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第一章
第六話 境界の先 後
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骸:…どうやら、まだ帰れないみたいだ
茜:…え?どういうことですか?
骸:三つ目の境界が繋がったみたいだ
ハハッ、これはこれは…
尾先:な、なんだ…この雰囲気は…
茜:大丈夫なんですか!?別の出口とか!
尾先:…元々パンドラの家だ
出入り口である玄関はない
入ってきた窓も、別空間に繋がっている
この様子だと、他の窓も同じだろうな
骸:繋がりが消える気配が全く無いね
呼んでるのかもしれないよ?
茜:新解釈怪異譚…?
尾先:いや、それは無いはずだ
ここは本物だからな
骸:僕も同意
とりあえず行ってみようか
パンドラの箱は、開けたら災いが起こると言われているし、このまま帰えるなんて、味気ないよね
茜:災いって…
骸さんのこと分かってはいましたけど、楽しんでませんか?
骸:ははっ、どうだろう?
尾先:行くか
ここに居ても帰れないからな
3人は次の境界へ進む
空間が歪み、味わったことのない感覚が茜を襲った
それは、長いようで一瞬の出来事だった
空間に入りすぐに、光が差し込んだ
茜:ここは…駅?
あれ?駅って…
尾先:都市伝説から、都市伝説に繋がるとはな
骸:そうとも限らないよ
パンドラは本物だったでしょ?
……ほら、あそこを見て
茜:ことろう?
聞いたことがないですね
尾先:当たり前だ
きさらぎ駅ならぬ、ことろう駅ってわけだ
茜:えっ…てことは、ここは
骸:うん、また別の駅
僕が話したこと覚えてる?
電車から降りなかったらどうなるか
茜:あ!確か別の場所に行くって
骸:そういうこと
茜:まさか、ここも本当に存在する場所ってことですか?
尾先:だろうな
ことろうに、おぬ…片方は消えてるのか?
骸:古い駅だからね
ホームを越えて見に行きたいけど
うーん、行くのはおすすめできないかな
茜:え、これって帰れるんですか!?
…うわっ!たしかに向こう側、変な感じがする…
尾先:禁足地…いや、空間系の霊障に合ったと、考えるべきか
お前の霊視も強くなってるな
茜:それ、あまり嬉しくないような気がします
今からどうします?
骸:話を聞いてみようか
ほら、あそこ
尾先:駅員がいるとは思えないが…
行ってみるか
【改札に向かう】
茜:えっ…何これ?
尾先:触るな
…霊的なナニカがある
骸、まさかこれは
骸:呪具、霊具の類だね
すごい…僕の蒐集品より多い
駅員:あぁ、それは私たちのモノだ
気軽に触れたり、見ないでほしいなァ
茜:え…誰!?……駅員さん…?
尾先:人…じゃないな
駅員:おや?…ほうほう、ほう!
珍しいな!本物じゃあないか!
そっちも!んん?あぁ!その目!
あぁ、良い、良いぞォ!
うぅん?…女、お前はなんだ?半々だァ…
茜:ちょっ、な!?
何なんですか!ジロジロ見て!
駅員:半々、いやー…、うん?
狐の匂いがするなァ…?
人の身で狐と契約したのか!
はははははは、面白い、気に入った
尾先:お前はなんだ?
この駅の駅員なのか?
駅員:人間の作ったものを模倣しているからなァ
駅員と言えばそうだ
じゃないと言えば、それもまた、そうだ
骸:なるほど…大体解ったよ
面白い体験だ、少し話を聞いてみようか
僕はそっちが気になるけどね
駅員:私たちのモノに目を付けるか!
その目、その目だァ
どれが良い?どれが良いと思う?
尾先:はぁ…これは、すぐには帰れそうにないな
多少、俺も気にはなる
付き合うぞ
茜:は、はい
けど、大丈夫なんですかね?
尾先:危害を加えるつもりなら、とっくにやられてる
どうやら、本物の霊感がある奴が来たのが、珍しいんだろう
茜:あの、私の半々ってなんですかね?
尾先:霊感があると言っても、お前はそんなに強くない
あの駅員から見れば、まだ半々
普通の人間と、特別な人間の半々
そういう意味だろうな
茜:さっきから喜んでいいのか、悪いのか
変な気分ですよ
【間】
骸:へぇ…この縄、どこに繋がっているのかな?
駅員:ここに持って来た時には、もう伸びたのだ
本来は3メートルほどの縄だったぞォ
尾先:首吊り用の縄だな
…なるほど、“本来のまま”残り
ここに来た時に、この形状になったのか
駅員:ほう、ほうほう!そう見るか!
これは凄いぞォ、見てみろ
茜:えっ、何これ…血?
え!?血が垂れてきた!?
骸:記憶しているんだ
自殺じゃないね?
これは、猟奇殺人って感じかな?
駅員:良い!そうだ、そうなのだ
頭を殴殺した後、首吊りにしたのだ
その時の血が流れている
無限に湧いてくるのだ!血が!
骸:その人の怨念が詰まっている
これは呪具の方だ
この縄を切って使うといいかもね
茜:…呪具…
骸:あ、君にはトラウマかな?
茜:い、いえ!別にそういうわけじゃないんですけど
あまり良いものじゃないので
駅員:まさに人間の感想だ
これは良いものだぞォ?
尾先:すまないな、こいつは一度、呪われているんだ
駅員:ンン?はぁ…そうか
ヒトガタかァ…
尾先:お前…どこまで見えているんだ?
駅員:はははははは、件の目をなァ
骸:件は予見しかできないんじゃないのかい?
駅員:あァ…知っているなァ…
そうだ、特注だァ
水晶体に、雲外鏡の破片を使ったのだ
これは良かった、うん、凄く
茜:件?
それって妖怪ですよね?
尾先:知っていたか
茜:はい、妖怪も調べろって言ってたじゃないですか
結構、有名な妖怪みたいだったので調べてました!
骸:これは…人の目?
駅員:あァ!それはなァ!
赤羽が持ってきたヤツだァ
尾先:赤羽?妖怪か?
駅員:いいやァ、違う
目を集めるのが趣味なヤツさァ
ただの人の目だがなァ
アイツの持ってくる目は綺麗なんだァ
骸:いや、これも呪具だ
赤羽は悪霊か、神に近い霊体だね
おそらく、肝試しなんかで自分の領域に入った人間の目を取るんだろう
目に恐怖の念が籠りすぎてる
駅員:騙せん、騙せんのかァ
その目、良い、良いぞォ
茜:うっ…これ
ちょっと、気持ち悪い…
全部、幽霊とか呪いのものなんですよね?
これ、変な感じが…
駅員:半々、いやァ?
見えやすいモノがあるのか?
それは指だァ
茜:指?これが…?
尾先:薬指だな、切れ目に痕がある……結婚指輪か?
骸:契約、ってことだね
生霊と近い成り立ちかな?
多分、男の指
指輪は既製品じゃなくて、ハンドメイド
茜:もしかして自分たちで作った指輪に、怨念が宿ったって話ですか?
骸:ハハッ、流石、女の子
察しがいいね
駅員:面白い、面白いだろう?
契約を破ったのだ
指が奇形した、それほどの念を受けた指だァ
尾先:お前が感じ取ったのは、その念だな
割と新しいモノだろう
茜:…なるほど
駅員:気に入ったかァ?
此処には色々あるからなァ
だが、やれん、やれんのだ
私たちのモノだからなァ
尾先:気になっていたが、駅員同士で共有しているのか?
それとも、この空間自体が共有されているのか?
駅員:お前も良い
真実は教えられん
お前たちが名を教えないように
茜:気づいてた…!
骸:僕は君が気づいている方が驚きだよ?
茜:骸さんが、君って言ったので
いつもは名前を呼んでくれるし
霊が近い時は、偽名で呼びますよね!
だけど、今は偽名でもなかった
多分、偽名でもダメなのかなって
尾先:そこまで察しがいいとは思わなかったな
お前じゃ偽名でもバレてただろうからな
…いや、雲外鏡の水晶体がある
元々、知っているのか?
駅員:いいや、知らんなァ
名は盗めん
骸:それじゃ、もう少し見ていきたいのと
貴方の機嫌を良くするために
本題、話していいかな?
尾先:おい…まだ見る気か?
骸:こんな経験ないよ
オサキ、君も見ておくべきだ
ここは宝の山だよ
尾先:…一理はあるが
茜:私は大丈夫ですよ
二人がいるので!
尾先:お前な……はぁ、分かった
それで?本題っていうのは?
駅員:戻る方法だろォ?
すぐに気づいたみたいだがなァ
骸:ここの蒐集品は対価、でしょ?
駅員:はははははは
ァァ…良い
骸:どこかの駅に行くためには、切符が必要だよね
切符を買うならお金が必要だ
尾先:…なるほど
切符の対価が、コレってわけか
茜:じゃあ、こんなにあるってことは
それだけ駅を利用した人がいる?
骸:人だけじゃない
赤羽って言ったかな?
ここは、怪異も使う、そうだろ?
駅員:人間は人間で利用価値がある
時々、紛れ込む奴もいるがァ…
茜:神隠し…?
尾先:禁足地もパンドラも、この駅も空間系の霊障
神隠しで、何処かに行くとすれば、此処に来てもおかしくはないな
駅員:それでお前たちは何処に行く?
骸:一番近い現実世界、とでも言えばいいかい?
駅員:他の場所には行かんのか?
骸:やることがあるんだ
その為に、帰る必要がある
駅員:ほォ?…あー…
骸:それ以上、僕から視るのは赦さないよ
駅員:あー…解った、その目は駄目だァ…
関係がないのだろう?
茜:あ、あの!対価って言っても私たち何も持ってないですよ?
切符買えないんじゃ…
骸:あるよ
茜:えっ?あるんですか?
尾先:まさか、アレか?
骸:うん、3人分の切符になるかな?
駅員:どれ、見てみようかァ
【骸はパンドラで貰った紙を渡す】
駅員:これはァ…隠し名か?
ほう、…うん、うんうん
骸:霊力や呪力は感じられないけど本物だよ
駅員:関係ないな
此処にコレがあることが重要なのだ
良い、価値がある
茜:やっぱり、名前ってそれだけ重要なんですか?
言ってしまえば紙切れですよね?
尾先:あぁ、前にも話したが、名前は意味を与えるものだが
それとは別に、縛りも与える
茜:縛り?
尾先:魂を縛るんだ
隷属と言ってもいいかもしれない
茜:てことは、あの紙を渡したらあの子が!
骸さん!いいんですか!?
骸:手出しは出来ないし
そもそも、する気もないはずだよ
駅員:あぁ、それをするのは別だァ
私たちは蒐集家なのだ
使うのは別だァ
骸:僕と同じだね
駅員:お前の目が良い…良いのだ
骸:無理だよ
駅員:今は、なァ……お前たちとの会話
それから、その目を見れた感動
そして隠し名、うん…惜しい、惜しいぞ
骸:強欲だな
尾先:だったら、これもやる
惜しいんだろう?
それで十分なはずだ
駅員:狐の毛…か?
尾先:あぁ、普通じゃないがな
駅員:解る、これは上物だ
骸:いいのかい?
尾先:あぁ、使うこともなさそうだからな
茜:狐の毛って、もしかして
尾先:俺の、な
茜:あっ!はい、そうですね
何に使うんですか?
尾先:モノによるが、あれは魔除けが強いな
茜:そんな力があるんですね
駅員:いい、いいだろう
3人分、これでいい
骸:てことで、もう少し見せてもらうよ
機嫌も良くなってくれたなら嬉しいんだけど
駅員:では、こちらも見せてやろう
はははははは、何が見たい?
【間】
茜:あんな生き生きしている骸さん
私は初めてかもしれないです
尾先:本業だからな
茜:私は途中から気持ち悪くなりました
尾先:あれだけのモノが集まっているからな
保った方だと思うぞ
茜:また喜んでいいのか分からないやつ…
尾先:だが、今回の経験
お前にとっては貴重だったな
茜:それは、そうかもしれないですね
一つ聞いてもいいですか?
尾先:なんだ?
茜:ここが本物の駅として
都市伝説のきさらぎ駅の人は、何か対価を払ったから、戻ったんですかね?
まぁ…作り話ならそんなモノないのかもしれないですけど
尾先:…考察、だが
あの駅員の口から、俺たちとの会話も対価の査定に入っていた
茜:たしかにそうでしたね
尾先:何も持たない一般人が対価を払えるとは思えない
だったら払えるモノ、それは
この駅に降りて、この地を彷徨った経験と記憶
茜:経験と記憶?それが対価に?
尾先:あぁ、何らかの形でそれを取ることができるんだろう
それに、件や雲外鏡と言った妖怪の名前も出てきた
記憶や夢を糧にする妖怪もいる
だとすれば、それに使える可能性がある
茜:人間は人間で利用価値がある…?
尾先:それも言っていたな
大方、そういうことだろう
茜:記憶や経験…
私の記憶や経験はどうですか?
尾先:…俺たちと一緒にいる以上、普通だな
たが、価値はあるさ
俺はそれよりも…いや、なんでもない
茜:気になる言い方ですね
なんとなく分かりますけど
尾先:はぁ…今日はやけに察しがいいな
俺からは聞かないからな
話したくなったら話せ
茜:…はい
尾先:さて、あいつを迎えに行くぞ
ほっとけば、いつ帰れるか分からんからな
茜:そうですね!
【骸を迎えに行く2人】
骸:じゃあ、これは?
駅員:ミツメイシか
それぞれに意味があるのだ
骸:催眠と…ん?へぇ、肥大化か
あとは石化、というより廃人?
駅員:視えるかァ、そこまで
骸:三つ目と見つめるが掛かってるね
これ、こっちにあるかい?
駅員:江戸時代にそちらで見つかったのだ
あの時代以降、聞かないがァ
骸:ふぅん?
尾先:骸、もういいか?
骸:あぁ、待たせたね
隠し名分は見ておかないと損だろう?
尾先:あいつも待ってるからな
そろそろ帰るぞ
骸:ハハッ!名残惜しい!
また来ようかな
駅員:骸と言ったな
お前は良い、此処に居ても良い存在だァ
これをやろう、そう、これを
骸:切符?此処のかい?
駅員:いや、何処の駅に繋がるかは解らん
私だけ独占するのは駄目なのだ
ただし、一度だけだァ
骸:ありがたく使わせてもらおう
茜:二人とも!電車!電車が来ましたよ!
尾先:あぁ、分かった
骸:お邪魔したね
駅員:いい、私は感動したのだ
またいずれ逢う日まで
【駅員と別れ、電車へと向かう】
骸:最後のあれは予見かなぁ?
尾先:件の目か、どうだろうな
茜:乗って大丈夫なんですよね?
尾先:あぁ、行こう
【電車に乗る3人】
茜:色んなことがありましたね
尾先:あぁ、一番喜んだのはお前だろうがな
骸:当たり前じゃないか
あんな数の蒐集品は見れないよ
茜:あはは…あれっ?
急に眠気が…
骸:眠るが鍵だからね
これは強制的な眠りだよ
尾先:俺も疲れた
強制的に眠らせてくれるなら、ありがたい
茜:緊張感…が、全…然ない、です…
骸:ははっ、みんなおやすみ
良い夢を
ーーーそして、眠る。
長い間、夢を見ているような
何も感じられないような
現実と夢の境界が曖昧な世界を旅する。
茜:うっ…うーん?あれ?
尾先:起きたか
茜:ここは?
骸:やぁ、茜ちゃん
いい夢は見れたかい?
茜:あっ、そうか
帰ってきたんですね
尾先:あぁ、どうやら禁足地の手前まで送ってもらったみたいだな
茜:あ、本当だ
よかったー、またあの森を抜けるのかと
骸:さて、僕はここまでかな
尾先:あぁ、あとは俺がやっておく
骸:じゃあね、茜ちゃん
オサキも
茜:あ!はい!ありがとうございました!
【間】
茜:返しに行かないとですね
尾先:そうだな…
茜:?どうかしました?
尾先:いや、なんでもない
帰るぞ
茜:あ!待ってください!
駅員:『ここから先 立ち入るべからず
誰が決めたのか 境界線
この世とあの世の 境界線
また一人 また一人 越えていく』
境界の先 終
茜:…え?どういうことですか?
骸:三つ目の境界が繋がったみたいだ
ハハッ、これはこれは…
尾先:な、なんだ…この雰囲気は…
茜:大丈夫なんですか!?別の出口とか!
尾先:…元々パンドラの家だ
出入り口である玄関はない
入ってきた窓も、別空間に繋がっている
この様子だと、他の窓も同じだろうな
骸:繋がりが消える気配が全く無いね
呼んでるのかもしれないよ?
茜:新解釈怪異譚…?
尾先:いや、それは無いはずだ
ここは本物だからな
骸:僕も同意
とりあえず行ってみようか
パンドラの箱は、開けたら災いが起こると言われているし、このまま帰えるなんて、味気ないよね
茜:災いって…
骸さんのこと分かってはいましたけど、楽しんでませんか?
骸:ははっ、どうだろう?
尾先:行くか
ここに居ても帰れないからな
3人は次の境界へ進む
空間が歪み、味わったことのない感覚が茜を襲った
それは、長いようで一瞬の出来事だった
空間に入りすぐに、光が差し込んだ
茜:ここは…駅?
あれ?駅って…
尾先:都市伝説から、都市伝説に繋がるとはな
骸:そうとも限らないよ
パンドラは本物だったでしょ?
……ほら、あそこを見て
茜:ことろう?
聞いたことがないですね
尾先:当たり前だ
きさらぎ駅ならぬ、ことろう駅ってわけだ
茜:えっ…てことは、ここは
骸:うん、また別の駅
僕が話したこと覚えてる?
電車から降りなかったらどうなるか
茜:あ!確か別の場所に行くって
骸:そういうこと
茜:まさか、ここも本当に存在する場所ってことですか?
尾先:だろうな
ことろうに、おぬ…片方は消えてるのか?
骸:古い駅だからね
ホームを越えて見に行きたいけど
うーん、行くのはおすすめできないかな
茜:え、これって帰れるんですか!?
…うわっ!たしかに向こう側、変な感じがする…
尾先:禁足地…いや、空間系の霊障に合ったと、考えるべきか
お前の霊視も強くなってるな
茜:それ、あまり嬉しくないような気がします
今からどうします?
骸:話を聞いてみようか
ほら、あそこ
尾先:駅員がいるとは思えないが…
行ってみるか
【改札に向かう】
茜:えっ…何これ?
尾先:触るな
…霊的なナニカがある
骸、まさかこれは
骸:呪具、霊具の類だね
すごい…僕の蒐集品より多い
駅員:あぁ、それは私たちのモノだ
気軽に触れたり、見ないでほしいなァ
茜:え…誰!?……駅員さん…?
尾先:人…じゃないな
駅員:おや?…ほうほう、ほう!
珍しいな!本物じゃあないか!
そっちも!んん?あぁ!その目!
あぁ、良い、良いぞォ!
うぅん?…女、お前はなんだ?半々だァ…
茜:ちょっ、な!?
何なんですか!ジロジロ見て!
駅員:半々、いやー…、うん?
狐の匂いがするなァ…?
人の身で狐と契約したのか!
はははははは、面白い、気に入った
尾先:お前はなんだ?
この駅の駅員なのか?
駅員:人間の作ったものを模倣しているからなァ
駅員と言えばそうだ
じゃないと言えば、それもまた、そうだ
骸:なるほど…大体解ったよ
面白い体験だ、少し話を聞いてみようか
僕はそっちが気になるけどね
駅員:私たちのモノに目を付けるか!
その目、その目だァ
どれが良い?どれが良いと思う?
尾先:はぁ…これは、すぐには帰れそうにないな
多少、俺も気にはなる
付き合うぞ
茜:は、はい
けど、大丈夫なんですかね?
尾先:危害を加えるつもりなら、とっくにやられてる
どうやら、本物の霊感がある奴が来たのが、珍しいんだろう
茜:あの、私の半々ってなんですかね?
尾先:霊感があると言っても、お前はそんなに強くない
あの駅員から見れば、まだ半々
普通の人間と、特別な人間の半々
そういう意味だろうな
茜:さっきから喜んでいいのか、悪いのか
変な気分ですよ
【間】
骸:へぇ…この縄、どこに繋がっているのかな?
駅員:ここに持って来た時には、もう伸びたのだ
本来は3メートルほどの縄だったぞォ
尾先:首吊り用の縄だな
…なるほど、“本来のまま”残り
ここに来た時に、この形状になったのか
駅員:ほう、ほうほう!そう見るか!
これは凄いぞォ、見てみろ
茜:えっ、何これ…血?
え!?血が垂れてきた!?
骸:記憶しているんだ
自殺じゃないね?
これは、猟奇殺人って感じかな?
駅員:良い!そうだ、そうなのだ
頭を殴殺した後、首吊りにしたのだ
その時の血が流れている
無限に湧いてくるのだ!血が!
骸:その人の怨念が詰まっている
これは呪具の方だ
この縄を切って使うといいかもね
茜:…呪具…
骸:あ、君にはトラウマかな?
茜:い、いえ!別にそういうわけじゃないんですけど
あまり良いものじゃないので
駅員:まさに人間の感想だ
これは良いものだぞォ?
尾先:すまないな、こいつは一度、呪われているんだ
駅員:ンン?はぁ…そうか
ヒトガタかァ…
尾先:お前…どこまで見えているんだ?
駅員:はははははは、件の目をなァ
骸:件は予見しかできないんじゃないのかい?
駅員:あァ…知っているなァ…
そうだ、特注だァ
水晶体に、雲外鏡の破片を使ったのだ
これは良かった、うん、凄く
茜:件?
それって妖怪ですよね?
尾先:知っていたか
茜:はい、妖怪も調べろって言ってたじゃないですか
結構、有名な妖怪みたいだったので調べてました!
骸:これは…人の目?
駅員:あァ!それはなァ!
赤羽が持ってきたヤツだァ
尾先:赤羽?妖怪か?
駅員:いいやァ、違う
目を集めるのが趣味なヤツさァ
ただの人の目だがなァ
アイツの持ってくる目は綺麗なんだァ
骸:いや、これも呪具だ
赤羽は悪霊か、神に近い霊体だね
おそらく、肝試しなんかで自分の領域に入った人間の目を取るんだろう
目に恐怖の念が籠りすぎてる
駅員:騙せん、騙せんのかァ
その目、良い、良いぞォ
茜:うっ…これ
ちょっと、気持ち悪い…
全部、幽霊とか呪いのものなんですよね?
これ、変な感じが…
駅員:半々、いやァ?
見えやすいモノがあるのか?
それは指だァ
茜:指?これが…?
尾先:薬指だな、切れ目に痕がある……結婚指輪か?
骸:契約、ってことだね
生霊と近い成り立ちかな?
多分、男の指
指輪は既製品じゃなくて、ハンドメイド
茜:もしかして自分たちで作った指輪に、怨念が宿ったって話ですか?
骸:ハハッ、流石、女の子
察しがいいね
駅員:面白い、面白いだろう?
契約を破ったのだ
指が奇形した、それほどの念を受けた指だァ
尾先:お前が感じ取ったのは、その念だな
割と新しいモノだろう
茜:…なるほど
駅員:気に入ったかァ?
此処には色々あるからなァ
だが、やれん、やれんのだ
私たちのモノだからなァ
尾先:気になっていたが、駅員同士で共有しているのか?
それとも、この空間自体が共有されているのか?
駅員:お前も良い
真実は教えられん
お前たちが名を教えないように
茜:気づいてた…!
骸:僕は君が気づいている方が驚きだよ?
茜:骸さんが、君って言ったので
いつもは名前を呼んでくれるし
霊が近い時は、偽名で呼びますよね!
だけど、今は偽名でもなかった
多分、偽名でもダメなのかなって
尾先:そこまで察しがいいとは思わなかったな
お前じゃ偽名でもバレてただろうからな
…いや、雲外鏡の水晶体がある
元々、知っているのか?
駅員:いいや、知らんなァ
名は盗めん
骸:それじゃ、もう少し見ていきたいのと
貴方の機嫌を良くするために
本題、話していいかな?
尾先:おい…まだ見る気か?
骸:こんな経験ないよ
オサキ、君も見ておくべきだ
ここは宝の山だよ
尾先:…一理はあるが
茜:私は大丈夫ですよ
二人がいるので!
尾先:お前な……はぁ、分かった
それで?本題っていうのは?
駅員:戻る方法だろォ?
すぐに気づいたみたいだがなァ
骸:ここの蒐集品は対価、でしょ?
駅員:はははははは
ァァ…良い
骸:どこかの駅に行くためには、切符が必要だよね
切符を買うならお金が必要だ
尾先:…なるほど
切符の対価が、コレってわけか
茜:じゃあ、こんなにあるってことは
それだけ駅を利用した人がいる?
骸:人だけじゃない
赤羽って言ったかな?
ここは、怪異も使う、そうだろ?
駅員:人間は人間で利用価値がある
時々、紛れ込む奴もいるがァ…
茜:神隠し…?
尾先:禁足地もパンドラも、この駅も空間系の霊障
神隠しで、何処かに行くとすれば、此処に来てもおかしくはないな
駅員:それでお前たちは何処に行く?
骸:一番近い現実世界、とでも言えばいいかい?
駅員:他の場所には行かんのか?
骸:やることがあるんだ
その為に、帰る必要がある
駅員:ほォ?…あー…
骸:それ以上、僕から視るのは赦さないよ
駅員:あー…解った、その目は駄目だァ…
関係がないのだろう?
茜:あ、あの!対価って言っても私たち何も持ってないですよ?
切符買えないんじゃ…
骸:あるよ
茜:えっ?あるんですか?
尾先:まさか、アレか?
骸:うん、3人分の切符になるかな?
駅員:どれ、見てみようかァ
【骸はパンドラで貰った紙を渡す】
駅員:これはァ…隠し名か?
ほう、…うん、うんうん
骸:霊力や呪力は感じられないけど本物だよ
駅員:関係ないな
此処にコレがあることが重要なのだ
良い、価値がある
茜:やっぱり、名前ってそれだけ重要なんですか?
言ってしまえば紙切れですよね?
尾先:あぁ、前にも話したが、名前は意味を与えるものだが
それとは別に、縛りも与える
茜:縛り?
尾先:魂を縛るんだ
隷属と言ってもいいかもしれない
茜:てことは、あの紙を渡したらあの子が!
骸さん!いいんですか!?
骸:手出しは出来ないし
そもそも、する気もないはずだよ
駅員:あぁ、それをするのは別だァ
私たちは蒐集家なのだ
使うのは別だァ
骸:僕と同じだね
駅員:お前の目が良い…良いのだ
骸:無理だよ
駅員:今は、なァ……お前たちとの会話
それから、その目を見れた感動
そして隠し名、うん…惜しい、惜しいぞ
骸:強欲だな
尾先:だったら、これもやる
惜しいんだろう?
それで十分なはずだ
駅員:狐の毛…か?
尾先:あぁ、普通じゃないがな
駅員:解る、これは上物だ
骸:いいのかい?
尾先:あぁ、使うこともなさそうだからな
茜:狐の毛って、もしかして
尾先:俺の、な
茜:あっ!はい、そうですね
何に使うんですか?
尾先:モノによるが、あれは魔除けが強いな
茜:そんな力があるんですね
駅員:いい、いいだろう
3人分、これでいい
骸:てことで、もう少し見せてもらうよ
機嫌も良くなってくれたなら嬉しいんだけど
駅員:では、こちらも見せてやろう
はははははは、何が見たい?
【間】
茜:あんな生き生きしている骸さん
私は初めてかもしれないです
尾先:本業だからな
茜:私は途中から気持ち悪くなりました
尾先:あれだけのモノが集まっているからな
保った方だと思うぞ
茜:また喜んでいいのか分からないやつ…
尾先:だが、今回の経験
お前にとっては貴重だったな
茜:それは、そうかもしれないですね
一つ聞いてもいいですか?
尾先:なんだ?
茜:ここが本物の駅として
都市伝説のきさらぎ駅の人は、何か対価を払ったから、戻ったんですかね?
まぁ…作り話ならそんなモノないのかもしれないですけど
尾先:…考察、だが
あの駅員の口から、俺たちとの会話も対価の査定に入っていた
茜:たしかにそうでしたね
尾先:何も持たない一般人が対価を払えるとは思えない
だったら払えるモノ、それは
この駅に降りて、この地を彷徨った経験と記憶
茜:経験と記憶?それが対価に?
尾先:あぁ、何らかの形でそれを取ることができるんだろう
それに、件や雲外鏡と言った妖怪の名前も出てきた
記憶や夢を糧にする妖怪もいる
だとすれば、それに使える可能性がある
茜:人間は人間で利用価値がある…?
尾先:それも言っていたな
大方、そういうことだろう
茜:記憶や経験…
私の記憶や経験はどうですか?
尾先:…俺たちと一緒にいる以上、普通だな
たが、価値はあるさ
俺はそれよりも…いや、なんでもない
茜:気になる言い方ですね
なんとなく分かりますけど
尾先:はぁ…今日はやけに察しがいいな
俺からは聞かないからな
話したくなったら話せ
茜:…はい
尾先:さて、あいつを迎えに行くぞ
ほっとけば、いつ帰れるか分からんからな
茜:そうですね!
【骸を迎えに行く2人】
骸:じゃあ、これは?
駅員:ミツメイシか
それぞれに意味があるのだ
骸:催眠と…ん?へぇ、肥大化か
あとは石化、というより廃人?
駅員:視えるかァ、そこまで
骸:三つ目と見つめるが掛かってるね
これ、こっちにあるかい?
駅員:江戸時代にそちらで見つかったのだ
あの時代以降、聞かないがァ
骸:ふぅん?
尾先:骸、もういいか?
骸:あぁ、待たせたね
隠し名分は見ておかないと損だろう?
尾先:あいつも待ってるからな
そろそろ帰るぞ
骸:ハハッ!名残惜しい!
また来ようかな
駅員:骸と言ったな
お前は良い、此処に居ても良い存在だァ
これをやろう、そう、これを
骸:切符?此処のかい?
駅員:いや、何処の駅に繋がるかは解らん
私だけ独占するのは駄目なのだ
ただし、一度だけだァ
骸:ありがたく使わせてもらおう
茜:二人とも!電車!電車が来ましたよ!
尾先:あぁ、分かった
骸:お邪魔したね
駅員:いい、私は感動したのだ
またいずれ逢う日まで
【駅員と別れ、電車へと向かう】
骸:最後のあれは予見かなぁ?
尾先:件の目か、どうだろうな
茜:乗って大丈夫なんですよね?
尾先:あぁ、行こう
【電車に乗る3人】
茜:色んなことがありましたね
尾先:あぁ、一番喜んだのはお前だろうがな
骸:当たり前じゃないか
あんな数の蒐集品は見れないよ
茜:あはは…あれっ?
急に眠気が…
骸:眠るが鍵だからね
これは強制的な眠りだよ
尾先:俺も疲れた
強制的に眠らせてくれるなら、ありがたい
茜:緊張感…が、全…然ない、です…
骸:ははっ、みんなおやすみ
良い夢を
ーーーそして、眠る。
長い間、夢を見ているような
何も感じられないような
現実と夢の境界が曖昧な世界を旅する。
茜:うっ…うーん?あれ?
尾先:起きたか
茜:ここは?
骸:やぁ、茜ちゃん
いい夢は見れたかい?
茜:あっ、そうか
帰ってきたんですね
尾先:あぁ、どうやら禁足地の手前まで送ってもらったみたいだな
茜:あ、本当だ
よかったー、またあの森を抜けるのかと
骸:さて、僕はここまでかな
尾先:あぁ、あとは俺がやっておく
骸:じゃあね、茜ちゃん
オサキも
茜:あ!はい!ありがとうございました!
【間】
茜:返しに行かないとですね
尾先:そうだな…
茜:?どうかしました?
尾先:いや、なんでもない
帰るぞ
茜:あ!待ってください!
駅員:『ここから先 立ち入るべからず
誰が決めたのか 境界線
この世とあの世の 境界線
また一人 また一人 越えていく』
境界の先 終
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