新大陸を開拓するため、幼女型モンスターに魂を転送した魔女は、後に邪神と崇められる(自力で幼女になりたかっただけやのに!

椎名 富比路

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第三章 幼女は邪神として崇拝される(愛弟子よ、これがお前の師匠や

第17話 幼女、弟子(三〇年後のすがた)との再会

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 ウチとクゥハは、飛空艇の着陸地点で待機をする。

 飛空艇が、三隻近づいてきた。後ろから一〇隻ほど近づいてきているが、そちらは海に降下して着水した。指示があるまで、待機しているのだろう。

「あれって、アトキンが開発したんですよね? すごい技術です。船が空を飛ぶなんて。ワタシは森からでしか、見たことがありませんが」

「魔王ベルゼビュートの城が、空にあったからな」

 またの名を、『天空城』。とても人間では登りきれない場所に、ベルゼビュートの根城はあった。
 打開策として、飛空艇を開発したのである。

「どうして、母は城を空に浮かべようとしたのでしょう? 【葡萄酒の魔女ソーマタージ・オブ・ヴィティス】に恐れをなしていたわけでもないでしょうし」

 たしかに。
 あんなところに攻め込めるのは、せいぜい【葡萄酒の魔女ウチ】くらいである。
 
「気まぐれやったらしい。『魔王たるもの、簡単に侵攻される場所に住まないだろう』とか言うてたな。調子乗りイチビリやったんや」

 母親だとしても、ベルゼビュートの性根はマイルドヤンキーのようなヤツだった。「天下取ったる」的なノリでこの地を侵略しようとして、ウチに敗北したのである。おおかたヤンキーが大型ワゴンを買う勢いで、天空城を建てたに違いない。結婚したての大工さんかな?

「あの飛空艇、攻撃はしてこないですよね?」

「いけるやろ。攻撃艇は、着水してるからな」

 よくみると、着水している飛空艇は、武装していた。

 とはいえ飛空艇が何隻いようが、カニエ一人いれば十分である。あんな物騒なものを連れてくるくらいなら、カニエ一人いたらいいし。それくらい、カニエは強い。
 
 ひときわデカい飛空艇が、ウチの前に降りてきた。

 一人の中年女性が、こちらに向かって歩いてくる。

 カニエだ。随分と年を取って顔立ちは変わったが、佇まいでわかる。間違いなく、カニエそのものだ。メガネも黒縁から銀縁に代わり、口角周りにシワも目立つ。四〇代女性の割には豊満すぎるプロポーションも、カニエを連想させた。

「えっと、セルバンデス国・調査兵団のものです。えっと。アトキン・ネドログに会いに来たんですが?」

 風になびく髪を手で抑えながら、カニエがウチに尋ねてくる。
 
「ウチがそうや」

 胸を張って、ウチはカニエに告げる。

「……マジですか?」
 
「大マジやで」

 もう一度、胸を張る。
 
「ようこそ。カニエ・ゴズリング。今は、カニエ・セルバンデス皇太子妃やったな」

 慣れないカーテシーで、カニエを迎えた。

「口調はたしかに、我が師と似ていますが」

「子どもは元気か? 下乳にあるほくろを、母乳と間違えて吸うたりされへんかったか?」

「その口ぶりは、たしかに師匠ですね。お久しぶりです」
  
 ようやく、カニエはウチをアトキンと認識してくれたようである。

「随分と、小さくなりましたね。初めてあった頃から、老け顔だったのに」

 師匠に向かっても、相変わらずこの口の聞き方だ。これぞ、カニエである。

「ついに幼女化したんや。この間見せた魔物と融合して、この身体になってん」

 ウチはクルンと一回転した。

「楽しそうですね」

「せや。第二の人生を謳歌してるで」

「それで、私への連絡も忘れていたと」

「忘れていたのは、あんたへの連絡だけとちゃうねん……」

 今日が何日、何年だったかとかも、忘れていたくらいだし。

「その様子だったら、ますます師匠そのものですね」
 

「それで、こちらの方は?」

「魔族や。ダークエルフの血を引いてるで」

 ウチがそう紹介すると、クゥハはカブトを脱ぐ。

「どうも。アークゥハートと申します」

 ダークエルフの顔を、クゥハはカニエに見せる。

「……ベルゼビュート!」

 クゥハの顔を見た途端、カニエが杖を掴む手に力を込める。

 だろうな。ウチもそういうリアクションを取った。これは、仕方がない。

「この子は、ベルゼビュートの娘や。害はないで」

「本当ですか? 正直、魔王より強い魔力を感じますけど? 洗脳されたり……しませんね。あなたは。心配して損しました」

 クゥハが、後ろにいる飛空艇に合図をした。攻撃の意志はないと。

「どうする? 今日は、顔見世だけか? なんやったら、部屋に案内するで」

「お邪魔させていただきます。あと、兵士たちにこの地の観察をお許しください」

「ええよ。減るもんやないし」

「ですが、住人の存在も確認しています。ご迷惑なのでは?」

「近づいたり、話しかけるんは、堪忍してや」

「わかりました。調査隊には、そう報告しておきます」

 カニエは飛空艇に一旦戻り、部下たちに指示を飛ばす。

 兵士たちは、恐る恐る森へ入っていった。この森には、ウチが危険地帯にラインを引いてある。結界を張って、立ち入れないようにしたのだ。
 
「はい。準備OKです。では、調査させていただきますね」

「ウチが管理しているエリアには、危険な魔物とかはおらんさかい。じっくり、見てや。ほな、ウチらは家にお招きしよか」

 ウチは、カニエを自宅へ案内する。

「アトキン、ワタシは、みなさんに食べてもらえる分の食材を調達してきますね」

「おおきに、クゥハ。ほな頼むわ」

「行ってまいります」
 
 そそくさと、クゥハが森に消えていった。師弟水入らずと、気を利かせてくれたのだろう。

「ここが、ウチのハウスや」

「こじんまりとした部屋ですね」

「あんたが来るってわかったさかい、これでも拡張したんや」

 カニエが数日寝泊まりできるように、客間を作ってベッドも用意した。

「せやけど、ここまでぎょうさん人が来るって思ってへんかった。部下を引き連れてくるってのは聞いとったんやけど」

 こんなことなら、もっとどでかい屋敷でも用意すべきだったか。

「お気遣いは無用です。テントを設置しますので」

「ええし。人数言うてや。パパって作ってしまうよってに」

 さっそくウチは、木を切り倒しまくった。風魔法で木の皮を剥き、火炎魔法で水気を飛ばす。乾燥させた木を組み立てて、簡単な団地形式のお屋敷が完成した。

「どや? これで人数分、いけるやろ」

「ありがとうございます。アトキン様。部下も喜びます。飛空艇で寝泊まりって、窮屈なので」

 カニエが、屋敷の壁を撫で回す。
 
「おおおお。相変わらず、見事な手際です。やはりあなたは、我が師アトキンです」

 やはり口で説得するより、魔法の腕を見せたほうが早いな。
 
「このちょっと雑な切り口や、いいかげんな寸法など、どれもアトキン様そのものです」

「一言多いねん。あんたは」

「この隙間は気になりますね。塞いじゃいましょう」

 カニエは早速、ウチが雑に切り刻んだ丸太の寸法を整えだした。ウチの許可も取らずに。

 ウチもカニエを止めない。これでこそ、カニエである。

「これで、隙間風の心配もありません」

 
 こういうのは、几帳面なカニエにやらせたほうがいい。ウチの屋敷も、ちょっと整えてもらおうかな。

「せやな。師匠がウチでよかったわ。他の魔法使いなら、ピキってるトコやで」

 カニエはウチと違って、きっちりこなす。悪くいうと、いちいち細かい。

「長女の第一王女にも言われました。『お母さんは口うるさい』って。二時間も教えていないのに、私があげた杖を放りだしました」

 おそらくカニエ長女は、母親の完璧主義的な丁寧さが嫌で、魔法をやめたのだろう。

「次女は、魔法を続けてるんやって?」

「はい。あなたのいい加減な教え方も柔軟に思考して、見事に再現しています。トライアンドエラーばかりですが、あなたの教え方である『やりながら覚える』を、体現していますね」
 

 
 次女はウチのいい加減さも、受け継いだに違いない。
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