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第一章 辺境、廃城・ゴーストタウン・悪役令嬢つき

第7話 カレーライス騒動

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 店に入ると、カレーの香りがより強くなってきた。

「おお、カレーじゃ。店主、米はあるかのう?」

 カレーは普通、パンにつけて食べる。他の冒険者も、そうしていた。だが、米を欲しがるとは。

「ございますよ」

「うむ! 頼むぞ! そのまま持ってきてくれい。パンはいらん」

「お皿に直接ですか? おにぎりなどの携行用ではなく?」

「直接じゃ」
 たいていの米は、握った状態で運ばれてくる。しかしリユは、皿に盛れと指示した。

「承知いたしました。ディートヘルム様は」

「普通で」

「かしこまりました。お待ちを」

 店主が頭を下げた後、厨房へ。

 しばらくして、カレーが運ばれてきた。白い米も、ちゃんとお皿に盛られて運ばれてくる。

「これじゃこれじゃ。カレーをライスにドバーっと」

 なんと、リユがカレーの入った器を傾けて、お皿の米にぶっかけた。カレーまみれになったライスを、スプーンで口へと運ぶ。

「うん。うまい!」

 この表情が、またおいしそうでたまらない。

 客がみんな、リユに注目している。

「キミの田舎では、そういう食べ方をするのか?」

「おうよ。もっと片栗粉でトロミを付けるんじゃ。うどん……ここでいうパスタと絡めることもあるのう」

 なにそのうまそうな食い物……。 

「そんなにおいしいなら、試してみるか」

 領主として、未知なる食べ物について調べなくては。この地には、これといった名産品がない。カレーライスとやらを味わったら、なにかヒントになるかも。

「ああ。もう優勝です」

 この地にカレーライスを広めよう。一口食った瞬間、脳が判断した。 

 おいしい上に、腹持ちもいい。パンで食うあっさりカレーもいいが、コテコテで具材たっぷりのカレーライスのまたうまいこと。片栗粉を入れてとろみが付いたことで、より味がしっかりとした。

「うまい、いうても、南ほどではないよってに」

「いや。これくらいがいいんだ。人を呼べるレベルだよ。人さえくれば、繁盛する」

 その前に導線を作ってあげないと、だけど。

「おめえの魔改造スキルで、ドーンと開発……ってわけにはいかんのじゃのう?」

「ムリだね。このスキルは応用が効かない」

 下手に魔改造で作ったら、誰にも作れない代物に仕上がってしまう。作る度に僕が出向く必要があると、僕が冒険できない。

「そのスキルが使えるのはおめえだけで、ご両親やご兄弟、全員使えんいうてたのう?」

「ボク以外だと、祖母だね」

 兄弟間で、このスキルを有しているのは僕だけだ。そのため、政治家より冒険者になった方がいいよねと考えたのである。

「それに、祖母からは『魔改造は、大事なこと以外に使うな』と釘を差されているんだ」

 はるか昔、「ボニファティウス家の先祖が蒸気船を開発して、南の王国に技術提供したら、シェアごと奪われた」と、祖母から聞かされた。

『誰でも作れるけど、詳しいレシピは秘伝』というのが、カレーライスを長く流行らせるコツだと思う。でなければ、諸外国にマネされてシェアを奪われる。

「だったら、うかつには使えんのう」

「うん。また、この地は、普通の人の手によって活用されるべきだ」

 執事トラマルも、「同感です」と相槌を打つ。

「南東諸国は、エリートばかりを集めた、選民思想の強い国家です。所属する貴族たちは、自分たち以外はバカという思想のもとで動いています。なまじ本当に優秀ですから、ある一定までは発達しました。ですが、多様性に欠けているため、現在は衰退しています」

 冒険者からの情報を得て、トラマルはそう分析したようだ。

「優秀な人材ばかり集めると、『自分たちの理想が正しい』と思って、システムの見直しをしなくなって腐っていくからね」

「はい。優れた者たちだけの集まりでは、イノベーションが起きません」

 平均的な人材だけでも、回る社会にしないと。

 特に、このカレーは庶民の味だ。

「店主。実においしいかった。もっと広めたいんだが」

 シンクレーグに香辛料があったのが、救いだ。

「ありがとうございます。ここは密かに、香辛料が採れるのです。とはいえ、収穫場所の魔物が住み着いて。値段が高騰してしまっています」

 苦々しい顔で、店主が告げた瞬間だった。

「なんだと!?」

 冒険者の一人が、立ち上がる。

「オレはまだ、当たっていないんだぞ!」「俺もだ!」「私も!」

 次々と、冒険者たちがカレーにありついていないと言ってきた。

「店主、香辛料を独占しているのは?」

「付近のゴブリンです。定期的に退治してもらっているのですが、生産は間に合わず」

 パンも米も、ゴブリンの巣を除去しないと機能しないらしい。

「皆の者。僕はここの領主ボニファティウスだ。依頼をする。さっき聞いた通り、ゴブリン共が麻薬づくりで、周辺の畑や農村を占拠している。諸君らの力で、ゴブリン共を退治してきてくれないか? 僕も同行するから」

 僕の依頼に、冒険者たちが色めき立つ。続々と、ゴブリン退治に向かっていった。

 冒険者たちを焚き付けたあと、商業ギルドに向かう。

「空き家を改装して、大食堂にしてくれ。カレーを売る。それと、孤児たちに食事と引き換えに仕事を提供すること。」

 商業ギルドに指示を出す。

「トラマル。お前がカレーライスの作り方を教えてあげてくれ」

「御意」

 あとは、僕たちも出陣だ。

「それにしても、気になるね」

「おう。ゴブリンだけでは、あんな大規模の畑を占領できるわけがないわい。もっとえげつねえ奴が潜んでいるに違いねえけん」

 僕と同じ疑念を、リユも抱いているらしかった。
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