失業暗黒騎士、勇者の姪である姫が作った街の門番に転職するも、姫様のほうが明らかに強い

椎名 富比路

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第一章 元・魔王四天王 シモン・セルバンデスの苦悩

第8話 天性のノンデリ

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 俺が指摘すると、ピーザンは目に見えて不機嫌になった。
 
「吾輩が、太っただと?」

「目に見えて、丸くなったぞ」

 昔はドラゴン形態でも、線が細くてスレンダーだったはず。

 今は、ふっくらした印象を受ける。
 
「おのれえ、やはりお前は敵だ。シモン・セルバンデス! 人が一番気にしていることを!」

 俺とピーザンが、戦闘になった。

「今はモン・バンと名乗っている。相手になろう」

 俺も角型の槍を掴んで、迎え撃つ。

 ピーザンは肉体を一部だけドラゴン化して、ガンガンと俺に殴りかかってきた。蹴りも混ぜながら、俺の防御が及ばないところへ攻撃を叩き込む。

 さすがに俺も、防御しきれない。
 
「やっぱり重いな。重量アップは、ムダではなかったようだ」

「お前エエエ!」

 ピーザンの攻撃回数が、さらに増した。

 ドンと、俺は拳で、上空に押し上げられる。攻撃のためというより、俺を浮かせて無防備にするためのようだ。

 右拳に、ピーザンが灰色の炎をまとわせた。冥界特有の、冷たい炎である。

「死ね、モン・バン! 【シャドウフレア】!」
 
 宙に浮いた状態の俺に、さらに灰色の火炎弾を撃ち込んだ。

 魂を燃やす冥界の炎で、俺の魂を焼き払う気だろう。

「なんの。チェーン・ライトニング・スピア!」

 打ち込まれる前に、黒雷を展開した。

 黒い雷撃が、多角的にピーザンの各関節を痛めつける。

「くうう!」

 シャドウフレアを打とうとしたピーザンも、槍を払いのけざるを得ない。

「そこまで」

 ブレンダが、俺たちの間に割って入ってきた。

 追撃直前になって、俺は攻撃をやめる。

「ぬおおお。はなせーこらーブレンダー」

 ぐるぐるパンチをしながら、ピーザンはブレンダに頭を抑え込まれていた。まるで、マンガのワンシーンである。
 
「モン。煽りスキルが、尋常ではないな」
 
「『能力を最大限発揮させないために、まず相手をキレさせろ』ってのが、ウチの社是なもんで」

「……最低の社是だな」

「魔王軍だからな。ロクなもんじゃないさ」
 
 おかげで俺は、周りから「天性のノンデリ」と言われたものだ。

「ピーザンも抑えろ。彼だって悪気があったわけじゃない。事実、お前は最近太り過ぎだ」

「ヒナ王女の飯テロに逆らえるやつなんて、いるもんかー」

 まだ、ピーザンはぐるぐるパンチをしていた。

「ワタシも似たようなもんだがな」

 Tシャツをめくりあげて、ブレンダが自分の腹をつまむ。伝説の女騎士が、ふくよかになっているとは。ちょっとショックだった。

「それだけ、ヒナ姫様の料理はおいしいんだよー」

「なにを食ったら、そんなになるんだよ?」

「昨日は、豆腐チゲ。シメはサリ麺」

 ああ。めっちゃうまそう。さっき食ったエビチリを思い出し、俺はつばを飲み込んだ。

「わかる。お前たちが夢中になるくらいだからな」

「というわけだ。だいたいこのメンバーで、この砦を守っている。無秩序だが、完全なる無法地帯ってわけじゃない。ある程度のルールはあるから、そのうち慣れていってくれ」

 翌日から、塔の紹介が行われるという。

「姫様直々に、塔を案内してくださるそうだ。喜ぶがいい」

「ああ。感謝している」
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