魔法の廃れた魔術の世界 ~魔法使いの俺は無事に生きられるのだろうか?~

雨露霜雪

文字の大きさ
76 / 157
第三章 冒険者修行編

第四十話 真のボス

しおりを挟む
 伏魔殿のボスであるオーガを仕留めた俺とエルフィは、存外余力を残していたとはいえ、それでも緊張からか必要以上に疲労していたので、今は腰を下ろして休憩していた。
 ボスであるオーガからは、既に討伐証明部位の角と魔石を取ってあるが、噂に聞くボス討伐時に現れるという大きな魔石が出現していないので、出現を待ちながらの休憩でもある。

「そう言えば、オーガの肩を破壊した技は何だったの?」
「あれは、レイピアが抜けなくて焦ってしまったの。それで『風砲移速』の応用でレイピアを抜こうとレイピアの先端から風を噴出させたの。そうしたら思いの外オーガが固くて、風の量を増やしたらオーガの肩が爆ぜたのよ」
「……結果的には良かったけど、焦ったときは基本に戻って確実にできることをやった方がいいよ」
「そうよね」

 焦って慣れないことをするのはより状況を悪化させる可能性がある。今回のエルフィは新しい戦法を生み出せたが、いつもそんなに上手く行くとは限らない。なので、結果的に良かったとしても、基本に忠実であるべきだとお小言はしっかり伝えた。
 ちなみに、エルフィの新しい魔法は『風爆』と名付けたようだ。

「まぁ、俺も姉ちゃんに言われたとはいえ、ぶっつけでやったことのない魔法を使ったからね。人のことを言える立場じゃないね」
「あんたの場合、あれが失敗していても窮地に陥るような場面ではなかったのだから、良い意味で挑戦できたと思うわよ」
「そうかね」
「そうよ」

 エルフィは何とも俺に都合の良いことを言ってくれるが、俺はエルフィのその優しい気持を素直に受け取った。

「それにしても、あの茨は凄かったわね。あたしは最初に土から飛び出た茨を想像していたのに、そこから更に棘が出るとは思わなかったわ」
「だって、茨って言われたから……。茨って蔦から棘が出てるし」
「ま、まぁ、茨も棘も同じようなものだし、結果的に良かったのだから問題は無いわね」
「姉ちゃんのいう茨って、棘だけのことを指してたの?」
「問題がなかったのだからいいでしょ」

 どうやら、茨に対して俺とエルフィの見解が違っていたようだが、結果的には問題なかったのでこれで良いことにした。

「それはそうと、――」

 何だこの魔力は?!

「どうしたの?」
「姉ちゃん戦闘準備!」
「え? わ、わかったわ」

 さっきまでこんな魔力は無かった。これは近付いてきたんじゃなくて、今発生したんだ。
 ん? ボスを倒したのに魔物が発生するのか? まだ大きな魔石を取っていないから伏魔殿が生きているってことなのか? でも、大きな魔石が何処に有るかわからないし……。
 それにしても、これは完全に想定外だな。
 考えても仕方ない、魔物がいるなら戦うだけだ。

「ねえ? もしかして、さっきのオーガはボスでは無かったというの?」
「わからないけど、新たな魔物が出現する。それも、さっきのオーガより魔力が多い」
「…………っ!」

 俺の言葉を聞いたエルフィは何か愚痴を言おうとしたのだろうが、グッと堪えて顔を顰《しか》めるだけに留めた。

「姉ちゃん、ちょっと拙いかも」
「何がよ?」
「魔力が多く感じられたのは、頭上……、しかも遥か上空なんだ」
「どういうこと?」
「そろそろ見えるだろうから自分の目で確認してみると良いよ。あの方向だ」
「もう、なんな……の……よ…………」

 エルフィは俺が指差した右側を見ると、威勢の良かった口調が尻窄みになっっていった。

「あれに、……か、勝てる……の?」
「勝つしかないよね……」

 上空には、亜竜種であり劣化竜とも呼ばれるワイバーンがこちらに近付いてきていた。

 通常、竜種と呼ばれるのは、四本足の蜥蜴に蝙蝠のような羽根が生えている。
 それに対し、亜竜種であるワイバーンは、二本足で羽根から鉤爪が生えている。

「どうしてこんな小さい伏魔殿にワイバーンがいるのよ……」
「失念してた。――特殊気候の伏魔殿は、小さくても伏魔殿の格が高いんだよ……」

 伏魔殿の格は、通常であれば大きさがそのまま格を表す。なので、この伏魔殿は最小に近い大きさなので、格は最低のはずだった。
 しかし、特殊気候の伏魔殿は、理由は不明だが大きさ以上の格があり、ボスも大きな伏魔殿と同じような魔物が務めている。

 完全に忘れてた。祠を見付けたとき、小さな伏魔殿に相応のオーガが近くにいたから、すっかりあれがボスだと思ってしまっていた。

「ど、どうやって飛んでいるワイバーンと戦うのよ?」
「……」

 この伏魔殿には飛行型の魔物がいない。その所為で、その対策はまったく行っていなかったのだ。

 確か、ワイバーンは魔法攻撃をしてこない。攻撃手段は上空から一気に降下してきて鉤爪で突き刺してくるか、脚爪で捕まえてくるかの二択。必ず近接戦闘になる……はずだ。
 降下速度がどれ程かは不明だけど、それを躱せればこちらの攻撃を叩き込むことは可能だ。戦う手段はある。
 とはいえ、ワイバーンの鱗は竜種以下とはいえども、かなりの硬度があるはず。こちらの攻撃が通用するのだろうか……。

「ブリッツェン! ワイバーンが降下してきたわ」
「――取り敢えず、躱すことに集中!」
「了解」

 ここは周囲が開けている。木の影に隠れることもできないのであれば、ワイバーンの速度を見極めながら躱し、攻撃の余地があるか調べるしかない。こっちの攻撃は、まずはワイバーンの攻撃を躱せると判明してから考えよう。

「くる!」

 ワイバーンは翼をはためかせることもなく、一直線に俺達に向かってきた。

 全長は五メートル、尻尾まで含めて十メートルってところか?! ん? 脚を少し前に出したってことは、捕まえるつもりのようだな。

 集中してワイバーンの挙動を観察していると、動きはしっかり確認できていた。
 これは、動きの早いエルフィに見慣れている俺からすると、十分に対応可能そうであった。俺もエルフィ並の速度で動けるので、エルフィも対応できるだろう。

「避けろ!」

 タイミングを見計らって声を出した俺は、一気に地を蹴り横っ飛びした。
 思いの外余裕を持ってワイバーンの攻撃を躱した俺は、反撃の隙があることも確認できた。
 そしてエルフィに目を向けると、彼女もまた余裕で躱していた。

 気を抜くわけにはいかないけど、躱すことだけに神経を使う必要はないな。むしろ、どう攻撃するかを考えないと……。

 上空に戻るワイバーンを意識しつつ攻撃手段を考えていると、エルフィが近付いてきて話し掛けてきた。

「躱すこと自体は問題ないわね。むしろ問題はどう攻撃するか、それよね」

 エルフィも俺と同じ考えだった。

「多分、姉ちゃんのレイピアではワイバーンの鱗に歯が立たない」
「でしょうね」
「だから、どうにか俺がワイバーンの動きを止めるから、それまでは回避に専念して」
「どうにかなりそうなの?」
「まだ考え中だけど、絶対に何とかするよ」
「わかったわ。あんたを信じる」

 さて、大見得を切ってしまったけど、実際には具体案はまだないんだよな。どうしよう。
 取り敢えず、飛ばせないようにするのが先決だよな。そうなると、羽根を潰す必要がある。しかし、ちまちまやっている余裕なんてないよな。であれば、羽根の付け根を一気にやるか。見た感じ、可動部の付け根は鱗がなかったと思う。あれなら何とかなりそうだ。

 そんなことを考えていると、再びワイバーンが降下してきた。
 今度もまた捕まえにくるようだ。

 多分、標的の俺達が小さいから、鉤爪での攻撃ができないんだろうな。こっちからすると、脚を出そうとするタイミングで動きが遅くなってくれるので有り難い。

 そう分析した俺は、ワイバーンの攻撃を躱すのではなく、一気に飛び上がりワイバーンの羽根の付け根に槍を突き刺し、『風刃改』を放った。

 ――ギュアアアアアアア

 ワイバーンの叫び声を聞いた刹那、俺はその場を離脱した。

「おっ、バランスを崩して落下したぞ」

 ワイバーンが地面をガリガリ削りながら勢いを失うのを見て、軽く気分が良くなっていた。

「まだこれからよ!」

 そんな俺をエルフィがたしなめる。

「あれくらいではまた飛ばれてしまうわ」
「そうだね」

 冷静なエルフィの言葉に、俺は再度気を引き締めた。

 前方では土煙を上げながら地を滑っていたワイバーンが、ようやくその勢いを失い停止していた。しかし、まだ完全に羽根の付け根が潰されたわけではないワイバーンは、再度飛び立とうと羽ばたきを始めた。

「させるか!」

 ワイバーンに向かっていた俺は、先ほど傷付けた羽根の付け根に攻撃をする。
 初撃ではまだ浅かった傷が、二撃目でかなりのダメージを与えたようで、僅かに血が滲んでいた負傷箇所からドクドクと血が流れ出した。

「ブリッツェン、そのまま逆も潰してしまいなさい」
「任せろ!」

 エルフィにいわれるまでもなくそのつもりでいた俺は、続け様に『風刃改』で逆の付け根を攻撃した。

 ――ギュアアアアアアアァァァァァ

 ワイバーンは悲鳴を上げるが、もはや羽根を動かせなくなっていた。

 試しに、ワイバーンの背中に槍を突き立ててみたが、表面に僅かな傷を就けるに留まり、槍はポッキリと折れてしまった。

 外皮というか鱗は想像以上の硬度だな。でも、腹側なら若干柔らかい気がする。それなら――

 俺はワイバーンの背から降りると、地面に手をつき魔力を流した。

「いけー! 『土棘』」

 オーガ戦で覚えた土の棘を、ワイバーンに腹に目掛けて作り出した。
 今回は複数本出はなく、一点集中でぶっ太い一本の円錐を生み出した。

 ――ギュアアアアアアアァァァァァアアアアアアアア

 今までで一番大きな悲鳴を上げたワイバーンは、尻尾を大きく振り乱していた。

「姉ちゃん、ワイバーンの目にレイピアを突き刺して、強力な『風爆』をお見舞いしてやれ」
「任せなさい!」

 ワイバーン戦では回避に徹していたエルフィだが、攻撃に参加できなかったことでストレスでも溜まっていたのだろうか、喜々として飛び出していった。

「うりゃー!」

 嫌々をするように首を振っていたワイバーンだだが、そんなことはお構いなしにエルフィは風砲移速で突っ込み、寸分違わずワイバーンの目にレイピアを突き刺した。

「ハッ!」

 エルフィが気合を入れるや否や、『ドゥンッ』という重低音が響き、ワイバーンがギュワアァと断末摩を上げると、バタリと動きを止めた。
 どうやら、体内までもが硬質ではないようで、エルフィの風爆はワイバーンの目から脳内を破壊したと思われる。

「姉ちゃんお疲れ」
「そうね、少し疲れたわ」

 止めを刺したエルフィを労うと、かなり魔力を消費してのだろう、疲れた様子で対応されてしまった。

「ワイバーンに動き回られると、あの鱗もあって攻撃するのは大変だけど、動きさえ封じられればどうにかなるもんだね」
「そうね。あんたみたいな規格外と一緒であれば、ワイバーンはどうにでもなりそうだわ」

 俺は自分が規格外だとは思わないけれど、他人からすると規格外なのかな? でも、身内にそう思われるくらいは許容範囲だな。

 そんなことを思いつつ、真のボスであるワイバーンを仕留めた俺達は、緊張を解きほぐし、暫し身体を休めるのであった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...