蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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仙界

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「いくら神力が強いと言っても所詮は下流神。賜った命は人間と同じ年月としつきにしかならん」
「ど、どういうことでしょう、か……?」
「下流神は人間からいただいた寿命が一年なら一年、十年なら十年にしかならん。わしら中流神は十倍……つまり一年いただけば十年、十年なら百年分になるということじゃ。上流神の狐雲様は百倍……十年受けただけでも千年の価値に変えることができるんじゃ」

 狐雲が近年下界に降りていない、と言ったのはそのためだった。もはや、ほぼ願い聞きをする必要がないのである。

 下流であればあるほど、下界に頻繁に降り、人の寿命を分けてもらうことが必要なのだ。
 なのに蛇珀はいろりと出逢ってから、一度も願い聞きをしていなかったのである。

天獄様てんごくさまに献上する分を除けば、そう余裕はないじゃろうが」

 『てんごくさま?』……という新しい単語を耳にし、いろりはその意味を問いかけようとした。
 ――が、それは狐雲の声音により叶わなくなる。

「蛇珀、そなた…………よもや、人になろうとしているのではあるまいな」

 ――――仙界に、戦慄が走った。
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