オサキ怪異相談所

てくす

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第一章

第六話 境界の先 後

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骸:…どうやら、まだ帰れないみたいだ

茜:…え?どういうことですか?

骸:三つ目の境界が繋がったみたいだ
  ハハッ、これはこれは…

尾先:な、なんだ…この雰囲気は…

茜:大丈夫なんですか!?別の出口とか!

尾先:…元々パンドラの家だ
   出入り口である玄関はない
   入ってきた窓も、別空間に繋がっている
   この様子だと、他の窓も同じだろうな

骸:繋がりが消える気配が全く無いね
  呼んでるのかもしれないよ?

茜:新解釈怪異譚…?

尾先:いや、それは無いはずだ
   ここは本物だからな

骸:僕も同意
  とりあえず行ってみようか
  パンドラの箱は、開けたら災いが起こると言われているし、このまま帰えるなんて、味気ないよね

茜:災いって… 
  骸さんのこと分かってはいましたけど、楽しんでませんか?

骸:ははっ、どうだろう?

尾先:行くか
   ここに居ても帰れないからな



3人は次の境界へ進む
空間が歪み、味わったことのない感覚が茜を襲った
それは、長いようで一瞬の出来事だった
空間に入りすぐに、光が差し込んだ



茜:ここは…駅?
  あれ?駅って…

尾先:都市伝説から、都市伝説に繋がるとはな

骸:そうとも限らないよ
  パンドラは本物だったでしょ?
  ……ほら、あそこを見て

茜:ことろう?
  聞いたことがないですね

尾先:当たり前だ
   きさらぎ駅ならぬ、ことろう駅ってわけだ

茜:えっ…てことは、ここは

骸:うん、また別の駅
  僕が話したこと覚えてる?
  電車から降りなかったらどうなるか

茜:あ!確か別の場所に行くって

骸:そういうこと

茜:まさか、ここも本当に存在する場所ってことですか?

尾先:だろうな
   ことろうに、おぬ…片方は消えてるのか?

骸:古い駅だからね
  ホームを越えて見に行きたいけど
  うーん、行くのはおすすめできないかな

茜:え、これって帰れるんですか!?
  …うわっ!たしかに向こう側、変な感じがする…

尾先:禁足地…いや、空間系の霊障に合ったと、考えるべきか
   お前の霊視も強くなってるな

茜:それ、あまり嬉しくないような気がします
  今からどうします?

骸:話を聞いてみようか
  ほら、あそこ

尾先:駅員がいるとは思えないが…
   行ってみるか


【改札に向かう】



茜:えっ…何これ?

尾先:触るな
   …霊的なナニカがある
   骸、まさかこれは

骸:呪具、霊具の類だね
  すごい…僕の蒐集品より多い

駅員:あぁ、それは私たちのモノだ
   気軽に触れたり、見ないでほしいなァ

茜:え…誰!?……駅員さん…?

尾先:人…じゃないな

駅員:おや?…ほうほう、ほう!
   珍しいな!本物じゃあないか!
   そっちも!んん?あぁ!その目!
   あぁ、良い、良いぞォ!
   うぅん?…女、お前はなんだ?半々だァ…

茜:ちょっ、な!?
  何なんですか!ジロジロ見て!

駅員:半々、いやー…、うん?
   狐の匂いがするなァ…?
   人の身で狐と契約したのか!
   はははははは、面白い、気に入った


尾先:お前はなんだ?
   この駅の駅員なのか?

駅員:人間の作ったものを模倣しているからなァ
   駅員と言えばそうだ
   じゃないと言えば、それもまた、そうだ

骸:なるほど…大体解ったよ
  面白い体験だ、少し話を聞いてみようか
  僕はそっちが気になるけどね

駅員:私たちのモノに目を付けるか!
   その目、その目だァ
   どれが良い?どれが良いと思う?

尾先:はぁ…これは、すぐには帰れそうにないな
   多少、俺も気にはなる
   付き合うぞ

茜:は、はい
  けど、大丈夫なんですかね?

尾先:危害を加えるつもりなら、とっくにやられてる
   どうやら、本物の霊感がある奴が来たのが、珍しいんだろう

茜:あの、私の半々ってなんですかね?

尾先:霊感があると言っても、お前はそんなに強くない
   あの駅員から見れば、まだ半々
   普通の人間と、特別な人間の半々
   そういう意味だろうな

茜:さっきから喜んでいいのか、悪いのか
  変な気分ですよ


【間】


骸:へぇ…この縄、どこに繋がっているのかな?

駅員:ここに持って来た時には、もう伸びたのだ
   本来は3メートルほどの縄だったぞォ

尾先:首吊り用の縄だな
   …なるほど、“本来のまま”残り
   ここに来た時に、この形状になったのか

駅員:ほう、ほうほう!そう見るか!
   これは凄いぞォ、見てみろ

茜:えっ、何これ…血?
  え!?血が垂れてきた!?

骸:記憶しているんだ
  自殺じゃないね?
  これは、猟奇殺人って感じかな?

駅員:良い!そうだ、そうなのだ
   頭を殴殺した後、首吊りにしたのだ
   その時の血が流れている
   無限に湧いてくるのだ!血が!

骸:その人の怨念が詰まっている
  これは呪具の方だ
  この縄を切って使うといいかもね

茜:…呪具…

骸:あ、君にはトラウマかな?

茜:い、いえ!別にそういうわけじゃないんですけど
  あまり良いものじゃないので

駅員:まさに人間の感想だ
   これは良いものだぞォ?

尾先:すまないな、こいつは一度、呪われているんだ

駅員:ンン?はぁ…そうか
   ヒトガタかァ…

尾先:お前…どこまで見えているんだ?

駅員:はははははは、くだんの目をなァ

骸:くだんは予見しかできないんじゃないのかい?

駅員:あァ…知っているなァ…
   そうだ、特注だァ
   水晶体に、雲外鏡の破片を使ったのだ
   これは良かった、うん、凄く

茜:くだん
  それって妖怪ですよね?

尾先:知っていたか

茜:はい、妖怪も調べろって言ってたじゃないですか
  結構、有名な妖怪みたいだったので調べてました!

骸:これは…人の目?

駅員:あァ!それはなァ!
   赤羽あかばねが持ってきたヤツだァ

尾先:赤羽?妖怪か?

駅員:いいやァ、違う
   目を集めるのが趣味なヤツさァ
   ただの人の目だがなァ
   アイツの持ってくる目は綺麗なんだァ

骸:いや、これも呪具だ
  赤羽は悪霊か、神に近い霊体だね
  おそらく、肝試しなんかで自分の領域に入った人間の目を取るんだろう
  目に恐怖の念が籠りすぎてる

駅員:騙せん、騙せんのかァ
   その目、良い、良いぞォ

茜:うっ…これ
  ちょっと、気持ち悪い… 
  全部、幽霊とか呪いのものなんですよね?
  これ、変な感じが…

駅員:半々、いやァ?
   見えやすいモノがあるのか?
   それは指だァ

茜:指?これが…?

尾先:薬指だな、切れ目に痕がある……結婚指輪か?

骸:契約、ってことだね
  生霊と近い成り立ちかな?
  多分、男の指
  指輪は既製品じゃなくて、ハンドメイド

茜:もしかして自分たちで作った指輪に、怨念が宿ったって話ですか?

骸:ハハッ、流石、女の子
  察しがいいね

駅員:面白い、面白いだろう?
   契約を破ったのだ
   指が奇形した、それほどの念を受けた指だァ

尾先:お前が感じ取ったのは、その念だな
   割と新しいモノだろう

茜:…なるほど

駅員:気に入ったかァ?
   此処には色々あるからなァ
   だが、やれん、やれんのだ
   私たちのモノだからなァ

尾先:気になっていたが、駅員同士で共有しているのか?
   それとも、この空間自体が共有されているのか?

駅員:お前も良い
   真実は教えられん
   お前たちが名を教えないように

茜:気づいてた…!

骸:僕は君が気づいている方が驚きだよ?

茜:骸さんが、君って言ったので
  いつもは名前を呼んでくれるし
  霊が近い時は、偽名で呼びますよね!
  だけど、今は偽名でもなかった
  多分、偽名でもダメなのかなって

尾先:そこまで察しがいいとは思わなかったな
   お前じゃ偽名でもバレてただろうからな
   …いや、雲外鏡の水晶体がある
   元々、知っているのか?

駅員:いいや、知らんなァ
   名は盗めん

骸:それじゃ、もう少し見ていきたいのと
  貴方の機嫌を良くするために
  本題、話していいかな?

尾先:おい…まだ見る気か?

骸:こんな経験ないよ
  オサキ、君も見ておくべきだ
  ここは宝の山だよ

尾先:…一理はあるが

茜:私は大丈夫ですよ
  二人がいるので!

尾先:お前な……はぁ、分かった
            それで?本題っていうのは?

駅員:戻る方法だろォ?
   すぐに気づいたみたいだがなァ

骸:ここの蒐集品は対価、でしょ?

駅員:はははははは
   ァァ…良い

骸:どこかの駅に行くためには、切符が必要だよね
  切符を買うならお金が必要だ

尾先:…なるほど
   切符の対価が、コレってわけか

茜:じゃあ、こんなにあるってことは
  それだけ駅を利用した人がいる?

骸:人だけじゃない
  赤羽って言ったかな?
  ここは、怪異も使う、そうだろ?

駅員:人間は人間で利用価値がある
   時々、紛れ込む奴もいるがァ…

茜:神隠し…?

尾先:禁足地もパンドラも、この駅も空間系の霊障
   神隠しで、何処かに行くとすれば、此処に来てもおかしくはないな

駅員:それでお前たちは何処に行く?

骸:一番近い現実世界、とでも言えばいいかい?

駅員:他の場所には行かんのか?

骸:やることがあるんだ
  その為に、帰る必要がある

駅員:ほォ?…あー…

骸:それ以上、僕から視るのは赦さないよ

駅員:あー…解った、その目は駄目だァ…
   関係がないのだろう?

茜:あ、あの!対価って言っても私たち何も持ってないですよ?
  切符買えないんじゃ…

骸:あるよ

茜:えっ?あるんですか?

尾先:まさか、アレか?

骸:うん、3人分の切符になるかな?

駅員:どれ、見てみようかァ


【骸はパンドラで貰った紙を渡す】


駅員:これはァ…隠し名か?
   ほう、…うん、うんうん

骸:霊力や呪力は感じられないけど本物だよ

駅員:関係ないな
   此処にコレがあることが重要なのだ
   良い、価値がある

茜:やっぱり、名前ってそれだけ重要なんですか?
  言ってしまえば紙切れですよね?

尾先:あぁ、前にも話したが、名前は意味を与えるものだが
   それとは別に、縛りも与える

茜:縛り?

尾先:魂を縛るんだ
   隷属と言ってもいいかもしれない

茜:てことは、あの紙を渡したらあの子が!
  骸さん!いいんですか!?

骸:手出しは出来ないし
  そもそも、する気もないはずだよ

駅員:あぁ、それをするのは別だァ
   私たちは蒐集家なのだ
   使うのは別だァ

骸:僕と同じだね

駅員:お前の目が良い…良いのだ

骸:無理だよ

駅員:今は、なァ……お前たちとの会話
   それから、その目を見れた感動
   そして隠し名、うん…惜しい、惜しいぞ

骸:強欲だな

尾先:だったら、これもやる
   惜しいんだろう?
   それで十分なはずだ

駅員:狐の毛…か?

尾先:あぁ、普通じゃないがな

駅員:解る、これは上物だ

骸:いいのかい?

尾先:あぁ、使うこともなさそうだからな

茜:狐の毛って、もしかして

尾先:俺の、な

茜:あっ!はい、そうですね
  何に使うんですか?

尾先:モノによるが、あれは魔除けが強いな

茜:そんな力があるんですね

駅員:いい、いいだろう
   3人分、これでいい

骸:てことで、もう少し見せてもらうよ
  機嫌も良くなってくれたなら嬉しいんだけど

駅員:では、こちらも見せてやろう
   はははははは、何が見たい?



【間】



茜:あんな生き生きしている骸さん
  私は初めてかもしれないです

尾先:本業だからな

茜:私は途中から気持ち悪くなりました

尾先:あれだけのモノが集まっているからな
   保った方だと思うぞ

茜:また喜んでいいのか分からないやつ…

尾先:だが、今回の経験
   お前にとっては貴重だったな

茜:それは、そうかもしれないですね
  一つ聞いてもいいですか?

尾先:なんだ?

茜:ここが本物の駅として
  都市伝説のきさらぎ駅の人は、何か対価を払ったから、戻ったんですかね?
  まぁ…作り話ならそんなモノないのかもしれないですけど

尾先:…考察、だが
   あの駅員の口から、俺たちとの会話も対価の査定に入っていた

茜:たしかにそうでしたね

尾先:何も持たない一般人が対価を払えるとは思えない
   だったら払えるモノ、それは
   この駅に降りて、この地を彷徨った経験と記憶

茜:経験と記憶?それが対価に?

尾先:あぁ、何らかの形でそれを取ることができるんだろう
   それに、件や雲外鏡と言った妖怪の名前も出てきた
   記憶や夢を糧にする妖怪もいる
   だとすれば、それに使える可能性がある

茜:人間は人間で利用価値がある…?

尾先:それも言っていたな
   大方、そういうことだろう

茜:記憶や経験…
  私の記憶や経験はどうですか?

尾先:…俺たちと一緒にいる以上、普通だな
   たが、価値はあるさ
   俺はそれよりも…いや、なんでもない

茜:気になる言い方ですね
  なんとなく分かりますけど

尾先:はぁ…今日はやけに察しがいいな
   俺からは聞かないからな
   話したくなったら話せ

茜:…はい

尾先:さて、あいつを迎えに行くぞ
   ほっとけば、いつ帰れるか分からんからな

茜:そうですね!



【骸を迎えに行く2人】



骸:じゃあ、これは?

駅員:ミツメイシか
   それぞれに意味があるのだ

骸:催眠と…ん?へぇ、肥大化か
  あとは石化、というより廃人?

駅員:視えるかァ、そこまで

骸:三つ目と見つめるが掛かってるね
  これ、こっちにあるかい?

駅員:江戸時代にそちらで見つかったのだ
   あの時代以降、聞かないがァ

骸:ふぅん?

尾先:骸、もういいか?

骸:あぁ、待たせたね
  隠し名分は見ておかないと損だろう?

尾先:あいつも待ってるからな
   そろそろ帰るぞ

骸:ハハッ!名残惜しい!
  また来ようかな

駅員:骸と言ったな
   お前は良い、此処に居ても良い存在だァ
   これをやろう、そう、これを

骸:切符?此処のかい?

駅員:いや、何処の駅に繋がるかは解らん
   私だけ独占するのは駄目なのだ
   ただし、一度だけだァ

骸:ありがたく使わせてもらおう

茜:二人とも!電車!電車が来ましたよ!

尾先:あぁ、分かった

骸:お邪魔したね

駅員:いい、私は感動したのだ
   またいずれ逢う日まで



【駅員と別れ、電車へと向かう】



骸:最後のあれは予見かなぁ?

尾先:件の目か、どうだろうな

茜:乗って大丈夫なんですよね?

尾先:あぁ、行こう


【電車に乗る3人】


茜:色んなことがありましたね

尾先:あぁ、一番喜んだのはお前だろうがな

骸:当たり前じゃないか
  あんな数の蒐集品は見れないよ

茜:あはは…あれっ?
  急に眠気が…

骸:眠るが鍵だからね
  これは強制的な眠りだよ

尾先:俺も疲れた
   強制的に眠らせてくれるなら、ありがたい

茜:緊張感…が、全…然ない、です…

骸:ははっ、みんなおやすみ
  良い夢を




ーーーそして、眠る。
長い間、夢を見ているような
何も感じられないような
現実と夢の境界が曖昧な世界を旅する。






茜:うっ…うーん?あれ?

尾先:起きたか

茜:ここは?

骸:やぁ、茜ちゃん
  いい夢は見れたかい?

茜:あっ、そうか
  帰ってきたんですね

尾先:あぁ、どうやら禁足地の手前まで送ってもらったみたいだな

茜:あ、本当だ
  よかったー、またあの森を抜けるのかと

骸:さて、僕はここまでかな

尾先:あぁ、あとは俺がやっておく

骸:じゃあね、茜ちゃん
  オサキも

茜:あ!はい!ありがとうございました!


【間】


茜:返しに行かないとですね

尾先:そうだな…

茜:?どうかしました?

尾先:いや、なんでもない
   帰るぞ

茜:あ!待ってください!





駅員:『ここから先 立ち入るべからず
    誰が決めたのか 境界線
    この世とあの世の 境界線
    また一人 また一人 越えていく』



境界の先 終
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