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雪解けは戦争のはじまり
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それからというもの、ユリウスは本当に軍議で忙しくなったらしく、アンジェリカの発情期の一週間以外は一切顔を見せなくなった。
日々不安定になっていくアンジェリカに、ユールは黙って抑制剤を調合しては、飲ませていた。
「……本人は説明しているつもりなのでしょうが、あまりにも説明不足です。ましてや無理矢理番にしておきながら、ここまで姫様を不安定にさせて」
「……ごめんなさいユール。私がいろいろと至らないばかりに」
「そこは姫様はもう少し怒っていいところです! なによりも……失礼な話、オメガは冬に弱いのです。寒くなるとどうしても人恋しくなりますから。この国にもオメガとアルファの物語が残っている割に、その辺りをちっともわかってらっしゃらない」
ユールが気を利かせて、抑制剤は飲みやすい薬草と、優しい匂いの花で調合され、お湯で割られて出された。それを飲みながら、アンジェリカは少しだけひと息ついた。
「……冬が終わったら、戦争がはじまるそうです」
「まだそうと決まった訳じゃないですよ」
「でも……カラスも戻ってこないし、ユリウスは軍議で帰ってこないし……」
「姫様、本当にあまり思い詰めませんように。あなたになにかありましたら、ハンナも悲しみますよ」
「……ええ」
あまりにものアンジェリカの憔悴っぷりを心配したハンナは、冬になって以降必死に彼女を慰めるための料理をつくり続けていた。
ゴロゴロした野菜スープ、ソーセージ、ベリーの砂糖漬けを飾ったパンケーキ……全てアンジェリカの心を慰めるためにつくったものであり、アンジェリカはそれをありがたくも申し訳なく思いながら平らげていた。
今は寝る前の温めたハニーミルクを飲んでいる。
「……姫様、わたくしたちでは、姫様にどれだけ寄り添っても番の替わりにはなり得ませぬ。どうか全てが落ち着きますように」
「ええ、ありがとうユール」
皆がこれだけアンジェリカのことを心配してくれて、その心配を一身に受けながらもアンジェリカが心苦しく思っていたのは。
ユリウスが後宮に足を向けなくなって以降、アンジェリカはほとんど夜眠りにつくことができなくなっていたことだ。
あれだけ嫌だったはずの夜伽も、ひとりだと寝台が広過ぎる。
(番うってこういうことを言うのかしら……知らなかったらどれだけよかったのか)
ひとりで過ごすには夜が長過ぎる。
窓の外は雪が積もり、ときどきゴウゴウと激しい音を立てて通り過ぎていく。そしてミチミチと窓縁が音を立てて軋むのだ。
アンジェリカは白狼王国で、ひとりで泣きながらアルファとしての教育を受けていたとき、夜しか安寧がなかった。昼間は泣いても癇癪を起こしても魔術からも教育からも逃げることができず、彼女の婚姻が決まったときにはすっかりと大人しい気質になってしまっていた。彼女がひとりになることができたのは、眠る直前だけであり、そのときだけが彼女の幸福だったというのに。
今は彼女を脅かすものがなにもないはずなのに、広過ぎる寝台では上手く眠りにつくことができない。ひとりで体を丸めて布団の中で何度寝返りを打っても、彼女は眠ることができずにいた。
(ひとりの寂しさなんて知らなくてよかった。私にとってひとりになることは、唯一の安寧だったはずなのに。私から安寧を奪って……あの男は……)
初めて出会ったときは、ユリウスの首を狙っていた。あの男の首を落としたくて仕方がなかった。でも今はすっかりと彼女は変わり果ててしまっていた。
彼の体温が欲しい。彼の息づかいが聞きたい。彼の気配を感じたい。
好きと認めてしまったら最後、彼女はもうひとりでは生きていけなくなってしまう。もうすぐ戦争がはじまるし、皇太子であるユリウスが指揮を執るだろう。彼が後宮に戻ってくるのかも、そのあとすぐに塔に幽閉される予定のアンジェリカが出られるようになるかも、わからないというのに。
(憎い、憎い。あの男が憎い。私にこんな気持ちを押しつけて……その癖なにも教えてくれないんだもの……でも)
愛してしまった。
それはアンジェリカにとって片思いに近いものだ。あの男に暴かれなかったら、自分はアルファから降りることができなかった。自分の気質はアルファには向いてない。アンジェリカがずっと目を背けていたことだが、ユリウスと接して気付いてしまった。
でも、それを一度認めてしまったら最後、アンジェリカはユリウスなしだと生きられないと思い知らされてしまう。それは彼の口からなんの真意も聞いていないのに認めてしまう訳にはいかなかった。
****
あれだけ長いと思っていたはずの獅子皇国の冬も、とうとう終わりを迎えた。
雪の積もる中、アンジェリカはコートを羽織って庭を散歩していて気付いてしまったのだ。積もった雪を割るようにして、雪割草の花が顔を出しているのに。
そして後宮から城下を見下ろしても気付く。
雪に塗れてあまり見えなかった城下の人々が、少しずつ荷物をまとめて馬車に乗り込み、逃げていく様を。いよいよ戦争が近付いているのだ。
(どうして白狼王国は獅子皇国と戦争をしようとしているのかしら……私は既に後宮乗っ取りに失敗していると連絡をしたはずなのに……)
両親はそこまで戦争狂ではない。どちらかというと、魔術師団が面子を賭けて両親に陳情を続けた結果止められなくなったのだと思う。
(どうして……)
アンジェリカが歯がゆく思っている中「姫様」と声をかけられた。
普段ヘラヘラしているカスパルが、珍しくしゃっきりとした顔をしている。服装も日頃なら軽装に剣を携えている出で立ちだというのに、今日は護衛騎士の正装たる甲冑を着ている。
「……私を幽閉しますか?」
「はい、あなた方は仮にも敵対国から輿入れしてきた身ですから。ですが何度も言いますが、我々はあなたを敵として監禁したい訳ではありません。殿下の指示です」
「……そう。あの人はご壮健ですか?」
「ええ、それはもう。日を追うごとに機嫌が底辺に向かっていますよ」
「……それは、元気というのかしら?」
アンジェリカは少し戸惑って尋ねると、「アハハ」とカスパルは笑う。
「あの方、姫様に会いたくて会いたくてたまらないのですよ」
「……そう」
カスパルの言ったとおりだといい。自分がひとりで寂しい夜を過ごしていたのと同じように、彼もひとり自分が隣にいない肌寒さを感じていればいい。
アンジェリカは仄暗い喜びを抱えたまま、カスパルに連れられて後宮を抜け出ていった。
カスパルに連行される中、「姫様!」と声をかけられた。ユールとハンナであった。
「ユールにハンナまで……でも」
「殿下からの依頼ですよ。姫様ひとりを幽閉したら、あなたがあまりにお可哀想だからとユールを付けるようにと、メイドは後宮に滞在したときと同じでいいだろうと」
「そう……ユール、ありがとう。ハンナ、頼めますか?」
「わたくしは姫様とご一緒ですから。あなた様がこの国に嫁がれたときからずっと」
「……わ、私は、皇太子妃様のお世話、任されていますから! よろしくお願いします」
ふたりの顔を見て、本当にユリウスが気を遣ったのだろうと思いながら、カスパルに連れられていく。
後宮の長い廊下を抜け出した先。そこは森になっていた。後宮の中庭はアンジェリカのために白狼王国に限りなく近付けていたというのに、この森は獅子皇国の雄々しさやこの国の逞しさを表したかのように、太い木ばかりが天高くそびえ立っていた。そしてその緑を越えた先。
そこには真っ白な塔が伸びていた。
幽閉用にしてはやけに綺麗な塔に、アンジェリカはしばし唖然と見上げていた。
「……本当に私が幽閉される場所はここですか? とても綺麗なんですが……」
「だから何度も申し上げた通り、殿下はあなた様を幽閉はなさるおつもりでも、生活に不自由させることも、監禁することもよしとしてらっしゃらないのです。本当に戦争が終わりましたら、必ず迎えに行きますから、どうかそれまで大人しくなさってください」
「……わかりました」
そのままカスパルに中に入れられ、外から戸の鍵をかけられる。
アンジェリカたちはそこをしばし茫然として見上げていた。
てっきり螺旋階段を上り下りさせられるのだとばかり思っていたのに、中には手でくるくると回すエレベーターが設置されており、何階に行っても外を眺められるように見張らしもよければ寝台まで用意されていた。
さすがに窓には侵入者対策に柵は施されていたが、それで視界を遮るようなこともされていない。
「……まるで風変わりな別荘に来たような感じだけれど」
「本当になにを考えてらっしゃるんですか、あの方は」
「本当に。まるでここは」
まるでここは構造が鳥かごのようにアンジェリカには思えた。
鳥を閉じ込めるだけでは、鳥はくちばしを塞ぎ、歌を歌うことを忘れてしまうが。
充分な広ささえ与え、風切り羽さえ切ってしまったら、どこに行くこともなく歌を歌っている。
今はアンジェリカはユリウスと番になったがために、彼の気配が完全に遠ざかったら、彼女自身が狂い死んでしまうことがわかっている。
だからどこにも行けないし、彼女もどこかに逃げたいという気持ちは消え失せている。
ハンナは「洗濯物はこちら……台所はこちらで……洗面所は……」と生活に困らないよう様々な場所を確認中だ。
ユールはユールで、カスパルを説得して持ち込んだ抑制剤の材料になる薬草を管理するための部屋を探しはじめている。
その間、アンジェリカは一番上の部屋に辿り着いた。日当たりが一番よく、ここからなら森で遮られて見えにくい王城もかろうじて眺めることができた。
ユリウスがなにを考えているのかがわからない。そもそも外の情報を遮られてしまっているのだから、知りようがないのだ。今のアンジェリカたちには図書館に通う自由さえ奪われているのだから。
仕方がないから、彼女たちはなるべく塔での生活が快適になるよう、ここになにがあり、なにができてなにができないのかを確認して回ることにした。
ユリウスは幽閉宣言をした割に、本当に彼女たちに自由を与えているため、自分たちでなにができてなにができないのかを確認する必要があったのだ。
日々不安定になっていくアンジェリカに、ユールは黙って抑制剤を調合しては、飲ませていた。
「……本人は説明しているつもりなのでしょうが、あまりにも説明不足です。ましてや無理矢理番にしておきながら、ここまで姫様を不安定にさせて」
「……ごめんなさいユール。私がいろいろと至らないばかりに」
「そこは姫様はもう少し怒っていいところです! なによりも……失礼な話、オメガは冬に弱いのです。寒くなるとどうしても人恋しくなりますから。この国にもオメガとアルファの物語が残っている割に、その辺りをちっともわかってらっしゃらない」
ユールが気を利かせて、抑制剤は飲みやすい薬草と、優しい匂いの花で調合され、お湯で割られて出された。それを飲みながら、アンジェリカは少しだけひと息ついた。
「……冬が終わったら、戦争がはじまるそうです」
「まだそうと決まった訳じゃないですよ」
「でも……カラスも戻ってこないし、ユリウスは軍議で帰ってこないし……」
「姫様、本当にあまり思い詰めませんように。あなたになにかありましたら、ハンナも悲しみますよ」
「……ええ」
あまりにものアンジェリカの憔悴っぷりを心配したハンナは、冬になって以降必死に彼女を慰めるための料理をつくり続けていた。
ゴロゴロした野菜スープ、ソーセージ、ベリーの砂糖漬けを飾ったパンケーキ……全てアンジェリカの心を慰めるためにつくったものであり、アンジェリカはそれをありがたくも申し訳なく思いながら平らげていた。
今は寝る前の温めたハニーミルクを飲んでいる。
「……姫様、わたくしたちでは、姫様にどれだけ寄り添っても番の替わりにはなり得ませぬ。どうか全てが落ち着きますように」
「ええ、ありがとうユール」
皆がこれだけアンジェリカのことを心配してくれて、その心配を一身に受けながらもアンジェリカが心苦しく思っていたのは。
ユリウスが後宮に足を向けなくなって以降、アンジェリカはほとんど夜眠りにつくことができなくなっていたことだ。
あれだけ嫌だったはずの夜伽も、ひとりだと寝台が広過ぎる。
(番うってこういうことを言うのかしら……知らなかったらどれだけよかったのか)
ひとりで過ごすには夜が長過ぎる。
窓の外は雪が積もり、ときどきゴウゴウと激しい音を立てて通り過ぎていく。そしてミチミチと窓縁が音を立てて軋むのだ。
アンジェリカは白狼王国で、ひとりで泣きながらアルファとしての教育を受けていたとき、夜しか安寧がなかった。昼間は泣いても癇癪を起こしても魔術からも教育からも逃げることができず、彼女の婚姻が決まったときにはすっかりと大人しい気質になってしまっていた。彼女がひとりになることができたのは、眠る直前だけであり、そのときだけが彼女の幸福だったというのに。
今は彼女を脅かすものがなにもないはずなのに、広過ぎる寝台では上手く眠りにつくことができない。ひとりで体を丸めて布団の中で何度寝返りを打っても、彼女は眠ることができずにいた。
(ひとりの寂しさなんて知らなくてよかった。私にとってひとりになることは、唯一の安寧だったはずなのに。私から安寧を奪って……あの男は……)
初めて出会ったときは、ユリウスの首を狙っていた。あの男の首を落としたくて仕方がなかった。でも今はすっかりと彼女は変わり果ててしまっていた。
彼の体温が欲しい。彼の息づかいが聞きたい。彼の気配を感じたい。
好きと認めてしまったら最後、彼女はもうひとりでは生きていけなくなってしまう。もうすぐ戦争がはじまるし、皇太子であるユリウスが指揮を執るだろう。彼が後宮に戻ってくるのかも、そのあとすぐに塔に幽閉される予定のアンジェリカが出られるようになるかも、わからないというのに。
(憎い、憎い。あの男が憎い。私にこんな気持ちを押しつけて……その癖なにも教えてくれないんだもの……でも)
愛してしまった。
それはアンジェリカにとって片思いに近いものだ。あの男に暴かれなかったら、自分はアルファから降りることができなかった。自分の気質はアルファには向いてない。アンジェリカがずっと目を背けていたことだが、ユリウスと接して気付いてしまった。
でも、それを一度認めてしまったら最後、アンジェリカはユリウスなしだと生きられないと思い知らされてしまう。それは彼の口からなんの真意も聞いていないのに認めてしまう訳にはいかなかった。
****
あれだけ長いと思っていたはずの獅子皇国の冬も、とうとう終わりを迎えた。
雪の積もる中、アンジェリカはコートを羽織って庭を散歩していて気付いてしまったのだ。積もった雪を割るようにして、雪割草の花が顔を出しているのに。
そして後宮から城下を見下ろしても気付く。
雪に塗れてあまり見えなかった城下の人々が、少しずつ荷物をまとめて馬車に乗り込み、逃げていく様を。いよいよ戦争が近付いているのだ。
(どうして白狼王国は獅子皇国と戦争をしようとしているのかしら……私は既に後宮乗っ取りに失敗していると連絡をしたはずなのに……)
両親はそこまで戦争狂ではない。どちらかというと、魔術師団が面子を賭けて両親に陳情を続けた結果止められなくなったのだと思う。
(どうして……)
アンジェリカが歯がゆく思っている中「姫様」と声をかけられた。
普段ヘラヘラしているカスパルが、珍しくしゃっきりとした顔をしている。服装も日頃なら軽装に剣を携えている出で立ちだというのに、今日は護衛騎士の正装たる甲冑を着ている。
「……私を幽閉しますか?」
「はい、あなた方は仮にも敵対国から輿入れしてきた身ですから。ですが何度も言いますが、我々はあなたを敵として監禁したい訳ではありません。殿下の指示です」
「……そう。あの人はご壮健ですか?」
「ええ、それはもう。日を追うごとに機嫌が底辺に向かっていますよ」
「……それは、元気というのかしら?」
アンジェリカは少し戸惑って尋ねると、「アハハ」とカスパルは笑う。
「あの方、姫様に会いたくて会いたくてたまらないのですよ」
「……そう」
カスパルの言ったとおりだといい。自分がひとりで寂しい夜を過ごしていたのと同じように、彼もひとり自分が隣にいない肌寒さを感じていればいい。
アンジェリカは仄暗い喜びを抱えたまま、カスパルに連れられて後宮を抜け出ていった。
カスパルに連行される中、「姫様!」と声をかけられた。ユールとハンナであった。
「ユールにハンナまで……でも」
「殿下からの依頼ですよ。姫様ひとりを幽閉したら、あなたがあまりにお可哀想だからとユールを付けるようにと、メイドは後宮に滞在したときと同じでいいだろうと」
「そう……ユール、ありがとう。ハンナ、頼めますか?」
「わたくしは姫様とご一緒ですから。あなた様がこの国に嫁がれたときからずっと」
「……わ、私は、皇太子妃様のお世話、任されていますから! よろしくお願いします」
ふたりの顔を見て、本当にユリウスが気を遣ったのだろうと思いながら、カスパルに連れられていく。
後宮の長い廊下を抜け出した先。そこは森になっていた。後宮の中庭はアンジェリカのために白狼王国に限りなく近付けていたというのに、この森は獅子皇国の雄々しさやこの国の逞しさを表したかのように、太い木ばかりが天高くそびえ立っていた。そしてその緑を越えた先。
そこには真っ白な塔が伸びていた。
幽閉用にしてはやけに綺麗な塔に、アンジェリカはしばし唖然と見上げていた。
「……本当に私が幽閉される場所はここですか? とても綺麗なんですが……」
「だから何度も申し上げた通り、殿下はあなた様を幽閉はなさるおつもりでも、生活に不自由させることも、監禁することもよしとしてらっしゃらないのです。本当に戦争が終わりましたら、必ず迎えに行きますから、どうかそれまで大人しくなさってください」
「……わかりました」
そのままカスパルに中に入れられ、外から戸の鍵をかけられる。
アンジェリカたちはそこをしばし茫然として見上げていた。
てっきり螺旋階段を上り下りさせられるのだとばかり思っていたのに、中には手でくるくると回すエレベーターが設置されており、何階に行っても外を眺められるように見張らしもよければ寝台まで用意されていた。
さすがに窓には侵入者対策に柵は施されていたが、それで視界を遮るようなこともされていない。
「……まるで風変わりな別荘に来たような感じだけれど」
「本当になにを考えてらっしゃるんですか、あの方は」
「本当に。まるでここは」
まるでここは構造が鳥かごのようにアンジェリカには思えた。
鳥を閉じ込めるだけでは、鳥はくちばしを塞ぎ、歌を歌うことを忘れてしまうが。
充分な広ささえ与え、風切り羽さえ切ってしまったら、どこに行くこともなく歌を歌っている。
今はアンジェリカはユリウスと番になったがために、彼の気配が完全に遠ざかったら、彼女自身が狂い死んでしまうことがわかっている。
だからどこにも行けないし、彼女もどこかに逃げたいという気持ちは消え失せている。
ハンナは「洗濯物はこちら……台所はこちらで……洗面所は……」と生活に困らないよう様々な場所を確認中だ。
ユールはユールで、カスパルを説得して持ち込んだ抑制剤の材料になる薬草を管理するための部屋を探しはじめている。
その間、アンジェリカは一番上の部屋に辿り着いた。日当たりが一番よく、ここからなら森で遮られて見えにくい王城もかろうじて眺めることができた。
ユリウスがなにを考えているのかがわからない。そもそも外の情報を遮られてしまっているのだから、知りようがないのだ。今のアンジェリカたちには図書館に通う自由さえ奪われているのだから。
仕方がないから、彼女たちはなるべく塔での生活が快適になるよう、ここになにがあり、なにができてなにができないのかを確認して回ることにした。
ユリウスは幽閉宣言をした割に、本当に彼女たちに自由を与えているため、自分たちでなにができてなにができないのかを確認する必要があったのだ。
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