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第五章 魔王の墓へ

第45話 ひとりぼっちの戦い

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「ムリムリ。他のニンゲンには聞こえないから」

 やはり、フヨフヨと浮かぶ光から、声が聞こえている。少年とも少女ともつかない声だ。

 だが、みんなには何も聞こえていないらしい。

「今から招待する世界は、ディートリンデの血を引くキミにしか入れない。他の子たちはお留守番さ」

「ひとりで戦う必要があるわけか」

「そういうわけ」

 僕が精霊を話していると、心配げにリユが話しかけてきた。

「ディータ。おめえ誰としゃべっとるんじゃ?」

「精霊だ。というか、歴代ディートリンデの亡霊かも」

 簡潔に、僕は精霊の話を説明をする。

 ディートリンデの試練は、僕しか受けられない。

 他の人は関与しないこと。二度と戻ってこられない危険があるから。

「ほうか。子孫だけにしか試練は受けられんと」

「うん。実は僕には、キミたちには秘密にしている力がある。【魔改造】以外に」

 おそらく精霊たちの試練は、その力を強化するものだろう。だいたい予想はつく。

 とはいえ、想像を絶する試練であることは、間違いない。

「行ってくるよ。みんなは、そこで待っていてくれ。死ぬことはないと思うけど、一応成功を祈っておいて」

「ディー……」

 リユの言葉を待たず、僕は歩を進めた。

 花畑に、いつの間にか霧でできた入り口ができている。ここを通れというのか。

 仕方なく、霧の門をくぐる。振り返ると案の定、入り口は消えていた。
 ここからは、試練に勝たないと出られないっぽい。

 黒い霧が、僕の目の前に。霧は人間の形を取り始める。

「言っておくけど、キミのフルパワーは使い放題にしておいてあげるよ。それくらいでないと、勝てない相手だからね」

「わかった。そのハンデ、後悔させてやろ……うう」

 霧が実体化した姿を見て、僕は後悔する。

 なんと黒い霧は、フルパワーの僕そっくりな姿に変わった。

「見た目はキミと同じだけど、強さは段違いだから。彼こそ、本来受け継がれるはずだったディートリンデの力だよ」

 あれが、ディートリンデそのものってわけか。

「わかっているさ。こっちも全力でいく!」

 お言葉に甘えて、フルパワーにならせてもらう。

 武器の【ナイブズアウト】に常時、【電光石火】発動。身体と装甲を強化して、敏捷性も上げる。

「しゃああああああ!」

 武器を蛇腹状に伸ばして、切りかかった。

「なあ!?」

 ディートリンデも蛇腹剣を行使して、僕の攻撃を弾き飛ばす。
 あっちの蛇腹剣は、本物の蛇のような形である。

「くう!」

 蛇腹剣による刺突を、僕はかろうじて避けた。

「おおっと!?」

 剣圧だけで、僕はふっとばされる。花畑に、背中を打ち付けた。

 強い。シャレにならないくらいだ。勝てるかどうか、不安になる。

「うおっほお。やるねえ先代。けど」

 ディートリンデを、僕は指さした。

 ちゃんと僕も、相手の肩口に傷跡を残している。

「僕だって、寝ていたわけじゃないんだ。簡単に、あんたの力を受け継ごうなんて思ってないさ」

 構え直して、もう一度相手に飛び込んでいった。
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