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駐屯所に戻り、一応軽食を取る。
同僚たちは食事を摂りつつ、外の様子を気にしていた。
「今日は本当に村の子たち可愛かったよなあ……」
「本当に。こういうところで遊びたかったけど」
女扱いされていないベティは、ここで下ネタを聞くのかと思いながら、げんなりとしつついもを食べていた。今ははちみつの匂いを嗅ぐ気分ではなく、ハーブと塩を利かせただけのものをひたすら食べていた。
その中で、「ああ……」と同僚のひとりが言う。
「祭りじゃなかったけど、女の子と遊んでたのが原因で、駆け落ち逃避行、そして呪いだったか?」
「そうそう。それを知ってたら、呪い殺されるような相手とのデートはしにくいんだよなあ……おい、ベティ聞いてたか!?」
「聞いてますよ! あと私も夜の警備に行かなければなりませんからねっ!」
話を聞きつつ、いもをもりもり食べながら、ベティは(そういえば)と考える。
(そういえば、呪われているから殺したと仮定するとして。どうして彼らをテレンスは殺したんだ?)
同じ顔になる呪いではない。だが、呪われているから同じ顔になっている。つまり、なんらかの呪いの作用のせいで、ここの村民は皆同じ顔なのだとする。
そういえば。この村はほとんど片親で、小さな子供は村の皆で育てている様子だった。その上、あまり年寄りも見かねないし、村長すらくじ引きで決めるようないい加減さだった。
(……考えられることとすれば……村民同士では、子供をつくることができない……?)
そう考えれば、古いドレスを着て可愛くアピールしていた村娘たちを思う。あれは王都から来た騎士を誘惑するためのものだったとしたら。
そして。
ここに来て、ようやくベティはどうしてテレンスから何度も何度も口酸っぱく「この村で恋愛するな」「したら絶対に邪魔する」「村内の食べ物を食べない」「毒消しないと食べるな」と言い続けていたのかにやっと気付き、背中に冷たいものが伝うのを感じていた。
(……ありえない)
優しくされることにも女扱いされることにも慣れていないベティは、村民からしてみればさぞかし楽な相手であっただろう。元々金髪碧眼な上に圧倒的に顔の整った者たちしかいない村だ。その容姿と親切心から誘惑すれば、すぐ落ちる女など。
(……私に子を産ませるつもりなのか。つまり、村長の家に行くっていうのは……)
おぞましい想像が頭に浮かぶ。
ありえない。デニスはそんなことしない。そう彼女は必死で否定するが、やたらと恋愛のうがった話ばかりしたがるクラリッサは、何度もデニスとベティをその気にしようとあれこれしていた。
もしそのたびにテレンスに叱り飛ばされて、毒消しらしき謎のハーブティーを飲まされていなかったら、今頃どうなっていたのか、彼女にだってわからない。
しかしここで気付いたとして、どうすればいいのか。
(このまま行かないで寝たふりをする? だが……)
今のところ、村民は好き好んで駐屯所を訪れることはない。だが、今日は皆流星祭りだからと張り切っているし、酒も入って気が大きくなっている。
普段は温厚な人々が、女を求めて……それこそ村内の女たちすら推奨しているのだから……駐屯所を襲撃してきたら、他の駐屯所の面々にも迷惑がかかる。
ベティは胸元を押さえた。服の下にはテレンスからもらった犬笛がぶら下がっている。
(……皆に迷惑がかからぬよう、私ひとりで行こう。本当にどうしようもなくなったら、テレンスを呼んで……でも)
テレンスはどういう理屈かは知らないが、フィールディングを滅ぼしたがっていた。
(この村に蔓延しているらしい呪いは、本当に解けないものなんだろうか)
ベティは身の危険を感じながらも、駐屯所の面々に声をかけた。
「それでは、見回りに行ってきます」
「気を付けろよ。あと酒には注意な。ここの蜂蜜酒は本当に口当たりがよくって美味いが、飲み過ぎるから」
「はい」
皆に好き勝手言われながら、ベティは剣の柄に触れた。
胸元には犬笛、腰には剣。普段であったらそれだけでも堂々としているというのに、今の彼女にとっては頼りない装甲であった。
****
村長の家は、フィールディングの中央部。広場のすぐ近くにある一軒家だ。
基本的にどこの家も小さくて台所とベッドとテーブルがすぐ見られるようなつくりになっているが、さすがに村長宅は部屋のひとつひとつに区切りがある上、大人数入ってもびくともしないつくりになっている。
「こんばんは。流星祭りの二次会に伺いました」
「ああ! 騎士様! ようこそ!」
ドアを開けた途端に、むわりと匂いがするのに、ベティは顔を引きつらせた。
甘い匂いは蜂蜜酒のものであり、部屋に充満するほどその匂いが漂っている。
招待されたまま、ベティは彼らについていった。村長の家の調度品ひとつひとつも、この村では一番手が込んでいる上に金も使っている。王都に住む騎士ですら、新興貴族ではここの村長の家具のひとつでも買えないことは理解できた。
「ああ、ベティ! いらっしゃい!」
「こんばんは、デニス……あなた、ここの家に住んではいなかったのでは?」
「お兄ちゃん、くじ引きで勝ったの。だから今日から村長よ」
そう嬉しそうな顔でデニスに抱き着いているクラリッサに、ベティはどう反応すればいいのかがわからなかった。
「ほら座って座って。すぐに酒を持ってくるから」
「ですけど……でも今晩は流星が出るのに、誰も外を見ないんですね?」
なんとか酒を飲むのを避けようと、ベティは必死で言葉を編み上げる。
途端に村長宅は一瞬静けさに包まれた。次の瞬間、どっと笑い出す。
「アハハハハハハハハハ! そうか、流星をそのままで取ったのか!」
「そんな訳がない。流星は見るけれど、空に浮かんでいる星じゃない!」
「え、ええ……?」
ベティは困惑して見ていた。
「寝ている間に、何度も何度も星を見るから、流星祭りだ」
「残念ながらこのところ、ここは商人もあまり長時間滞在してくれなくって、村に女性が枯渇しているんだ。でもそんな中、本当に久々に女性が現れてくれて嬉しいよ!」
そう言いながら、ひとりがベティの手を掴んだ。
男は見覚えのないシャツにスラックスを穿いていたが、顔は間違いなくデニスであり、端正な顔つきに甘い流し目に、一瞬ベティはときめきかけるが、その瞬間脳が必死に抵抗する。
(この人は、どれだけ姿かたちが似ていても……声すら似通っていても……デニスじゃない……!)
「……やめろ。離せ」
「流星を一緒に見たくないのかい?」
その喉を潰すぞ、同じ声が出ないように。
ベティは腰の剣を抜くと、途端にその場にあったテーブルに斬りかかった。テーブルを真っ二つにすることこそできなかったものの、深く傷が入る。途端に場から女性陣の悲鳴が上がる。
「ベティ!? 自分がなにをしているのかわかっているの!?」
クラリッサが抗議の声を上げるが、ベティはフウフウと息を荒くして、剣を向ける。
「……私は帰る。ここをどけ」
「なにを……」
「私は帰る! 大人しくここをどけぇぇぇぇ!」
剣を向けて暴れるが、とうとう男たちは手元にあった酒樽をベティに向かって投げつけはじめた。
「この! 女だから招き入れたのに! もし女じゃなかったら誰だってこんな野蛮人呼ぶ訳ないだろう!?」
「うるさいっ! そっちこそなんなんだ!? 村ぐるみで女ひとりを寄ってたかって! 恥を知れ!」
「知れる訳ないだろう!? 商人だって寄らない、村の外に出ようとしたら殺される! 子供が欲しいと思っているのにこれじゃあんまりだ!」
一方的にベティを責め続ける村人。その村人たち全員を相手取って、テーブルを乗っている酒ごとひっくり返して盾にし、椅子を投げてなんとか扉を叩き割って逃げようと抵抗し続けるベティ。
二組の会話が平行線のまま、大暴れが続いたかに見えたが、とうとうベティの頭を誰かが大きく殴りつけた。お盆で激しく殴打してきたのは、デニスだった。
「……デニス、どうして……」
デニスは心底悲し気に顔を歪ませていた。
「ベティ、頼むから……頼むから」
もしもここで、ベティはデニスだけに求められていたら応じてしまっていただろう。彼女はどれだけ騎士として腕が立ち、人よりよっぽど強いが、根は純情のままだったのだから。
しかし。残念ながらそうはならなかった。
「村の子を産んで」
「…………っ!」
普段の彼女だったら泣き崩れて縋り付いていただろうが、頭を殴打されてまともに立てず、そのまま床に倒れ、剣を転がした。
途端にその場にいた男たちが彼女に襲い掛かってくる。
「さっさと終わらせろ!」
(イヤダ……)
どれだけ強かろうが、どれだけ騎士として振る舞っていようが、暴力に強い訳ではない。ましてや彼女の心も体も簡単に踏みつけられて、それをすぐに逆上して一度は情を寄せた相手を、すぐに殴りつけられる訳ではなかった。
ただ、ベティは何度も何度も忠告を受けたのに、それを無視した自分の愚かしさに嫌気が差した。
彼女の着ていた騎士団服のジャケットは剥ぎ取られ、シャツが剥き出しになる。その中で、彼女は自分の首元にかかった犬笛に気付いた。
彼女は服を乱されながら、なんとか犬笛の先っぽに噛みつくと、思いっきり吹いた。
それは音は出ない。人間では全くなにをしたのかわからない。意味があるのかないのか、ベティではわからず、だんだん不安に駆られてきたが。
途端に村長宅の扉が大きく蹴り上げられたのだ。
そこには、にこやかに口角を吊り上げつつも、目はちっとも笑っていないテレンスが立っていた。
「おや、皆さんお揃いで。これはこれは……皆さんでずいぶんと楽しいことをしてらっしゃるようで」
ベティを取り囲んだ男たちが、ベティを押し倒している。服はかろうじて着て、最後まで剥かれてはいないが、これからなにをしようとしているかは一目瞭然だった。
さっきまで頭が真っ白になり、悲観で羞恥を忘れていたベティも、どっと羞恥を取り戻す。
「ふ、服!」
「後になさい。さて……」
テレンスは、今まで見たことがないような獰猛な笑みを浮かべた。
「滅びの時ですか」
同僚たちは食事を摂りつつ、外の様子を気にしていた。
「今日は本当に村の子たち可愛かったよなあ……」
「本当に。こういうところで遊びたかったけど」
女扱いされていないベティは、ここで下ネタを聞くのかと思いながら、げんなりとしつついもを食べていた。今ははちみつの匂いを嗅ぐ気分ではなく、ハーブと塩を利かせただけのものをひたすら食べていた。
その中で、「ああ……」と同僚のひとりが言う。
「祭りじゃなかったけど、女の子と遊んでたのが原因で、駆け落ち逃避行、そして呪いだったか?」
「そうそう。それを知ってたら、呪い殺されるような相手とのデートはしにくいんだよなあ……おい、ベティ聞いてたか!?」
「聞いてますよ! あと私も夜の警備に行かなければなりませんからねっ!」
話を聞きつつ、いもをもりもり食べながら、ベティは(そういえば)と考える。
(そういえば、呪われているから殺したと仮定するとして。どうして彼らをテレンスは殺したんだ?)
同じ顔になる呪いではない。だが、呪われているから同じ顔になっている。つまり、なんらかの呪いの作用のせいで、ここの村民は皆同じ顔なのだとする。
そういえば。この村はほとんど片親で、小さな子供は村の皆で育てている様子だった。その上、あまり年寄りも見かねないし、村長すらくじ引きで決めるようないい加減さだった。
(……考えられることとすれば……村民同士では、子供をつくることができない……?)
そう考えれば、古いドレスを着て可愛くアピールしていた村娘たちを思う。あれは王都から来た騎士を誘惑するためのものだったとしたら。
そして。
ここに来て、ようやくベティはどうしてテレンスから何度も何度も口酸っぱく「この村で恋愛するな」「したら絶対に邪魔する」「村内の食べ物を食べない」「毒消しないと食べるな」と言い続けていたのかにやっと気付き、背中に冷たいものが伝うのを感じていた。
(……ありえない)
優しくされることにも女扱いされることにも慣れていないベティは、村民からしてみればさぞかし楽な相手であっただろう。元々金髪碧眼な上に圧倒的に顔の整った者たちしかいない村だ。その容姿と親切心から誘惑すれば、すぐ落ちる女など。
(……私に子を産ませるつもりなのか。つまり、村長の家に行くっていうのは……)
おぞましい想像が頭に浮かぶ。
ありえない。デニスはそんなことしない。そう彼女は必死で否定するが、やたらと恋愛のうがった話ばかりしたがるクラリッサは、何度もデニスとベティをその気にしようとあれこれしていた。
もしそのたびにテレンスに叱り飛ばされて、毒消しらしき謎のハーブティーを飲まされていなかったら、今頃どうなっていたのか、彼女にだってわからない。
しかしここで気付いたとして、どうすればいいのか。
(このまま行かないで寝たふりをする? だが……)
今のところ、村民は好き好んで駐屯所を訪れることはない。だが、今日は皆流星祭りだからと張り切っているし、酒も入って気が大きくなっている。
普段は温厚な人々が、女を求めて……それこそ村内の女たちすら推奨しているのだから……駐屯所を襲撃してきたら、他の駐屯所の面々にも迷惑がかかる。
ベティは胸元を押さえた。服の下にはテレンスからもらった犬笛がぶら下がっている。
(……皆に迷惑がかからぬよう、私ひとりで行こう。本当にどうしようもなくなったら、テレンスを呼んで……でも)
テレンスはどういう理屈かは知らないが、フィールディングを滅ぼしたがっていた。
(この村に蔓延しているらしい呪いは、本当に解けないものなんだろうか)
ベティは身の危険を感じながらも、駐屯所の面々に声をかけた。
「それでは、見回りに行ってきます」
「気を付けろよ。あと酒には注意な。ここの蜂蜜酒は本当に口当たりがよくって美味いが、飲み過ぎるから」
「はい」
皆に好き勝手言われながら、ベティは剣の柄に触れた。
胸元には犬笛、腰には剣。普段であったらそれだけでも堂々としているというのに、今の彼女にとっては頼りない装甲であった。
****
村長の家は、フィールディングの中央部。広場のすぐ近くにある一軒家だ。
基本的にどこの家も小さくて台所とベッドとテーブルがすぐ見られるようなつくりになっているが、さすがに村長宅は部屋のひとつひとつに区切りがある上、大人数入ってもびくともしないつくりになっている。
「こんばんは。流星祭りの二次会に伺いました」
「ああ! 騎士様! ようこそ!」
ドアを開けた途端に、むわりと匂いがするのに、ベティは顔を引きつらせた。
甘い匂いは蜂蜜酒のものであり、部屋に充満するほどその匂いが漂っている。
招待されたまま、ベティは彼らについていった。村長の家の調度品ひとつひとつも、この村では一番手が込んでいる上に金も使っている。王都に住む騎士ですら、新興貴族ではここの村長の家具のひとつでも買えないことは理解できた。
「ああ、ベティ! いらっしゃい!」
「こんばんは、デニス……あなた、ここの家に住んではいなかったのでは?」
「お兄ちゃん、くじ引きで勝ったの。だから今日から村長よ」
そう嬉しそうな顔でデニスに抱き着いているクラリッサに、ベティはどう反応すればいいのかがわからなかった。
「ほら座って座って。すぐに酒を持ってくるから」
「ですけど……でも今晩は流星が出るのに、誰も外を見ないんですね?」
なんとか酒を飲むのを避けようと、ベティは必死で言葉を編み上げる。
途端に村長宅は一瞬静けさに包まれた。次の瞬間、どっと笑い出す。
「アハハハハハハハハハ! そうか、流星をそのままで取ったのか!」
「そんな訳がない。流星は見るけれど、空に浮かんでいる星じゃない!」
「え、ええ……?」
ベティは困惑して見ていた。
「寝ている間に、何度も何度も星を見るから、流星祭りだ」
「残念ながらこのところ、ここは商人もあまり長時間滞在してくれなくって、村に女性が枯渇しているんだ。でもそんな中、本当に久々に女性が現れてくれて嬉しいよ!」
そう言いながら、ひとりがベティの手を掴んだ。
男は見覚えのないシャツにスラックスを穿いていたが、顔は間違いなくデニスであり、端正な顔つきに甘い流し目に、一瞬ベティはときめきかけるが、その瞬間脳が必死に抵抗する。
(この人は、どれだけ姿かたちが似ていても……声すら似通っていても……デニスじゃない……!)
「……やめろ。離せ」
「流星を一緒に見たくないのかい?」
その喉を潰すぞ、同じ声が出ないように。
ベティは腰の剣を抜くと、途端にその場にあったテーブルに斬りかかった。テーブルを真っ二つにすることこそできなかったものの、深く傷が入る。途端に場から女性陣の悲鳴が上がる。
「ベティ!? 自分がなにをしているのかわかっているの!?」
クラリッサが抗議の声を上げるが、ベティはフウフウと息を荒くして、剣を向ける。
「……私は帰る。ここをどけ」
「なにを……」
「私は帰る! 大人しくここをどけぇぇぇぇ!」
剣を向けて暴れるが、とうとう男たちは手元にあった酒樽をベティに向かって投げつけはじめた。
「この! 女だから招き入れたのに! もし女じゃなかったら誰だってこんな野蛮人呼ぶ訳ないだろう!?」
「うるさいっ! そっちこそなんなんだ!? 村ぐるみで女ひとりを寄ってたかって! 恥を知れ!」
「知れる訳ないだろう!? 商人だって寄らない、村の外に出ようとしたら殺される! 子供が欲しいと思っているのにこれじゃあんまりだ!」
一方的にベティを責め続ける村人。その村人たち全員を相手取って、テーブルを乗っている酒ごとひっくり返して盾にし、椅子を投げてなんとか扉を叩き割って逃げようと抵抗し続けるベティ。
二組の会話が平行線のまま、大暴れが続いたかに見えたが、とうとうベティの頭を誰かが大きく殴りつけた。お盆で激しく殴打してきたのは、デニスだった。
「……デニス、どうして……」
デニスは心底悲し気に顔を歪ませていた。
「ベティ、頼むから……頼むから」
もしもここで、ベティはデニスだけに求められていたら応じてしまっていただろう。彼女はどれだけ騎士として腕が立ち、人よりよっぽど強いが、根は純情のままだったのだから。
しかし。残念ながらそうはならなかった。
「村の子を産んで」
「…………っ!」
普段の彼女だったら泣き崩れて縋り付いていただろうが、頭を殴打されてまともに立てず、そのまま床に倒れ、剣を転がした。
途端にその場にいた男たちが彼女に襲い掛かってくる。
「さっさと終わらせろ!」
(イヤダ……)
どれだけ強かろうが、どれだけ騎士として振る舞っていようが、暴力に強い訳ではない。ましてや彼女の心も体も簡単に踏みつけられて、それをすぐに逆上して一度は情を寄せた相手を、すぐに殴りつけられる訳ではなかった。
ただ、ベティは何度も何度も忠告を受けたのに、それを無視した自分の愚かしさに嫌気が差した。
彼女の着ていた騎士団服のジャケットは剥ぎ取られ、シャツが剥き出しになる。その中で、彼女は自分の首元にかかった犬笛に気付いた。
彼女は服を乱されながら、なんとか犬笛の先っぽに噛みつくと、思いっきり吹いた。
それは音は出ない。人間では全くなにをしたのかわからない。意味があるのかないのか、ベティではわからず、だんだん不安に駆られてきたが。
途端に村長宅の扉が大きく蹴り上げられたのだ。
そこには、にこやかに口角を吊り上げつつも、目はちっとも笑っていないテレンスが立っていた。
「おや、皆さんお揃いで。これはこれは……皆さんでずいぶんと楽しいことをしてらっしゃるようで」
ベティを取り囲んだ男たちが、ベティを押し倒している。服はかろうじて着て、最後まで剥かれてはいないが、これからなにをしようとしているかは一目瞭然だった。
さっきまで頭が真っ白になり、悲観で羞恥を忘れていたベティも、どっと羞恥を取り戻す。
「ふ、服!」
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