一攫千金を夢見て旅立った兄が、病んで帰ってきた。結局ボチボチ冒険するのが幸せなんだよね

椎名 富比路

文字の大きさ
42 / 47
第五章 転職して、最終決戦へ

第42話 ソーニャ、賢者に転職

しおりを挟む
 ソーニャさんが、別人のように美しくなっている。ツインテールなのはそのままだけど、気品に満ちていた。衣装も、より貴族風に変わっている。
 以前は庇護対象だったので、町娘風にしていた。今はそのルックスを、まるで隠そうともしていない。
 
「なによ。あたしが転職したらおかしいの?」

 杖をつきながら、ソーニャさんが腰に手を当てる。その杖は、ギソを倒して手に入れた武器ではない。違うモンスターからの、ドロップアイテムだ。

「ああ、ソーニャさんも転職したんだね」

 たしかソーニャさんは、転職用のアイテムを持っていたんだっけ。

「そうよ。【賢者】になれるアイテムがあったから、使ってみたのよ」

 聖なる杖【ジョワユーズ】は、持ち主を王たる器にするアイテムと言われていた。さっそくソーニャさんは、ためらいもなく使ってみたという。

「でもさ、転職したって言っても、トレーニングは必要だったでしょ?」

「鍛錬も込みで転職が成立するってのは、聞いていたわ。この杖は、それを免除してくれるの」

 だけど、肉体が変化するとは思っていなかったようだ。年齢を重ねないから、肉体にも影響は出ないだろうと考えていたという。
 ソーニャさんはまだ、自分の身体の変化にまだ馴染んでいない。

「とはいえ、あんたたちに負けないくらいには、強くなったと思っているわよ」

「うん。ソーニャさんがレベルアップしているの、ボクにもわかるよ。でも、手に入れた武器はなくしたんだね?」

「ええ。ジョワユーズでしょ? あたしの体内に収まっているわ」

 ジョワユーズを取り込んだソーニャさんは、純粋魔法使いとしてより高みに到達していた。聖なる魔力も微量に放出していて、治癒魔法の気配もうかがえる。

「トレーニングは、ボーゲンさんが手伝ってくれたの?」

「赤術師ボーゲンの、本気を見たわ。どのタイミングでどう演算したほうがいいか、この敵に対してどの術をどの部位に当てるのが適切か、とか、理論的な議題ばかり」

 ソーニャさんが、青ざめた。よほど、厳しい鍛錬だったようである。あまり追求するのは、よくないかも。
 
「あたしとヒューゴの二人は、こんな調子なんだけど。ヴィクとキルシュは、どうだったの? あたしたちが修行している間に、変化はあった?」

「それがね、あったんだよ。ウチらには、変化はないんだけどさ」

 なんでも、邪神を崇めるフルドレンの組織を見つけ出したという。王都を揺るがすダンジョン出現など、一連の事件を起こしていたのも、彼らだったらしい。

「シュタルクホン王立騎士団の協力も受けて、どうにか本拠地を突き止めました。彼らの執念に報いたいと思っております」

 ボクやソーニャさんが特訓している間に、王立騎士団は各地にあるフルドレンの組織を潰して回っていたという。
 王都も、ギソ打倒に本気だってわけか。 

「野放しにしておいたら、危険ね。早く潰しに行くわよ」

「そうこなくっちゃ」
 
 ボクたちは、フルドレンのボスがいるアジトに向かうことにした。

 馬車に乗って、敵がいるというアジトへ。
 
「ヴィク、場所はどこにあるの?」
 
「北です」
 
 馬車の中で、ヴィクが地図を開く。
 
「国境にある、ケブネロス山脈。そこが、彼らの根城です」

「ほぼ、魔族の領地じゃないの!」

  この世界では、魔族も人と同じ世界で過ごしている。
 
「ですが、魔族もこの山を嫌っています。宗派が違いすぎていて」

「今の魔族は、世界征服にあまり関心がないものね」

「はい。反対にフルドレンなど、人間に対して憎しみを抱いている者にとって、邪神は拠り所だったのではないかと」

 もはや魔王が生まれづらい世の中で、邪神がフルドレンの信仰対象になっていったと。

「魔族も魔王も、フルドレンにとっては当てにならないわけね。わかったわ」

「中でも、現人神だったのが……」

「勇者一行の末裔、ボボル・ギソだったと」

 フルドレンの組織は、ギソに邪神を取り込ませ、フルドレンの神にしようとしていたようだ。
 
「ひっどい連中ね。自分たちの都合のために、ギソを利用していたわけでしょ?」

「そうなりますね。ただ、ギソの言葉が気になります」

「今は自分がギソだ、って言葉でしょ?」

「ええ。それが何を意味するのか。いやはや、どうしたものか」

 ヴィクは、考え込む。
 
「どうしたもこうしたも、ないわ。邪神こそが、ギソなんでしょ?」
 
「ギソ一世が、邪神に成り代わった可能性があるんです」

 ソーニャさんの発言に、ヴィクが言葉を重ねてきた。
 たしかに、かつて存在していたセニュト・バシュがどうしてあそこまで壊されたのか。その理由が、呪いだけでは説明がつかない。
 ギソ一世が邪神となって、セニュト・バシュを滅ぼしたと言われたほうが、納得がいく。
 
「現人神どころか、本物の神になったわけ?」
 
「はい。ギソほどの術師だったら、それも可能だと思うのです」
「どうして?」

「あなたを見たときですよ」

 ソーニャさんは、アイテムを使って、賢者に転職している。

 だとすれば、ギソも何らかのアイテムを使って、邪神そのものになった可能性が高い。

「冗談じゃないわよ。神様になった人間と戦うってこと? こっちは賢者になることで手一杯だってのに!」
 
「怖いですか?」

「たまんないわ。ゾクゾクしちゃう」

 ソーニャさんが、身震いする。恐怖からではない。好奇心からだ。
 
「天才は一人でいいわ。ギソがたとえ邪神だったとしても、叩くわよ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

追放された荷物持ち、【分解】と【再構築】で万物創造師になる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーから「足手まとい」と捨てられた荷物持ちのベルク。しかし、彼が持つ外れスキル【分解】と【再構築】は、万物を意のままに創り変える「神の御業」だった! 覚醒した彼は、虐げられていた聖女ルナを救い、辺境で悠々自適なスローライフを開始する。壊れた伝説の剣を直し、ゴミから最強装備を量産し、やがて彼は世界を救う英雄へ。 一方、彼を捨てた勇者たちは没落の一途を辿り……。 最強の職人が送る、痛快な大逆転&ざまぁファンタジー!

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...