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オマケ
先輩
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(あの後の狭山くん)
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家に帰ってすぐ、美樹先輩に報告した。
<振られました>
既読が直ぐについた。
暇人か。
<マジで?>
<マジです>
<ウケるー>
いや、ウケるな。
少しイラっとしつつ返す。
<彼氏、いましたよ?>
<えー、嘘ー。いないって言ってたのに>
いましたよ…凄く仲よさそうなのが…
哀愁ただよう背中のウサギのスタンプを送る。
<ぶはっ!寂しいからって死ぬなよ!>
大笑いのスタンプが返ってきた。
スマホがミシリと音を立てる。
…美樹先輩は酔ってるんだ…そう、酔ってるんだ…
深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
<とにかく、報告だけ>
<あー、うん。愚痴りたくなったらいつでも言いな>
<はい>
画面を落としてスマホを伏せた。
ちょっともう、何も考えたくない。
帰り道のコンビニで適当にいくつか買ってきた缶ビールを開けた。プシュっといつもの爽快な音が響く。
クソっ。こっちの気分はどんよりだってのに。
苛立ちに任せて、一気に半分くらいあおった。
さっきの打ち上げでは、ハイペースで飲む先輩が心配であまり飲まないようにしていたけど、もうセーブする理由がない。
コンビニで一緒に買ってきた枝豆とフライドポテトを皿に出す。ポテトを何本もつかんで口に詰め込んで、碌に噛まずに飲み込もうとしたら咽せた。
慌ててビールで流し込む。
…途中までは割といけそうだったんだけどなぁ………
マンションの前で俺を見た、先輩の潤んだ瞳を思い出した。縋るような目。助けを求めるような…
最近、先輩が元気がないのには気づいていた。死ぬほど忙しい中、ふとカレンダーを見ては悲しそうにため息を吐いて。それを吹っ切るように仕事に打ち込んでいた。
でも、ふとした瞬間、やっぱりとても寂しそうで。
そんな先輩が、気になって仕方がなかった。できれば自分がどうにかしてあげたいと思ってしまった。
そんな風に先輩を目で追っていたのを美樹先輩に気づかれて揶揄われて、ついでに何故か応援してくれることになった。
今日、酒の勢いで美樹先輩が彼氏はいないって聞きだしてくれて。それなら俺にもチャンスがあるかもって思って…。
今日は酔った先輩を送っていくだけのつもりだったけど、あんな目で見つめられて。俺でいいなら、ってそう思ったのに。
今日は身がわりでもいい。
今後先輩が俺を意識してくれるのならそれでも…ってそう思ったのに…
計ったようなタイミングで、仕事のできそうな色男が出てきた。先輩を、まるで自分のものだとでも言うように後ろにかばって。先輩も嬉しそうに甘えて。
…あんな顔で…
咄嗟に、なんでもない振りをしてその場を立ち去るのが精一杯だった。
二本目を開けた。
あ、これチューハイだ…
予想してなかった甘い味が口の中に広がって顔をしかめる。
嫌いじゃないけど、ビールだと思って飲んだのにチューハイ味だと気持ちが悪い。
「先輩、そいつがいーんですかー」
酔いが回って独り言が漏れる。
「俺だって結構、いい男だと思うんですけどねー」
今はあの男に比べたらちょっと見劣りするかもしれないけど、将来性は負けてない筈だ。
「先輩にあんな顔させる男、振ってやったらいいじゃないですかー」
あんな寂しそうな顔。
でも、あんなに嬉しそうな顔をさせたのもあの男なのだ。
ため息を吐いてもう一本、今度はラベルを確認してビールを開けた。
少し前の、先輩の顔が脳裏にチラつく。
躊躇いながらも、俺を見つめて震える声で
「もし…よかったらなんだけど……」
きゅっと俺のスーツを掴んで
「今夜…その…私と………」
切羽詰まった瞳で………
ゴロリと床に転がって腕を伸ばした。
「あれ、絶対にお誘いだったよなー…」
あの男さえ現れなければ。
今頃は俺、先輩と……
重くため息を吐いた。
天井に向かって吐いたため息が、重みで自分の顔に落ちてきたような気がして更に嫌な気分になった。
………クソっ。
タイミングの悪さに毒づく。
あの男が、今日あそこで先輩を待っていなければ。もしくは、もっと早く仲直りしてくれていれば。
…あんな隙なんて見せないで欲しかった
先輩に好きな人がいることなんて前から知ってた。
木曜日にカレンダーを見て嬉しそうに笑って。金曜日にはソワソワしながら退社して。月曜日には先週の金曜と同じ服で機嫌よさそうに出社する。
そんな姿だけを見せられていたなら、期待なんかしなかったのに。
手の届かない人だと諦めて、ただの先輩後輩として付き合っていけたのに。
あんな顔向けられて、俺にもチャンスがあるかもって思わされたら…
今日はダメだったけど、そのうちまたチャンスがくるかもって思っちゃうじゃん…
………来週から、どんな顔して会えばいいんだよ…
モヤモヤとした気持ちを抱えて、寝っ転がったまま更にもう一本ビールを開けた。
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家に帰ってすぐ、美樹先輩に報告した。
<振られました>
既読が直ぐについた。
暇人か。
<マジで?>
<マジです>
<ウケるー>
いや、ウケるな。
少しイラっとしつつ返す。
<彼氏、いましたよ?>
<えー、嘘ー。いないって言ってたのに>
いましたよ…凄く仲よさそうなのが…
哀愁ただよう背中のウサギのスタンプを送る。
<ぶはっ!寂しいからって死ぬなよ!>
大笑いのスタンプが返ってきた。
スマホがミシリと音を立てる。
…美樹先輩は酔ってるんだ…そう、酔ってるんだ…
深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
<とにかく、報告だけ>
<あー、うん。愚痴りたくなったらいつでも言いな>
<はい>
画面を落としてスマホを伏せた。
ちょっともう、何も考えたくない。
帰り道のコンビニで適当にいくつか買ってきた缶ビールを開けた。プシュっといつもの爽快な音が響く。
クソっ。こっちの気分はどんよりだってのに。
苛立ちに任せて、一気に半分くらいあおった。
さっきの打ち上げでは、ハイペースで飲む先輩が心配であまり飲まないようにしていたけど、もうセーブする理由がない。
コンビニで一緒に買ってきた枝豆とフライドポテトを皿に出す。ポテトを何本もつかんで口に詰め込んで、碌に噛まずに飲み込もうとしたら咽せた。
慌ててビールで流し込む。
…途中までは割といけそうだったんだけどなぁ………
マンションの前で俺を見た、先輩の潤んだ瞳を思い出した。縋るような目。助けを求めるような…
最近、先輩が元気がないのには気づいていた。死ぬほど忙しい中、ふとカレンダーを見ては悲しそうにため息を吐いて。それを吹っ切るように仕事に打ち込んでいた。
でも、ふとした瞬間、やっぱりとても寂しそうで。
そんな先輩が、気になって仕方がなかった。できれば自分がどうにかしてあげたいと思ってしまった。
そんな風に先輩を目で追っていたのを美樹先輩に気づかれて揶揄われて、ついでに何故か応援してくれることになった。
今日、酒の勢いで美樹先輩が彼氏はいないって聞きだしてくれて。それなら俺にもチャンスがあるかもって思って…。
今日は酔った先輩を送っていくだけのつもりだったけど、あんな目で見つめられて。俺でいいなら、ってそう思ったのに。
今日は身がわりでもいい。
今後先輩が俺を意識してくれるのならそれでも…ってそう思ったのに…
計ったようなタイミングで、仕事のできそうな色男が出てきた。先輩を、まるで自分のものだとでも言うように後ろにかばって。先輩も嬉しそうに甘えて。
…あんな顔で…
咄嗟に、なんでもない振りをしてその場を立ち去るのが精一杯だった。
二本目を開けた。
あ、これチューハイだ…
予想してなかった甘い味が口の中に広がって顔をしかめる。
嫌いじゃないけど、ビールだと思って飲んだのにチューハイ味だと気持ちが悪い。
「先輩、そいつがいーんですかー」
酔いが回って独り言が漏れる。
「俺だって結構、いい男だと思うんですけどねー」
今はあの男に比べたらちょっと見劣りするかもしれないけど、将来性は負けてない筈だ。
「先輩にあんな顔させる男、振ってやったらいいじゃないですかー」
あんな寂しそうな顔。
でも、あんなに嬉しそうな顔をさせたのもあの男なのだ。
ため息を吐いてもう一本、今度はラベルを確認してビールを開けた。
少し前の、先輩の顔が脳裏にチラつく。
躊躇いながらも、俺を見つめて震える声で
「もし…よかったらなんだけど……」
きゅっと俺のスーツを掴んで
「今夜…その…私と………」
切羽詰まった瞳で………
ゴロリと床に転がって腕を伸ばした。
「あれ、絶対にお誘いだったよなー…」
あの男さえ現れなければ。
今頃は俺、先輩と……
重くため息を吐いた。
天井に向かって吐いたため息が、重みで自分の顔に落ちてきたような気がして更に嫌な気分になった。
………クソっ。
タイミングの悪さに毒づく。
あの男が、今日あそこで先輩を待っていなければ。もしくは、もっと早く仲直りしてくれていれば。
…あんな隙なんて見せないで欲しかった
先輩に好きな人がいることなんて前から知ってた。
木曜日にカレンダーを見て嬉しそうに笑って。金曜日にはソワソワしながら退社して。月曜日には先週の金曜と同じ服で機嫌よさそうに出社する。
そんな姿だけを見せられていたなら、期待なんかしなかったのに。
手の届かない人だと諦めて、ただの先輩後輩として付き合っていけたのに。
あんな顔向けられて、俺にもチャンスがあるかもって思わされたら…
今日はダメだったけど、そのうちまたチャンスがくるかもって思っちゃうじゃん…
………来週から、どんな顔して会えばいいんだよ…
モヤモヤとした気持ちを抱えて、寝っ転がったまま更にもう一本ビールを開けた。
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後半砂糖多めでしたw
お粗末様でした!