じゃじゃ馬王妃! ~フランス王妃アン・ド・ブルターニュが、悪徳貴族と魔族共を裁《シバ》く!~

椎名 富比路

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第四章 Ne pas se mettre en forme, Mauvais voeux(うぬぼれるなよ 邪悪な願い)

ブローニュの森での決闘

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 メルツィは、クロードの行方を追跡する。

 学校への通り道に、馬車が止まっていた。

 レミ教授が、クロードを馬車に載せている。
 メルツィに気づいたレミ教授が、慌てて馬車を走らせた。 

「待て!」
 ギリギリで、メルツィは馬車の天井にしがみつく。

「振り落としなさい!」
 レミ教授が、御者に指示を飛ばす。

 メルツィも負けない。揺れる馬車に必至で食らいつく。

 市街地を抜け、馬車はパリを離れていった。
 川沿いを走り、際だった岩山に進路を取っている。

 ここは、ブローニュの森だ。なるほど、この森はルイ一一世の代で、今でも道が整備されている。
 そのどさくさに紛れて、レミ教授はアジトを作ったらしい。



 一つの影が、メルツィに向かって降りてきた。
 刺客の手には、装飾が施された細いサーベルが握られている。


 攻撃をかわそうとして、メルツィは馬車から手を放してしまう。
 凄まじい勢いで、メルツィは馬車から振り落とされた。
 転がりながら、地面に叩き付けられる。

 メルツィを襲った刺客は、髪の長い女だった。
 ウェーブの掛かった髪は、濡れたようにしなやかである。
 妖艶さと清楚さ、気品を表現していた。
 だが、漂う冷徹な雰囲気は、いつぞやのドロテを思わせる。
 人間のたどり着ける美しさではない。

「教授は、随分とエレガントな配下をお持ちだ」
 イタリア人特有の、すぐ口説くクセが零れた。
 軽口を叩かないと、美貌に油断を招きかねない。

 それほどに彼女は美しく、恐ろしかった。

「褒めていただかなくとも結構!」
 女刺客は、有無を言わさず剣を抜く。

 仕方なく、メルツィの方も武装した。刺客程度なら、軽くあしらえる。

 だが、メルツィの見込みは、アメ玉のように甘かった。

 三節紺の独特な動きに、刺客はついてきたのである。
 まるで、こちらの動きを読まれているかのようだ。

 手強い。今まで戦ってきた相手とは格が違う。

 狙いを外さない正確さと、殺すまで追跡する執念。
 おそらく、彼女が教師殺害の犯人だ。
 あのサーベルが、凶器に違いない。

「あなたは何者だ?」
「メリュジーヌ。それだけ言えば、分かる者がいよう」

 見た目からして、高名な貴族を思わせる。
 しかし、貴族でここまでケンカ慣れしている相手に、メルツィは出会ったことはなかった。

 まして自分はかつて傭兵だ。戦争を生き残ったのである。

 アン以外に、傭兵クラスの相手を手玉に取る貴族がいたのか。

「残念だ。もっと早く出会っていたら、口説き落とせたかも」

「ご心配なく。あなたが生まれた頃には、もう未亡人でしたわ」

 ジョークかと思えた。

 相手は、どう見ても二〇代に見える。
 しかし、レミ教授の手下だ。何か細工をしている可能性もある。若さを与えるから軍門に降れと指示されているのか?

「どうしてレミ教授の配下に?」


「違う。私が教授を動かしているのだ!」


 一瞬、思考が停止した。


 そのスキを見逃す刺客ではない。


 回し蹴りを腹に叩き込まれ、メルツィは川にたたき落とされた。

「運がよければ死にはしまい」
 追撃せず、刺客は去って行く。


 川に流されるフリをして、メルツィは去りゆく刺客を目で追いかけた。
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