34 / 47
第四章 因縁の地下遺跡へ
第34話 セニュト・バシュ遺跡
しおりを挟む
セニュト・バシュ遺跡にたどり着いた。
「聖なる父・バシュ」という意味を持つこの遺跡付近が、ギソの故郷だという。
「ギソ一世はセニュト・バシュの直系の子孫ながら、禁忌魔法に触れてしまい故郷を追われました」
エレオノル姫が、説明してくれた。
「名前をギソと変え、魔王討伐の旅に同行したことで、ようやく世間に名前を轟かせたのです。しかし、故郷の反応はそのままでした。禁忌魔法に触れた、悪魔の家系だと。魔王を禁忌魔法で滅ぼした、邪神崇拝者だと」
付近にあった村では、今でもギソ一族を「忌み名」と恐れている。
「悲しいですね。死んでも、功績を上げても、故郷から追放されたままだなんて」
「ギソの時代は、保守的でしたからね。ヒューゴさんは、故郷に愛されていていいですね」
「村人としてより、冒険者として生きるほうが密度の濃い人生を歩んでいますが」
「それでいいのです。適材適所という言葉がありますからね」
適材適所、師匠のボーゲンさんにも同じことを言われたな。
「で、セニュト・バシュはギソに呪われて滅びた、と」
「今となっては、謎のままです」
セニュト・バシュは「聖なる」と言われている割には、密林の奥地にあった。まるで、世界から隔絶されたかのような。大きな木々に周りを囲まれ、太陽の光すら遮られていた。壁には、ジメジメしたコケが生い茂っている。キノコまで生えていて、周りも泥だらけだ。
これが、聖地の成れの果てとは。
「この女神像は、セニュト・バシュの所有なの? それともギソの?」
「ギソの崇拝する邪神です。バシュで崇められていた像は、兄が持っているはずでした」
本当のセニュト・バシュに入るには、二つの像が必要だったのである。
「一つは、バシュが崇める女神の像。もう一つが、ギソが崇める邪悪な像です。本来この二つは相いれず、台座の前で向かい合わせることで、真の財宝が手に入るとのこでした」
しかし、エルンストはギソ討伐に急いでいた。ひとまず、神の像を台座に乗せて、宝物庫の扉だけを開いたのだ。
その結果、ボクの兄はあんな目に。
「兄が最短で攻略を果たそうとしたせいで、世間に多大なるご迷惑を」
「いえ。お兄様は立派でしたわ。妹君であるエレオノル様が、気に病むことはありません」
「ありがとう、ソフィーア」
ソーニャさんが、エレオノル様を慰める。
「入ろうっ。なんか寒いよ」
「そうですね。ジャングルだというのに、この冷えはなんでしょう。いくら日差しが入らないからって、少し異常ですね」
ザスキアさんを先頭に、エレオノル様たちと遺跡に足を踏み入れた。
「えっと、こっちです」
ボクは地図を広げて、道を指し示す。
トラップも、大したことはない。セーコさんの解除能力で、軽く突破する。
「もうすぐ、宝物庫です」
「わかったわ、ヒューゴ。ファミリア、出番よ」
ソーニャさんが、ファミリアを呼び出す。
『ちりちり~ん。みちをあけろ~』
ファミリアが両手にぶら下げているハンドベルを、振り回した。
さっきまで遺跡を包んでいた寒気が、一気に引いていく。
「寒気の正体は、呪いだったんですね」
「もっと早くベルを鳴らすべきだったわ」
【恬淡の鈴】は、人から冷静な判断を奪う瘴気を、取り払う能力を持つ。
宝物庫に入る以前から、こんなにも効果が広がっていたなんて。
財宝がたくさん眠る場所に、到着した。
明るすぎて、目が痛い。財宝に、ロウソクの火が反射しているのか。
「早く、お兄様を探しましょう」
「ええ……兄上!」
エレオノル様が、金塊の山に横たわる死体を発見した。
「今参ります兄上……はっ!」
財宝が盛り上がり、スケルトンの群れが襲いかかってくる。
スケルトンの装備を見て、気付いた。
この死体たちは、元冒険者だと。
ロイド兄さんと一緒に旅立つとき、装備一式を見たのだ。
それと同じものを、スケルトンたちは身につけている。
「埋葬してやろう」
「ええ。【メテオ・バースト】!」
ボクは剣を振って、【ファイアストーム】を繰り出す。
スケルトンたちが、灰になっていった。
「他に敵の気配は?」
「ございません。ご安心を」
僧侶のヴィクが言うなら、そのとおりなのだろう。
「姫。台座に像を」
「はい。兄上、お借りいたします」
兄エルンスト王子の手から、神の像をそっと抜き取った。
「こっちも、置くわよ」
ソーニャさんが、台座に邪神の像を。
対面に立ったエレオノル様が、反対側の台座に女神の像を乗せた。
パッと、辺りが暗くなる。財宝もなくなった。なにもない、石造りの空間が広がっている。
「どこだここは?」
セーコさんが、ひとりごつ。
「姫様、これを!」
ザスキアさんが取り出したのは、ギソの迷宮の地図だ。そんなものを取り出して、なんだというのか?
「急に地図が光りだして、さる座標を示しました。このポイントは、間違いなく……」
「なんてことなの……」
驚く姫様の側から、ボクも地図を覗き込む。
もしかしてここって、ギソの洞窟ってこと? しかも、第九層!?
「そのとおりだ」
ローブを着た若者が、いつの間にか目の前に立っている。
「お前が?」
「そう。俺がギソだ。今はな」
ギソを名乗る男は、人間とトロルの混血種・フルドレンの特徴を持っていた。
「聖なる父・バシュ」という意味を持つこの遺跡付近が、ギソの故郷だという。
「ギソ一世はセニュト・バシュの直系の子孫ながら、禁忌魔法に触れてしまい故郷を追われました」
エレオノル姫が、説明してくれた。
「名前をギソと変え、魔王討伐の旅に同行したことで、ようやく世間に名前を轟かせたのです。しかし、故郷の反応はそのままでした。禁忌魔法に触れた、悪魔の家系だと。魔王を禁忌魔法で滅ぼした、邪神崇拝者だと」
付近にあった村では、今でもギソ一族を「忌み名」と恐れている。
「悲しいですね。死んでも、功績を上げても、故郷から追放されたままだなんて」
「ギソの時代は、保守的でしたからね。ヒューゴさんは、故郷に愛されていていいですね」
「村人としてより、冒険者として生きるほうが密度の濃い人生を歩んでいますが」
「それでいいのです。適材適所という言葉がありますからね」
適材適所、師匠のボーゲンさんにも同じことを言われたな。
「で、セニュト・バシュはギソに呪われて滅びた、と」
「今となっては、謎のままです」
セニュト・バシュは「聖なる」と言われている割には、密林の奥地にあった。まるで、世界から隔絶されたかのような。大きな木々に周りを囲まれ、太陽の光すら遮られていた。壁には、ジメジメしたコケが生い茂っている。キノコまで生えていて、周りも泥だらけだ。
これが、聖地の成れの果てとは。
「この女神像は、セニュト・バシュの所有なの? それともギソの?」
「ギソの崇拝する邪神です。バシュで崇められていた像は、兄が持っているはずでした」
本当のセニュト・バシュに入るには、二つの像が必要だったのである。
「一つは、バシュが崇める女神の像。もう一つが、ギソが崇める邪悪な像です。本来この二つは相いれず、台座の前で向かい合わせることで、真の財宝が手に入るとのこでした」
しかし、エルンストはギソ討伐に急いでいた。ひとまず、神の像を台座に乗せて、宝物庫の扉だけを開いたのだ。
その結果、ボクの兄はあんな目に。
「兄が最短で攻略を果たそうとしたせいで、世間に多大なるご迷惑を」
「いえ。お兄様は立派でしたわ。妹君であるエレオノル様が、気に病むことはありません」
「ありがとう、ソフィーア」
ソーニャさんが、エレオノル様を慰める。
「入ろうっ。なんか寒いよ」
「そうですね。ジャングルだというのに、この冷えはなんでしょう。いくら日差しが入らないからって、少し異常ですね」
ザスキアさんを先頭に、エレオノル様たちと遺跡に足を踏み入れた。
「えっと、こっちです」
ボクは地図を広げて、道を指し示す。
トラップも、大したことはない。セーコさんの解除能力で、軽く突破する。
「もうすぐ、宝物庫です」
「わかったわ、ヒューゴ。ファミリア、出番よ」
ソーニャさんが、ファミリアを呼び出す。
『ちりちり~ん。みちをあけろ~』
ファミリアが両手にぶら下げているハンドベルを、振り回した。
さっきまで遺跡を包んでいた寒気が、一気に引いていく。
「寒気の正体は、呪いだったんですね」
「もっと早くベルを鳴らすべきだったわ」
【恬淡の鈴】は、人から冷静な判断を奪う瘴気を、取り払う能力を持つ。
宝物庫に入る以前から、こんなにも効果が広がっていたなんて。
財宝がたくさん眠る場所に、到着した。
明るすぎて、目が痛い。財宝に、ロウソクの火が反射しているのか。
「早く、お兄様を探しましょう」
「ええ……兄上!」
エレオノル様が、金塊の山に横たわる死体を発見した。
「今参ります兄上……はっ!」
財宝が盛り上がり、スケルトンの群れが襲いかかってくる。
スケルトンの装備を見て、気付いた。
この死体たちは、元冒険者だと。
ロイド兄さんと一緒に旅立つとき、装備一式を見たのだ。
それと同じものを、スケルトンたちは身につけている。
「埋葬してやろう」
「ええ。【メテオ・バースト】!」
ボクは剣を振って、【ファイアストーム】を繰り出す。
スケルトンたちが、灰になっていった。
「他に敵の気配は?」
「ございません。ご安心を」
僧侶のヴィクが言うなら、そのとおりなのだろう。
「姫。台座に像を」
「はい。兄上、お借りいたします」
兄エルンスト王子の手から、神の像をそっと抜き取った。
「こっちも、置くわよ」
ソーニャさんが、台座に邪神の像を。
対面に立ったエレオノル様が、反対側の台座に女神の像を乗せた。
パッと、辺りが暗くなる。財宝もなくなった。なにもない、石造りの空間が広がっている。
「どこだここは?」
セーコさんが、ひとりごつ。
「姫様、これを!」
ザスキアさんが取り出したのは、ギソの迷宮の地図だ。そんなものを取り出して、なんだというのか?
「急に地図が光りだして、さる座標を示しました。このポイントは、間違いなく……」
「なんてことなの……」
驚く姫様の側から、ボクも地図を覗き込む。
もしかしてここって、ギソの洞窟ってこと? しかも、第九層!?
「そのとおりだ」
ローブを着た若者が、いつの間にか目の前に立っている。
「お前が?」
「そう。俺がギソだ。今はな」
ギソを名乗る男は、人間とトロルの混血種・フルドレンの特徴を持っていた。
31
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~
下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。
二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。
帝国は武力を求めていたのだ。
フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。
帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。
「ここから逃げて、田舎に籠るか」
給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。
帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。
鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。
「私も連れて行ってください、お兄様」
「いやだ」
止めるフェアに、強引なマトビア。
なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。
※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる