蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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仙界

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 思いがけぬ狐雲の言葉に、鷹海は目を泳がせ、気を荒くして蛇珀を見た。

「貴様……正気か!? 神が人になどなれるはずがないじゃろ!!」

 鷹海の言う通り、神が“完全に人”になる、ということは例のないことである。
 
「貴様の残り寿命が尽きれば、露のごとく消えるだけじゃ! そんなことは貴様もわかっとるじゃろ!!」

 いろりは声も出せず立ち尽くしていた。
 それは、蛇珀の死を意味していたからだ。

 しかし蛇珀は鷹海に応じなかった。
 応じるだけの術を持っていなかったと言った方が正しいかもしれない。

「……せえ」
「……は?」
「うるせえんだよ! もうほっとけよ!!」
「――なっ……」
「行こうぜ、いろり!」
「蛇珀」
「なんだよ!?」

 琥珀色の瞳が、鋭い光を持って蛇珀を射た。

「許可なく神と人の垣根を越えようものなら、天獄様のお怒りを買おうぞ」

 蛇珀は二人の忠告も聞かず、未だ言葉を失っているいろりの手を握ると、強引に引きその場から逃げるように立ち去った。
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