47 / 157
第三章 冒険者修行編
第十一話 初めての魔物戦
しおりを挟む
ゴブリンの殺害現場で行なわれていた座学の野外授業の間も、俺は五つの気配が近付いていることに気が付いていた。
姉ちゃんは気付いてない……ようだな。もう少しだけ待ってみるか。
五つの気配はまだ若干遠く、エルフィではまだ感知できないであろうと思い、俺はもう暫く様子を見ることにした。
それから暫しの後、クーノが移動を促すとマーヤが口を開いた。
「リーダー、後ろから、何か来てる……気がする」
覇気が無いのが特徴のマーヤは、似たような特徴のエドワルダと同じように、魔法も使っていないのに気配を察知することができるのを俺は知っている。所謂『野生の勘』だ。
姉ちゃんも探知魔法で気配を察知するのなら流石にわかっただろうけど、慣れない魔力探知では気付けなかったか。
エルフィに関してはまだ不慣れなので仕方ないと思いつつ、魔物に対してもマーヤの索敵能力が通用することを俺は密かに喜んだ。
「ゴブリンが来てるね。数はわかるかマーヤ」
「う~ん……、多分だけど五」
「了解」
そう、俺は当初から察知していた気配がゴブリンのものであることを”今”はわかっていた。それは、ゴブリンを一度この目で確認したからに他ならない。
原理はわからないが、俺の探知魔法は目にしたことのない生物の気配は単に気配としてしか感じられないが、一度目にした種族であれば同個体でなくても何の種族かは判別できるのだ。
そんなインチキくさい魔法を使っているわけでもないマーヤの不思議能力も大したもので、何気にしっかりとゴブリンの数を言い当てていた。
「教官、マーヤが後方からくる何かを察知したようです」
「ん? ……確かに、何か感じるな。もう少し待って数と種族を確認したい」
「了解しました」
俺はシュヴァーンのメンバーを集め、早々に作戦会議を始めた。
「後方からゴブリンがきている。数は五体だ。こちらが風上でゴブリンは俺達の存在に気付いていると思った方が良いだろう」
「何処かに待ち伏せして奇襲とかは無理っすかね?」
「ゴブリンの嗅覚がどれ程のものかわからないが、臭いでバレることを想定しておいた方が良いだろうな」
「それなら正面突破かなー?」
「それは無い」
一応は作戦らしきものを提案してくるヨルクと違い、ミリィは何の捻りもない短絡的な事を口にしてきた。
「まぁ、ここに向かってきているのは、ゴブリン側からしたら俺達に気付かれていないと思っての行動だろう。それなら、奇襲とまではいかなくても先制攻撃はできる。先ずは姉ちゃんとマーヤの弓矢で攻撃」
「わかったわ」
「了承」
二人とも好戦的な目をしてるな。
「その後は俺とヨルクが飛び出す。ミリィはヨルクの背後を遅れずに追走。イルザは慌てなくていいから確実に俺の後を追ってきて、隙があればメイスを叩き込む。まぁ、いつもとあまり変わらないな」
「了解っす」
「ほいほーい」
「頑張りますぅ」
ヨルクは緊張が解けたようだな。ミリィは通常運転、イルザは若干緊張してるっぽいけど大丈夫そうだな。
今回は獲物の背後からの攻撃ではないが、一度動き出してしまえばいつもやっていることとほぼ同じだ。ゴブリンが最弱の魔物と侮ったりはしていないが、それでも大きなクマを相手にするより危険は少ないだろう。いつもどおりやるだけだ。
これが、ベテランパーティが戦闘をする前であれば、皆は緊張でいつもどおりの動きができなかったかもしれない。しかし、無残にやられるゴブリンを目の当たりにした今、皆の緊張は大分薄れている。
むしろ、俺が人型のゴブリンを躊躇なく仕留められるかだな。気持ちとしてはさっきの切り替えでやれると思っているけど、身体がしっかり動いてくれるか些か心配ではあるな。……って、また感情を揺らしてどうする! ゴブリンは魔物。魔物は倒すべき存在!
うん、いける。大丈夫だ。
俺がそんな情けないことを再び考えていると、「ゴブリンが五体だな。いけるか?」とクーノに問われ、俺は間髪入れずに戦うことを宣言した。
よし! 俺は戦うことを宣言したんだ。後はやるしかない。皆もやる気になっているんだから、リーダーの俺がしっかりしないとダメだ!
俺は改めて自分に言い聞かせ、戦うことを強く意識し、パンパンと顔を叩いて気合を表に出した。
そして、皆の準備と俺の気持が整ったところで、俺達シュヴァーンが初めて行う対魔物戦の火蓋が切って落とされようとしていた。
「ゴブリンってのは間抜けなんすかね? 自分達に気付かれてることもわからず、呑気に距離を詰めてきてるっす」
「油断はするなヨルク。――いいか皆、作戦はさっき言ったとおりだ。いつもどおりの動きをすれば何ら問題ない。もう少し引き付けたら姉ちゃんとマーヤの攻撃で俺達も動き出すぞ」
俺に向けられたシュヴァーンのメンバー全員の目が、「やってやる!」といった決意に満ち溢れていた。
程なくして、いつもどおり弓から放たれる二つの音が聞こえると、俺とヨルクはゴブリンに向かって走り出した。
「一体は倒れたけど、もう一体は浅かったか」
エルフィとマーヤから放たれた矢は、どちらもゴブリンに突き刺さってはいたが、一体は歩みが遅くなりはしたが未だ健在である。
「ヨルクは左の一体を相手にしろ、遅れているゴブリンが合流してくることを忘れるな。俺は右の二体を抑える」
「了解っす」
俺は左を並走するヨルクに指示を飛ばすと、抜いた剣を右側に腰だめにし、一気にゴブリンに向かって跳躍する。そして、腰に構えた剣をゴブリンの胸部目掛けて突き出した。
――ギョアアア
剣を突き出そうとした際、僅かに身体が強張ったのを感じたが、それでも何とかゴブリンに剣を突き刺すことができた。
僅かに身体が強張ったのがわかったけど、それでも仕留めることはできたんだ。上出来じゃないか俺! まぁ、何とも言えない気持ち悪さはあるけど……。
そうは思っても今は戦闘中だ。胃の辺りから込み上げる物を感じつつ、俺はゴブリンから剣を引き抜き、もう一体のゴブリンの攻撃に備えた。
そんな俺の隣では、盾を構えたヨルクがシールドチャージでゴブリンに盾ごと体当たりをかましていた。
細身のヨルクに力技は向かない気もするが、身体強化の魔術を使ったヨルクであれば、しっかりとしたダメージをゴブリンに与えるようだ。ヨルクのシールドチャージを喰らったゴブリンは、ものの見事に弾き飛ばされていた。
そんなヨルクの後ろには、槍を構えたミリィが控え、ヨルクも遅れてくる手負いのゴブリンの到着に備えていた。
一応ゴブリンを刺すことはできた。ゴブリンの皮膚が思ったより硬くないのもわかった。残りは俺以外の人にやってもらおう。
何事も経験である。ここは皆にもゴブリンに攻撃をさせ、経験を積ませることにした。
俺と対峙していたゴブリンが棍棒を振り被り、躊躇なく振り下ろしてきた。それもバレバレの軌道でだ。
そんなただ振り下ろされた棍棒など恐るに足らんのだが、イルザが動き易いようにゴブリンの振り下ろした棍棒に軽く剣を合わせ、大きくゴブリンの体勢を崩してやった。
「イルザ!」
「はいですぅ」
俺の呼びかけにイルザは可愛らしい返事をし、ふんすとメイスを振り下ろすや否や、ゴキュっとゴブリンの頭を叩き潰した。
この娘ってば凄く可愛らしいのに、やってることはもの凄く恐ろしいんだよな。
などと詮無い事を考えつつ、ヨルク達の方に目を向けた。
「えいやー」
それはヨルクが突き飛ばしたゴブリンにミリィが槍を突き立てた瞬間だった。
「ミリィ、敵はまだ居る。すぐに引け」
「はいよー」
ゴブリンに槍を突き立てたミリィは誇らし気に佇んでいるが、まだ生きたゴブリンが残っている状況だ。そんな場所でボケっとさせておくわけにはいかない。
「ミリィ、敵に背中を見せるな!」
俺の言葉を聞いたミリィがゴブリンに突き刺した槍を引き抜くと、ヨルクの後ろへ戻ろうとゴブリン達がやってきた方に背を向けた。
遅れてこちらに向かってくるゴブリンがまだ到着していない。いくら手負いとは言え何があるかわからない状況なのだ。迂闊に背を見せるのは良くない。
「ブリッツェン」
「姉ちゃん?」
「あれはあたしが倒す!」
エルフィが人前にも拘らず他所行きの言葉ではなく、俺に対するときにだけ使う言葉で話し掛けてきた。そしてそのエルフィの表情は、苦虫を噛み潰したような、という表現そのもの苦々しいものだった。
あのゴブリンを仕留め損ねた矢は、きっと姉ちゃんの放った矢なのだろうな。
姉ちゃんはそのことが我慢ならなかった。だから意地でもあのゴブリンは自分の手で仕留めたい、と言ったところかな? それこそ外面を取り繕うのも忘れて……。
「姉ちゃん、手負いのゴブリンは問題なく倒せる相手だ。熱くなって力んだりするなよ」
「わかっている!」
そう口にするエルフィだが、突くことを主とするレイピアを手にしながら、そのレイピアを振り被っている辺り冷静とは程遠い心持ちであろう。
姉ちゃんが敗れる……いや、手傷を負うことすらないだろう。それでも、万が一はある。いざという時は魔法を使ってでも手助けしよう。
そんな決意をした俺だが、全てが杞憂であり不要だった。
人数差を物ともせず、己の怪我など無いかのようにこちらへと向かってくるゴブリン。そのゴブリンへと瞬間移動と見紛う速さで近付いたエルフィは、振り上げていたはずのレイピアがいつの間にか地面と水平に。そして、右腕をくの字に折って力を溜め込んでいた。……かと思うや否や、目にも留まらぬ速さでレイピアは突き出された。
エルフィから突き出された細い剣先は、一切の抵抗を受けていないかのように、すぅっとゴブリンの胸へと吸い込まれていった。
「ふぅ」
ゴブリンにレイピアを突き立てた瞬間、鬼の形相を浮かべていたエルフィだったが、軽く息を吐きながらゴブリンに突き立てたレイピアを引き抜くと、いつもの美少女へと表情を戻していた。
「うおぉー! エルフィ様メッチャクチャ凄いっす!」
「凄いですぅ~! どのようにゴブリンに近付いたのですかぁ~」
「速すぎて見えなかったよー」
「凄い」
俺を除いたシュヴァーンの四人は、思い思いにエルフィを讃えていた。
「うふっ」
言葉では何も答えないエルフィは、笑顔を見せることで応えたようだ。
皆もエルフィの表情から何かを察したのかわからないが、誰もそれ以上の追求はしなかった。
姉ちゃんは気付いてない……ようだな。もう少しだけ待ってみるか。
五つの気配はまだ若干遠く、エルフィではまだ感知できないであろうと思い、俺はもう暫く様子を見ることにした。
それから暫しの後、クーノが移動を促すとマーヤが口を開いた。
「リーダー、後ろから、何か来てる……気がする」
覇気が無いのが特徴のマーヤは、似たような特徴のエドワルダと同じように、魔法も使っていないのに気配を察知することができるのを俺は知っている。所謂『野生の勘』だ。
姉ちゃんも探知魔法で気配を察知するのなら流石にわかっただろうけど、慣れない魔力探知では気付けなかったか。
エルフィに関してはまだ不慣れなので仕方ないと思いつつ、魔物に対してもマーヤの索敵能力が通用することを俺は密かに喜んだ。
「ゴブリンが来てるね。数はわかるかマーヤ」
「う~ん……、多分だけど五」
「了解」
そう、俺は当初から察知していた気配がゴブリンのものであることを”今”はわかっていた。それは、ゴブリンを一度この目で確認したからに他ならない。
原理はわからないが、俺の探知魔法は目にしたことのない生物の気配は単に気配としてしか感じられないが、一度目にした種族であれば同個体でなくても何の種族かは判別できるのだ。
そんなインチキくさい魔法を使っているわけでもないマーヤの不思議能力も大したもので、何気にしっかりとゴブリンの数を言い当てていた。
「教官、マーヤが後方からくる何かを察知したようです」
「ん? ……確かに、何か感じるな。もう少し待って数と種族を確認したい」
「了解しました」
俺はシュヴァーンのメンバーを集め、早々に作戦会議を始めた。
「後方からゴブリンがきている。数は五体だ。こちらが風上でゴブリンは俺達の存在に気付いていると思った方が良いだろう」
「何処かに待ち伏せして奇襲とかは無理っすかね?」
「ゴブリンの嗅覚がどれ程のものかわからないが、臭いでバレることを想定しておいた方が良いだろうな」
「それなら正面突破かなー?」
「それは無い」
一応は作戦らしきものを提案してくるヨルクと違い、ミリィは何の捻りもない短絡的な事を口にしてきた。
「まぁ、ここに向かってきているのは、ゴブリン側からしたら俺達に気付かれていないと思っての行動だろう。それなら、奇襲とまではいかなくても先制攻撃はできる。先ずは姉ちゃんとマーヤの弓矢で攻撃」
「わかったわ」
「了承」
二人とも好戦的な目をしてるな。
「その後は俺とヨルクが飛び出す。ミリィはヨルクの背後を遅れずに追走。イルザは慌てなくていいから確実に俺の後を追ってきて、隙があればメイスを叩き込む。まぁ、いつもとあまり変わらないな」
「了解っす」
「ほいほーい」
「頑張りますぅ」
ヨルクは緊張が解けたようだな。ミリィは通常運転、イルザは若干緊張してるっぽいけど大丈夫そうだな。
今回は獲物の背後からの攻撃ではないが、一度動き出してしまえばいつもやっていることとほぼ同じだ。ゴブリンが最弱の魔物と侮ったりはしていないが、それでも大きなクマを相手にするより危険は少ないだろう。いつもどおりやるだけだ。
これが、ベテランパーティが戦闘をする前であれば、皆は緊張でいつもどおりの動きができなかったかもしれない。しかし、無残にやられるゴブリンを目の当たりにした今、皆の緊張は大分薄れている。
むしろ、俺が人型のゴブリンを躊躇なく仕留められるかだな。気持ちとしてはさっきの切り替えでやれると思っているけど、身体がしっかり動いてくれるか些か心配ではあるな。……って、また感情を揺らしてどうする! ゴブリンは魔物。魔物は倒すべき存在!
うん、いける。大丈夫だ。
俺がそんな情けないことを再び考えていると、「ゴブリンが五体だな。いけるか?」とクーノに問われ、俺は間髪入れずに戦うことを宣言した。
よし! 俺は戦うことを宣言したんだ。後はやるしかない。皆もやる気になっているんだから、リーダーの俺がしっかりしないとダメだ!
俺は改めて自分に言い聞かせ、戦うことを強く意識し、パンパンと顔を叩いて気合を表に出した。
そして、皆の準備と俺の気持が整ったところで、俺達シュヴァーンが初めて行う対魔物戦の火蓋が切って落とされようとしていた。
「ゴブリンってのは間抜けなんすかね? 自分達に気付かれてることもわからず、呑気に距離を詰めてきてるっす」
「油断はするなヨルク。――いいか皆、作戦はさっき言ったとおりだ。いつもどおりの動きをすれば何ら問題ない。もう少し引き付けたら姉ちゃんとマーヤの攻撃で俺達も動き出すぞ」
俺に向けられたシュヴァーンのメンバー全員の目が、「やってやる!」といった決意に満ち溢れていた。
程なくして、いつもどおり弓から放たれる二つの音が聞こえると、俺とヨルクはゴブリンに向かって走り出した。
「一体は倒れたけど、もう一体は浅かったか」
エルフィとマーヤから放たれた矢は、どちらもゴブリンに突き刺さってはいたが、一体は歩みが遅くなりはしたが未だ健在である。
「ヨルクは左の一体を相手にしろ、遅れているゴブリンが合流してくることを忘れるな。俺は右の二体を抑える」
「了解っす」
俺は左を並走するヨルクに指示を飛ばすと、抜いた剣を右側に腰だめにし、一気にゴブリンに向かって跳躍する。そして、腰に構えた剣をゴブリンの胸部目掛けて突き出した。
――ギョアアア
剣を突き出そうとした際、僅かに身体が強張ったのを感じたが、それでも何とかゴブリンに剣を突き刺すことができた。
僅かに身体が強張ったのがわかったけど、それでも仕留めることはできたんだ。上出来じゃないか俺! まぁ、何とも言えない気持ち悪さはあるけど……。
そうは思っても今は戦闘中だ。胃の辺りから込み上げる物を感じつつ、俺はゴブリンから剣を引き抜き、もう一体のゴブリンの攻撃に備えた。
そんな俺の隣では、盾を構えたヨルクがシールドチャージでゴブリンに盾ごと体当たりをかましていた。
細身のヨルクに力技は向かない気もするが、身体強化の魔術を使ったヨルクであれば、しっかりとしたダメージをゴブリンに与えるようだ。ヨルクのシールドチャージを喰らったゴブリンは、ものの見事に弾き飛ばされていた。
そんなヨルクの後ろには、槍を構えたミリィが控え、ヨルクも遅れてくる手負いのゴブリンの到着に備えていた。
一応ゴブリンを刺すことはできた。ゴブリンの皮膚が思ったより硬くないのもわかった。残りは俺以外の人にやってもらおう。
何事も経験である。ここは皆にもゴブリンに攻撃をさせ、経験を積ませることにした。
俺と対峙していたゴブリンが棍棒を振り被り、躊躇なく振り下ろしてきた。それもバレバレの軌道でだ。
そんなただ振り下ろされた棍棒など恐るに足らんのだが、イルザが動き易いようにゴブリンの振り下ろした棍棒に軽く剣を合わせ、大きくゴブリンの体勢を崩してやった。
「イルザ!」
「はいですぅ」
俺の呼びかけにイルザは可愛らしい返事をし、ふんすとメイスを振り下ろすや否や、ゴキュっとゴブリンの頭を叩き潰した。
この娘ってば凄く可愛らしいのに、やってることはもの凄く恐ろしいんだよな。
などと詮無い事を考えつつ、ヨルク達の方に目を向けた。
「えいやー」
それはヨルクが突き飛ばしたゴブリンにミリィが槍を突き立てた瞬間だった。
「ミリィ、敵はまだ居る。すぐに引け」
「はいよー」
ゴブリンに槍を突き立てたミリィは誇らし気に佇んでいるが、まだ生きたゴブリンが残っている状況だ。そんな場所でボケっとさせておくわけにはいかない。
「ミリィ、敵に背中を見せるな!」
俺の言葉を聞いたミリィがゴブリンに突き刺した槍を引き抜くと、ヨルクの後ろへ戻ろうとゴブリン達がやってきた方に背を向けた。
遅れてこちらに向かってくるゴブリンがまだ到着していない。いくら手負いとは言え何があるかわからない状況なのだ。迂闊に背を見せるのは良くない。
「ブリッツェン」
「姉ちゃん?」
「あれはあたしが倒す!」
エルフィが人前にも拘らず他所行きの言葉ではなく、俺に対するときにだけ使う言葉で話し掛けてきた。そしてそのエルフィの表情は、苦虫を噛み潰したような、という表現そのもの苦々しいものだった。
あのゴブリンを仕留め損ねた矢は、きっと姉ちゃんの放った矢なのだろうな。
姉ちゃんはそのことが我慢ならなかった。だから意地でもあのゴブリンは自分の手で仕留めたい、と言ったところかな? それこそ外面を取り繕うのも忘れて……。
「姉ちゃん、手負いのゴブリンは問題なく倒せる相手だ。熱くなって力んだりするなよ」
「わかっている!」
そう口にするエルフィだが、突くことを主とするレイピアを手にしながら、そのレイピアを振り被っている辺り冷静とは程遠い心持ちであろう。
姉ちゃんが敗れる……いや、手傷を負うことすらないだろう。それでも、万が一はある。いざという時は魔法を使ってでも手助けしよう。
そんな決意をした俺だが、全てが杞憂であり不要だった。
人数差を物ともせず、己の怪我など無いかのようにこちらへと向かってくるゴブリン。そのゴブリンへと瞬間移動と見紛う速さで近付いたエルフィは、振り上げていたはずのレイピアがいつの間にか地面と水平に。そして、右腕をくの字に折って力を溜め込んでいた。……かと思うや否や、目にも留まらぬ速さでレイピアは突き出された。
エルフィから突き出された細い剣先は、一切の抵抗を受けていないかのように、すぅっとゴブリンの胸へと吸い込まれていった。
「ふぅ」
ゴブリンにレイピアを突き立てた瞬間、鬼の形相を浮かべていたエルフィだったが、軽く息を吐きながらゴブリンに突き立てたレイピアを引き抜くと、いつもの美少女へと表情を戻していた。
「うおぉー! エルフィ様メッチャクチャ凄いっす!」
「凄いですぅ~! どのようにゴブリンに近付いたのですかぁ~」
「速すぎて見えなかったよー」
「凄い」
俺を除いたシュヴァーンの四人は、思い思いにエルフィを讃えていた。
「うふっ」
言葉では何も答えないエルフィは、笑顔を見せることで応えたようだ。
皆もエルフィの表情から何かを察したのかわからないが、誰もそれ以上の追求はしなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる