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第五章 魔王の墓へ

第44話 魔王の墓

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 周囲一面に花が咲いている。
 魔王「ディートリンデ」の墓を見た印象は、ソレだった。
 遺跡と聞いたから、もっとおどろおどろしい場所なのだと思っていたが。
 こんな幻想的な場所が、シンクレーグにあったなんて。

「キレイだね」

「おう。キレイじゃ。それに、なんて小さいんじゃ」

 小さな花畑に、ぽつんと墓標があるだけ。

 花の周りには、蝶が舞っている。かと思えば、精霊だった。ぼんやりと光を放っている。

「この精霊たちが、教えてくれたんです」

「妙に、見つけるのが早いと思っていたよ」

 たった一日山を探索しただけで、こんなに早く見つかるとは。

「ごめんなさい、領主ディータさま。お二人はもっと、デートを楽しみたかったでしょうに」

 ヘニーが、申し訳なさそうに頭を下げた。

「なにを言うんだ? 早いに越したことはないよ。それに、リユも気に入っている」

「そうじゃ。お手柄じゃって」

 僕とリユが、ヘニーをねぎらう。

「ありがとうございます。でもひとつ、問題が」

「どうしたの?」

「入り口がないんです」

 たしかに、このお墓には、地下通路への道がない。

 なにか、特別なアイテムが必要なのか?

「バチアタリかもしれなかったが、ドワーフの腕力でも、石をどかすことができなかった」

「うん。やめようね、レフィーメ」

 レフィーメになにかあったら、大変だ。

「いっそドラゴンに戻って、周囲を焼き払ってやろうかとも思ったのですが、バチアタリすぎて」

「やめようね、カガシ」

 仮にも、僕のご先祖のお墓だからね。

「ディータ、この付近だけ空間が変じゃ」

 リユが辺りを見回しながら、つぶやく。

「そうなんですよ! わたしも妖精さんたちの誘導がなかったら、迷子になっていたんです!」

 カガシが木の上から探索しても、レフィーメが地下を掘っても、このエリアまでたどり着けなかったらしい。

「どうやら、ここだけ不思議な空間で閉じられているみたいだ」

「じゃったら、入り口がちゃんと用意してあるはずじゃ。あんたのような子孫が、きっとここを見つけるじゃろうって」

「僕のような……そうか、【魔改造】だ」

 スキル【魔改造】を持っている僕なら、この遺跡にある入口までたどり着けるはずだ。

 思わず、人目もはばからずリユのホッペにキスしてしまった。

「なんじゃ、いきなり?」

「ありがとうリユ。キミのおかげで、突破口が開けそうだ」

「ほ、ほうか。ほったらヘニーにもしらたんか。あいつが一番の功労者じゃ」

 リユがヘニーの両肩を持って、僕の場所まで連れてくる。

「遠慮します! 奥様を差し置いてキッスだなんて!」

 頬を朱に染めながら、ヘニーが手をブンブンと降った。

 ここまで拒絶されたなら、仕方ない。

「じゃあいくぞ。【魔改造】!」

 僕は魔改造のスキルを発動した。

「墓石を……ムリか」

 幻の腕で墓石をどけようとしたが、ビクともしない。

「違うか。僕だったらどこに大事なものを隠すだろう?」

 花の周りをフヨフヨ浮いている精霊に声をかけてみた。

 何もしゃべってはくれないが。

『クスクス。人間たちに教えることなんて、なーんにもないから』

 シャベッタアアアアアアッ!?


「なんじゃ、ディータ! 腰抜かして」

「だって精霊が」

「別に、なんも聞こえんが。おめえ、耳がどないか、したんじゃないかえ?」

 え、まさか。僕にしか聞こえていない?
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