レアドロップしない男、魔法付与装備を生成できる女スライム魔王に溺愛されて、【レアアイテムを破壊する男】として覚醒!

椎名 富比路

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1-2 変質したダンジョンを、殴りに行きます

ミノタウロス退治……だけでは済まない

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 そもそも、第二階層ボスは、レイスではない。ゴーストか、強めのゾンビだ。対アンデッドなど、属性攻撃を把握するために配置されていると言われている。

 なのに、少しランクが上の敵が配置されていた。少し、妙である。

「ダンジョンがヴァージョンアップした、という報告は?」

 サピィが立てた仮設に、俺は首を振る。
 ハンターギルドがなんの予告なしに、ダンジョンの難易度を上げるなんて考えられない。そもそも人為的になんてムリだ。

 得体のしれない別の何者かが関わっている。その不確定要素を排除しないと、犠牲者が出てしまう。

「ミノタウロスと言っても、油断できないわけですね」
「我が前に出ましょう」

 シーデーが、盾役をかって出てくれた。

「では、私が背後から魔法を撃ちます」

 ならば、俺は前衛で斬りかかる役に回るか。

「いざとなったら、二人でサピィを守るぞ」
「承知」
「いくぜ!」

 全員で、フロアに飛び込んだ。

 こちらに気づいたミノタウロスが、両手斧を構えて斬りかかる。

 いつもは後ろから魔法を撃っていたからわからなかったが、ミノタウロスがいかに恐ろしい敵なのかを実感した。血管や筋肉の隅々まで、正確に視認できる。いくら強化した俺でも、まともに立ち会えば粉々になるだろう。

「ていうか、明らかに強くなってるじゃん!」

 懐に飛び込んで、破れかぶれにブロードソードを叩き込んだ。

 しかし、ミノタウロスの分厚い腹筋によって攻撃は弾き返される。

 やはり、強くなっていた。エンチャントしているとはいえ、ブロードソード程度では傷もつけられないか。ヤツの厚い筋肉を両断できるような剣術スキルも、俺は持ち合わせていない。

 杖から送られてくるエネルギーを、サピィが手のひらに分解の力へと変換する。

 サピィの魔法を驚異に感じたのか、ミノタウロスは俺達をすり抜けてサピィへ直行しようとする。

「そうはいかん!」

 ブロードソードで、正面から斧を受け止めた。いつもの魔法使い的戦闘ならありえ
ない戦法だ。サピィが後ろにいるというのもあるが。

「召されよ!」

 シーデーが、指から弾丸を放つ。いわゆる【指マシンガン】のスキルだ。

 目を潰されて、ミノタウロスが武器を落とす。顔を手で覆いながら、俺たちに危害を加えようと暴れまわる。

「ふたりとも下がってください! 【破壊光線デモリッション】!」

 赤黒い閃光を、サピィが手から放った。

 ミノタウロスの心臓へ、光線が突き刺さる。

 なおもミノタウロスは意地を見せたが、それよりサピィの魔法が勝った。

 分解光線は、ミノタウロスの頑強な肉体を突き抜ける。

 両膝を落とし、フロアボスは絶命した。

 レベルアップする。なにか目ぼしいスキルはないものか。エンチャント以外もくまなく確認する。派生技で、これはというスキルを見つけた。さっそく装着する。

 ブロードソードを使って、ミノタウロスの角を回収する。これで、薬局のラインナップが充実するだろう。

「ジュエルは……大きめの赤か。おっ、バルディッシュが手に入ったぞ。装備をやり直そう」

 アイテムの中に、珍しいものがあった。変わった形状の槍だ。

「よし。これからは槍で長いリーチを活かす」

 とはいえ、まだやることがある。このダンジョンを引き続き調査するか。
 槍を棍棒代わりにして、ひたすら殴るとしよう。

「ますます、魔法使いから遠ざかりますね」
「魔法使い用の武器が出てきたら、切り替えるさ」

 ミノタウロスの死体が消えると、もうひとりの影があることに気づく。

「ちくしょう。ミノタウロスを強化して、ハンターギルドを人知れず抹殺する計画が台無しじゃねえか!」

 現れたのは、黒いワータイガーの武闘家だった。不気味な模様が書かれた岩を担いで、ダンジョンの地下に埋め込もうとしている。

「えらくかわいい黒猫が、ダンジョンに紛れ込んできたな。ここはお前なんかがいていい場所じゃない。ニャンコちゃんは、バケツで日向ぼっこでもしてろ」
「ネコじゃねえ! ワータイガーだ! オレをバカにすると痛い目にあうぜ!」
「俺たちと戦う気か? ハンター同士の衝突はご法度だぞ」
「うるせえ! 魔物の計画を知られた以上、生かしておけねえ!」

 ワータイガーが、爪に風の魔法をまとわりつかせた。

「ほう、エンチャントか。面白い!」

 俺の方も、バルディッシュにエンチャントをかけた。

「ウィザードが、槍装備で肉弾戦だと? なめてんのか!」
「いたって真剣だ。それともお前、俺様の新戦法が怖いのか?」
「言わせておけば!」

 風の刃で全身を覆い尽くし、ワータイガーが俺に向かってくる。

「どうだ! これで近づけまい! 近接戦闘を挑んだ自分を呪うがいい!」
「フン。エンチャントには、こういう戦い方もあるのだ。【ディメンション・セイバー】!」

 俺は、槍を大きく振った。魔力で形成された真空刃が、ワータイガーの風魔法を突き破る。さっき取得したばかりの技をさっそく試す。

「いってえええ!」

 袈裟斬りを喰らい、ワータイガーが技を解いた。

「貴様ら魔物の目的はなんだ? どうしてハンターギルドを狙う?」
「ちくしょう覚えてやがれ!」

 ワータイガーが、驚異的な速度で逃げ出していく。

「いまのは何だったのでしょう? 魔王の手先でしょうか?」
「それとも、別の勢力か」

 とりあえず、ギルドに報告しに戻った。
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