じゃじゃ馬王妃! ~フランス王妃アン・ド・ブルターニュが、悪徳貴族と魔族共を裁《シバ》く!~

椎名 富比路

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第四章 Ne pas se mettre en forme, Mauvais voeux(うぬぼれるなよ 邪悪な願い)

クロードの危機

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「ほほう、イタリアから、職を求めて。ご苦労なされたのですな」
「いえ、大層なものでは。ツテを頼っただけでして」

「いやはや、混乱気味な今のフランスまで仕事を探しにいらっしゃるほど、お辛い経験をなされたのでしょう」
 レミ教授はカカと笑う。

「この学園はいいですぞ。子どもの成長を間近で見ることができる。グングンと知恵を吸収し、一年もすれば見違える程に。末恐ろしささえ感じます」
「おっしゃるとおりで。やりがいのある仕事だと思います」

「その子どもたちを、正しい方向へ導く。それこそ、我々教師の勤めだと」
 もっともらしい言葉を、レミ教授が語る。
 特に怪しさなどは感じない。

「先生、さようなら」
 中二階から、ローザが降りてくるところだった。
「さようなら」
 隣で並んで歩いているのは、クロードである。

「はい、さよ……むっ?」
 不穏な空気を感じ取り、メルツィは身構えた。



 ローザの背後に、白い手が伸びる。


「あっ」と、メルツィが駆け寄ろうとしたが、遅い。

 ローザが、肩を叩かれた。

 突き落としたのは、先ほどクロードから泥を跳ねられた少女たちである。

「危ないローザ!」
 階段を踏み外しかけたローザを、クロードが抱きしめた。

 それでも、勢いが止まらない。

 クロードが、ローザと共に階段から転げ落ちた。

 階段下から、メルツィは落ちてくる二人を抱きかかえた。
 床に頭をぶつけないように、そっと降ろす。

「大丈夫か?」 
「いたいっ」

 ローザが、足首をさする。歩くのは困難のようだが、軽傷で済んだようだ。そこは武士の娘である。本人も分かっていないようだが、体さばきで致命傷を免れたらしい。

 だが、クロードは起き上がらない。
 額からわずかに血を流し、倒れている。

「ひめさま!」
 ローザの呼びかけにも、クロードは目を覚まさなかった。


「揺さぶってはならぬ」
 倒れているクロードに、レミ教授が歩み寄る。
 クロードの頭を、注意深く調べた。

「軽い脳しんとうじゃ。階段の角で頭を打ったらしい。頭を揺さぶられ、気絶しているだけじゃ。しばらく眠っていれば治るじゃろう。命に別状はないが、ひとまず様子を見ようかのう」

「医務室へ行こう」
 メルツィはクロードを抱えた。レミ教授と共に保健室へ。 

 こんな事態になるなんて思ってもいなかったのだろう。
 いじめっ子の少女たちは青ざめている。
 王妃を階段から落としたのだ。
 自分たちの身に降りかかる罰を想像していることだろう。

「君たちも来るんだ!」
 逃げようとした三人に対して、メルツィはキツい口調で呼びかけた。
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