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第二章 配信可能なダンジョンで、ボスのVTuberと対決

第13話 エルフの姫 ルゥ

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 なんと、博士はあのテロリスト集団の仲間だった。

「その話って、本当なんですか?」

「厳密に言えば、彼女は組織を売った」

 博士は、ディレッタント・ファイブの中でも技術面の中核を担っていたらしい。
 彼女にとって最大の功績は、異世界を司る力の源【魔力】を、地球のエネルギーに変換できるようにすることだった。

 あと一歩のところで、彼女は地球側についたのである。
 
「なぜです? 仲間だったのに?」

「仲間だったからだ。暴走が許せなかった」

【ディレッタント・ファイブ】は、最初こそただの仲良しグループだった。
 それがいつの間にか、テロ集団と誤認されることになる。

「奴らの目的は、地球を壊すことだ。地球に愛着があった博士は、国を守る側に立ったのだ」

 それが、世界ダンジョン化を広めることになってしまうとは、博士も予想できなかったのである。

「国家側も、博士を信用できずに責める派閥と、博士の功績を称える側に分裂している」

「わたしが間に入ってぇ、ようやく博士は発言権を手に入れられましたぁ」

 さっきの銀髪おねえさんが、バスタオル一枚でリビングに戻ってきた。
 同じように、バスタオルだけの博士を抱えたまま。

 お姉さんの耳が、尖っている。

「人間じゃ、ない?」 
 
「ナオト、あのおにゃのこ、エルフだお」

 ダンヌさんが、そう教えてくれた。
 
 だとしたら、銀髪で尖った耳はコスプレではないんだな。
 リアルで、こんな髪の人がいるのか。
 
「あの、エルフさんだったんですね?」

「ああ。申し遅れましたぁ。菜音ナオトさん、緋依ヒヨリさん。わたしは、【$VHKJ+KLW‘&)={】」

「はい?」

 聞き取れない単語が出てきて、ボクはエルフさんに聞き返した。

「ルゥ、彼らに現地語は聞き取れないでち」

 博士が、エルフさんに注意する。
 
「おっとっとぉ。すいませぇん。わたしは、ルゥシルアンス・ドォ・クロウリーヴといいますぅ。クッソ長いのでぇ、ルゥとお呼びくださいぃ」

 キバガミさんの説明だと、彼女は異世界でエルフ国のお姫様だったという。

「だった、とは?」

「ルゥは、国を追われた。地球に与したと、追放されたのだ」

 聞くと、ルゥさんの国は、異世界のパワーが地球に持っていかれることに反対しているのだという。
 ルゥさんは、なんとか地球と異世界が仲良くできないかを、博士と一緒に模索しているのだ。

「では、お料理が冷めないうちにどうぞぉ」
 
 ルゥさんの案内で、食卓に通された。

 湯気を立たせているのは、お鍋である。

 外人さんが作った料理なので、てっきり個別に用意されているのかと思っていたが。
 
「みんなが仲良く食べるなら、やっぱりお鍋ですよねえ」

「ルゥよ。いささか、フレンドリーすぎると思うが?」

「だって、キバガミさぁん。これが一番、簡単なんですものぉ。キライなお野菜は手を付けないで済みますしぃ」

 たしかに、合理的と言えば合理的だ。

「とにかく、食べましょう。いただきます」

 数時間も車に乗りっぱなしだったので、お腹がペコペコである。

「ポン酢とめんつゆ、どちらかで召し上がってくださぁい」

 ボクはめんつゆで、お鍋をいただく。

 うまい。鶏の水炊きで、めんつゆに鶏のエキスが絡んでスープまで美味しかった。
 身体も温まる。

「お姫様なんですよね? メイドさんの役目をするって、大変なのではないですか?」

 ボクは、ルゥさんに質問をした。

「特に、困っていませんよぉ。お手伝いさんは、わたし以外にもたくさんいますのでぇ」

 メイド長は、別にいるのだとか。

「わたしはぁ、博士の身の回りのお世話だけをしているのですぅ。主に、厄介者の排除とかぁ」

 ルゥさんはめんつゆの入ったお椀に、博士用の具をよそってあげる。
 なるほど。キバガミさんと同じく、ボディガードだと。

「主にわたしはぁ、攻撃魔法の担当ですねぇ」

 居場所のなくなったルゥさんを、博士が保護したらしい。

「利用していると思っているでちか? もしそうなら、お金の管理なども任せないでち。ドレイのように扱うでち」

 まあ、博士ならやりかねないな。

「で、ビルドだったでちね。どういった感じで行きたいでちか?」

「ダンヌさんが攻撃一辺倒なので、魔法主体で戦おうかと」

 水炊きをホフホフと食べながら、ボクは自分の考えを伝えた。

「今習得できるスキルは、どの辺りでち?」

「【コンセントレイト】ですかね」

「結構、上がったでち。適当に振っても、それなりに強いでちよ」

 スキルは色々とまんべんなく取るより、基本スキルを上げていった方が強くなれるという。ビルドがバラけてしまうと中途半端になる。結局、なにもできないようになってしまうとか。

「魔王使いだと、補助魔法やらトラップ魔法などがあるでち。でも、あんまり枝分かれしないほうがいいでちね」

 あまり、細かく分けないほうがいいのかもね。
 その点は、わかりやすい。

「でも一つの属性に特化しちゃうと、次に戦う相手次第では、スキルがゴミになるかもなーって」
 
「次の相手は、魔法特化型のVTuberでち。戦闘は、ダルデンヌに任せた方がいいでち」

「デヴァステーション・ファイブは、あと四人もいるんですよね? なのに、わかっちゃうんですか?」

「三人でち」

 チョーコ博士が、指を三本立てた。

「あと、三体だけなんですか?」

「一体は、もう倒したでち」

「誰が倒したんです?」

 ボクが尋ねると、博士は指を向ける。

 指先は、ボクに向いていた。

「え、じゃあひょっとすると」

「そうでち。馬面のモンスターがいたでち。ソイツでち」

 ボクが最初にやっつけた相手が、デヴァステーション・ファイブだったのか。
 どおりで、強かったわけだ。

 デヴァステーション・ファイブは、全員が自分だけのダンジョンを作れる。しかし、作りたいから作るわけじゃないらしい。

「とはいえ、ヤツはダンジョンの作成などに興味がなかった。戦闘に特化した相手だったな」

「いわば、アウゴの用心棒。頭数合わせだったでち」

 おそらく、イクミのサポートで派遣されたのだろうとのこと。

「そうだ。ソイツは緋依さんを連れて行こうとしていました。緋依さん、心当たりはある?」

 緋依さんは、じっと鍋を見つめていた。水炊きの音を、聞いているように。

「どうしたの?」

「え? なんの話?」

  ボクの話が、緋依さんには聞こえていなかったみたいだ。
 
「ゴメン。疲れているのに、話しかけちゃって」

 そこで、ボクは質問を中断した。
 一緒に行動していけば、緋依さんについてもだんだんとわかってくるよね。

 あまり詮索するのは、よそう。
 今は、緋依さんを守れる力がほしい。
 多分まともに戦えば、ボクより絶対強いよね。緋依さんって。

「ボディガードにしては、あまり強くなかったみたいですけど」
 
「『ヤツは四天王の中でも最弱』ってヤツでちね」

 まだダンジョンが世間に公表されてから、数年しか経っていない。

 それまでにダンジョンは存在していて、政府も交渉していた。

 が、デヴァステーションファイブがその均衡を破っている。
 
 
「では、残っているのは三人と」

 博士も含めて、四人となる。

「アウゴがデヴァステーション・ファイブと名乗りだした瞬間に、アタチは抜けたでち。正確には、アウゴの父親が死んだ直後でちね」

 ただし、残った三体は本当に強いという。

「次の相手は、VTubeなんですよね?」

「はいぃ。ファム・アルファちゃんを抜いて、トップに立っていますよぉ」

 よし。やっつけに行こう。

「ぶっ飛ばしてきます」
 
「待つでち。一晩経ってからでち。今日は休むでち」

「ほうっておいて、大丈夫なんですか?」

「ダンジョン自体が閉じているでち。明日はヤツも、ダンジョンを開けるでち」

 ルゥさんも、「今は食べましょお」と、お鍋パーティ再開を促した。
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