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第二章 猛将と、闇の博士

第9話 ゴーレム馬車

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 ミルテの街へと戻る。

「ライコネンの流通網を取り囲んでいた魔物の群れは、全部撃退してきた」
「確認するために、兵を放っている。すごいな。たどり着くだけでも数日は要するのに」

 信じてくれるか不安だったが、フローレンス姫の後押しがあったのでジーンは理解してくれた。

「ありがとう。これで不足している物資や薬が手に入る」
「と、思ってね。もう持ってきたよ」

 ニョンゴが、バイクが引っ張っている荷台の扉に、淡い光を放つ。

 荷台には、薬品類や包帯などを詰めた薬箱の山が。食料、古着などの簡単な衣類、その他武器の消耗品なども詰まっている。

「封鎖されていた街に一旦寄って、ミルテが必要そうな物資を一通りもらってきたんだ。被害が少なくて安心したよ」

 砦のモンスターを撃退してくれたお礼として、すべてタダでもらった。

 オレだけだったら、信用してもらえなかっただろう。が、魔女が姿を見せるとみんなが信じた。

「どれも、本物だ。重病人を優先的に治療しろ!」

 ジーンが物資を兵士に配り、指示を出す。

「よかったのか? 頼んでもいないことを」
「いいってことよ。馬車の荷台の強度も、確かめたかったのでな」

 本来オレはこういうことがやりたくて、魔女の騎士をやっているんだから。

「もう、完成したのか?」
「こいつだ」 

 一応、カボチャの馬車をイメージしてある。元々はゴツゴツしていた不格好な荷台だったが、オレがデザインを修正した。

「こんな大型の素材を、どこで手に入れた?」
「バカでかいゴーレムがいたんだよ。中身に鉄を使っていたから、流用してみたんだ。そしたらドンピシャでさ」

 ジーンの問いかけに、ニョンゴがノリノリで答える。

「最初は、ゴーレムの顔そのものにタイヤを付けただけのデザインだったんだがな」
「それはそれで、かっこいいじゃんか!」

 かっこ悪いわ。生首がカニみたいに横走りする光景を見たら、見物人が卒倒するぞ。

「揺れまくるかなと思ったんだが、クモ型モンスターの糸で作ったタイヤがいい仕事をしてくれている。快適に乗れることだろう」

 鳥型モンスターの羽で作ったホコリ取りで、サササッと内部を掃除した。荷物を積んでいたからな。

「あと、後ろに乗せる案も考えたが、無理だな。G……重力がかかりすぎて、どうしても振り落とされてしまうんだ」

 よって、馬車の後ろに荷台を作る構図にした。

「最速伝説を、体感してみたかったのですが」
「私にも一台欲しかった」

 フローレンス姫とジーンが、残念がる。 

「やめときな。二人乗り用の背もたれ付き座席を作って、強度を確かめた。そしたら、こうなったぜ」

 後部座席「だったもの」を、マジックボックスから出す。根元から、ボキっと折れていた。

 姫とジーンが、青ざめた。

「荷台で結構です」

 その方がいい。

「さてお嬢様方、参りましょう」

 大げさに、オレはエスコートをする。

「姫様、お先に」
「はい」

 姫とお供の数名が乗った後、ジーンが最後に乗り込んだ。

 前後を確認して、出発しようとした。

 一人の老婆が、オレたちに駆け寄る。あぶねえ。

「こら、ばあさん。危ないよ」

 兵士の一人が、止めに入る。

 老婆はその場で、うずくまった。

「ありがとうよ騎士様! 夫の薬が間に合った! おかげで、元気になったよ!」
「そ、それはよかったな」

 ばあさんを皮切りに、他の村人も一斉にオレの元へ駆けつけてくる。全員が、オレに礼を言いに来た。

「いいんだ。いいんだよ……もう行くからな」

 オレは、姫様をライコネンまで送り届けなければならない。

「ちょっとよるところがあるんだが、いいか?」
「はい。時間は大丈夫です」

 姫に事情を簡単に説明をして、発進する。

 寄ったのは、エルフの里だ。通り道なのである。

 猛スピードで突撃してくるバイクを見て、エルフたちが目を丸くした。また襲撃が来たと思ったのかもしれない。

「オレだ! 竜胆の騎士ジェンシャン・ナイトのシェリダンだ! レクシーを迎えに来た!」

 エルフたちは、オレの姿を確認するとようやく落ち着いた。

「モモチ。お待ちしておりました。あの、そちらの方々は?」

 レクシーが、オレたちに頭を下げる。
 夫婦なんだから、お互い呼び捨てでいいと前もって決めていた。

「ライコネンのフローレンス姫様とメイドさん、護衛の騎士ジーンだ」

 それぞれ馬車を降りて、あいさつをする。両親を亡くした者同士で、励まし合っていた。

「わたしはレクシーといいます。シェリダンことモモチの、妻です」
「つ……!?」

 姫とジーンが、オレとレクシーを交互に見る。

「モモモ、モモチさま。こんな小さいお子様を」
「色々あったんだよ」
「てっきり、モモチさまと魔女様のお嬢さんかと」
「違うって」

 オレが弁解していると、レクシーが解説する。

「成人していますので、なにも問題はございません。もっとも、エルフは一四歳になると嫁に行きますが」
「なるほど。事情はわかりましたわ」 

 誤解が解けて、オレも一安心だ。

「もういいのか?」
「はい。おかげさまで、両親の墓を立て終えました」

 十分、喪に服したという。

「悪いが、また留守にする。しばらく里にいてくれ」
「では魔女様の研究所へ、連れて行ってください」
「いいのか?」

 結構、距離があるぜ。

「ひとりぼっちにしてしまう」
「嫁に行ったのです。主人のお帰りを待つのが、わたしの務めです」

 それは、ありがたいが。

「ひとまず、参りましょう」

 必要な荷物は、肩にかけたアイテムボックスに入れてあるという。

「みんな、世話になった」

 里のみんなに手を振り、今度は研究所へ。

 入った瞬間、身体が冷えた。
 明かりをつけると、随分と散らかっている。

 こんなところに一人でいたら、気分が滅入ってしまう。

「寒いぜ。里にいたほうが」
「ええ。配下をこちらにお預けいたしましょう」

 オレと姫が言うが、レクシーは首を振る。

「お気遣いは無用です。この散らかっていて寒い研究所を、キレイにして暖めておきます。それに、一人ではありませんので」

 レクシーが、祈りを捧げた。

 周りに三個の魔法陣が開き、もふもふのモンスターが現れる。

「召喚獣か」
「はい。ブラウンウルフのムギ、ドリアードのマメ、ミニグリフォンのシオです」

 ムギは門番、シオが空を番するという。マメは複数に分裂して、レクシーと一緒にお手伝いだ。ネーミングセンスはともかく、強さや賢さはレクシーと同等らしい。

 召喚獣を率いて戦うつもりが、首に魔力封じの首輪をつけられてしまい、野盗に無力化されてしまった。

「また、わたしが売られる予定だった街も、ライコネンなのです」
「そんな!?」

 フローレンス姫が、ゾッとした顔になる。

「そんなことをなさるのは、きっと」
「ええ。ブチーオですね」

 汚らしい発音だな。

「ブチーオってのは?」 
「魔族の猛将ウェザーズの配下にいるオークロードだ。ウェザーズはまだマトモなヤツなんだが、ブチーオはゲスの中のゲスだ」

 女をさらってきては、呪いをかけてトリコにしてしまうらしい。

 さらわれなくてよかった。

「気をつけろ。ブチーオはその辺の魔族とはワケが違うぞ」
「わかった」

 強いなら、スーツの素材になってもらう。

「そうだ。レクシー、土産がある」
「なんでしょう」
「服を作るのに使う生地だ。絹の服しか持ってなさそうだから、適当に見繕ってきた」

 本当は服自体が欲しかったのだが、革鎧などの装備品しかない。まだ既製品を売る、って文明レベルではなかった。自分で作らないといけないとは。古着もあったが、せっかくだしオシャレしたいかなーと。

「こんなにも。ありがとうございます。お部屋を片付けた後、さっそくお裁縫しますね」

 生地を見て、レクシーが喜ぶ。

「あと、これ」

 魔法石で作った指輪を、レクシーに渡す。
 指のサイズなどは、ニョンゴがあらかじめ調べておいてくれた。

「もうちょっとだけ用事が済んだら、ちゃんとしたのを渡すから」
「うれしいです。お揃いです。ありがとうモモチ」

 研究所にレクシーを残し、オレは出発した。
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