オサキ怪異相談所

てくす

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第一章

第五話 境界の先 前

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茜:『ここから先 立ち入るべからず』
『誰が決めたのか 境界線』
『この世とあの世の 境界線』



【間】



尾先:それで?

茜:うーん…色々調べてはみたんですけどね

尾先:前にも言ったが、ネットに出ていて、素人でも調べられるものは創作が多い

茜:それは、わかってますよ
だけど、創作でも関係ないじゃないですか
結局あの人たちは、それでも作るんですよね?

尾先:そうだな…
とりあえず、今日行く所は大丈夫だ

茜:ネットに書いてあるからですか?

尾先:それもあるが、俺もいるし

骸:僕もいるからね

茜:骸さん!

骸:今回の件、茜ちゃんは僕たちの真似をするといいよ
約束事があるんだ

茜:約束事、ですか?

尾先:今回行くところは禁足地と言われる場所だ
本来は立ち入ることは禁止されている
文字通りな

茜:…入って大丈夫なんですか?

骸:厳密に言えば、入っていい場所とダメな場所があるよ
法律的にというより、宗教や信仰もあれば、霊的にと、まぁ色々ね

尾先:今回の場所は半々だな
好んでは入らないし、入りたくもない
だが、依頼内容の関係で入らないといけない

茜:依頼の内容は聞きましたけど
それで約束事っていうのは?

骸:例えば、入る時に一礼しないといけない、とか
出る時は後ろ向きで、とか
それをしないと"祟られる"みたいなことだよ
禁足地は所謂、神域なんだ

茜:神域…神様の場所ってわけですね
たがら神社とかに多いんですね

尾先:あぁ、だが知らないだけで、至る所に禁足地はあるんだ
それが入っても問題ない、という場所だな

茜:分かりました
今日は凪もクダ様もいないから心配でしたけど、骸さんがいるなら大丈夫ですね!尾先さん

尾先:俺の立場がなくなるんだが?

骸:ははっ、素直だね

茜:あ!そういえば今回の依頼は、私に話した時に無理かもしれないって
言ってましたけどどういうことですか?

骸:僕も聞いてるから分かってるけど、オサキと僕の意見が一致しているなら
これは都市伝説だよ

茜:またですか!?

尾先:あぁ、ネット怪談の一つ
つまり、またアイツらが関わっている可能性がある

茜:うっ…それは…

骸:だけど、そうとも限らないからね
禁足地に行くのは、入り口を見つける為だよ

茜:入り口?ですか

尾先:今回の依頼は、対象者の母親からだ
娘がおかしくなった、が、病院でも異常なし
精神的なものと判断して、今は精神病院で入院中だと
出ている症状の一つは、髪を食うらしい

骸:髪にまつわる怪異はいくらでもいるけど、僕も見てきて取り憑かれているわけじゃなかった
だったら考えられるのは、入ってはいけない場所に入ったんだよ

茜:骸さん見に行ったんですか!?
なるほど、それで禁足地に行くんですね
私が言っても大丈夫なんですか?

尾先:入り口を見つける、と言っただろ?
その鍵が男女で変わる可能性もある
人数の場合もある
今回はとりあえず、ってわけだ

骸:さて、ここで長話をしても無駄だね
向かいながら話そうか、二人とも


【目的地に向かう三人】


茜:都市伝説っていうのは、わかりました
それで、何で禁足地に行くんですか?

尾先:禁足地は神域と言ったが、別の意味もある
それは、境界線だ

茜:境界線、ですか

尾先:あの世とこの世とでも言おうか
その境界線の役割もあると考えている

骸:都市伝説の中にも禁足地とは言われなくても、そういった役割をしている話はあるんだ
当然、都市伝説じゃなくてもだけどね
茜ちゃんにも分かりやすいのは…うーん
きさらぎ駅、かな

茜:あ!それ調べました!
結構、有名な話だったんですね
読んでて、ちょっと怖かったです

骸:きさらぎ駅の解釈は、人それぞれだけど、僕が見るには三つの境界があった
一つは、この世と駅を結ぶ境界、それが電車

茜:たしか、普通の電車に乗ってて、眠っていたら知らない場所に行くんでしたね

尾先:きさらぎ駅以外でも、そう言う話はある
有名なアニメ映画にも境界として電車が使われていたり
"眠る"という鍵を使う話もよくある

骸:二つ目は、電車ときさらぎ駅
ここで降りる選択をするのか、残る選択をするのか
これも境界線だね

茜:降りなかったらどうなるんですかね
あの話は降りてましたけど

骸:別の駅に行くよ

茜:え?知ってるんですか?

骸:きさらぎ駅は一つの境界なんだ
別の場所もあるってだけなんだよ
そして、三つ目…駅とその土地

茜:話の主人公が降りて彷徨った場所ですね

尾先:簡単な話だな
降りた土地が、あの世ってわけだ

茜:え?

骸:太鼓の音やトンネルっていう
鍵になる要素は覚えてる?

茜:はい、覚えてます
トンネルで人に出会ったとか

骸:それが案内人の役割になってるんだ
着いて行くと、あの世に連れていかれるってわけ

尾先:簡単に言えば三途の川だな
案内人がいるのも同じだ
知ってるか?奪衣婆だつえばや(懸衣翁けんえおうってやつだ

茜:うっ…そこまでは

骸:ま、死後の世界や地獄の話はまた今度とりあえず、境界があるってこと
それで今回の禁足地に行くのは、禁足地から禁足地への入り口、境界線を見つけるため

茜:繋がってる…?
都市伝説だから本当に存在しない場所
だから、存在してる場所から、違う場所に行く
そういうことですね?

尾先:中々、察しが良くなってきたな
だが、これも推測だから繋がるとは限らない
だから、無理かもしれないと言ったんだ

茜:骸さんでも無理なんですか?

骸:流石に繋げることは無理かな
入り口を見つける事はできてもね

茜:なんだか、難しい依頼だったんですね

尾先:単なる除霊じゃないからな


【間】


茜:ここですか?

尾先:あぁ、俺らの後ろを歩け
それで、やったことを真似ろ

骸:間違うと迷うからね
しっかり見ておくこと

茜:は、はい!

骸:うん、それじゃあ行こうか


【三人、禁足地へ入る】


茜:声って出しても平気ですか…?

尾先:ん?…あぁ、此処は大丈夫だ
次、一礼

茜:はい

骸:右足から歩き出すよ
一旦、揃えてね

茜:すごく厳しくないですか…?

尾先:神域、神様が見てると思ったらどうだ?
これくらいで厳しいと思うか?

茜:そう言われると…ごめんなさい…

骸:人はよく神にすがるけど
近い存在じゃないからね
本当に会ったり、見てもらう時は、礼儀や作法をしっかりしないとね
怒られちゃうよ

茜:そう言われたら、ぐうの音も出ません…

尾先:今日の経験を活かして、神様に頼み事をする時は、軽く考えず相手のことも考えないとな

茜:そうします、本当に



骸:来た

茜:え?

骸:止まって

尾先:視えるか?

骸:うん、ここの神域だけど
どうやら当たりではないね

尾先:よし、行くか

茜:あの、何かあるんですか?
目の前だけ、ぐにゃーとしてる様な

骸:茜ちゃんも視えるのかい?

茜:うーん、どうなんですかね?
ちょっと変な感じです

尾先:…どうやら、そっちの方も得意みたいだな

茜:そっち?

尾先:空間系の霊力と言おうか
俺は感じ取れるが、見えないんだ

骸:ちなみに僕は、はっきり視えてるよ
うん、茜ちゃんも少し視えてるなら問題ないね
そのまま真似してついて来て

茜:は、はい!


【間】


骸:いい?さっきの変な感じ
あれが境界線って思えばいいよ
つまり、此処からが本当の禁足地
本来は入っちゃいけない場所

茜:神域、ですね
あれ?じゃあさっきまでは

尾先:神様に見られている
そう言っただろ?
門前払いされずに中に入れてもらえたんだ

骸:そういうこと
今までが庭、玄関前
それで今は家の中…って言えば解りやすいよね

茜:なるほど!
うぅっ…寒いっていうか、重い…?ですかね?

尾先:あぁ、視線が鋭くなったんだろう
さて、ここで無礼があっては意味がない
此処でいいか

骸:そうだね
茜ちゃん、手を合わせて祈って
ここから出して下さいって

茜:え?出るんですか?

尾先:あぁ、長居するわけじゃない
此処を出る時の境界線で繋がればいいんだ
此処が目的地じゃないからな

茜:わかりました

【祈る三人】


骸:視える?

茜:また目の前が、ぐにゃーってなってます

尾先:どうやら本物だな
境界線の見分けができるようだ

骸:オサキ

尾先:ん?どうした?

骸:どうやら当たりだよ
この先に別の場所がある

尾先:本当か?

骸:うん、多分同じ世界だけど
禁足地の外じゃないみたいだ

茜:てことは、都市伝説の?

尾先:…いや、この場合…

骸:都市伝説じゃなくなった

茜:…え?

骸:とりあえず行こうか
繋がりが消えたら意味がなくなってしまう

尾先:…あぁ


【次の境界へ】



茜:さっきと変わらないですけど
重さは無くなりましたね

骸:あった、アレだよ

【建物が一つ、其処にはあった】


尾先:調べよう

茜:あっ!待ってください!


【周りを調べる骸】

骸:うん、一周見て回ったけど本物だね

茜:なんですか?この家
結構古いですね…しかも玄関も無いですし

尾先:パンドラ

茜:え?

尾先:都市伝説として語られていた場所だ
だが、これは都市伝説なんかじゃない
……本物だ

茜:本…物…?

骸:僕が説明するよ
今回の件、もし新解釈怪異譚だとすれば
こんな手順、踏まなくていいはずなんだ
依頼主の話を聞いただろう?
精神異常のような霊障があるんだ
一々、こんな手順を踏ませるなんて考えられない

茜:たしかに今までだったら
そういうの抜きにして強制的にって感じでしたね

骸:そう、だから"あえて"今回は手順を踏んだんだ
だけど、見当外れ
どうやら作られた物じゃ無い
本物が出てきたってわけ

茜:じゃ、じゃあ!その子はどうやってここに!?
確か、10歳前後の女の子でしたよね?
一人で禁足地に行くなんてあり得ないですよ!?

尾先:それは話しただろ
禁足地は至る所にあるんだ
偶々、偶然、チャンネルが合ったんだ
俺たちみたいに手順を踏んだわけじゃ無いが、同じように二つの境界を越えたんだろう

茜:そんなことってあるんですか?

骸:わかりやすい例で言えば神隠しに近いかな
あれも、そういうことだよ

茜:……納得です
それで、パンドラって?

尾先:……これ、読めるか?

【尾先、茜に禁后と打った携帯を見せる】

茜:きん…こう?ですか?

尾先:いいや、これに読み方はない
正確に言えば読み方を知っているのは一人だけ
そして、これは人の名前だ

茜:名前?これが?

骸:この怪異は、読めないから名前がない
何が有るのか、何が無いのか解らない
玄関、つまり出入り口すらない箱
色んなことを含めてパンドラって呼ばれてる

茜:それでこの家は何なんですか?

尾先:この話は、まだ調べてなかったか?

茜:そうですね…すみません

尾先:この家、というよりこの文字に意味がある
読み方がないから、話通りパンドラとする
この話は所謂、儀式というものだ

茜:儀式…ですか?
てことは、幽霊が出るー!とか
呪われるー!って話じゃないんですね

骸:いや、呪われるよ
これは、幽霊の話じゃなくて
どちらかと言えば呪い、祟りの方だから

茜:てことは、その字を見ると呪われる…?
あっ、てことは入院してる子ってもしかして、その字を見たってことですか!?

尾先:そういうことだ
……元の話は、天国に行く方法の話だ

茜:天国?

尾先:あぁ、母親が子どもを犠牲にしてな
その時に使われる物の一つがこの名前

茜:……子どもを犠牲?

骸:子供って漢字、供えるって書くでしょ?
昔から子を供物とする風習や怪異は多い
コトリバコだってそうだったよね?
こう言った話に子供と女は付き物だよ

茜:女?母親ってことですか?

尾先:いや、そうじゃないが、その話はまた追々な
話を戻すと、このパンドラの概要は
母親が子どもを犠牲に天国、楽園と言ってもいい
そこに行くための方法、儀式を行った
そして、その場所に迷い込んだって話なんだ

茜:子どもを犠牲にしてまで行きたい楽園って…
そんなもの、あるわけ!

尾先:母親は、二人または三人の娘を産み
その内の一人を『材料』に選ぶ
選んだ子に二つの名前を付けて
一つは母親だけが知る本当の名として、生涯隠し通すのが一つの条件

骸:その名前が禁后パンドラってわけで
名前からも推測できるように、禁には神域って意味があるんだ
禁足地にも付いてるでしょ?
次に后、これは分かると思うけど、特別な存在ってこと

茜:これが本当の場所ってことは、そんなことを本当にやってたってことですよね?
そんなの酷すぎる…

尾先:…それで、儀式を終えた後、母親は、楽園へと到達する
それは誰も知り得ることがない場所
そして、現実世界には髪を食べる抜け殻だけが残る

茜:髪を…食べる?

尾先:二つ目の条件、と三つ目も合わせるが、鏡と年齢だ
隠し通す名をつけた後、鏡台を用意する
そして、10歳、13歳、16歳の誕生日以外、それを見せてはいけないルールがある
そして、その年齢毎に儀式があり、最後の16歳の時
隠し名を告げ、娘を殺し、娘の髪を食べるんだ

茜:なんですか、それ…
そんなもので天国って…
ふざけてる……ふざけてる!

骸:茜ちゃん、君もこっちに関わって知ったはずだよ
怪異っていうのは、そういうものなんだ
汚い、醜い、非道、なんでもありさ
怪異は怖いだけじゃない
人間の醜さも、アイツらの様に霊に対して、非道を行う者も、そんな奴等を憎悪する者もいる
ハハッ、オサキよりも、ずっと、ね

茜:っ…

尾先:あまり感情移入するなよ
慣れも必要だ
そうしなければならない時だって

茜:それでも、私は…慣れたくないです

尾先:…あぁ、そうだな

骸:さて、概要も知ったところで、中に入ってみようじゃないか
何が出るかお楽しみ、正にパンドラの箱だ

茜:…はい!


【中へ入る三人】



茜:まさか、窓ガラス割って入るなんて…

骸:ははっ、これでいいんだよ

尾先:茜、初めに言っておく
鏡台を見つけても触るな、いいな

茜:あの話の…ですね

尾先:あぁ、隠されていた鏡台だ
普段は見えないはずだが、何がきっかけで、現れるか解らんからな
見つけて強制的に触る羽目になったら、中の紙は見るな、それが元凶だからな

茜:わかりました

骸:緊張しないで大丈夫
僕が後ろに居るからね

茜:心強いです!骸さん!

尾先:骸、視えるか?

骸:いや、全然だね
けど、居るよ

尾先:わかった

茜:えっ?

尾先:どうした?

茜:あれ…何で…涙が

骸:これは…取り憑いた、いや違う
共感、かな

尾先:茜、大丈夫か?

茜:うっあ…この感情は…

骸:茜ちゃんは僕が見てるよ
オサキは探してきて

尾先:あぁ、頼む

骸:茜ちゃん、落ち着いていいよ
大丈夫、深呼吸して

茜:止まらないんです…涙が…うっ…私…

骸:うん、大丈夫
今、どんな気持ち?
怒っているのかい?それとも憎んでる?

茜:私、…私は…


【間】



尾先:2階に上がる階段、ここか
尾先:……あれか


【鏡台を見つける】


尾先:なるほど、茜を引き込もうとしたのか?
俺には何もしてこない…いや、いるな
入ってきた時からずっと見てたのか?

【尾先の後ろに女の子が立っていた】

尾先:お前が視えるのが珍しいか?
そういう仕事をしてるんだ、俺はな
(何かおかしい…何もして来ない…?)

【口を開く女の子の霊】


尾先:何か言いたいのか?


【その頃、茜、骸たちは……】


茜?:私は…怒ってない…憎んでもない…
私は…私はただ…

骸:パンドラの材料になった子の魂に共感して、その子の意思が入ってるんだ
大丈夫、全部吐き出していいんだよ

茜:何で……あなたを、あなたに酷いことをしたのに

骸:(会話…?茜ちゃん…君は…)

茜?:それでも私は…悲しくもないの
私は、私はただ、もっと、お母さんと一緒に居たかった…

骸:……そうか
呪いや祟りの元は憎悪や怒りが多いけど、創作物なら尚更、面白おかしくするためにその色は強い
だが、本物だったら?紙を見た現象が、呪いや祟りじゃなく強制的なモノだとしたら?
僕としたことが見逃していた
純粋な子供なのか、このパンドラの中身は
……だとしたら、この子の魂は…



【間】


尾先:母親と一緒に居たかった…か
だが、その思いも母親の手で消されたんだ
怒って、憎んでもおかしくない

【笑いかける女の子の霊】

尾先:…とんだお人好しだな
お前に似て、人を恨むことをしない馬鹿を一人知ってるが……
だから、あいつに共感したのか?

骸:オサキ

尾先:大丈夫だっか?

骸:あぁ、それに茜ちゃんも大したモンだよ

尾先:どういうことだ?

骸:ほら

茜:この子の気持ち、聞けました
ずっと寂しかったんだって

尾先:会話したのか?

骸:うん、どうやらね
共感中に相手と会話するなんて、強靭な精神の持ち主だよ、全く

茜?:久しぶりに誰かと話せて楽しかった
この前、ここに来た子は私が見えなくて
紙を見てしまったけど…それが申し訳無くて…
あと、このお姉ちゃんが良いよって口を貸してくれたの

尾先:…なるほどな
あと、その子にも会った
というか、その関係でここに来たんだ

茜:え?返してくれるの?
あっ、じゃあ、尾先さんに


【尾先の手に髪が置かれる】

尾先:なんだ?…っと、これは髪か?

茜:あの子の髪らしいです

尾先:わかった、返しておく

【女の子の霊が一礼する】

茜:あ、そこに居たんですね!はじめまして!

骸:ハハッ、あの子は年下だよ

尾先:そういうことじゃないと思うが…

骸:ねぇ、君
お母さんと一緒に居たいんでしょ?
僕が会わせてあげるよ

茜?:え?本当に?会えるの?

骸:うん、もちろん
君は恨みや怒りはないにしても、ここに縛られているんだ
後悔や悲しみの思いも、もちろんだけど、1番はその鏡台と名前かな
そのせいで成仏できていない

尾先:何が目的だ?骸

骸:慈善事業

尾先:嘘だな

骸:ははっ!そうだね
ほしいものがあるんだ

茜:なんですか?
ちょっと不安な気持ちが湧いてきたんですけど

骸:名前だよ、君の

茜?:私の名前?

骸:僕に祟りや呪いの類は効かないからさ
君の名前を持ち帰ってもいいかな?

茜?:お母さんに会えるなら
ここにあっても意味ないのであげます
その代わりお母さんに会わせてください

骸:うん、いいよ
じゃあ、目を閉じて
あ、茜ちゃんとの共感も解いてね

【成仏する女の子の霊】

茜:あっ…

尾先:おっと…、大丈夫か?

茜:すみません…少しフラっときて

骸:取り憑いてたわけじゃないけど
もう一人の意思が入ってたからね
さて、……これかな

尾先:……楽妃がくき

骸:読み方はないでしょ、これもパンドラ
うん、名前はやっぱり楽園と存在を現してるね

茜:それ、どうするんですか?

骸:元々は祟りの元だし、これも蒐集品の一つだよ
うん、霊力や呪力は感じられない

茜:あの子は会えるんですか?

尾先:さぁな、死後の世界は知らんが
骸、お前なら解るんだろ?

骸:楽園、天国…
そんなもの人間が作った空想さ
……ってことで済ましてもいいかな
あっちのことについて僕からは語れない

尾先:その発言が問題じゃないのか?

骸:ははっ、どう捉えてもいいよ
それはその人の勝手だ

茜:会えますよね、絶対

骸:そんな純粋な目を向けられると困るなぁ
じゃあ少しだけ
同じ場所には行けたよ
母親が髪を食べる抜け殻になるって話
あれは魂が死んだわけじゃない、一種の廃人と同じだよ

茜:じゃあ、死んでない…
生きてたってことですか?

尾先:途中で気づくんじゃないか?
自分の手で娘を殺し、髪を食べる
どこかで正気に戻って、またどこかで狂うんだろ
本当に楽園に行けるのは、ずっと狂ったままの奴かもな

茜:…やっぱり酷い話です
私は許せないです

尾先:珍しいな、自分事ならなんでも許すお前がな
いや、そういう奴か、お前は
他人事だと怒り、助けようとする

茜:……

骸:その思考は時に自分を壊すからね
ほどほどにしなよ、特に霊には、ね

茜:…はい

尾先:さて、帰るか
これも渡さないとな

骸:そうだね、思わぬ収穫もあったことだし
……ん?これは…

尾先:どうした?

骸:…どうやら、まだ帰れないみたいだ

茜:…え?どういうことですか?

骸:三つ目の境界が繋がったみたいだ
ハハッ、これはこれは…

尾先:な、なんだ…この雰囲気は…




茜:『ここから先 立ち入るべからず』
『誰が決めたのか 境界線』
『この世とあの世の 境界線』
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