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第11話 人を思う気持ちは止められない

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 王宮と城下町からなる王都は、離宮から馬で半日ほど離れた場所にある。
 王国が所有するその地域一帯は、小高い丘がいくつも連なっている丘陵地帯だ。防衛上の観点から人の腰の高さを超える木は一本もなく、全体が短く刈り込まれた芝や灌木で覆われている。

 その中のひときわ高い丘の上に、頑丈な城壁で囲まれた王都はあった。王宮の南斜面には城下町が広がり、古い石畳に軒を連ねた商店の人々が、活気に満ちた声を響かせている。

 町はずれにあるサマサ侯爵夫人のサロンでは、今日も喧々諤々の議論がされていた。議題は王政の存続という、王都で話し合うにしてはいささかナーバスな内容だ。しかし、『サロンでなされた会話の内容は一切持ち出し禁止』という暗黙のルールがあるため、皆歯に衣着せぬもの言いで議論を闘わせている。

「よいですかな。王統こそがわが国の正義なのです。彼らが歴史の創造者であり、国家繁栄の立役者なのですぞ」
「何を言っとるんだね。王など飾りだ。力のある宰相がいれば、誰がなっても構わないではないか」
「ちょっと待ってくれ。今のは聞き捨てならないぞ? 不敬罪に当たる」
「まあまあ。それを言ってしまってはサロンで議論を闘わせている意味がなくなるじゃないですか。ここはやはり、国民の代表による選挙をですね……」
「選挙なら、私はヘネ枢機卿を推しますよ」
「いやいや、私は元老院のサンデリン卿を」
「では、私は番狂わせを狙ってドラーク公で……」



「以上でございます」

 側近デローニから報告を受けて、ヴィクトラス王国第二王子のルシオールは、深いため息を吐いた。
 ここは離宮の西棟にある私室だ。やや東を向いた窓から差し込む朝日が、緋色の絨毯の上に薄い影を落としている。
 いくらかん口令の敷かれたサロンでの会話といえども、間者は必ずいるものだ。側近から聞いた、とある男爵からもたらされたという秘密会議の内容は、反吐が出るほど胸糞悪いものだった。

 王室の人間が利権争いの駒にされるのは、今に始まったことではない。現にルシオールの父は、当時懇意にしていたヘネ枢機卿にそそのかされて、父親である先々代の王を投獄の上、殺してしまった。
 その父も三年前には何者かに毒殺されて、現在はルシオールの兄が王位を継いでいる。即位の際、兄が第一宰相に置いたのが、ヘネ枢機卿を目の敵にしているロンデル伯爵だというのだから、笑えない。

「で? 私に一体どうしろと言うんだ?」

 長椅子の肘掛けに頬杖をついたまま、ルシオールはデローニに尋ねた。
 しかしデローニはその質問には答えない。報告内容の書かれた羊皮紙を丸めて、重い一重まぶたをぎらつかせる。
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