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第四章 文化祭と秘密とJK
第56話 桃缶の誘惑には抗えない問題
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「プリンとどっちにしようかなって思ったから、両方買ってきたよ」
「桃缶をくれ」
「うーん、どうしようかな。風邪引きの時は、何も食べない方がいいんだよね?」
そうなのだが、桃缶を見てしまうと、欲しくなる。
子どもの頃の思い出がちらつく。幼少時も、風邪の時は桃缶だった。
白桃が胃に優しかったのである。
「ちょっとだけ食べようか。缶切りある?」
「台所のカップに立ててある」
結局、桃缶の誘惑には抗えなかった。
「はーい」
席を立った琴子が、台所へ向かう。
「開けておくから、汚れた服は着替えちゃって。あたし、着替えがどこにあるか分からないから」
「おう」
スウェットは、すっかり汗びっしょりだ。
孝明は洗面所で新しい服を出す。
まだ寒気が残っているのか、少し身体がヒンヤリする。
急いで着替えた。
琴子は、缶の桃を移し替えている。茶碗にだが。
眠気が迫り、孝明はベッドに横たわる。
桃の缶詰に刃を突き立てている琴子を、ぼんやりと眺めていた。
台所に、琴子が立っている。
琴子が自分の奥さんになったら、この光景が当たり前になるのか。
孝明は、ただれた妄想を振り払う。
「はい、どうぞ。他の荷物は、冷蔵庫に入れておいたから」
「ありがとう。じゃあ、いただきます」
琴子と二人、桃缶を食べる。
琴子の方が量は多い。けれど、琴子なら食べるだろう。
腹に少量だけ桃を入れ、孝明は薬を飲んだ。
「ちょっとは身体に気を使いなよ。冷蔵庫に何も入ってないじゃん」
孝明は職業柄、料理をあまりしない。自分の軸で料理を見てしまうからだ。
なので、必然的に冷蔵庫の中は空く。
JKに説教されるとは。
「お前はどうなんだよ?」
「あたしはバランスよく食べてますよー。好美ちゃんに教わってさ、お昼のお弁当なんか作ったりして」
「コトコトが弁当?」
スマホで撮った弁当の画像を見せてもらう。
想像も付かない。
多少料理がうまくなったのは知っている。
とはいえ、弁当まで作るようになったとは。
「この弁当いいな」
ふりかけをまぶした小さいおにぎりが、孝明にヒットした。
「おっ、反応したな?」
「別に」
孝明は、琴子から顔を背ける。
「じゃあ、よくなったら毎日作ってきてあげるね」
「でも、時間が合わないな」
孝明と琴子ではライフスタイルに空きがありすぎる。
「そんなの簡単じゃん。あたしがこっちに住んだら」
「やめろ。それは、考えていても言うもんじゃない」
急に、孝明の中から熱が冷めていく。
重苦しい空気になる。
「ごめんなさい」
「あ、すまん。本気にしちまった」
いつも正直にモノを話すくせが、徒になった。
「桃缶をくれ」
「うーん、どうしようかな。風邪引きの時は、何も食べない方がいいんだよね?」
そうなのだが、桃缶を見てしまうと、欲しくなる。
子どもの頃の思い出がちらつく。幼少時も、風邪の時は桃缶だった。
白桃が胃に優しかったのである。
「ちょっとだけ食べようか。缶切りある?」
「台所のカップに立ててある」
結局、桃缶の誘惑には抗えなかった。
「はーい」
席を立った琴子が、台所へ向かう。
「開けておくから、汚れた服は着替えちゃって。あたし、着替えがどこにあるか分からないから」
「おう」
スウェットは、すっかり汗びっしょりだ。
孝明は洗面所で新しい服を出す。
まだ寒気が残っているのか、少し身体がヒンヤリする。
急いで着替えた。
琴子は、缶の桃を移し替えている。茶碗にだが。
眠気が迫り、孝明はベッドに横たわる。
桃の缶詰に刃を突き立てている琴子を、ぼんやりと眺めていた。
台所に、琴子が立っている。
琴子が自分の奥さんになったら、この光景が当たり前になるのか。
孝明は、ただれた妄想を振り払う。
「はい、どうぞ。他の荷物は、冷蔵庫に入れておいたから」
「ありがとう。じゃあ、いただきます」
琴子と二人、桃缶を食べる。
琴子の方が量は多い。けれど、琴子なら食べるだろう。
腹に少量だけ桃を入れ、孝明は薬を飲んだ。
「ちょっとは身体に気を使いなよ。冷蔵庫に何も入ってないじゃん」
孝明は職業柄、料理をあまりしない。自分の軸で料理を見てしまうからだ。
なので、必然的に冷蔵庫の中は空く。
JKに説教されるとは。
「お前はどうなんだよ?」
「あたしはバランスよく食べてますよー。好美ちゃんに教わってさ、お昼のお弁当なんか作ったりして」
「コトコトが弁当?」
スマホで撮った弁当の画像を見せてもらう。
想像も付かない。
多少料理がうまくなったのは知っている。
とはいえ、弁当まで作るようになったとは。
「この弁当いいな」
ふりかけをまぶした小さいおにぎりが、孝明にヒットした。
「おっ、反応したな?」
「別に」
孝明は、琴子から顔を背ける。
「じゃあ、よくなったら毎日作ってきてあげるね」
「でも、時間が合わないな」
孝明と琴子ではライフスタイルに空きがありすぎる。
「そんなの簡単じゃん。あたしがこっちに住んだら」
「やめろ。それは、考えていても言うもんじゃない」
急に、孝明の中から熱が冷めていく。
重苦しい空気になる。
「ごめんなさい」
「あ、すまん。本気にしちまった」
いつも正直にモノを話すくせが、徒になった。
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