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夜のラーメンは、罪の味 ~家出少女と共に、とんこつしょうゆラーメンと替え〇〇~
とんこつしょうゆラーメンは、罪の味
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「オレは元々、騎士だったんだ」
「どういった経緯で?」
「この国の王子に、腕を買われたんだよ」
平民出身だったそうですが、たまたま王子の乗った馬車を魔物の襲撃から助けたそうで。
「そんな経緯もあって、オレは騎士として雇われた」
「それが、どうして冒険者に?」
「貴族の娘と結婚を、破談にしたからだ」
ミュラーさんの奥さんは幼馴染だそうです。
貧乏剣士だった頃から支えてくださった奥さんを、裏切りたくなかったと言いました。
「ありがとうございます。ハシオさんは?」
「コネっす」
なんでも、一族全員が騎士一家だそうで。
「剣一本でのし上がってきた家系なんで、なんの疑問を持たなかったっす」
ご両親も、嫁のもらい手はあきらめているのだとか。
「だから、オレたちではお前さんの助けにはなれねえ。すまんな」
住む世界が違いすぎて、参考にならないだろうと言います。
それでも、ステフさんには響くものがあったようですね。何度もうなずいています。
「大将は、この道何年です?」
では、と、別の回答者に話を振りました。
「どんくらいだ、かかあ?」
麺のお湯を切りながら、大将は奥さんに尋ねました。
「まだ三五、六年ってとこですかねぇ?」
答えながら、奥さんは油に踊るから揚げをジッと見つめています。
三六年を「まだ」ですか……。料理人の道は厳しいのですね。
「イヤなことの一つや二つは、あったのでは?」
「そりゃあ、長いことやっているとね。この間だって、前の店がもらい火事に遭っちまって。店舗をこっちに移動したんでさあ。息子に店を譲ってやるって、約束してたのによぉ」
息子さんが結婚と自立をして、落ち着いてきた矢先の出来事だったそうで。大変だったみたいですね。
「長生きしてりゃあ、うまくいかねえことだってあらぁ。そんときにさ、いちいちしょんぼりしてても、しょうがねえでしょ? オイラ、鍋の振り方しか知らねえからよ。だから、やるこたぁひとつだ」
しょうゆラーメンが四杯、赤いテーブルに並びました。
「お客さんに、うまいもん食わせるだけだよ」
大将の男気を、いただきます。
「あの、お金……」
「結構です」
ステフさんがお財布を出そうとしましたが、わたしが止めます。
「いいや。全員分、オレが立て替えておいてやる。オレはお前さんに、なんのアドバイスもしてやれねえしな」
わたしが支払おうとすると、ミュラーさんが銀貨を置きました。
「ミュラーパイセン、太っ腹っすね。大将、こちらのお兄さんにエールを。オイラにも」
大将が、ミュラーさんの席にエールを置きます。
「これは予定外だから、おごってやらんぞ」
「いいっすよ水臭い」
騎士さん二人が、エールで乾杯します。
「ここは、ご厚意に甘えましょうよ」
わたしがいうと、ステフさんは祈りを捧げました。
では、スープから……。
「これは、とんこつしょうゆですね!」
濃厚な味わいと、おしょうゆの辛味が調和が見事に取れています。
文句なしに、罪深《うま》い……。
「最高ですね」
麺は、ちぢれ麺です。スープによく絡んでいますね。
「う~ん。これはこれは」
お酒の後に、ラーメンを食べたくなる人の気持ちが、少しわかった気がしました。
濃い味付けに、少量のメンマがうれしいです。ポリポリとかじるだけで、風味がリセットされていきます。
ラーメン、実に奥が深い料理ですね。
気になっていたのが、このチャーシューです。分厚いですねぇ。お箸で持ち上げてみると、よりそのスケールに圧倒されました。
一口、いただいてみましょう。
「うん! 柔らかい!」
こんなにも、チャーシューってトロトロになるんですね。
ステフさんも、夢中になって食べていました。
「スープ全部飲んじゃ、ダメっすよ」
おっと、ハシオさんから指摘を受けます。
あやうく、スープを前飲みするところでした。いつもの癖が出ちゃっています。
ラーメンには、「替え玉」というさらなる罪が……。
「大将、替えメシ」
「あいよ」
……なんですと?
「どういった経緯で?」
「この国の王子に、腕を買われたんだよ」
平民出身だったそうですが、たまたま王子の乗った馬車を魔物の襲撃から助けたそうで。
「そんな経緯もあって、オレは騎士として雇われた」
「それが、どうして冒険者に?」
「貴族の娘と結婚を、破談にしたからだ」
ミュラーさんの奥さんは幼馴染だそうです。
貧乏剣士だった頃から支えてくださった奥さんを、裏切りたくなかったと言いました。
「ありがとうございます。ハシオさんは?」
「コネっす」
なんでも、一族全員が騎士一家だそうで。
「剣一本でのし上がってきた家系なんで、なんの疑問を持たなかったっす」
ご両親も、嫁のもらい手はあきらめているのだとか。
「だから、オレたちではお前さんの助けにはなれねえ。すまんな」
住む世界が違いすぎて、参考にならないだろうと言います。
それでも、ステフさんには響くものがあったようですね。何度もうなずいています。
「大将は、この道何年です?」
では、と、別の回答者に話を振りました。
「どんくらいだ、かかあ?」
麺のお湯を切りながら、大将は奥さんに尋ねました。
「まだ三五、六年ってとこですかねぇ?」
答えながら、奥さんは油に踊るから揚げをジッと見つめています。
三六年を「まだ」ですか……。料理人の道は厳しいのですね。
「イヤなことの一つや二つは、あったのでは?」
「そりゃあ、長いことやっているとね。この間だって、前の店がもらい火事に遭っちまって。店舗をこっちに移動したんでさあ。息子に店を譲ってやるって、約束してたのによぉ」
息子さんが結婚と自立をして、落ち着いてきた矢先の出来事だったそうで。大変だったみたいですね。
「長生きしてりゃあ、うまくいかねえことだってあらぁ。そんときにさ、いちいちしょんぼりしてても、しょうがねえでしょ? オイラ、鍋の振り方しか知らねえからよ。だから、やるこたぁひとつだ」
しょうゆラーメンが四杯、赤いテーブルに並びました。
「お客さんに、うまいもん食わせるだけだよ」
大将の男気を、いただきます。
「あの、お金……」
「結構です」
ステフさんがお財布を出そうとしましたが、わたしが止めます。
「いいや。全員分、オレが立て替えておいてやる。オレはお前さんに、なんのアドバイスもしてやれねえしな」
わたしが支払おうとすると、ミュラーさんが銀貨を置きました。
「ミュラーパイセン、太っ腹っすね。大将、こちらのお兄さんにエールを。オイラにも」
大将が、ミュラーさんの席にエールを置きます。
「これは予定外だから、おごってやらんぞ」
「いいっすよ水臭い」
騎士さん二人が、エールで乾杯します。
「ここは、ご厚意に甘えましょうよ」
わたしがいうと、ステフさんは祈りを捧げました。
では、スープから……。
「これは、とんこつしょうゆですね!」
濃厚な味わいと、おしょうゆの辛味が調和が見事に取れています。
文句なしに、罪深《うま》い……。
「最高ですね」
麺は、ちぢれ麺です。スープによく絡んでいますね。
「う~ん。これはこれは」
お酒の後に、ラーメンを食べたくなる人の気持ちが、少しわかった気がしました。
濃い味付けに、少量のメンマがうれしいです。ポリポリとかじるだけで、風味がリセットされていきます。
ラーメン、実に奥が深い料理ですね。
気になっていたのが、このチャーシューです。分厚いですねぇ。お箸で持ち上げてみると、よりそのスケールに圧倒されました。
一口、いただいてみましょう。
「うん! 柔らかい!」
こんなにも、チャーシューってトロトロになるんですね。
ステフさんも、夢中になって食べていました。
「スープ全部飲んじゃ、ダメっすよ」
おっと、ハシオさんから指摘を受けます。
あやうく、スープを前飲みするところでした。いつもの癖が出ちゃっています。
ラーメンには、「替え玉」というさらなる罪が……。
「大将、替えメシ」
「あいよ」
……なんですと?
応援ありがとうございます!
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