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3-3 LOと早食い対決 ~温泉宮廷ビバノン~

レースの真相

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「TVがやってる」
 宴会場の壁には、TVが置かれていた。
 三人組のバンドが、壇上に立っている。ドラムとアコースティックギター、ショルダーキーボードの編成だ。中央に立つのが、歌手のオーシャだろう。

「あれ、セーラさんとソー・ローネじゃないか!」
 ボーカルのオーシャが引き連れていたのは、学生風のLOだった。セーラさんがキーボード、ソーがドラムである。 

「ホントだ。オーシャ・ニブラエリス・バンドだって」
 ボーカルの名が「オーシャ・ニブラエリス」というらしい。

「オーシャ・ニブラエリスですって⁉」
 興奮した様子で、マミちゃんが立ち上がった。

「知ってるの、マミちゃん?」

「世界的に有名な、バンドのギターよ! 【暗黒ラジオ体操】の作曲者でもあるわ!」

 あの卑猥なラジオ体操を手掛けたのが、あの人だったのか。画面の中で歌っているのも、そのラジオ体操だ。

 それにしても、ボーカルの女性って。どこかで見たことがあるんだよなぁ。

「ってウソ⁉」
 歌番組を見ていると、ニュース速報が。 

『トップが、もうゴールした』、との報道が。
 
 何のスタンプも集めずに、ただゴールしたという。
 なので、扱いは小さい。速報も字幕だけ。

「だけどすごいですね、ヨアン……さん?」

 隣を見ると、ククちゃんとヨアンさんが青ざめていた。

 どうして?

「それじゃあ、お腹もふくれたことだし、お話しましょ!」

 全員にラムネが回って、話し合いとなる。

「どうして、女性同士でこの競技に参加したの?」

「私は、地球では売れないストリートミュージシャンでした」
 派遣仕事の帰りに、橋の上でギターを弾く毎日だった。

「地球でパートナーを探していた時、路上で歌っているヨアンを見かけましたわ」
 彼女の歌声に、ククちゃんは惚れ込んだという。

「クク様が、私を選んでくださいました。波長が最も合うのが、私だと」

 それはいいことだ。
 魔王と玉座の関係は、波長が何よりも優先される。

「ワタクシは決めましたの。自分を支えてくれるのは、ヨアンだけだと」

 しかし、問題があった。 

「女の子同士じゃ、夫婦になれない」
 沈んだ顔になりながら、チサちゃんが告げる。

「今は医学が発達して、同性同士でも世継ぎを産むことはできます」

 実際、それを主張して、ククちゃんの両親は理解してくれたらしい。
 オバサンの様子を見ていると、祝福してくれているとわかる。

「ですが、私の両親に認めてもらえず」
「なぜですか、ヨアンさん?」
「私が、何の力も持たない人間だからです」

 魔力が豊富なトシコさんと違い、ヨアンさんは一般人である。

「なので、ヨアンの両親に認めてもらうため、ある提案をしましたの」

「提案とは?」
「カリ・ダカを自分たちで主催し、優勝すること」

 この大会を開催・運営しているのは、旅館ビバノン並びに、この温泉街全体だという。
 もちろん、【カオスロリト地方】と【ダスカマダ王国】の許可はもらって。

「優勝することが出来たら、我々の交際を認めてもらうようにと、ヨアンの両親を説得しましたの」

 当旅館は、カオスロリト地方とダスカマダ王国領との境目に位置している。
 毎回資金も提供しているので、主催自体は楽だったとか。
 運営方法などもアドバイスを受けて。

「しかし、実際提案こそしてみたものの、愉快なイベントにしたいと思いましたの。そこで、皆さんにはスタンプラリーとして楽しんでいただき、そのスキに優勝してしまおうと考えたのですわ」

「つまり、スタンプラリーはカモフラージュで、実際はキミたち二人が密かにトップに立とうとしていたんだね?」
 ボクが聞くと、ククちゃんは肯定した。



「どうして、今になって話そうとしたの?」


「TV中継を見たからでしょ?」
 トシコさんが、図星を突いたように意見をする。

「そのとおりですわ」
 ククちゃんが、うなずいた。

 あ、そっか。
 一等でゴールしたチームが決まったって。

「やはり、人間の私では力不足でした。それを補おうと、クク様もがんばっていたのですが、初日でヘバラせてしまい」

「どうして、山登りなんかに参加したの? あたしたちを引き離すだけなら、むしすればよかったじゃない?」

 マミちゃんの指摘は正しい。

「参加しておきながらでないと、怪しまれると思ったのです。なので、できるだけスタンプラリーをしている体で、イベントには参加しておこうと」

 だが、ククちゃんが限界を迎えてしまったと。

「私も、あきらめてエンジョイに専念しましょう、クク様がお考えになったイベントを楽しみましょうと提案しました。クク様自身も、皆様と同行しながら、イベントを楽しみになさる余裕が生まれたようでして」

 たしかに、是が非でも優勝しようという刺々しさは、薄れていった気がする。

「とはいえ、一等が決まってしまった今、我々の心は完全に折れてしまいました。まさか、初日からスタンプラリーがトラップだと気づかれるとは」

 ヨアンさんの言い方だと、実際そうなのだろう。

 でなければ、一つもスタンプをもらわずにゴールなんて考えない。


「一等を取るためだけにゴールしたって、つまんない」


 チサちゃんの言葉に、ボクも賛成だ。
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