ダンジョンができた世界で死んだ少年、モフモフ魔王と融合して復活。冒険者系Vの中の人を助ける

椎名 富比路

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第二章 配信可能なダンジョンで、ボスのVTuberと対決

第17話 緋依の正体

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 ボクはダンヌさんの魔法で、状況を打開しようとした。

 しかし、ルゥさんに止められる。

「ダメですぅ、菜音ナオトさん。緋依ヒヨリさんに、ケガをさせちゃいますよぉ」
 
「おっと、動くなよ。動くとこのお嬢ちゃんがハチの巣になるぜ」

 ハンターのリーダー格が、ライフル銃を撃つ。

 弾は、緋依さんの近くに着弾した。

 緋依さんはビクリとも動かず、ただリーダー格を睨みつけている。気丈な人だ。

 とはいえ、ここは従うしかないらしい。
 
 ボクは、武器を下ろす。ダンヌさんの右腕も、しまった。

 ハンターたちが、ボクの腕を縛り上げる。

 緋依さんが、女性ハンターたちの手で乱暴に立ち上がらされた。
 刀は取り上げられ、両手は二人がかりで取り押さえられている。

 ルゥさんも、ハンターたちに縄で縛られた。
 使い魔がただのカボチャに変わる。
 ロープに、魔法を封じる効果が込められているらしい。
 
『やったね~。うまくいったよ。エルフ族の姫様だけじゃなくて、【ファム・アルファ・烈火】の中の人まで捕まえられたからね~』

「ファム・アルファちゃんの? どこにいるんです?」

『そこにいるじゃん』
 

明日葉アシタバ 緋依ヒヨリちゃんこそ、火炎系VTuberの【ファム・アルファ・烈火】その人だよ』

 え、ウソ。


                                      *


 ファムちゃんは、ボクに勇気をくれる人だった。
 
『過激に、ブレーイズッ! 炎のVTuber、ファム・アルファ・烈火だ! 今日も、みんなから送られてきたマシュマロをドロドロに焼いていくぞ!』
 
 ハイテンションで、ファムちゃんがスマホからリスナーに声を掛ける。

 一方のボクはベッドに横になりながら、スマホを見つめていた。
 真っ暗な部屋の中で、電気もつけずに。

『最初のお便り! 「学校がつまんない。ずっとファムちゃんだけを見ていたい」だとぉ!? 思ってくれるのはありがたいが、学校は一応通っておけ! アタシだって、学校や仕事はつまんないぜ!』

 ファムちゃんが、コメントに強い返事をした。

 
 このお便りは、ボクが出したものだった。
 なんのために勉強しているのか、わからなかったのである。
 早く自立したいという気持ちばかりが、募っていて。
 バイトを始めたのも、育ててくれた祖父母の負担になりたくないからだった。

 でも、できるだけ仕事の時間を増やして、一刻も早く家を出たい。

 そう考えていくうちに、ますます学校がイヤになってきたのだ。

『お前の気持ちはわからなくもない』

 ファムちゃんは一回、不登校になったことがあるという。Vの活動を始めたので、仕事と学業の両立が難しかったためだ。
 だが活動中、自分勝手に過ごしてしまったらしい。終始イライラして、わがままになっていったという。

『苛立っていたときに、仲間から指摘されてな。また学校に通いだして、仕事もセーブするようになったんだよなー』

 そうか。ファムちゃんだって、完璧じゃないんだ。

 ちょっとポンコツなところがあるからこそスキだったはずなのに、ボクはすっかりそんなことを忘れて。

 ファムちゃんの中に完成されたキャラクター性を見て、勝手に神格化していたのは、ボクの方だった。

『いいか? 孤独になると、人とのつながりをなくしちまうんだ。全部自己責任になるのはいい。けど、思考まで自分勝手になっていくぞ。気をつけろ! はい次!』


 ボクみたいな雑草人間のコメントでも、ファムちゃんは親身になって読んでくれる。

 ファムちゃんのことを「暑苦しい」と語る、アンチも多い。

 でも、世間に対して冷めた視点しか持たないボクからすると、彼女くらいヒートアップしたコメントをくれる方がありがたかった。背中を押してくれるような。

 その女性が、今目の前で拘束されている。


                                      *
 
 
「緋依さん。だから同じVの人が、ダンジョン犯罪に手を染めているのが、許せなかったんですね?」

「ええ。できれば、私だけの力であの人を止めたかったんだけど」

 緋依さんが、うつむいた。

『なにが同じVだっての! ふざけんなって!』

 ボクたちの会話を聞いて、テロスが激昂する。

『アタシは昔から、こんな姿だった! どれだけ避けられて、からかわれたか! アタシだって、「みんなと同じだよ」って言いたかった! でも、受け入れなかったのはそっちじゃん! だから今度は……』

 テロスの声が、ひときわ低くなる。
 
『アタシがみんなを排除する側に立つ』
 
 ボクは、血の気が引いた。

 この人は、全員を殺す気だ。

 おそらく、ルゥさんや緋依さんも、生かすつもりはない。

 だったら、敵だね。

 ボクは一瞬で、腕を【獣化】させた。

 リーダー格の腕を、ダンヌさんの雷魔法で吹き飛ばす。

 ハンターたちの動きが、一瞬だけ弱まった。
 
「カアア!」
 
【ウォークライ】で、すべてのハンターたちの足をすくませる。

 雷魔法の【精密雷撃】で、殺さない程度に痛めつけた。
 脚や腕を打ち抜き、ダウンさせる。

 だた、「殺さない」とは言っていない。

 リーダーの眉間に、爪を突きつける。

「ダンジョンから去ってください。今なら間に合います。出血多量で死にたくなかったら、ダンジョンから出ていってくれませんかね?」

「ざけんな! テロス様の部下であるオレが、そんな簡単に逃げるわけ……ひい!」

 ボクは、リーダーの片目を爪で突き刺した。

「あああああが!」

 目を潰されて、リーダーが悶絶する。

「他の冒険者さんたちも、あなたたちの説得に来たんでしょう。だが、返り討ちにあった。そんなところでは?」

 ハンターたちからの、返事はない。図星か。

「殺したんですね。じゃ、殺されても文句は言えませんよね?」

 ボクが脅すと、あれだけ威勢がよかったハンターがすくみ上がる。

「だってそうでしょ? ボクは別に依頼された冒険者ではありません。この間まで民間人でした。だから、遠慮なんてしない。する必要はないんです。これは正当防衛ですし」

「殺さないで」

 女性ハンターが、命乞いをしてきた。

「どうして? ボクには、あなたたちを生かす理由もないんですが? どうして自分が助かるなんて、あなたたちは思っているんです? 奇跡なんて起こさせない。ボクは、コミックの悪役じゃないんです。命だけは助けてあげますが、二度と人を殺せない身体にはなってもらいますよ」
  
 ちょっとイジワルをして、ボクはチョーコ博士のマネをしてみる。

 命乞いをしたハンターが、あんぐりと口を上げて涙を流し始めた。

「いやだ!」

「ヤバイ。こいつは本気だ! 逃げろ!」

 足を引きずりながら、ハンターたちが逃げ去っていく。

「……本気だったの? あいつらを殺すって」

「そんなワケないでしょ。今のは【アウトレイジ】。【ヘイトコントロール】の上位互換だよ」
 
 激しい怒りによって、ボクの脅しが相手の精神を汚染するように仕向けたのだ。
 もっとも相手とのレベルに大きな差がないと、ほとんど効果はないけど。
 
 ヘイトコントロールは、今後も使える。対人戦においては、特に効果がありそうだ。
 
「でも怒りは本当だよ。ボクの大切なファムちゃ……いや、緋依さんを傷つけようとしたからね」

「私がファム・アルファだから、助けたの?」

「違うよ。仲間をひどい目に遭わされたからだね」

「そう……ありがとう」

「いや。ボクだってダメだね。ルゥさんに止められたのに、怒りを相手にぶつけてしまうなんて」

 散々脅した後に回復させてやろうと思ったけど、逃げちゃった。
 
 リーダー及びハンターたちに、ボクはダメージを与えていない。
 軽く電気ショックを与えて、「ケガをしたように見せかけた」だけである。

 もっとも、ボクのスキルで相手にはそう映っていないけど。

「ぎゃああああああ!」

 だがボクたちの眼の前で、ハンターたちが本当に死んだ。

 彼らに手をかけたのは、画面にいたテロスである。
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