風の強さが増している。いわゆる「ビル風」みたいになっていた。
「地面が硬いね。木々や作物が育つといいけど」
「難しいかもしれない。ここまでマナが死んでいると」
「マナが、死んでいるだって?」
「ここって、古戦場跡でさ。長い戦闘によって自然界のマナを取り込めなくなってしまったんだ」
そのせいで、長年放置されたままらしい。
「もっと根本的な理由があるかもしれないけど、誰も長期滞在しないから調査が進んでいないんだ」
誰も予算を割いてくれないので、貴族どころか行商もここを迂回するという。直進できれば五日で済むルートなのに、迂回が必要なためにさらに進行に五日かかる計算だ。
「大変だね。家も、ボロボロだ」
村らしき場所はあったが、廃墟となっていた。ゴーストタウンなんてレベルじゃない。基礎すら残っていなくて、ほとんど遺跡になっているじゃないか。
「なにか、おるぞ!」
硬い地面を砕き、魔物まで現れた。四本脚の、獣? モグラとオオカミが融合した感じのモンスターが数体、ボクたちに狙いを定める。以前戦ったイノシシは、交渉でなんとかなった。この魔物は、話が通じそうにない。
「こんなところで死ねるか!」
ボクは体当たりで、魔物を転倒させる。
魔物が倒れている間に、攻撃に使えそうなスキルを探す。こんな展開になると思っていなかったから、戦闘スキルに全然振ってないや。【薬草採取】とか、探索系しか振っていない。
「起き上がるぞよ! 【ソーンバインド】!」
賢人クコが、地面からツタを喚び出す。魔物を、がんじがらめにした。
「ぬう、大地のマナが呼応せぬ!」
森の賢人の魔法さえ、魔物は引きちぎってしまう。
「待って待って! 【探索:水源】!」
地面から水源を採取した。
水が吹き出し、辺りを泥沼にする。足止めくらいにはなるかも。
「水を得て、ツタに力が増したぞな。このまま沈めてくれようぞ!」
賢人クコが、魔物をツタに絡ませたまま、沼へと引きずり込んだ。息ができなくなった魔物は、動かなくなる。
「最後の一匹!」
だが魔物は、井戸水の沼なんてヒョイとかわす。
「ワタシが倒そうか?」
ショートソードを手に、パロンがモンスターに攻撃しようとする。
ボクは、待ったもらった。
「パロン、ちょっとやってみたいことがあるんだけど」
「どうぞー」
よし。戦闘スキルをちょっと試してみよう。
「出てきて。【アタック・トーテム】!」
ボクは、トーテムポールのような丸太を召喚した。全部顔があるダルマ落としって言えばいいかな。顔なんてまんまダルマさんである。バラエティ番組で出てきそうな感じの大きいサイズで、見た目はコミカルな変顔だ。でも全部怒っていて、魔物に敵意を剥き出しにしている。
「喝!」
ブチギレ状態のトーテムが、口を開けた。ファイアボールを放つ。
「喝!」
避けたとしても、回避先に別のダルマが火球を吐き出していた。火球が着弾して、結局魔物は火に巻かれ、絶命する。
「なんか、思っていたより強いね」
このダルマたちは、門番として今後もいてもらおう。置いておいて、警護システムとして活用する。
ダルマ落としたちが、笑顔になった。モンスターの気配が消えると、変顔で教えてくれるみたいだ。
「コーキ、キミのレベルが高いからさ。あの魔物たちは、レベル一五相当だよ。普通の冒険者では、束になってかからないと太刀打ちできないね」
強い魔物がいるなら、このままにはできない。
「パロン。ボク、決めたよ。こんな危険な場所、放っておけない」
ここを拠点として、緑あふれる土地に生まれ変わらせる。
「いいアイデアだと思う」
パロンも、賛成してくれた。
おそらくボクは、自然を再生させるために生まれてきたんだ。ここを緑ある自然を取り戻すために。
「でも、みんなを巻き込むことはできない」
せっかく外の世界に来たんだ。冒険に出られないなんて、ありえない。
この地は、ボクだけで開拓するべきだろう。
「ナニを言ってるんだ? 手伝うに決まってるだろ?」
「パロン、本気で言っているの?」
「もちろん! こんな面白そうなこと、見逃すわけないだろうに」
「そうじゃ。お主の果物から作った酒なら、ワシも付き合うぞよ」
森の賢人まで。
「人生のほとんどを、棒に振るかもしれないんだよ?」
「構うもんか。ワタシたちの人生は長いんだ。人間なら、やめておけって言われる活動だって、長寿族のハイエルフなら特に問題はない。少しずつ、問題を解決していこうじゃないか」
「でも、旅が続けられなくなる」
「可能さ。というか、必須かも。石を破壊できるドワーフを雇ったり、荒れ地に強い作物を探したっていい。とにかく、この荒野を再生させるには、様々な人の手が必要だ」
アプレンテスを開拓するために、旅はとても大事だと教わった。
「ワタシは一旦、自分の小屋を畳んでくる。こっちに移動させるよ」
『小屋をアプレンテスに移動させた』と、看板を立てに行くという。そうすれば、自分の顧客や協力者が、そこまで来てくれるだろうと。
「手伝うよ」
「キミは、ここの整地をしておいて。水も出てきたしさ。数日したら、戻るよ」
よし、パロンが戻ってくる間に、できることをしよう。
まずは、家だね。
(第一章 完)
想像以上に、環境が厳しい。草原も木もなく、吹きさらしだ。ゴツゴツした岩のせいか、風の強さが増している。いわゆる「ビル風」みたいになっていた。
「地面が硬いね。木々や作物が育つといいけど」
「難しいかもしれない。ここまでマナが死んでいると」
「マナが、死んでいるだって?」
「ここって、古戦場跡でさ。長い戦闘によって自然界のマナを取り込めなくなってしまったんだ」
そのせいで、長年放置されたままらしい。
「もっと根本的な理由があるかもしれないけど、誰も長期滞在しないから調査が進んでいないんだ」
誰も予算を割いてくれないので、貴族どころか行商もここを迂回するという。直進できれば五日で済むルートなのに、迂回が必要なためにさらに進行に五日かかる計算だ。
「大変だね。家も、ボロボロだ」
村らしき場所はあったが、廃墟となっていた。ゴーストタウンなんてレベルじゃない。基礎すら残っていなくて、ほとんど遺跡になっているじゃないか。
「なにか、おるぞ!」
硬い地面を砕き、魔物まで現れた。四本脚の、獣? モグラとオオカミが融合した感じのモンスターが数体、ボクたちに狙いを定める。以前戦ったイノシシは、交渉でなんとかなった。この魔物は、話が通じそうにない。
「こんなところで死ねるか!」
ボクは体当たりで、魔物を転倒させる。
魔物が倒れている間に、攻撃に使えそうなスキルを探す。こんな展開になると思っていなかったから、戦闘スキルに全然振ってないや。【薬草採取】とか、探索系しか振っていない。
「起き上がるぞよ! 【ソーンバインド】!」
賢人クコが、地面からツタを喚び出す。魔物を、がんじがらめにした。
「ぬう、大地のマナが呼応せぬ!」
森の賢人の魔法さえ、魔物は引きちぎってしまう。
「待って待って! 【探索:水源】!」
地面から水源を採取した。
水が吹き出し、辺りを泥沼にする。足止めくらいにはなるかも。
「水を得て、ツタに力が増したぞな。このまま沈めてくれようぞ!」
賢人クコが、魔物をツタに絡ませたまま、沼へと引きずり込んだ。息ができなくなった魔物は、動かなくなる。
「最後の一匹!」
だが魔物は、井戸水の沼なんてヒョイとかわす。
「ワタシが倒そうか?」
ショートソードを手に、パロンがモンスターに攻撃しようとする。
ボクは、待ったもらった。
「パロン、ちょっとやってみたいことがあるんだけど」
「どうぞー」
よし。戦闘スキルをちょっと試してみよう。
「出てきて。【アタック・トーテム】!」
ボクは、トーテムポールのような丸太を召喚した。全部顔があるダルマ落としって言えばいいかな。顔なんてまんまダルマさんである。バラエティ番組で出てきそうな感じの大きいサイズで、見た目はコミカルな変顔だ。でも全部怒っていて、魔物に敵意を剥き出しにしている。
「喝!」
ブチギレ状態のトーテムが、口を開けた。ファイアボールを放つ。
「喝!」
避けたとしても、回避先に別のダルマが火球を吐き出していた。火球が着弾して、結局魔物は火に巻かれ、絶命する。
「なんか、思っていたより強いね」
このダルマたちは、門番として今後もいてもらおう。置いておいて、警護システムとして活用する。
ダルマ落としたちが、笑顔になった。モンスターの気配が消えると、変顔で教えてくれるみたいだ。
「コーキ、キミのレベルが高いからさ。あの魔物たちは、レベル一五相当だよ。普通の冒険者では、束になってかからないと太刀打ちできないね」
強い魔物がいるなら、このままにはできない。
「パロン。ボク、決めたよ。こんな危険な場所、放っておけない」
ここを拠点として、緑あふれる土地に生まれ変わらせる。
「いいアイデアだと思う」
パロンも、賛成してくれた。
おそらくボクは、自然を再生させるために生まれてきたんだ。ここを緑ある自然を取り戻すために。
「でも、みんなを巻き込むことはできない」
せっかく外の世界に来たんだ。冒険に出られないなんて、ありえない。
この地は、ボクだけで開拓するべきだろう。
「ナニを言ってるんだ? 手伝うに決まってるだろ?」
「パロン、本気で言っているの?」
「もちろん! こんな面白そうなこと、見逃すわけないだろうに」
「そうじゃ。お主の果物から作った酒なら、ワシも付き合うぞよ」
森の賢人まで。
「人生のほとんどを、棒に振るかもしれないんだよ?」
「構うもんか。ワタシたちの人生は長いんだ。人間なら、やめておけって言われる活動だって、長寿族のハイエルフなら特に問題はない。少しずつ、問題を解決していこうじゃないか」
「でも、旅が続けられなくなる」
「可能さ。というか、必須かも。石を破壊できるドワーフを雇ったり、荒れ地に強い作物を探したっていい。とにかく、この荒野を再生させるには、様々な人の手が必要だ」
アプレンテスを開拓するために、旅はとても大事だと教わった。
「ワタシは一旦、自分の小屋を畳んでくる。こっちに移動させるよ」
『小屋をアプレンテスに移動させた』と、看板を立てに行くという。そうすれば、自分の顧客や協力者が、そこまで来てくれるだろうと。
「手伝うよ」
「キミは、ここの整地をしておいて。水も出てきたしさ。数日したら、戻るよ」
よし、パロンが戻ってくる間に、できることをしよう。
まずは、家だね。
(第一章 完)
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