蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
60 / 182
仙界

28

しおりを挟む
「追わずともよい」

 後を追う姿勢を見せた鷹海だったが、狐雲の一声で立ち位置に戻ると、遠くの霧に消えていく白銀色の髪を見送った。

 鷹海はひどく苛立っていた。それはもう、気が気でないというほどに。

「あいつは……一体どうするつもりなんじゃ」
「気がかりで仕様がないの」
「ああ、本当に……」

 つい同調してしまった自身に気がつくと、鷹海はあからさまに焦った。

「いや! 別にわしは、その!」
「私に隠しだてなど無意味だとわかっておろう。憎まれ口を叩いておっても、そなたも蛇珀を気に入っておるのは知っておる」

 からかうように薄く笑う狐雲に、鷹海はあきらめたように応える。

「う……そ、そうですな。……なんというか、あいつは危なっかしくて、放っておけぬといいますか……」
「ずいぶん昔に学法に似たようなことを言われたの」
「――狐雲様がですか!?」
「いかにも」

 ――確かに狐雲様は生真面目に見えて奔放な方でいらっしゃるからな……。

 鷹海は一見両極端に見える狐雲と蛇珀の共通点を垣間見ていた。

「私たちが口を出せるのはここまでである。後はあの二人がどう出るか……」
「三百年前の二の舞にならねばよいのですが……」

 二人は大きな不安、そして微かな期待を込め待つことを決めた。
しおりを挟む

処理中です...