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第三章 冒険者修行編
第十話 ゴブリンの殺害現場
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「ここから先が伏魔殿だ。伏魔殿は――」
今日から魔物の闊歩する伏魔殿での実習訓練が開始される。
今は伏魔殿との境界におり、今日の教官であるクーノから既に何度も聞かされた伏魔殿での注意事項を再度聞かされているところだ。
しかし、今の俺にはクーノの言葉が右耳から左耳へと通過してしまい、内容が全く頭に入ってこない。なぜならば、眼前に広がる景色に心を奪われているからだ。
伏魔殿のことは話で聞いていて書物でも散々読んできたが、実際に自分の目で見ると何とも言えない気持ちになった。というのも、今、俺の前には陽炎の如く揺らめく不思議な光景が左右に大きく広がっている。
伏魔殿とは、魔素が留まる所謂魔素溜まりで、停留して淀んだ魔素が魔物を生み出す地とされている。そして、伏魔殿と呼ばれる範囲の中には神殿が存在している。が、その神殿にだけ魔物が存在しているわけではなく、伏魔殿と称される場所の何処にでも魔物は存在し、むしろ神殿の内部には魔物が存在していないらしい。
伏魔殿と呼ばれる理由は、『魔物が伏して待つ神殿のある土地』からきているので、どうやら『神殿の中に魔物が居る』と勘違いしている者も多いようだ。
では、その伏魔殿と呼ばれる場所をどのように判断しているのかと言うと、通常の地と伏魔殿を隔てる境界が存在しており、その境界は陽炎の様に揺らいだ特別な景色に見え、左右に壁の如く続いているので一目瞭然なのだ。
しかし、この陽炎は人によって見え方と言うか把握できる距離が違うようで、概ね五十メートルから十メートル程まで近付かなければ目に映らない。
そして不思議なことに、陽炎のような境界が見えない場所から伏魔殿があるべきその先を見ると、なぜか伏魔殿は見えずに通常の森などが続いているように見えるのだ。しかし、実際に境界の中に入ると、そこは拓かれた平地であったり、急な上り坂のある丘だったりと、境界の外から見た景色とあからさまに違っていたりするとのことだ。
そう考えると、境界で見られる揺らめきは陽炎ではなく蜃気楼なのかもしれないが、蜃気楼は殆ど揺らめかない。なので、境界で目にする景色は陽炎でも蜃気楼でもない特別な現象なのだろう。
「では、これより境界を越え伏魔殿に入る。通常、魔物が境界付近に出没することは少ないが、全く無いとは言えない。くれぐれも気を抜かず、すぐに戦闘ができるように身支度と心の準備をしておけ」
一通り生徒を見回したクーノは、「行くぞ」と一言発すると境界に入っていった。そして、俺達生徒もそのクーノを追うように境界を越えた。
境界を越えた途端、俺は大気に混じった魔素の量が多いことを肌で感じたが、皆は「おー」やら「へー」やら単に景色が変化した事に感嘆の声を上げていた。
「気を緩めるな」
感嘆の声を上げる生徒に、厳しい表情のクーノが一喝した。
境界を越えるまでは辺り一面が木に覆われていたにも拘らず、境界を越えた瞬間に目の前五十メートル程には木のない平原が広がっているのだ。
初めてこの変化を目の当たりにすれば、驚いてキョロキョロしてしまうのは仕方のないのかもしれない。だがしかし、この地は既に魔物が住まう地である伏魔殿なのだ。油断は禁物、命取りである。
ちなみに、俺は境界の揺らぎを見た時に驚愕したので、これ以上は驚かないようにしようと自制していた結果、今は冷静だ。
「貴様らは魔物が跳梁跋扈する伏魔殿にいるということを自覚しろ!」
やいのやいの騒いでいた生徒達が、クーノの言葉でハッとした表情を浮かべ、皆が息を呑み真剣な面持ちとなった。
今回からの実習訓練の場となる伏魔殿では、二つのパーティに対して教官が一人となっており、教官は待機組と一緒に生徒の戦闘を見守るようだ。
そして、今回同行するパーティは、数日後に卒業検定を控えた冒険者学校の中ではベテランパーティだ。そのため、伏魔殿に入ってやいのやいの言っていたのは、実はシュヴァーンのメンバーだけであった。
「やっと落ち着いたようだな。では、これから周囲を警戒しつつ前進する」
クーノの声に皆が頷き、先頭に立って歩みを進めるするクーノの後に俺達生徒も続いた。
通常の森では斥候役が各パーティから選ばれ、その斥候が先行偵察を行うのだが、伏魔殿では教官が先頭に立って生徒を誘導するようだ。
とはいえ、俺はそのまま後に続くだけというのも性に合わないので、しれっと探索魔法を発動した。
ちなみに、気配を察知する『探知魔法』と魔力を察知する『魔力探知魔法』を併用した魔法を俺は『探索魔法』と呼んでいる。
左斜め前方の林の中に反応が五つ。どれも魔力を持ってるな。
取り敢えず、エルフィに『魔力探知魔法』の練習をさせるために、五つの存在を教えててくてく歩く。
程なくして三体のゴブリンを発見し、ベテランパーティがフルボッコにしている様子を見学した。
「片付いたようだな」
クーノはそう口にすると、俺達を引き連れてゴブリンの死骸の方へ向かった。
いや~、それにしても何だな、俺と背丈の変わらない人型の魔物がタコ殴りにされていた姿は、やっぱ見るに耐えなかったな。でも、それをやらないわけにはいかないんだよな。
こんなことなら、見てしまう前に自分で先に戦っていた方が良かったな。
ゴブリンの死骸を間近で見ると、少々気分が重くなってしまった。
「ゴブリンの討伐証明の部位は左耳だ。魔石を取り出す前に剥ぎ取れ」
先程ベテランパーティが倒したゴブリンを使って、教官のクーノが講義を開始した。
伏魔殿初心者の俺達シュヴァーンに対し、授業で習ったとはいえ実物の魔物を見るのが初めてなのを考慮してだろう、改めて討伐証明部位を教えてくれ、剥ぎ取りもクーノが実際に手順を口にしながら見せてくれた。
ゴブリンがタコ殴りにされていたのを見ただけで気が重くなっていたのに、その死体から耳を削ぎ魔石を取り出すのを見させられるとか……。う~ん、何ともいえない気持ちになるな。
でも、ここで足踏みするわけにはいかないよな。
心を強く持て俺! あれは二足歩行をする人間に似た形状の魔物だ! あれは倒さなければいけない存在。あれはゴブリン。ゴブリンは魔物。そう、決してあれは人間では無い!
俺は自分に暗示をかけるように内心で自分を鼓舞し、ゴブリンを倒さなければならない現状を受け入れ、クーノの説明に耳を傾けた。
そして俺は、クーノの説明を聞きながら、座学の授業で教わった注意事項を思い出していた。
魔物は魔素から生まれた生物なので、核となる魔石が無くなると消滅してしまう。しかし、例え死体であっても魔石が体内にある状態で剥ぎ取られた部位は消滅しないのだ。
これを間違って先に魔石を取り出してしまうと、剥ぎ取った素材が消滅に向かって徐々に消えていってしまう。
討伐証明のためだけに剥ぎ取るゴブリンなら、討伐報酬が貰えないだけで済むのだが、これが皮や鱗など防具の素材になったりする物だと目も当てられない。
消えてしまう素材が市場に出てしまえば、素材を加工している工房などが大損害を被る。それが故意か不注意かなど関係ない。多方面に損害を与える事実だけが残るのだ。そんな事態にならないよう、十分に注意しなければいけない。
「冒険者となって丸一年の期間、魔物の素材が即日換金できないのは、この事故を起こさないように慎重に行動させる為の処置だ。先に身体から魔石を取り外された魔物の素材は伏魔殿から外に出すと、一日から二日で見に見えて小さくなる。それを確認してからの換金となるため、新人は素材を納めてから三日後に換金されるわけだ」
誤って消えてしまう素材を流通させないように事故防止のため、新人冒険者は素材を一時的に冒険者ギルドに預け、素材を剥いでから魔石を取ったことを確認されるのだとクーノは熱弁していた。
「それでも罰則は無いんすよね?」
「王国や戦闘ギルド、そして冒険者ギルドから罰金等を取られるような罰則は無い。しかし、剥ぎ取りミスの履歴は残されるので、それが積み重なると受けられる依頼が結果的に減る」
ヨルクの質問にクーノが答えた。
受けられる依頼が減るとはどういうことかと言うと、単に討伐だけの依頼であればさほど問題は無いが、素材を得るための依頼の場合、肝心の素材が無くなっては目も当てられない。そうなると、剥ぎ取りミスがあった冒険者が依頼を受けようとしても、それを断るように依頼主がギルドに注文するのだ。
依頼主は、『まだ一度なら』や『十回以下なら多めに見てやろう』などと寛容な者もいれば、『一度のミスですらあってはならない』といった者もいる。
結果的に、例え法的な罰則が無くても、ミスをすることで冒険者は自分で自分の首を絞めてしまうのだ。
「それでしたらぁ、新人以外の冒険者が換金した素材は即日流通してしますよねぇ。その場合はどなたが換金した素材かわからなくなるのではありませんかぁ?」
イルザがなかなか良いことを聞いた。
「そうならないよう、ギルドでは三日間は素材に冒険者の札を付けて保存し、それから流通経路に乗せている。その期間に素材が小さくなるようであれば、その素材を換金した者に出頭命令を出し、受け取った報酬を返金させている。この出頭命令を無視すれば王国中のギルドに連絡が周り、何処にいようとも必ず返金してもらう。これに応じて返金すればお咎めは無いが、一年間返金が無ければ冒険者資格の剥奪となる」
何とも厳しい上に、素材を三日間も貯めて置かなければならなかったりと、ギルドの仕事としては効率が悪い気もするが、素材の見分けが数日観察しなければならないとなれば仕方のないのだろう。それに、一年間も返金をしないでいるってことは、その冒険者は依頼も受けられないだろうから、返金しない時点で冒険者として活動はできないよな。
そうなったら、冒険者としての人生はお終いだ。だからそうならないように気をつけるのだろうが、ミスってのは気をつけていても犯してしまうことがあるし、それが重なると冒険者として信用がなくなり、結果的には冒険者を続けられないんだろうな。
うん、素材の剥ぎ取りは細心の注意を払うように心掛けよう。
「でもー、小さくなったかどーかは元の大きさがわからなければ判断できないじゃないですかー。どーやってわかるんですかー?」
ミリィも鋭い質問をクーノに投げかけた。
そうだよな。仮に体積や重量だとしても、元の体積や重量を予め調べて控えておき、三日後に再度調べて小さくなっていないか確認をするわけだろうから、その作業は途轍もない労力なんじゃないかと思う。
「その方法は教えられないが、確実に判断できる」
へー、古代技術か何かなのかな? 気になるけど、それを教えろと言ったところで教えてはくれないのだろうから、気にするだけ無駄なのだろうな。
こんな感じで、座学の野外授業が行なわれるのが実習訓練だが、ゴブリンの殺害現場なのがなんとも言えない気分になるのであった。
今日から魔物の闊歩する伏魔殿での実習訓練が開始される。
今は伏魔殿との境界におり、今日の教官であるクーノから既に何度も聞かされた伏魔殿での注意事項を再度聞かされているところだ。
しかし、今の俺にはクーノの言葉が右耳から左耳へと通過してしまい、内容が全く頭に入ってこない。なぜならば、眼前に広がる景色に心を奪われているからだ。
伏魔殿のことは話で聞いていて書物でも散々読んできたが、実際に自分の目で見ると何とも言えない気持ちになった。というのも、今、俺の前には陽炎の如く揺らめく不思議な光景が左右に大きく広がっている。
伏魔殿とは、魔素が留まる所謂魔素溜まりで、停留して淀んだ魔素が魔物を生み出す地とされている。そして、伏魔殿と呼ばれる範囲の中には神殿が存在している。が、その神殿にだけ魔物が存在しているわけではなく、伏魔殿と称される場所の何処にでも魔物は存在し、むしろ神殿の内部には魔物が存在していないらしい。
伏魔殿と呼ばれる理由は、『魔物が伏して待つ神殿のある土地』からきているので、どうやら『神殿の中に魔物が居る』と勘違いしている者も多いようだ。
では、その伏魔殿と呼ばれる場所をどのように判断しているのかと言うと、通常の地と伏魔殿を隔てる境界が存在しており、その境界は陽炎の様に揺らいだ特別な景色に見え、左右に壁の如く続いているので一目瞭然なのだ。
しかし、この陽炎は人によって見え方と言うか把握できる距離が違うようで、概ね五十メートルから十メートル程まで近付かなければ目に映らない。
そして不思議なことに、陽炎のような境界が見えない場所から伏魔殿があるべきその先を見ると、なぜか伏魔殿は見えずに通常の森などが続いているように見えるのだ。しかし、実際に境界の中に入ると、そこは拓かれた平地であったり、急な上り坂のある丘だったりと、境界の外から見た景色とあからさまに違っていたりするとのことだ。
そう考えると、境界で見られる揺らめきは陽炎ではなく蜃気楼なのかもしれないが、蜃気楼は殆ど揺らめかない。なので、境界で目にする景色は陽炎でも蜃気楼でもない特別な現象なのだろう。
「では、これより境界を越え伏魔殿に入る。通常、魔物が境界付近に出没することは少ないが、全く無いとは言えない。くれぐれも気を抜かず、すぐに戦闘ができるように身支度と心の準備をしておけ」
一通り生徒を見回したクーノは、「行くぞ」と一言発すると境界に入っていった。そして、俺達生徒もそのクーノを追うように境界を越えた。
境界を越えた途端、俺は大気に混じった魔素の量が多いことを肌で感じたが、皆は「おー」やら「へー」やら単に景色が変化した事に感嘆の声を上げていた。
「気を緩めるな」
感嘆の声を上げる生徒に、厳しい表情のクーノが一喝した。
境界を越えるまでは辺り一面が木に覆われていたにも拘らず、境界を越えた瞬間に目の前五十メートル程には木のない平原が広がっているのだ。
初めてこの変化を目の当たりにすれば、驚いてキョロキョロしてしまうのは仕方のないのかもしれない。だがしかし、この地は既に魔物が住まう地である伏魔殿なのだ。油断は禁物、命取りである。
ちなみに、俺は境界の揺らぎを見た時に驚愕したので、これ以上は驚かないようにしようと自制していた結果、今は冷静だ。
「貴様らは魔物が跳梁跋扈する伏魔殿にいるということを自覚しろ!」
やいのやいの騒いでいた生徒達が、クーノの言葉でハッとした表情を浮かべ、皆が息を呑み真剣な面持ちとなった。
今回からの実習訓練の場となる伏魔殿では、二つのパーティに対して教官が一人となっており、教官は待機組と一緒に生徒の戦闘を見守るようだ。
そして、今回同行するパーティは、数日後に卒業検定を控えた冒険者学校の中ではベテランパーティだ。そのため、伏魔殿に入ってやいのやいの言っていたのは、実はシュヴァーンのメンバーだけであった。
「やっと落ち着いたようだな。では、これから周囲を警戒しつつ前進する」
クーノの声に皆が頷き、先頭に立って歩みを進めるするクーノの後に俺達生徒も続いた。
通常の森では斥候役が各パーティから選ばれ、その斥候が先行偵察を行うのだが、伏魔殿では教官が先頭に立って生徒を誘導するようだ。
とはいえ、俺はそのまま後に続くだけというのも性に合わないので、しれっと探索魔法を発動した。
ちなみに、気配を察知する『探知魔法』と魔力を察知する『魔力探知魔法』を併用した魔法を俺は『探索魔法』と呼んでいる。
左斜め前方の林の中に反応が五つ。どれも魔力を持ってるな。
取り敢えず、エルフィに『魔力探知魔法』の練習をさせるために、五つの存在を教えててくてく歩く。
程なくして三体のゴブリンを発見し、ベテランパーティがフルボッコにしている様子を見学した。
「片付いたようだな」
クーノはそう口にすると、俺達を引き連れてゴブリンの死骸の方へ向かった。
いや~、それにしても何だな、俺と背丈の変わらない人型の魔物がタコ殴りにされていた姿は、やっぱ見るに耐えなかったな。でも、それをやらないわけにはいかないんだよな。
こんなことなら、見てしまう前に自分で先に戦っていた方が良かったな。
ゴブリンの死骸を間近で見ると、少々気分が重くなってしまった。
「ゴブリンの討伐証明の部位は左耳だ。魔石を取り出す前に剥ぎ取れ」
先程ベテランパーティが倒したゴブリンを使って、教官のクーノが講義を開始した。
伏魔殿初心者の俺達シュヴァーンに対し、授業で習ったとはいえ実物の魔物を見るのが初めてなのを考慮してだろう、改めて討伐証明部位を教えてくれ、剥ぎ取りもクーノが実際に手順を口にしながら見せてくれた。
ゴブリンがタコ殴りにされていたのを見ただけで気が重くなっていたのに、その死体から耳を削ぎ魔石を取り出すのを見させられるとか……。う~ん、何ともいえない気持ちになるな。
でも、ここで足踏みするわけにはいかないよな。
心を強く持て俺! あれは二足歩行をする人間に似た形状の魔物だ! あれは倒さなければいけない存在。あれはゴブリン。ゴブリンは魔物。そう、決してあれは人間では無い!
俺は自分に暗示をかけるように内心で自分を鼓舞し、ゴブリンを倒さなければならない現状を受け入れ、クーノの説明に耳を傾けた。
そして俺は、クーノの説明を聞きながら、座学の授業で教わった注意事項を思い出していた。
魔物は魔素から生まれた生物なので、核となる魔石が無くなると消滅してしまう。しかし、例え死体であっても魔石が体内にある状態で剥ぎ取られた部位は消滅しないのだ。
これを間違って先に魔石を取り出してしまうと、剥ぎ取った素材が消滅に向かって徐々に消えていってしまう。
討伐証明のためだけに剥ぎ取るゴブリンなら、討伐報酬が貰えないだけで済むのだが、これが皮や鱗など防具の素材になったりする物だと目も当てられない。
消えてしまう素材が市場に出てしまえば、素材を加工している工房などが大損害を被る。それが故意か不注意かなど関係ない。多方面に損害を与える事実だけが残るのだ。そんな事態にならないよう、十分に注意しなければいけない。
「冒険者となって丸一年の期間、魔物の素材が即日換金できないのは、この事故を起こさないように慎重に行動させる為の処置だ。先に身体から魔石を取り外された魔物の素材は伏魔殿から外に出すと、一日から二日で見に見えて小さくなる。それを確認してからの換金となるため、新人は素材を納めてから三日後に換金されるわけだ」
誤って消えてしまう素材を流通させないように事故防止のため、新人冒険者は素材を一時的に冒険者ギルドに預け、素材を剥いでから魔石を取ったことを確認されるのだとクーノは熱弁していた。
「それでも罰則は無いんすよね?」
「王国や戦闘ギルド、そして冒険者ギルドから罰金等を取られるような罰則は無い。しかし、剥ぎ取りミスの履歴は残されるので、それが積み重なると受けられる依頼が結果的に減る」
ヨルクの質問にクーノが答えた。
受けられる依頼が減るとはどういうことかと言うと、単に討伐だけの依頼であればさほど問題は無いが、素材を得るための依頼の場合、肝心の素材が無くなっては目も当てられない。そうなると、剥ぎ取りミスがあった冒険者が依頼を受けようとしても、それを断るように依頼主がギルドに注文するのだ。
依頼主は、『まだ一度なら』や『十回以下なら多めに見てやろう』などと寛容な者もいれば、『一度のミスですらあってはならない』といった者もいる。
結果的に、例え法的な罰則が無くても、ミスをすることで冒険者は自分で自分の首を絞めてしまうのだ。
「それでしたらぁ、新人以外の冒険者が換金した素材は即日流通してしますよねぇ。その場合はどなたが換金した素材かわからなくなるのではありませんかぁ?」
イルザがなかなか良いことを聞いた。
「そうならないよう、ギルドでは三日間は素材に冒険者の札を付けて保存し、それから流通経路に乗せている。その期間に素材が小さくなるようであれば、その素材を換金した者に出頭命令を出し、受け取った報酬を返金させている。この出頭命令を無視すれば王国中のギルドに連絡が周り、何処にいようとも必ず返金してもらう。これに応じて返金すればお咎めは無いが、一年間返金が無ければ冒険者資格の剥奪となる」
何とも厳しい上に、素材を三日間も貯めて置かなければならなかったりと、ギルドの仕事としては効率が悪い気もするが、素材の見分けが数日観察しなければならないとなれば仕方のないのだろう。それに、一年間も返金をしないでいるってことは、その冒険者は依頼も受けられないだろうから、返金しない時点で冒険者として活動はできないよな。
そうなったら、冒険者としての人生はお終いだ。だからそうならないように気をつけるのだろうが、ミスってのは気をつけていても犯してしまうことがあるし、それが重なると冒険者として信用がなくなり、結果的には冒険者を続けられないんだろうな。
うん、素材の剥ぎ取りは細心の注意を払うように心掛けよう。
「でもー、小さくなったかどーかは元の大きさがわからなければ判断できないじゃないですかー。どーやってわかるんですかー?」
ミリィも鋭い質問をクーノに投げかけた。
そうだよな。仮に体積や重量だとしても、元の体積や重量を予め調べて控えておき、三日後に再度調べて小さくなっていないか確認をするわけだろうから、その作業は途轍もない労力なんじゃないかと思う。
「その方法は教えられないが、確実に判断できる」
へー、古代技術か何かなのかな? 気になるけど、それを教えろと言ったところで教えてはくれないのだろうから、気にするだけ無駄なのだろうな。
こんな感じで、座学の野外授業が行なわれるのが実習訓練だが、ゴブリンの殺害現場なのがなんとも言えない気分になるのであった。
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