上 下
34 / 48
第六章 天空の住人と対話

第34話 天空の島伝説

しおりを挟む
 その後、ボクは何年もかけて、ネイス・クルオン村にある山の再生を試みた。広葉樹を植えて、たびたび海から現れるクトーニアンを撃退する。
 おかげで、ダリエンツォとの国交も続けることが可能になった。近隣の村とも、取引をしている。
 そんな毎日を続けて、空を見上げた。

「ピオナ、天空にはなにがあるか、わかった?」

 ボクはピオナに、この世界の歴史を調べてもらっていた。

「雲の上に、浮遊している島があるといいます。そこには、古代から存在する城があるとか」

 なんでも海洋のクトーニアンを嫌がって、空に島を浮かべて住んでいる一族がいるとか。

「お話を伺いにいかないとね。もう安心ですよって」

「はい。それにはまず、天空城へ向かう集団を作る必要がございます」

「じゃあ、時間をかけてそこまで木を伸ばそう」

 山を再生させつつ、ボクは世界樹にパワーを送り続けている。天空まで伸びる大樹にするために。

「すごいね、コーキ。もう雲を突き破りそうだよ」

 天に手をかざして、パロンがつぶやいた。

「木に魔力を注ぎながら、ずっと空を見上げておったのう」

 パロンの肩の上で、賢人クコが同じポーズを取る。

 世界樹は、一見すると細い。だが、根っこの時点で大陸を埋め尽くすほどにまで育っている。天を突き破る日も近いだろう。

 伸びた枝からは、すごい数の果物が身をつけている。リンゴや桃、柿などが同じ木からなっていて、節操がないけど。こんなカオスさも、ボクらしいのかもしれなかった。

 クトーニアンは、ここまで育った世界樹には手が出せないらしい。神聖な大樹には、近づけないという。じゃあ村は安心だね。

「普通、ここまで育てようとしたら四〇〇年くらいかけてもムリだよね。それを数年でこなすなんて」

「そうだな。従来の育ち方を待っていたら、私など生きていまい」

 ダリエンツォの王女ヴェリシモさんが、到着した。ドワーフのナップルも、ついてきている。

「海に汚れなどはできていますか、ヴェリシモさん?」

「いや。大丈夫だ。水質はまったく問題ない。クトーニアンもおとなしいものだ」

 世界樹に力を注いだためか、この大陸全体が活性化していったようだ。

「準備はいい? ヴェリシモさん、ナップル?」

「おう! いつでも出かけられるぜ」

 ナップルもパロンも賢人クコも、準備はいいらしい。

「おみやげは、なににしよう?」

 相手の領土にお邪魔するのだ。攻め込むわけじゃない。手土産の一つくらいは必要だと思った。

「果物でいいじゃん。それかワインを」

「コメの酒じゃ! あれが一番うまいし、水が新鮮であるという証となろう!」

 パロンの提案にかぶせるように、賢人クコが主張する。

 日本酒かぁ。たしかに、異世界で飲めるとは思わなかったよ。それが一番、喜んでくれるかも。たしかに、土も水もいい証拠になるし。

「じゃあ、出発しよう!」

 ボクたちは、天空の島へ向かった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

長生きするのも悪くない―死ねない僕の日常譚―

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:1

オレはスキル【殺虫スプレー】で虫系モンスターを相手に無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,360pt お気に入り:624

実は私、転生者です。 ~俺と霖とキネセンと

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:1

星を旅するある兄弟の話

SF / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:0

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:20,630pt お気に入り:1,499

令嬢は大公に溺愛され過ぎている。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,967pt お気に入り:16,078

処理中です...