魔法の廃れた魔術の世界 ~魔法使いの俺は無事に生きられるのだろうか?~

雨露霜雪

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第三章 冒険者修行編

第三十九話 いざ、ボス退治!

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「さて、今日は気合を入れて頑張るぞ」
「気合を入れるのはいいけれど、力み過ぎて無駄に魔力の消費とかしないようにしなさいね」
「大丈夫さ」

 準備の整った俺達は、本日いよいよボスの討伐を行う。
 下準備に関しては、俺達はいつもどおりで特に何もない。
 伯父であるメルケル男爵に頼んでおいた、冒険者に対する連絡は先日行っている。
 既に、ボス討伐の予定日は決めてあったのだが、最終的に予定日に決行することを確定し、ボスを討伐したら境界が消えるので、それを確認してから突入するように、再度の念押しもしておいた。

「準備はできたわ」
「じゃあ、行こうか」

 俺達二人は、初めての伏魔殿のボスとの戦いに向け、野営地から出発した。
 途中で出会った魔物は体力と魔力の温存のために無視をしていたが、ボス戦に乱入されては困るので、ボスにほど近い場所にいた魔物はしっかり狩っていた。
 その戦闘によりボスに俺達の存在に気付かれるのを懸念していたが、どうやら気づかれずに済んだようだ。

「最後に作戦の御復習いおさらいをしておくよ」
「あたしは如何に攻撃を貰わないで攻撃するかってことよね」
「まぁ、そうなんだけど、何処まで俺の魔法でオーガの機動力を奪えるかが未知数だからね。それによって姉ちゃんの動き方が変わるわけだし」

 そう、今回倒すべき伏魔殿のボスは、オーガと呼ばれる食人鬼だ。
 オーガはゴブリンの強化版とでもいうべきオークの更に強化版で、赤褐色で額に角の生えた三メートル前後の巨体で怪力の持ち主である。
 オーガの知能は低く、棍棒を振り回す戦い方はゴブリンなどと変わらないが、体格がゴブリンやオークと比べ物にならない大きさであるため、手にする棍棒が大木のような大きい物であり、それを怪力で振り回してゴリ押ししてくるのだ。
 そして、腰蓑以外は何も纏っていないが、筋肉そのものが鎧の役目を果たすので、非常にタフな相手であろう。

「一応『地固め』では、極力深く地面に沈ませてから固める予定だけど、できれば腰辺りまで、最悪でも膝くらいまで沈めてから固めたい」
「あたしはオーガの腕の破壊が仕事よね?」
「腰まで沈めて固められたらね。もし膝くらいまでしか固められなければ、怪力で抜け出してきてしまうかもしれない。そうなると、振り回す腕を破壊しつつ、足も破壊しなければならない」

 ゴブリンとオーガの中間に当るオークで試した際には、この作戦は完全に想定どおりの結果を出せた。しかし、オーガはオークより更に身長が高いので、腰まで沈められないかもしれないし、固めた地面を破壊してしまう力があるかもしれない。
 更に言えば、筋肉の鎧に対し、エルフィのレイピアが突き刺さるのか、という不安もある。それでも、『風砲移速魔法』に磨きを掛けたエルフィは、その速さから突き出されたレイピアの貫通力もまた上がっており、不安もあるがやってくれそうな期待も持てる。

「あんたは『地固め』の魔法に掛かりっきりになってしまうのだものね」
「オーク相手なら、固めてしまえばそれ以降は放って置いても大丈夫だったけど、多分オーガが相手だと魔力を流したまま維持しないとダメな気がするんだ」
「……うん、大丈夫よ。あんたがしっかりオーガを固定してくれるなら、あたしがキッチリ仕留めるわ」
「いや、ある程度まで姉ちゃんがオーガを削ってくれれば、俺も攻撃に参加するから、無理に仕留めようとしなくていいからね」

 エルフィはアホではあるが責任感も強いので、俺がオーガの固定に掛り切りになるのなら、自分が仕留めなければいけないと思ってしまったようだ。そんなことになると、きっとエルフィは無理をしてしまうだろう。無理をしてエルフィが怪我でもしてしまったら堪ったものではない。

「先ずは厄介なオーガの腕をどうにかする。仮に腰まで埋まっていなかったらその時は足を壊すことも視野に入れる。仕留めるのは二人がかりでやろう」
「そうね。わかったわ」

 緊張で強張った顔をしていたエルフィだが、気負いが抜けて少しだけ表情が柔らかくなっていた。

「じゃあ、行くよ」
「ええ」

 こうして、俺とエルフィはボスのいる小高い丘の頂上を目指して移動を開始した。

 ボスであるオーガを視界に捕らえた頃、俺達の辿ってきた道と反対側に約十体のオークの気配を探知魔法で察知した。

 まだそれなりの距離があるから、オーガとの戦闘には影響はないかな。でも、オーガ戦が長引けばあのオーク達の乱入も考えられるな。
 う~ん、このことを姉ちゃんに伝えたらきっと焦ってオーガを仕留めようとするだろうし、敢えて伝えないようにしよう。
 それにしても、どうして最善の想定で事が運んでくれないのかね~。

 オーガ戦で他の魔物の乱入は想定していたのだが、実際にその可能性の種が見つかると、やはり気分はゲンナリしてくる。


「姉ちゃん、俺はここから魔法を発動する。姉ちゃんはあの辺りで待機してて」
「わかったわ」

 遂にオーガとの戦闘が始まる。
 距離が離れると精度と威力の落ちる魔法を少しでも効率良く使えるように、俺は極力オーガに近い場所に陣取った。その場所は、オーガの右側面が見える位置であったので、エルフィにはオーガの背後となる俺の左前方へ移動してもらった。

 それにしても、あんなぶっとい丸太みたいな棍棒を軽々と持てるなんて、やっぱオーガの怪力ってのは本当だったんだな。

 過去に遠くからオーガを目にしたことはあったが、近くで見ると本当に筋肉の塊で、そんな筋肉の塊が棍棒を持つ様に軽く尻込みしてしまいそうになった。

 姉ちゃんはそろそろ位置に就いただろう。――よし、やるか!

 俺は錬成した魔力を両手に貯めると、その両手の平を地面に付け、オーガの周辺目掛けて魔力を流した。それにより、オーガ周辺の地面が柔らかくなり、オーガの足が徐々に地面に埋もれていった。

 思ったよりオーガの沈む速度が早いな。オーガが重たいお陰かな。

 想定以上の速さで地面に沈むオーガを見て、俺は内心で喜んでいた。
 だが、知能が低くても危機感が皆無ではないオーガも、どうにかそこから逃れようとジタバタしている。

 これ以上粘ると範囲から出られてしまうな。腰まで沈められなかったけど、太腿まで沈めれば十分かな。ここからは地面を固めるぞ!

 俺はオーガ周辺の土を、オーガ包むように盛り上げながら硬質化させて行く。
 元々は地面にめり込んだ部分を硬質化させていた『地固め』だったが、中心から固めつつ周囲の柔らかい土を目標に向かって移動させ、山を盛るように固めるまでに進化せせていた。

 ――ヌガアアアァァァ

 周囲にオーガの雄叫びが響き渡った。
 怒気の込められたその雄叫びは、苛立ちを現しているのか、それとも抜け出すために気合を入れたのか判別できないが、とにかく恐ろしい声であった。

 この声で姉ちゃんが萎縮してないといいんだけど、大丈夫かな?

 自分ですら恐ろしさを感じたのだ、エルフィが萎縮していてもおかしくないと思った俺は、少々心配になっていた。

 ――シャッ

 俺がエルフィの心配をしていると、風を切るような音が耳に響いた。

「えやぁー」

 その刹那に聞こえた掛け声。それは紛れもなくエルフィの声だった。

 うん。どうやら俺は要らない心配をしていたようだな。

 俺の心配を他所に、エルフィの動きは軽快そのもので、風を切る素早い動きから突き出されたレイピアは、懸念を吹き飛ばすようにオーガの右肩に吸い込まれていった。

 オーガの筋肉の鎧も、姉ちゃんの加速したレイピアであれば突き破れるんだな。

 相も変わらず地面に魔力を流している俺は、エルフィの動きで懸念が消え去り、この勝負は勝てると確信した。

 問題は俺がいつ動き出すかだな。

 現状はガッチリ拘束できているが、オーガはまだ抵抗しており、あまり早く魔力供給を止めると拘束が解ける可能性がある。それに、エルフィのレイピアが通用するのはわかったが、オーガの右腕はなおも振り回されている。

 腕を掻い潜って心臓を一突きする作戦にしておけば良かったかな? でも、それだと危険があると思ったから先に腕を潰すようにしたわけだし……。
 今から作戦を変更するか? いや、確実に心臓を一突きできるとも限らない。

 俺が最善の策を足りない頭で考えている間も、距離を取ったエルフィが隙きを見てオーガの右肩目掛けて突撃している。
 オーガは背後からの攻撃を嫌がり腕を振り回しているが、棍棒を持つ右腕の動きが若干怪しくなっている。

 ここは、姉ちゃんを信じて当初の予定どおりにしよう。

「姉ちゃん、体力と魔力はどう?」
「――全然余裕よ」

 これは強がっている……わけではなさそうだな。まだ姉ちゃんの表情には余裕がある。

 数度目の突撃で、またもやオーガの肩にレイピアを突き刺したエルフィが、そのレイピアを引き抜いて再びオーガと距離を取る。すると、オーガの右肩からブワッと血が吹き出した。
 それをやったエルフィが、不意に俺に声をかけてきた。

「オーガを拘束しているその土を茨のようして、オーガの足をその棘でズタズタにできない?」
「――――!」

 その発想は俺には無かったが、言われてみれば『どうして考えつかなかったんだ俺は?!』と思えるくらいありきたりなやり方だった。しかし、試したことのない方法なので、成功できるとは限らない不確かな手段でもある。

「そうすれば、機動力が奪えるからあんたも動けるようになるでしょ?」
「ぶっつけ本番になるから、成功するかわからないよ?」
「大丈夫。あたしも今さっきぶっつけ本番で魔法を試したら成功したわ」

 放出魔法が苦手なエルフィだが、極至近距離であれば使えなくは無い。きっと今も、オーガにレイピアを刺した状態で何かの魔法を放ったのだろう。

 まったく、姉ちゃんはいい度胸してるよ。

「ダメ元で試すから、失敗したらオーガが動き出すよ。それでもいい?」
「大丈夫」
「そうか」
「あんたが失敗なんてするはず無いとあたしは知ってるから」

 おいおい、俺が失敗した場合の対策でも用意しているのかと思ったら、俺が成功させるのを信じてるってだけかよ。……そんな根拠のないことで姉ちゃんを危険に曝したくないないけど、それ以前に俺を信じてくれている姉ちゃんの期待を裏切ることはしたくないんだよな。
 だったらどうする? そんなの、やるしかないでしょ。やって成功して結果を出す。ただそれだけの話だ。

 どうしても色々考えてしまう俺と違い、考えるより先に動いてしまうエルフィ。だが、危険な状況では流石のエルフィでも短絡的な言動を控える。そんなエルフィが大丈夫と思ったのであれば、きっとそれは大丈夫なのだと、俺もエルフィを信じることで決意が固まった。

「やるよ、姉ちゃん」
「ええ、やってしまいなさい」
「しっかり警戒しといてよ」
「当然よ」

 何の疑いもなく俺が成功させると信じているエルフィは、自信に満ちた表情でレイピアを構えた。

「いくぞ!」

 俺は気合を入れると、オーガを拘束している土の周辺の土に魔力を流し、円錐状のぶっとい蔦に作り変えてオーガに突き刺すイメージを強く思い浮かべる。
 それにより拘束の緩んだオーガが足を地面から引き抜こうとするが、引き上げられたオーガの右太腿に土の蔦が突き刺さった瞬間、その蔦から棘を生やした。

 ――ヌギャアー

 明らかに悲鳴と思われる声を上げるオーガ。
 細かい調整ができなかったことが幸いし、予定より太くなってしまった土の棘は、オーガの太腿に突き刺さるを通り越して突き抜けている。
 しかも、それが一本だけではなく六本だ。

「これ以上の本数はまだ出せない」
「上等よ」

 誤って土の茨を喰らわないように距離を取っていたエルフィが、『よくやった』と言わんばかりの表情を俺に向けると、瞬時に真面目な顔に切り替え、ギャースカ煩い悲鳴を上げているオーガに飛びかかって行った。

 さて、土の茨は想像以上に効果があるな。これなら俺も攻撃に参加できそうだ。――となれば、のんびり見学してないで俺もいきますか!

 背後から左肩をエルフィに攻撃されているオーガの意識が、完全に後方に向いているのを確認した俺は魔道具袋もどきから槍を取り出すと、土の茨に貫かれた右太腿を完全に破壊すべく、右側面から一突きを喰らわせた。
 そして、右腕で俺を振り払おうとするオーガだが、その右腕はエルフィにより破壊されており、僅かにピクリと動いただけで、俺を振り払うことはできなかった。

 もはや立っていられなくなったオーガが膝を折ると、足に突き刺さっている土の茨が更に足に食い込み、過去最大の悲鳴を上げた。

「えいっ!」

 そんな最中さなか、エルフィの掛け声が聞こえたかと思うと、オーガの左肩が右肩と同様に爆ぜた。

「姉ちゃん、後は止めを刺すだけだ」
「任せなさい!」

 正座をして後ろ手に縛られた罪人が土下座をするような姿勢になったオーガは、四肢を全て破壊され、後は命が刈り取られるのを待つばかりだ。

「そりゃあぁー」

 意気込みは伝わるが何とも可愛らしい気合の声を上げたエルフィが、高々と跳躍すると『風砲移速魔法』を発動し、あっと言う間に落下してくるとレイピアをオーガの背に突き刺した。
 もはや断末魔をあげる余力もなかったのだろう。オーガは力無く『ヌグゥワァ』と呻くと、そのまま活動を停止した。

「やったね姉ちゃん。今回は殆ど姉ちゃんがやったようなもんだね」
「それはないわよ。あんたがオーガの動きを止めてくれたからこその結果よ。それに、あの棘の魔法も凄かったじゃないの」
「それこそ姉ちゃんのお陰だよ。姉ちゃんが案を出してくれて、俺を信じてくれたからこそ、俺はあの魔法を使うことができたんだ。感謝してるよ。ありがとう」
「あ、あまり素直に感謝されると、ちょっと照れくさいわね……」

 頬を染めモジモジするエルフィを眺めつつ、俺は無事にオーガを仕留められた事実に安堵していた。
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