おっさんとJKが、路地裏の大衆食堂で食べるだけ

椎名 富比路

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第三章 夏と海とJK

第38話 取り調べにカツ丼は出ない問題

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 コンビニで、ニコイチのチューブアイスを買った。
 二人で分け合い、海沿いを歩く。甘いチョココーヒー味が、暑い夏を涼しくしてくれる。

「ネタは挙がってるんだぞー、コメくん。白状するのだ」
 琴子が、シャーベットのチューブをマイクのように孝明へ向けてきた。

「よせよせ、濡れるから!」
 孝明が海側を歩いている。これ以上は海へドボンだ。

「何も隠し事なんてしてねーし」
「カツ丼、食うか?」
「アイス食ってるだろ、今。それに、取り調べでカツ丼が出るのはドラマだけだぞ」
「えっ、マジで」
「ああ。不審者扱いされて捕まったクラスメイトから聞いた」

 例の「東大出の芸人」である。
 公園で寝ていただけなのに、主婦から「うちの娘をガン見している」と因縁を付けられた。実際の容疑は「半裸で寝ていたから」だったのだが。

「便宜供与って違法捜査の一つでな、『自白目的で利益を与えた』と見なされるんだとさ」

 実際、インスタントコーヒー一杯だけでも、容疑者に差し出せば違法らしい。

「ひどい世界だねー」
「まったくだ。そんなことより、オレは潔白だからな」
「あのさあ。あたし、コメくんのこと、もっと知りたい」

「待てお前、早い早い!」
 孝明は、あからさまに琴子と距離を置く。

「待って待って。そういう意味じゃないから!」
 琴子が歩み寄ってきた。

「何がだよ? もっと自分を大切にしろ!」
「話が聞きたいだけだよ!」

 琴子から促され、孝明も落ち着く。

「イヤならいい。話したくないなら、無理して話さなくていいから」

「そういうことか。分かった。なんでも聞けよ」
 孝明は、琴子に話を促した。

「コメくんさあ、お仕事の話、しないよね? あたし、これまでコメくんと話しててさ、なんの仕事してるのかも知らなくて。仕事はしてるんだよね?」
 孝明は、ため息をつく。


「白状するよ。オレは記者なんだ。グルメライター」


 地域の飲食店情報を、無料の地元紙に載せるのが仕事である。

「それで、海の家であれこれ聞いてたんだね?」

「職業柄な。どうしてそんなこと、聞こうととしたんだ?」
 さっきの尋ね方は、まるで孝明が記者だと知っているように思えたが。

「お店の人が話しているとき、メモ取ってたから」

 孝明は手で目を覆った。習慣は抜けない。孝明は思い知らされる。

「それじゃあ、前の仕事を辞めたのも?」
「前の部署は、大手雑誌社のフード部門だった」


 同僚のライターが、内部告発しようとした。
 当社が不正を働いている、店の評判をごまかしていると。


「あいつは現社長、つまり、若菜の夫に相談したんだよ。しかし、不正をしていたのがヤツだったんだ!」


 逆に不正の濡れ衣を着せられ、同僚は追い詰められた。結局、同僚はクビに。


「退職した同僚は、田舎で嫁さんももらったらしいけど、やっぱ社長は許せねえ!」
 
 孝明は波を蹴る。

 波は崩れず、クツに海水が入っただけだった。

 靴下が濡れ、後悔する。
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