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第五章 転職して、最終決戦へ
第41話 魔剣 デュランダル
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ボクは、転職の間に通された。冒険者ギルドの近くに、転職フロアは存在する。
半円状の、ドームに案内された。ここに、二週間滞在する必要があるそうだ。
「このフロアは、時間の経過が遅い。元の世界では二週間だが、この中にいれば二年分の訓練ができる。だが、年齢は変わらない」
二年の月日を用いて、転職にふさわしい肉体を得るという。
ドームの入口を開けて、中に。
ぬう、と質量の重い空気の漂う空間の中に入った。呼吸するのが、ずっと辛い。
食事の場所なども用意されているが、何も食べたいと思えなかった。それより、水がほしい。
「耐えろ。しばらくは、この空気の淀みに慣れるんだ。それが、最初の訓練である」
トレーニングの間、ザスキアさんがコーチしてくれる。
「目を閉じて、魔力の流れをコントロールしろ。ボーゲン氏に習っただろ? あの基礎訓練を、引き続き行う」
ボクは、魔力を抑える訓練と、魔力を一気に開放する訓練を交互に行った。しかし、圧力が以前の数倍もある。
ときどき水分を補給し、魔力をさらに抑え込んでいく。極限まで縮小し、また一気に爆発させる。これの繰り返し。
負荷が、尋常ではない。
地上ではなんてことなかった鍛錬の一つ一つが、地獄の苦しみだった。数分動いただけでも、汗が吹き出てくる。頭も、クラクラしてきた。
「水を取るんだ。とにかく、動け。そして、この空間の雰囲気に慣れるんだ」
「はい。ふんがーっ!」
自分を奮い立たせて、魔力のコントロールに励む。
そういう日々が、数カ月分続いた。現実世界では、また一日しか経っていないという。
ようやく、魔力のコントロールがうまくいくように。空気の息苦しさも、まったく感じなくなった。
「よくやったな。続いては、デュランダルの使い方を教える」
ボクは、魔剣デュランダルを用意した。きれいな剣だ。金色の刀身に空いた穴から、青白い雷が吹き出している。常に電流をまとっていて、触れたものはすべて灰にしてしまう。虫が近づいたら、黒焦げになった。
他にも魔剣デュランダルには、特別な力が備わっているらしい。
「さすが魔法剣士だ。初手で、デュランダルなんてレア武器を拾うとは」
「デュランダルって、そんなにすごい武器なんですか?」
「自分で調べてみれば、わかる」
「はい」
ボクは【鑑定眼】で、デュランダルについて調べてみる。
[【聖剣:デュランダル】 神殺しの剣。あらゆる神も、デュランダルなら傷をつけられる。場合によっては、全能なる神の殺害も可能]
神殺しの剣だって?
「邪神を退散させたドロップ品として、神殺しの剣を得るとはな。ヒューゴ、お前はなにか持っている素質がありそうだ」
「ボクはそんな」
「謙遜しなくていい。人はなにかしら、特性があるもんだ。お前の場合は、持つべきときに持つべきアイテムを引き寄せることなのかもな」
特性がわかったところで、デュランダルを用いた戦法を教わることに。
「ギソのような【神格】級の魔物相手には、【ディサイド・ブリンガー】という剣技が有効だ」
『神殺しをもたらすもの』、か。
「やり方は教えるが、ワタシはこの技を使ったことがない」
稽古でしか、使う機会がなかったという。
「通用するかどうかは、お前の力量次第だ」
「はいっ」
「いくぞ。ディサイド・ブリンガー!」
ザスキアさんが、居合で刀を振る。
金色の衝撃波が、ドームの壁を切り裂く。
壁は、たちまち元に戻った。どんな攻撃でも、壊れない仕様らしい。
見たところ今の技は、魔法戦士のときに覚えた【ウェーブ・スラッシュ】と変わりない。しかし、威力は高いのだろう。
「これが、ディサイド・ブリンガーだ。ウェーブ・スラッシュの派生だが、神を傷つける特性を持つ」
ただ、理論上での話だ。
これまで実際に神レベルの相手と戦ったことがないため、本当に通用するかどうかは実際に当ててみないとわからない。
「実戦で一度だけ試してみたが、ドラゴンをたやすく両断できたくらいだろうか」
ドラゴン倒せるんだ、この人は。
「まあ、とにかく覚えてみるといい。お前の攻撃なら必ず、ギソに届くだろう」
「やってみます」
それから転職の間を出るまで、ずっとディサイド・ブリンガーの練習をこなした。
久しぶりに、転職の間を出る。
「うーん。すごく体が軽いです!」
「よくがんばったな」
「ありがとうございました……ん?」
見慣れた姿の二人組が、こちらに駆け寄ってきた。
キルシュと、ヴィクだ。
「おーい。ヒュー、ゴ?」
「うん。ボクは、ヒューゴだけど?」
「だよね? 雰囲気は、そうだよね?」
なんだか、キルシュの様子がおかしい。
「この二、三週間位で、なんかあった?」
ボクは転職した話を、二人に聞かせた。
「なるほど。どおりで見違えたわけですな。鏡をご覧なさいな。あなたは、すごく成長なさっていますよ」
「そうなの?」
ヴィクが用意してくれた全身鏡を使って、ボクは自分の全体像を見てみた。
「うわあああ! 筋肉がめっちゃ引き締まってる!」
細身なのは、変わっていない。が、背が伸びて、全身もたくましくなっていた。
「あなた、ヒューゴなの?」
「その声は、ソーニャ……さんだよね?」
ボクは、声のした方へ振り返る。
絶世の美女が、そこにいた。
半円状の、ドームに案内された。ここに、二週間滞在する必要があるそうだ。
「このフロアは、時間の経過が遅い。元の世界では二週間だが、この中にいれば二年分の訓練ができる。だが、年齢は変わらない」
二年の月日を用いて、転職にふさわしい肉体を得るという。
ドームの入口を開けて、中に。
ぬう、と質量の重い空気の漂う空間の中に入った。呼吸するのが、ずっと辛い。
食事の場所なども用意されているが、何も食べたいと思えなかった。それより、水がほしい。
「耐えろ。しばらくは、この空気の淀みに慣れるんだ。それが、最初の訓練である」
トレーニングの間、ザスキアさんがコーチしてくれる。
「目を閉じて、魔力の流れをコントロールしろ。ボーゲン氏に習っただろ? あの基礎訓練を、引き続き行う」
ボクは、魔力を抑える訓練と、魔力を一気に開放する訓練を交互に行った。しかし、圧力が以前の数倍もある。
ときどき水分を補給し、魔力をさらに抑え込んでいく。極限まで縮小し、また一気に爆発させる。これの繰り返し。
負荷が、尋常ではない。
地上ではなんてことなかった鍛錬の一つ一つが、地獄の苦しみだった。数分動いただけでも、汗が吹き出てくる。頭も、クラクラしてきた。
「水を取るんだ。とにかく、動け。そして、この空間の雰囲気に慣れるんだ」
「はい。ふんがーっ!」
自分を奮い立たせて、魔力のコントロールに励む。
そういう日々が、数カ月分続いた。現実世界では、また一日しか経っていないという。
ようやく、魔力のコントロールがうまくいくように。空気の息苦しさも、まったく感じなくなった。
「よくやったな。続いては、デュランダルの使い方を教える」
ボクは、魔剣デュランダルを用意した。きれいな剣だ。金色の刀身に空いた穴から、青白い雷が吹き出している。常に電流をまとっていて、触れたものはすべて灰にしてしまう。虫が近づいたら、黒焦げになった。
他にも魔剣デュランダルには、特別な力が備わっているらしい。
「さすが魔法剣士だ。初手で、デュランダルなんてレア武器を拾うとは」
「デュランダルって、そんなにすごい武器なんですか?」
「自分で調べてみれば、わかる」
「はい」
ボクは【鑑定眼】で、デュランダルについて調べてみる。
[【聖剣:デュランダル】 神殺しの剣。あらゆる神も、デュランダルなら傷をつけられる。場合によっては、全能なる神の殺害も可能]
神殺しの剣だって?
「邪神を退散させたドロップ品として、神殺しの剣を得るとはな。ヒューゴ、お前はなにか持っている素質がありそうだ」
「ボクはそんな」
「謙遜しなくていい。人はなにかしら、特性があるもんだ。お前の場合は、持つべきときに持つべきアイテムを引き寄せることなのかもな」
特性がわかったところで、デュランダルを用いた戦法を教わることに。
「ギソのような【神格】級の魔物相手には、【ディサイド・ブリンガー】という剣技が有効だ」
『神殺しをもたらすもの』、か。
「やり方は教えるが、ワタシはこの技を使ったことがない」
稽古でしか、使う機会がなかったという。
「通用するかどうかは、お前の力量次第だ」
「はいっ」
「いくぞ。ディサイド・ブリンガー!」
ザスキアさんが、居合で刀を振る。
金色の衝撃波が、ドームの壁を切り裂く。
壁は、たちまち元に戻った。どんな攻撃でも、壊れない仕様らしい。
見たところ今の技は、魔法戦士のときに覚えた【ウェーブ・スラッシュ】と変わりない。しかし、威力は高いのだろう。
「これが、ディサイド・ブリンガーだ。ウェーブ・スラッシュの派生だが、神を傷つける特性を持つ」
ただ、理論上での話だ。
これまで実際に神レベルの相手と戦ったことがないため、本当に通用するかどうかは実際に当ててみないとわからない。
「実戦で一度だけ試してみたが、ドラゴンをたやすく両断できたくらいだろうか」
ドラゴン倒せるんだ、この人は。
「まあ、とにかく覚えてみるといい。お前の攻撃なら必ず、ギソに届くだろう」
「やってみます」
それから転職の間を出るまで、ずっとディサイド・ブリンガーの練習をこなした。
久しぶりに、転職の間を出る。
「うーん。すごく体が軽いです!」
「よくがんばったな」
「ありがとうございました……ん?」
見慣れた姿の二人組が、こちらに駆け寄ってきた。
キルシュと、ヴィクだ。
「おーい。ヒュー、ゴ?」
「うん。ボクは、ヒューゴだけど?」
「だよね? 雰囲気は、そうだよね?」
なんだか、キルシュの様子がおかしい。
「この二、三週間位で、なんかあった?」
ボクは転職した話を、二人に聞かせた。
「なるほど。どおりで見違えたわけですな。鏡をご覧なさいな。あなたは、すごく成長なさっていますよ」
「そうなの?」
ヴィクが用意してくれた全身鏡を使って、ボクは自分の全体像を見てみた。
「うわあああ! 筋肉がめっちゃ引き締まってる!」
細身なのは、変わっていない。が、背が伸びて、全身もたくましくなっていた。
「あなた、ヒューゴなの?」
「その声は、ソーニャ……さんだよね?」
ボクは、声のした方へ振り返る。
絶世の美女が、そこにいた。
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