じゃじゃ馬王妃! ~フランス王妃アン・ド・ブルターニュが、悪徳貴族と魔族共を裁《シバ》く!~

椎名 富比路

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第四章 Ne pas se mettre en forme, Mauvais voeux(うぬぼれるなよ 邪悪な願い)

レミ教授の邪悪

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「先生は本当に、貴族と王族が仲良くできるとお思いなの?」
「王族と平民が友達になったんだ。怖がらなくてもいいさ」


 それはきっと、クロードも望んでいることだ。 


「キミたちは、もう帰りなさい。処罰は、そうだな……反省文を書いてきなさい。クロードさんに誠心誠意詫びよう。それと、ローザさんにも」

「ごめんなさい」

 メルツィが促すと、貴族たちは素直に従った。言われたから実行したというより、本気で反省している様子である。

 自分は悪くないのに、ローザも頭を下げた。



「むむ、これは!」



 ローザの頭を撫でた瞬間、レミ教授の顔つきが変わった。
 冷や汗をかいている。

「どうかなさいましたか、教授?」
「出血が、もう」

 クロードの額にあった切り傷が、あっという間に塞がっていた。
 これが、ケルト族の血がもたらす恩恵か。

「なんという」
 レミ教授の顔を覆っていた、善良な教育者という仮面が、一瞬剥がれ落ちた気がした。
 今のレミ教授は、「血に飢えた狂気の科学者」の顔を覗かせている。

「お医者様を呼びましょう、教授」


「いや、もう呼びましたぞい。私の知り合いなのでご安心を」


 直後、ゾロゾロと黒所属の男たちが入り込んできた。

 レミ教授はクロードを抱えて、保健室を出て行く。

「待て!」
 メルツィが後を追うが、黒ずくめに行く手を阻まれた。

「私は先に研究所へ。目撃者の方々も、ご同行願おうか」
 黒ずくめたちが、女生徒たちを羽交い締めにする。

「いやあ、放して!」
 女生徒が悲鳴を上げた。

「おとなしく、ついてきてもらおうか! さもなくば」
 怯えた女生徒たちを、黒ずくめが突きつけてくる。

 生徒を人質に取られ、絶体絶命だ。 
 だが、こんな日の為に、訓練をしてきた。

「ポン!」
 もっとも察しがよかったのが、ローザである。
 自らの腕で黒ずくめの拘束を弾き飛ばし、抜け出す。

 他の生徒たちも、「ポン!」と声を上げて脱出した。

 ただ一人、リーダー格の少女だけが逃げられない。

 ローザたちは、腕を伸ばして拘束を解いた。

 だが、少女は上着を脱ぐように、腕を曲げて抜け出そうとしている。
 それではテコの原理が働かず、悪漢の腕力に勝てない。


「やあ!」
 ローザが、どこからか木製のホウキを持ってきた。
 黒ずくめの手首を打つ。

 黒ずくめが悲鳴を上げ、少女を解放する。

「ありがとう!」
 女生徒が、ローザの後ろに隠れた。

「なんだこいつら?」

「彼女たちは、ボクの生徒さ!」
 腰に付けていた三節紺で、メルツィは黒ずくめたちを昏倒させる。

「みんなは職員室に行って、先生を呼んでくるんだ。その後は、速やかに大人と下校すること。分かったね?」

「はい!」
 女生徒たちが、廊下を駆けていく。

 素直な子たちだ。

 だが、もっとも純粋な子が、フランスの宝が連れ去られた。
 急がねば。
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