上 下
208 / 302
3-3 LOと早食い対決 ~温泉宮廷ビバノン~

ドライブスルーと、お仕事体験

しおりを挟む
 第二のポイントにたどり着く。そこは、シースルーという小さな村である。

 物資は、近くの民家に届けた。たいそう喜んでくれて、シェイクの無料券を手に入れた。

「ファストフード店ってどこだろう?」
 目ぼしい店は、見当たらないのだが。

 田畑以外、特になにもない。ポイントには数台しか止まっていなかった。どの魔王たちも、食事をとっているか、お手洗い休憩に来ているだけだ。

 しかし、ある一角だけは、繁盛している。
 ETCか料金所かなと思ったが、違った。

 小さな小屋に、魔王が窓越しに何かを呼びかけている。半周した後、いい匂いのする包をもらって返っていく。


「あれ、ドライブスルーだ!」


 ボクは、ドライブスルーが魔界にもあることに感動した。

「なにそれ?」
「車に乗ったまま、ゴハンを注文できるんだ」
「すごい!」

 駐車場に止まっている魔王たちも、ドライブスルーで買ったファストフードやドリンクで休憩している。

 トシコさんたちは早々と用事を済ませて、真っ先にドライブスルーをオーダーしていた。

「ボクらも並ぼう」
「行く」

 ハチシャクの番となり、ボクはインターホン前に向かって語りかけようとする。でも、チサちゃんの方が興味あるかも。

「チサちゃん、やってみたいよね?」
「やるやる!」

 ボクはチサちゃんを抱えあげて、ボクの膝に載せた。

「すいませーん、チーズバーガーのセットを。ドリンクはオレンジジュース」
 ハキハキした声で、チサちゃんが注文をする。

「サバのライスバーガーで、サラダのセットを。ホットのお茶をください」

 ボクもオーダーを終えて、店を半周した。

「あと、シェイクの無料券もあります」

「承知いたしました」
 女性店員さんがいて、お会計してくれる。

「スタンプカードをご提供ください」
「あ、はい」

 スタンプカードに、店員さんがポンと判をしてくれた。
 これで、ミッションはクリアらしい。

「おまたせしました」
「ありがと」

 すぐに注文は通り、チサちゃんが包みを受け取る。

 袋の中身を見て、ボクは「あれ?」と思った。

 頼んだシェイクがないのだ。

「あのー、シェイクはどうなったんでしょうか?」

「これから別室で、『シェイクを作ろう体験』をなさってもらいますので」

 なんでも、ボクたちが積んできたフルーツを使って、今からシェイクを作るという。果実の一部を使って。手作りのシェイクをいただけるとか。

「奥の小部屋へどうぞー」
 ボクらは車をスルー出口の小屋に駐めた。

 二人して、ビニール製の服を着て、ゴム手袋とマスクをする。衛生管理のためだ。

「今日は、お仕事体験に来てくださって、ありがとう。では、一緒に作りましょうね」

 接客してくれたお姉さんではなく、感じの良いふくよかなオバサンが相手をしてくれる。

「どうしてボクたちだけ、体験できるんです?」
「農家の方から、プレゼントです。特別なスタンプをいただけますのよ」

 特別スタンプがもらえるなら、張り切っちゃおうかな。

「では、このジューサーにフルーツを入れてちょうだい」

 オバサンが用意したのは、手動のジューサーである。果物を押し出して汁だけをしぼり出す装置だ。木製の受け皿が、底に用意されている。

「はーい」
 元気よく挨拶をして、チサちゃんが果物の切れ端をしぼり器に入れた。持ち手を下げて中身を圧縮する。

 ジューサーの下から汁が出てきた。

「おおー」
 初めてやるお仕事に、チサちゃんは興奮気味である。

「よくできました。では、次にこのジュースとアイスクリームと混ぜましょうね」

「はーい」

 手で回すタイプのアイスクリーム製造器に、アイスとジュースを混ぜた。
 ボクとチサちゃんが、力を合わせて回す。

「こねこね」
「すごい、柔らかくなってきた」

 だんだんと、シェイクの形になってきた。

「あとは、容器に移して完成よ」

「やったー」
 チサちゃんがバンザイしながら喜ぶ。

「では、いただきます。うん! おいしい!」

 甘酸っぱい!
 桃のように甘くて、瑞々しい酸味が後から来る。

「甘さがスッキリしてる!」
「これって、ラムネの味だ!」

 あの大きな果実は、レモンだったのかもしれない。
 ラムネって、正式名称は「レモネード」だし。

「炭酸の味がした」
「多分、中身が発酵してたんだろうね」

 炭酸成分を内蔵しているなんて。
 異世界の果物って、不思議だらけだな。

「じゃあ、特殊スタンプをあげるわね。お仕事お疲れさまでした」
 スタンプ用紙に、オバサンがキンキラの判を押してくれた。

「ありがとうございました」と、二人であいさつをする。

「いいのよ。お礼を言うのはこっちなの」
「どういうことです?」
「実は、この果実を作っているのが、ウチの父なの」
 
 オバサンのお父さんは、壊れた荷台で立ち往生していた人だったのである。

「いつもは父が持ってきてくれるんだけど、荷台がとうとう壊れてしまったらしくて、困っていたの」

 チサちゃんが気づいてくれなかったら、この美味しいシェイクも、オバサンとの出会いもなかったんだ。

「父の果実を持ってきてくれて、ありがとう」

 オバサンから、感謝の言葉をもらう。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:390pt お気に入り:713

お兄ちゃんと内緒の時間!

BL / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:59

ひどくされても好きでした

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:26

【R18】囚われの姫巫女ですが、なぜか国王に寵愛されています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:513pt お気に入り:1,216

進芸の巨人は逆境に勝ちます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:1

mの手記

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:646pt お気に入り:0

処理中です...