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第一章 ダンジョンを作った魔法使いと、魔王となった少年

第4話 中ボス戦

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「力を貸すお、ナオト!」

「お願いします、ダンヌさん! それ!」
  
 ボクは、自分より体格差のある大サソリと、わざと力比べをした。

 こんなもんか。映画やゲームだと、もっと苦戦する印象だったけど。
 ダンヌさんって、思っていたより力が強いみたい。

「マッドクローをお見舞いするお、ナオト!」
 
「よし! おおおお!」

 大サソリのハサミをそらして、関節の繋目にクローを突き刺す。

「うわ!」

 なにか熱いものが飛んできて、ボクはとっさに身をかわした。

菜音ナオトくん、上よ!」

 緋依さんが、上空を指差す。 

 コウモリのような魔物が、上空から火炎弾を吐き出した。

「なんの。【シールド・スキン】!」
 
 手を硬質状にして、ボクは火炎弾を受け流す。

「反撃用の飛び道具スキルって、ない?」

「【ボルト・クロー】があるお」
 
 体毛を雷の矢にして放つ、遠距離攻撃スキルだ。

「使うよ! ボルトクロー!」

 小さい雷、というか放電した体毛を、針弾のように飛ばす。

 上空にいたコウモリに、雷を帯びた体毛がヒットした。

 心臓が止まったのか、コウモリが白目をむいて落下する。 

「レベルが上がると、もうちょっと少ない魔力で同じ威力の矢を放てるお」

「じゃ、もっとレベルを上げよう」

 今は、ダンヌさんの力に依存しているに過ぎない。
 少しでも省エネができるように、パワーアップしないと。
 おっと。ダンヌさんの力を取り戻すことも考えないとね。
 魔石を回収して、体内に取り込んでいく。

 ボクが強くなったせいか、魔物たちがボクの元から逃走を始めた。
 
「逃さない! ヘイトコントロール! うわー。まぐれで勝ったのに、逃げちゃうとかショボーイ!」

 あえて、ボクは弱者を演じる。

「やーい、やーい!」

 ボクの行動にキレた魔物たちが、再びボクに襲いかかってきた。

 それでいい。ボクとダンヌさんの、養分になってもらうよ。

「この! この!」

 炎を帯びたツメでスライムを焼き、肥大した腕でゴブリンを殴り飛ばす。

 大サソリや、大トカゲ、ゴブリンなどを撃退していく。

 動きが遅くて、いい的になってくれた。

「モンスターを倒しても、罪悪感が湧かないね」

「オイラの持つ、【残心】のせいかもだお」

 心の冷静さを常に心がけることで、パニックに陥らないスキルだとか。

「クソが! 人間のガキにどうしてそんな力が!」

 群れのリーダーらしき魔物が、現れる。どうやら、オークのようだ。
 コイツでようやく、最後の一匹らしい。

「こっちはタダでさえ、人間の支配下に置かれてイラツイてんのに、ムカつかせつなよなあ!」

 ダンヌさんによると、魔物はより魔力の高い相手に拘束されてしまうとか。

 あやうくダンヌさんも、アウゴに従わされるところだったが、相打ちに終わったという。

「人間をいたぶることでしか、ストレスを解消できねえ! テメエも死ね!」

「死ぬのは、お前たちだ!」

「笑わせんな! くたばれライカンのガキ!」

 蛮刀を振り回して、オークが切りかかってきた。

「ボルトクロー!」

 ボクは腕から、雷の体毛を放つ。

 だが、オークは蛮刀で雷攻撃を弾き飛ばした。

「エンチャント武器だお!」

「ゲヘヘ! 死んだ冒険者から奪ったこの武器! いい仕事をしてくれるぜ!」

 あの強い武器を拾ったから、オークは調子に乗っているのだろう。

「その武器は、誇り高い戦士が持っていたものだ。冒涜するなら容赦しない」

「黙れ! その戦士は犬死にしたじゃねえか!」

 ボクは魔物に、右フックを浴びせる。
 巨大なゲンコツが、オークの頬にめり込んだ。

「こんなやつに【神獣撃シンジュウゲキ】は、オーバーキル過ぎるお!」

「わかってる、加減はするよ」

 ボクも大技のスキルを持っていれば、オークの防御を突き破れそうだ。

「なにか、オススメってある?」

「【光の腕】なんて、どうだお?」

 腕を魔力で燃焼させて、無属性ダメージを与えるスキルらしい。

「わかったよ。いけ。光の腕!」

 ボクは、手をかざした。
 腕が光を放ち、燃え盛る。
 
「なにをやっても、人間が魔物に勝てるわけねえんだよ!」

「それは、操られているヤツの言葉じゃない」

 ボクは、カウンターでオークに殴りかかった。

 ボディブローが、オークの腹にめり込む。

 光る腕が、オークの心臓を焼いたのを感じ取った。
 オークが死体となって消滅し、蛮刀をドロップする。 

「他にもいっぱい、アイテムが落ちたんだけど?」

 ドロップアイテムが多数、手に入った。

 ひとまず、傷を癒やすポーションを試した。
 中身が赤い。

「甘いね」

 子ども用シロップみたいな味で、あまりおいしくない。
 しかし、わずかな切り傷や打撲痕が、キレイになくなっていく。
 
 マジックポーションも、飲んでみた。見た目が、青い。

「こっちは酸っぱい!」

 レモンを直接、なめったような味だ。しかも、炭酸が効いている。
 けど、味はこっちのほうが好きかも。

 こちらは、魔力が回復していく。

「【アイテムボックス】に収納するお」

 ダンヌさんは、無限の収納ボックスがあるという。

 魔方陣が腰のあたりに浮かび上がった。

 そこへ、アイテムを放り込む。

「素材アイテムは、武器や防具なんかになるから、取っておくといいお」

「わかった。魔石は全部、ダンヌさんが食べちゃっていいからね」

「ありがとうだお」

 いやいや。ダンヌさんに助けてもらったから、これでも足りないくらいだ。

菜音ナオトくん、無事?」

 緋依さんが、親子を連れ立ってこちらに向かってくる。
 
「まあ、なんとか」
 
「テントは近いわ。急ぎましょう」

 しかし、小さい女の子はまだ心が安定しないみたい。

「なんかないかな? そうだ、これをあげるね」
 
 ボクは私物の中から、キャンディを渡した。
 修学旅行用に買ってきた、おやつである。

「ありがと」と、少女はキャンディを口に入れた。やっと、落ち着いたようである。

 再び、ボクたちは進む。

「こんな世界にしたのも、アウゴってやつの仕業なんだね?」

「世界ダンジョン化の首謀者である『カトウ・アウゴ』は、本物の魔術師だったの。正確には、『父親の手で魔術師にされた』っていえばいいかしら?」

 カトウ・アウゴは、生まれつき不思議な力を持っていたらしい。
 そのため、父親が彼を本物の魔法使いとして育てたという。

「まあオタクだから、ファンタジーアニメを大量に見せていただけって可能性もあるけど、とにかく教育方針は、常軌を逸していたらしいわ」

 だが、アウゴは暴走した。

「彼は両親を殺し、狂った魔法使いとして世界を変えたわ」

 世界各地にダンジョンを作り、ディレッタント・ファイブを本物のテロリストに仕立て上げたのだ。

「ダンジョン精製能力を与えられたディレッタント・ファイブは、アウゴに抵抗するどころか、自ら進んでアウゴの配下になったそうよ。人殺しにも、ためらいがないみたいね」

「民間人まで巻き込んで、平気だったのかな?」

「望むところだったんじゃない? あいつらは、世間から干された連中ばかりだったし」

 ディレッタント・ファイブは、凡人に恨みを持つ人たちだけで構成されていたらしい。

 容姿にコンプレックスがあったVTuberの女性、問題発言が多くて炎上した社長、日本の制度を批判し続けていたインフルエンサーなどである。
 そこに、カトウ・アウゴも混じっていた。

「他にもメンバーがいたみたいなんだけど、そいつの正体はわかっていないわ。異世界の住人だったんじゃないか、って話よ」
 
 その人物がディレッタントたちをそそのかし、ダンジョンをこの世界に作り出す能力を与えたのでは、と考えられている。

「でも、実行犯はアウゴよ」
 
「彼はどうして、両親を殺したんだろう?」

「それは、わからない。けど、両親を殺害した理由が、世界をダンジョンで埋め尽くそうという動機に関連していると、ギルドは睨んでいるわ」

 
 ボクたちはようやく、ダンジョンにあるテントに到着した。

 しかし、テントに突いた途端、銃を構えた複数の冒険者が集まってきた。
 武装した冒険者たちが、ボクを取り囲む。

 ですよねえ。そういう展開になると思ったよ。 

「よせ。道を開けてやれ」
 
 隊長らしき服装の男性が、テントから出てきた。
 だが、明らかに人間ではない。ダンジョン化する前の動物園コーナーで見た、オオカミの顔をしている。
 あれが緋依さんの言っていた、「ライカン化しても正常な人間」か。
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