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Ⅷ.加賀編
go to bed
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倉知の息が、上がっている。駅からここまで走ってきたのだろう。
健気だな、と思った。健気で、可愛い。
「おかえりって、なんか一緒に住んでるみたいでいいですね」
俺の体を解放すると、やけに大人びた顔で「ただいま」と言った。
「上がってもいいですか」
「ん、おう」
一緒に靴を脱いで部屋に上がると、倉知が「あ」と声を漏らした。
「俺、汗臭くないですか?」
「どれ」
顔を近づけて、首の匂いを嗅ぐ。
「うん、汗臭い」
至近距離で顔を上げると、倉知がすかさずキスをしてくる。すぐに離れると、頭を掻いて言った。
「シャワーしてきます」
「しなくていいよ。汗臭いけど臭くない」
倉知は、よくわからない、という顔で立ち尽くしている。
「好きな奴の汗の匂いって、臭くないんだよ。いいからそこに座ってろ」
わかりやすく赤面した倉知を置いて、寝室の明かりを点けて、クローゼットを開ける。
「加賀さん」
座ってろ、と言ったところで大人しく待つわけがない。寝室のドアの前で、倉知が仁王立ちしている。
「スーツ脱ぐとこ、見たい」
「お、おう。いいけど、別に面白くないよ」
倉知は「あ」と思いついた顔になって、すぐに言い直した。
「スーツ、脱がしていいですか?」
「あのな、まず最初に飯を作る。そして食う。次に旅行の計画を立てる。いちゃつくのは最後。時間が限られてんだから、妙なことすんなよ」
腕時計を外して、ネクタイを緩めながら言った。倉知は寝室には入ろうとせず、逡巡している。
「ただ脱がせたいだけです。スーツ姿の加賀さんって、俺にとって特別なんです」
「お前、明日から俺のスーツ姿にハァハァするはめになるぞ」
「大丈夫です」
倉知が胸を張って言った。
「もうすでにハァハァしてるんで」
変態臭い科白を変態臭い顔で堂々と言い放つと、寝室に入ってきた。
「倉知君」
「脱がすだけです」
「ほんとに?」
絶対にそれだけでは済まない。倉知が黙って緩めたネクタイに手を掛けた。ネクタイをほどき、ベッドの上に丁寧に置いて、今度はスーツの上着を脱がせてくれる。
次に、ワイシャツのボタンを一つずつ外していく。倉知の手が、ベルトに触れたところで気がついた。
「もしもし、お兄さん、勃ってますよ」
「すいません、生理現象なんで気にしないでください」
謝りながらベルトを外し、ズボンのファスナーに手を伸ばそうとして、「うっ」と腰を折り曲げた。
「何? イクの?」
早漏に磨きがかかってないか?
「セーフです」
屈み込む倉知の頭を撫でてから、中途半端な状態の服をすべて脱いだ。倉知が涙目で俺を見上げてくる。
「脱がしたかったのに」
「また今度な」
部屋着に着替えて、寝室を出る。倉知がゾンビのように、四つん這いのままついてくる。
「ご飯作るからテレビでも観て待ってて」
リモコンでテレビを点けた。倉知は床で体育座りをしてテレビを見ている。忠犬みたいで可愛い。
俺がキッチンに立っている間、忠犬は黙ってテレビを見て待っていた。その姿が視界に入るたびに、顔がにやけてしまった。
「治まった?」
テーブルの上に料理を並べて、コップにお茶を注いで訊いた。
「なんとか。うわ、なんかすごい、美味しそう」
ご飯の上に千切りキャベツをのせて、その上にタマネギと豚肉を炒めて酒と醤油とみりんで味付けしたものをぶっかけるだけの丼物だ。
丼物にすれば洗い物も少なくて済むから、楽なのだ。
「手抜きでごめんな」
「これ手抜きなんですか?」
目を輝かせて両手を合わせた。俺もそれにならう。
「いただきます」
声を揃えて言うと、倉知が子どものような顔で笑う。倉知家の慣習にのっとってみたのだが、気持ちがいいものだ。一人暮らしをしていると、こういう当たり前の作法を忘れつつある。倉知に出会って、数々の人間らしさを取り戻せた気がする。
「加賀さん、美味しい」
「それはよかった」
すごいすごいと褒めたたえながら幸せそうに食べる様子を見ていると、仕事の疲れが吹っ飛んだ。
こいつとなら、きっと同棲しても楽しいだろうな、と思った。でも高校生のうちはまず無理だ。進学か、就職か、どっちだろう。
もし進学で、他県の大学に行ったら。四年間、遠距離恋愛なんて無理だ。寂しい。他県に行く、と言ったら止めてしまうかもしれない。
「ごちそうさまでした。美味すぎて涙出ました」
完食した倉知が目をこすって言った。
「大げさな奴」
「今日仕事、大丈夫だったんですか?」
無理してないか、気にしているようだった。早く帰るにはコツがある。高橋に雑用を押しつけてこき使ってやった。普段そんなことをしないので、こき使われた本人は驚いていたが、いかにも仕事をしている雰囲気を味わうことができて嬉しそうでもあった。
「うん。やればできるだろ」
「さすがです」
コップに口をつけて倉知を見る。目が合った。
「加賀さん」
距離を詰めようとする倉知の腹を、足の裏で止めて訊いた。
「で、倉知君はどっか行きたいとこある?」
「露天風呂付きの温泉」
「五月ちゃんに怒られそう」
「あと、ラブホテル」
お茶を吹きそうになった。
「お、まえなあ、もうちょっと夢のある発想ないの? やることばっかじゃねえか」
「違います。単に興味があるだけです。行ったことないし」
「そりゃないだろ。童貞だったんだから」
「加賀さんは……」
行ったことあるのか、と訊こうとしたようだが、思いとどまり、間を置いてから別の質問に切り替えてきた。
「どこか行きたいとこないんですか?」
「あるよ」
テーブルの上の丼を片付けて、腰を上げる。丸投げしたところで結局決められないだろうと思って大体のプランは立てておいた。
「今、USJでゾンビに会えるんだよ」
「ゾンビ」
反応した倉知が不思議そうにする。
「ゾンビがいるんですか? 本物?」
「それ大ニュースだよな」
声を上げて笑いながら、洗い物を済ませ、ノートパソコンを持ってソファに座る。
パソコンを起動させると、倉知が隣に座った。不自然なスペースが空いている。
「なんでそんな遠いんだよ」
「近いと理性が飛ぶんです」
真顔なのがいじらしくて、別にいいかと一瞬ほだされそうになったが、宿泊先も決めてしまいたい。
「はい、これ見て」
USJのサイトを開いてパソコンを渡した。
「大変だ、ゾンビだ」
「あ、こういうの無理?」
「いえ、だいぶ慣れました。今ならこう、一撃でやっつけられそうです」
腕を振り下ろす仕草が面白くて、笑ってしまった。
「これ人間だから攻撃したら駄目だぞ」
「え? ああ、はい、大丈夫です、知ってます」
怪しい返事をして、しばらくパソコンを見ていたが、やがて俺に顔を向けて、にこっと笑った。
「USJ行きましょう」
「おう」
パソコンを受け取って、次は「大阪 観光」で検索をかける。
「大阪行くなら、あと海遊館でも行っとくか」
「それ水族館ですよね」
はしゃいだような声で言った。
「水族館好き?」
「はい、ていうかなんかデートっぽい」
「デートだろ?」
倉知が笑顔のまま硬直して、ゆっくり瞬きをする。
「デートですね」
涙目になって、へへ、と照れ笑いをする。頬を撫でてやると、眉毛を下げて泣きそうになった。
「一泊目はラブホでいいけど、温泉、俺が決めていい?」
「部屋で入れるならどこでもいいです」
変なところにこだわる。俺の視線に気づき、言い訳をする。
「別に、下心とかじゃないです」
「部屋風呂がいい理由、他になんかある?」
「……あの、他の人に、見られたくないんです」
まだそんなことを言うのか。呆れたが、こいつにはこいつの譲れない何かがあるのだろう。
「でも俺大浴場も行くよ。もったいないし」
「そ、そんな……」
それにしても二週連続で温泉なんて贅沢だ。
「有馬温泉でいい?」
「有馬温泉」
「兵庫な。あ、結構あるんだな、露天風呂付きの客室って」
倉知がパソコンを覗き込んでくる。
「倉知君」
「は、はい」
倉知が慌てて距離を取る。初々しい反応は、最初にこの部屋を訪れたときを連想させた。あれは可愛かった。今も可愛いけど。
「ちょっと抱っこして」
「えっ」
動こうとしない倉知のふところに割り込んで背中を預ける。
「もう予約してしまいたいから、一緒に見てて」
俺の背後で背もたれと化した倉知が息を詰める。
「カップルにおすすめ、だって。こういうとこ泊まったらバレバレだよな」
はは、と笑ったが、倉知は凍りついたままだ。
見上げると、緊張した顔がすぐ近くにあった。
「どうした?」
「あの、ほんと理性が……。もう、いいですか?」
倉知の腕が俺の腹に添えられた。
「駄目。宿泊先の次は新幹線も予約するし、まだ我慢してろ」
「この体勢で? 加賀さん、もしかしてどSですか?」
「うん。あー、どうせなら美味いもん食いたい」
「俺は加賀さんが食べたいです」
「はいはい、あとでな。つーかもう予約取れるとこ一件だわ」
「そこでいいです。味見しますね」
「味見?」
倉知の髪が、顔にかかる。首筋にぬめった感覚。
「美味しいです」
「お前な……」
「え、ていうかすごい値段ですね」
俺の肩に顎をのせて、パソコンの画面を凝視する。
「露天風呂付きにこだわる誰かさんのせいだろ」
「こんな高いんですね。じゃあここ、俺が出します」
さらっと言った科白は高校生に似つかわしくないものだった。思わず倉知の顔を確認する。違うところにしよう、ではなく、俺が出す、とくるとは。
「自由に使っていい貯金、十五万円くらいあるんで大丈夫です」
「金使わなそうだもんな、お前」
予約画面に進んで、確定させる。
「でもいいよ。金は別のことに使え」
「え、駄目ですよ。俺のわがままなのに」
「お前の貯金額にゼロ二つ足したくらい俺も貯金あるから」
倉知が黙った。頭の中でゼロを二つ足しているのだろう。
新幹線の予約画面を開いて操作していると、倉知の手が服の中に入ってきた。
「俺、加賀さんが運転するとこ見たかったです」
「ん、ああ、関西方面行くなら車じゃないほうがいいから。つーかどこ触ってんだよ」
「運転する加賀さん……」
「仕事で普通に営業車使ってるし、別に珍しくないよ。乳首をつまむな」
「もう限界です」
耳の裏に、熱っぽい吐息がかかる。倉知が俺のズボンに左手を突っ込んだ。さっきから腰の辺りに倉知の股間が当たっている。言葉通り、限界なのがわかる。
好きにさせたまま、淡々と予約を進める。最終日はなるべく早く帰ってこよう。自室で休息する時間が、きっと必要だ。
俺の背後で倉知の呼吸が荒くなっていく。ゆるゆると動く右手と左手。耳たぶを噛まれたが、堪えて画面に集中する。
「加賀さん、大きくなってきた」
嬉しそうな声で言って、俺の首の後ろに鼻をすり寄せる。
「加賀さん、加賀さん」
ちゅ、ちゅ、と音を立てて首にキスをする倉知の声が、異様にエロく聞こえ、指が震える。やめろと言うと負けたようで嫌だから、意地でも言ってやらない。
「好きです。大好きです。いい匂い」
倉知が俺の匂いを嗅ぎ始めたところで予約が完了した。
パソコンをシャットダウンさせて、ディスプレイを閉じる。肩越しに振り返り、軽くキスをした。
「ベッド行くか」
倉知の喉仏が上下する。
「体、平気ですか? 昨日、すごいしたし、つらくないですか?」
「あれ? つらいって言ったらやめるの?」
「やめます」
ためらわずに、まっすぐ俺を見て答えた。股間を限界までふくらませておいて、随分優しいな、と笑いが漏れた。
「ベッド行くぞ」
手を引っ張って倉知をソファから引きはがし、寝室に移動した。
「コンドーム、なくなったんですよね」
倉知が指摘した。なければないで、ローションさえあれば入る。でも早漏だからイク前に抜いて外に出すなんて芸当はこいつには無理だろう。中に出されるのは避けたい。
「あるよ。今日帰りにコンビニで買った」
鞄からコンドームの箱を取り出してベッドに投げた。
「え、コンビニに売ってるんですか」
「ドラッグストアとかな」
「そういうの、どういう顔で買うんですか? 恥ずかしくないですか?」
「レジの子のほうが照れてたね」
「……それ、女の人ですか?」
「うん、高校生かな? ゴムだけ買ったから若干セクハラになったかも」
コンドームの箱のフィルムをはがしながら、倉知が何か言いたげにじっと俺を見てくる。
「真っ赤になって泣きそうだったし、ちゃんとごめんねって謝ったよ?」
コンドームは売り物だし俺は客だ。本来謝る必要なんてないのだが、困っていたから申し訳ない気持ちにはなった。
「……加賀さん」
なんとも言えない顔で倉知が見てくる。
「なんだよ」
「ちょっといろいろ言いたいことがあるんですけど、あとにします」
言いながら、寝室の電気を点けた。
「なんで電気」
「顔が見たいんです。感じてる顔、見たい」
俺の腰を抱いて、至近距離で倉知が言った。そんな余裕、あるのか? と疑問が口をついて出そうだったが、飲み込んだ。
俺の顎をつかんで、上を向かせると、唇を塞がれた。倉知は目を薄く開けたままだった。舌を絡ませながら、視線を合わせ続ける。どちらが先に目を閉じるか、競争が始まった。
上顎に舌先を這わせると、ビクッと体を震わせて倉知が目を閉じた。あっけない。
静かに体を震わせて、俺にしがみついてくる。倉知の長身を、ベッドのほうに軽く押した。へなへなと崩れ落ちて、ベッドに倒れた倉知の上に、またがった。
「なんか、学ランが新鮮だな。たまに忘れるけど、高校生なんだよな」
学ランとワイシャツのボタンを全部外して、腹筋を指先で撫でさする。
「加賀さん、出そう」
情けない顔で倉知が訴える。
「もう? 何もしてないけど」
笑って、ベルトを外し、ファスナーを下ろす。ズボンとパンツを一緒にずり下げて、股間を剥き出しにすると、ペニスが勢いよく跳ねた。先走りで濡れている。
「しょうがねえな」
軽くこすると、倉知が声を漏らす。こすりながら、咥えた。強めに吸ってやると、声を上げて、あっさり果てた。
相変わらず早い。
「すいません、出して」
赤い顔でティッシュを数枚出して、差し出してくる。飲み込んで、口を拭う。挿入前に一回抜くのが恒例になりつつある。
「あの……、俺もします、そして飲みます」
俺のズボンを下ろして、股間に顔をうずめようとするのを、頭を叩いて止めた。
「いい。それより、繋がるぞ」
俺の科白に倉知の顔が一瞬にして赤く染まった。
肩で息をしながら一度天井を仰ぎ、学ランとシャツを脱いで床に投げ捨てた。
「ローション、どこですか」
囁く声で倉知が訊いた。
「ちょっと待って、ベッドの下」
うつぶせになり、腕を伸ばすとそれらしき物を手探りでつかんだ。
倉知がうつぶせのままの俺の背中に覆いかぶさり、手からローションを奪うと、尻を剥き出しにして、無言で塗り込んできた。黙々と、指を抜き差ししている。
「倉知君」
無言なのが怖い。
倉知のもう片方の手が、腹の辺りに滑り込んできた。ローションで濡れた指が、俺のペニスを握る。ぬめった感触。シーツに顔をうずめ、声を殺す。倉知はゆっくりと手を動かしながら、尻に突っ込んだままの指を唐突に抜いた。
声が出て、体が震えた。すぐに、指の代わりのものが入ってくる。しばらく浅い場所をこすっていたそれが、深く、奥に到達する。
悲鳴が口を突いて出る。
「加賀さん」
シーツを握りしめる俺の手に、倉知が指を絡ませる。
「加賀さん、好き」
「ん……、うん……っ」
左手で俺の腰を持ち上げると、四つん這いの格好にされ、そのまま後ろから穿たれる。ギシギシと、ベッドが鳴る。
顔が見たいから、電気を点けたはずなのに。倉知は最後まで、俺を後ろから攻め続けた。
二人が果ててから、思い出したように「顔見れなかった」と呟いた倉知の残念そうな声がおかしくて、笑いながら抱きついた。
喉が渇いた、と咳き込む倉知にペットボトルを持ってきてやると、一口含み、大きく息をつく。
「加賀さん、抱っこ」
両手を広げる倉知の腕の中に飛び込んだ。抱き合って、狭いベッドで寝転んだ。
「で、言いたいことって?」
裸で抱き合っていると、寝てしまいそうだった。倉知は半分閉じかけた目で俺を見て、「なんですか?」と訊いた。
「いろいろ言いたいことがあるってお前が言ったんだろ」
「えー……? ああ、そう、そうでした。俺、今朝、加賀さんにメロメロになってる女の人、見たんです」
「何それ」
倉知は眠そうな目をこすりながら、「うんと」と一生懸命説明を始めた。
今朝電車の中でたまたま目に入ったスマホの画面で、俺を見て喜んでいる女がいると知り、怖くなった、というのがおおよその話だった。
「加賀さんがカッコイイのは仕方ないし、モテるのも仕方ないんですけど、だから、気をつけて欲しいんです」
「気をつけるって、どうするんだよ?」
「外で、可愛いこととか、カッコイイこととか、謹んでください」
意味がわからない。「は? 何?」と聞き返す。
「コンビニのレジの子だって、多分、今頃加賀さんのこと気になってますよ」
それはどうだかわからないが、別に俺は何もしていない。あまりにも動揺していたからフォローをしただけだ。
「具体的にどうすればいいのか全然わかんねえ」
「そうですね……、うーん、あー、俺が隠します」
「ええ?」
「誰にも見られないように、隠します。俺、でかいから、隠せます、きっと」
「お前、もう頭動いてねえな」
「ねえ、加賀さん。俺、どれだけ加賀さんのこと、見続けてたと思います?」
唐突に訊かれて、少し考える。
「さあ、一ヶ月?」
ふふふ、と倉知が含み笑いを漏らす。
「ブー、ハズレです。そんなもんじゃないです」
「じゃあ三ヶ月」
「甘いです、その三倍です」
「九ヶ月?」
なんだそれは。
「馬鹿ですよね。その間、全然気づかない加賀さんもすごいですよ。すごい、鈍感だと思います。人の視線に、無関心すぎるんです」
それが言いたかったらしい。だからといって、見てくる他人に見るなと言うのも難しい。それなら気づかないでいたほうがいい。
「ずっと見てて、ごめんなさい。でも、見てるだけでよくて、九ヶ月ずっと、幸せでした。今はもっと、幸せですけど。本当に……」
まばたきが、ゆっくりになっている。俺の顔を寝ぼけ眼で見つめる倉知が、「幸せ」と呟いたあとで、目を閉じた。
「倉知君」
安らかな寝息が聞こえる。まさに、電池切れ、という言葉にぴったりな寝方だ。
「やべえ、寝た。マジかよ。おい、おーい」
頬をつねってみても、揺さぶってみても、起きない。
「どうすんだよ、これ」
時計を見る。もう十時だ。こんな時間まで帰さないと、家族は心配しているかもしれない。
倉知の腕から抜け出し、ベッドから下りた。制服のポケットからスマホを出して、操作する。ロックがかかっていなくて助かった。勝手に触るのは気が引けたが、俺は倉知の家族の連絡先を知らない。
六花の番号を呼び出した。頼れるのは六花しかいない。
『はいはーい?』
「六花ちゃん? 加賀です。こんばんは」
『あ、こんばんは。七世、そっち行ってるんですよね。もうほんと、すいません』
声がにやけている。
「うん、いいんだけど、あの、実は倉知君寝ちゃったんだよね」
『ね』
ね、と言ったあとで何かガタガタと騒々しくなった。
「大丈夫?」
『すいません、椅子から落ちそうになったんです。寝ちゃったって、ベッドでですか?』
期待を込めた質問だった。考えていることが筒抜けだ。
「うん、ベッドで寝た」
ふふ、ふふふ、と怪しい笑いが聞こえた。
『じゃあよかった。七世、一回寝たらなかなか起きませんよ。地震あっても平然と寝てますから』
確かにすぐ近くで電話をしていてもビクともしない。
『申し訳ないんですけど、今晩泊めていただけますか? 制服ですよね? そのまま学校行かせてください』
「俺は構わないけど、ご両親が心配するよね」
『さっき、七世遅いねって話してて、いっそ泊まってくればいいのにって父が笑ってたんで、泊めていただいたほうが安心です。大丈夫ですよ、私から言っておきます』
本当にこの子は頼もしい。
「じゃあ、お預かりします」
『はい、お願いします。おやすみなさい』
おやすみ、と言って電話を切った。
脱ぎ散らかした制服を拾い上げ、クローゼットのハンガーにかけて片付けた。
時計を見る。こんな時間に寝るなんて、俺には無理だ。この時間帯が、俺にとってのゴールデンだ。
寝室の電気を消した。なんとなく、ドアは開けたままにしておいた。
とりあえず、シャワーをすることにした。体を流し、頭を洗いながら湯船にお湯を張って、バスタブの中でぼんやりと歯磨きをした。
六花から、キスマークを早く消すには血行をよくするために風呂に浸かるのがいい、と聞いた。普段はシャワーだが、昨日も風呂に浸かった。薄くなったような気もする。とりあえず土曜日までに消えてくれればいい。
間が持たない。すぐに飽きた。俺は元々烏の行水なのだ。
風呂から上がり、髪を乾かして、テレビを点ける。起きるかな、と思ったが、地震でも起きないのだから大丈夫だろう。
しばらくテレビを眺めていたが、隣が気になって駄目だ。眠れなくても、横になることにした。
ベッドの中には、倉知がいる。さっきと同じ体勢だ。
カーテンが少し開いていて、外の街灯の明かりが差し込んでいる。
布団に潜り込み、寝顔を見る。まるで子どもだ。なんてあどけないのだろう。
俺よりでかいのに、俺より幼い。なぜだか、愛しくて涙が出た。
ずっと見ていてもいいな、と思ったが、あまりにも気持ちよさそうな寝顔を見ていると、つられて眠くなってきた。
あくびが出た。
倉知の頬にキスをして、目を閉じた。
朝、目覚めた倉知は多少混乱していたものの、寝落ちしたことを平謝りし、朝から一緒にいられて嬉しい、と大いに喜んだ。
同じ駅から電車に乗るのは変な感じだった。
妙にうきうきした感じで、道中手を繋ぎたがったり、電車を待っている間も抱きつこうとしたり、制止するのに骨が折れた。
なんだかわからないが、ハイになっている。
「どうでもいいけど、お父さんとお母さんに謝っといてよ」
「すいません、全部俺が悪いんで、土下座しときます」
言いながら、倉知はキョロキョロと駅のホームを見回した。
「どうした?」
「見られてないかな、と思って」
小声で答えて、「二時の方向」と耳打ちしてきた。こういう言い方ができるのか、と感心して、言われたほうにさり気なく視線を移す。
ポニーテールの女子高生が、スマホを触っていた。
「何、誰? 知り合い?」
「あの子、加賀さんのこと見てました」
倉知が囁く。横目で女の子を確認してみたが、うつむいてスマホに没頭している。
「疑心暗鬼になってない? 俺、別に芸能人でもないし、普通のサラリーマンだよ」
「芸能人じゃないけど、普通でもないです」
至って普通のつもりだ。腑に落ちない。
昨日言っていた電車の女のことも、全部倉知の思い過ごしの気がしてきた。
二時の方向にいる女子高生の横顔を、じっと見た。
スマホから目を離さない。こっちを見ることはない。
ほら見ろ、お前の気のせいだ、と言おうとした瞬間、女子高生が顔を上げて、少し振り返って俺を見た。しっかりと、目が合う。彼女は、ものすごく驚いた顔で固まった。
目を逸らすのも失礼な気がして、少し微笑むと、真っ赤になり、スマホで顔を隠してなぜか頭を下げてきた。
「加賀さん」
「はい」
「今、あの子に笑いかけました?」
「ごめんなさい。もうお前の言うこと、全面的に信じるわ」
倉知は九ヶ月、俺を見続けたプロだ。そのプロが「見ている」というのだから、間違いない。
「なんで笑いかけるんですか」
呆れた表情で、ため息をつかれた。
「俺は他人に冷たくできない体質なんだよ」
「……そう、ですよね。俺のときも優しかったし、だから今一緒にいてくれてる」
確かに倉知のときも冷たくはできなかったが、だから一緒にいるというのは少し違う。
告白されたら誰とでも付き合うわけじゃないし、そんなことをしていたら身が持たない。
「大丈夫、突き放すときはちゃんとやってるよ。お前は特別だから一緒にいる」
倉知を見上げると、眉間に皺を寄せ、手で口を覆ってうつむいていた。
「何?」
「やばいです、今、すごいキスしたい」
俺を見下ろして、顔を近づけてくる。
「あの子に、俺のだって、教えてやりたい」
俺の耳に口を寄せて苦しげに言った。キスをされるのかと身構えたのに、期待が外れて少しだけ残念だった。
電車が到着して、乗客の乗り降りが始まる。さっきの女子高生がこっちを気にしながら電車に乗った。俺たちは最後だった。電車に乗り込むと、倉知が俺の体を抱えて壁際に移動した。倉知の両腕が、顔の左右にある。完全に、隔離された。
なんだこれ、壁ドンか?
笑いが漏れた。倉知のでかい体で、視界が遮断されている。
そういえば、昨日の寝落ち前に言っていた。俺が隠します、というのは、言葉通りの意味だったらしい。
倉知の顔を見上げた。自然と笑顔になる。
壁ドンの威力かはわからないが、不思議な男らしさがある。守られている、と感じた。
倉知はずっと、一点を見つめたままで、俺から目を逸らしていた。この態勢で目を合わせるのは確かに危険だ。
倉知は毎朝俺を見る。立場が逆転した。今度は俺が、見てやろう。
下から眺めていると、困ったことに、キスしたくなった。顎のラインに吸いつきたい。
まるで痴漢だな、と自嘲する。
倉知は俺の視線に気づいていたが、こっちを見ない。結局俺が電車を下りるまで、かたくなに視線を合わせなかった。
「いってらっしゃい」
やり遂げた表情の倉知が微笑む。
「おう」
軽く手を上げて、踵を返す。
歩きながら、にやけそうになるのを堪えた。
子どもっぽいのか、男らしいのか、よくわからないが、可愛い奴め、と思った。
ただ愛されているという充足感が、胸に広がっていた。
健気だな、と思った。健気で、可愛い。
「おかえりって、なんか一緒に住んでるみたいでいいですね」
俺の体を解放すると、やけに大人びた顔で「ただいま」と言った。
「上がってもいいですか」
「ん、おう」
一緒に靴を脱いで部屋に上がると、倉知が「あ」と声を漏らした。
「俺、汗臭くないですか?」
「どれ」
顔を近づけて、首の匂いを嗅ぐ。
「うん、汗臭い」
至近距離で顔を上げると、倉知がすかさずキスをしてくる。すぐに離れると、頭を掻いて言った。
「シャワーしてきます」
「しなくていいよ。汗臭いけど臭くない」
倉知は、よくわからない、という顔で立ち尽くしている。
「好きな奴の汗の匂いって、臭くないんだよ。いいからそこに座ってろ」
わかりやすく赤面した倉知を置いて、寝室の明かりを点けて、クローゼットを開ける。
「加賀さん」
座ってろ、と言ったところで大人しく待つわけがない。寝室のドアの前で、倉知が仁王立ちしている。
「スーツ脱ぐとこ、見たい」
「お、おう。いいけど、別に面白くないよ」
倉知は「あ」と思いついた顔になって、すぐに言い直した。
「スーツ、脱がしていいですか?」
「あのな、まず最初に飯を作る。そして食う。次に旅行の計画を立てる。いちゃつくのは最後。時間が限られてんだから、妙なことすんなよ」
腕時計を外して、ネクタイを緩めながら言った。倉知は寝室には入ろうとせず、逡巡している。
「ただ脱がせたいだけです。スーツ姿の加賀さんって、俺にとって特別なんです」
「お前、明日から俺のスーツ姿にハァハァするはめになるぞ」
「大丈夫です」
倉知が胸を張って言った。
「もうすでにハァハァしてるんで」
変態臭い科白を変態臭い顔で堂々と言い放つと、寝室に入ってきた。
「倉知君」
「脱がすだけです」
「ほんとに?」
絶対にそれだけでは済まない。倉知が黙って緩めたネクタイに手を掛けた。ネクタイをほどき、ベッドの上に丁寧に置いて、今度はスーツの上着を脱がせてくれる。
次に、ワイシャツのボタンを一つずつ外していく。倉知の手が、ベルトに触れたところで気がついた。
「もしもし、お兄さん、勃ってますよ」
「すいません、生理現象なんで気にしないでください」
謝りながらベルトを外し、ズボンのファスナーに手を伸ばそうとして、「うっ」と腰を折り曲げた。
「何? イクの?」
早漏に磨きがかかってないか?
「セーフです」
屈み込む倉知の頭を撫でてから、中途半端な状態の服をすべて脱いだ。倉知が涙目で俺を見上げてくる。
「脱がしたかったのに」
「また今度な」
部屋着に着替えて、寝室を出る。倉知がゾンビのように、四つん這いのままついてくる。
「ご飯作るからテレビでも観て待ってて」
リモコンでテレビを点けた。倉知は床で体育座りをしてテレビを見ている。忠犬みたいで可愛い。
俺がキッチンに立っている間、忠犬は黙ってテレビを見て待っていた。その姿が視界に入るたびに、顔がにやけてしまった。
「治まった?」
テーブルの上に料理を並べて、コップにお茶を注いで訊いた。
「なんとか。うわ、なんかすごい、美味しそう」
ご飯の上に千切りキャベツをのせて、その上にタマネギと豚肉を炒めて酒と醤油とみりんで味付けしたものをぶっかけるだけの丼物だ。
丼物にすれば洗い物も少なくて済むから、楽なのだ。
「手抜きでごめんな」
「これ手抜きなんですか?」
目を輝かせて両手を合わせた。俺もそれにならう。
「いただきます」
声を揃えて言うと、倉知が子どものような顔で笑う。倉知家の慣習にのっとってみたのだが、気持ちがいいものだ。一人暮らしをしていると、こういう当たり前の作法を忘れつつある。倉知に出会って、数々の人間らしさを取り戻せた気がする。
「加賀さん、美味しい」
「それはよかった」
すごいすごいと褒めたたえながら幸せそうに食べる様子を見ていると、仕事の疲れが吹っ飛んだ。
こいつとなら、きっと同棲しても楽しいだろうな、と思った。でも高校生のうちはまず無理だ。進学か、就職か、どっちだろう。
もし進学で、他県の大学に行ったら。四年間、遠距離恋愛なんて無理だ。寂しい。他県に行く、と言ったら止めてしまうかもしれない。
「ごちそうさまでした。美味すぎて涙出ました」
完食した倉知が目をこすって言った。
「大げさな奴」
「今日仕事、大丈夫だったんですか?」
無理してないか、気にしているようだった。早く帰るにはコツがある。高橋に雑用を押しつけてこき使ってやった。普段そんなことをしないので、こき使われた本人は驚いていたが、いかにも仕事をしている雰囲気を味わうことができて嬉しそうでもあった。
「うん。やればできるだろ」
「さすがです」
コップに口をつけて倉知を見る。目が合った。
「加賀さん」
距離を詰めようとする倉知の腹を、足の裏で止めて訊いた。
「で、倉知君はどっか行きたいとこある?」
「露天風呂付きの温泉」
「五月ちゃんに怒られそう」
「あと、ラブホテル」
お茶を吹きそうになった。
「お、まえなあ、もうちょっと夢のある発想ないの? やることばっかじゃねえか」
「違います。単に興味があるだけです。行ったことないし」
「そりゃないだろ。童貞だったんだから」
「加賀さんは……」
行ったことあるのか、と訊こうとしたようだが、思いとどまり、間を置いてから別の質問に切り替えてきた。
「どこか行きたいとこないんですか?」
「あるよ」
テーブルの上の丼を片付けて、腰を上げる。丸投げしたところで結局決められないだろうと思って大体のプランは立てておいた。
「今、USJでゾンビに会えるんだよ」
「ゾンビ」
反応した倉知が不思議そうにする。
「ゾンビがいるんですか? 本物?」
「それ大ニュースだよな」
声を上げて笑いながら、洗い物を済ませ、ノートパソコンを持ってソファに座る。
パソコンを起動させると、倉知が隣に座った。不自然なスペースが空いている。
「なんでそんな遠いんだよ」
「近いと理性が飛ぶんです」
真顔なのがいじらしくて、別にいいかと一瞬ほだされそうになったが、宿泊先も決めてしまいたい。
「はい、これ見て」
USJのサイトを開いてパソコンを渡した。
「大変だ、ゾンビだ」
「あ、こういうの無理?」
「いえ、だいぶ慣れました。今ならこう、一撃でやっつけられそうです」
腕を振り下ろす仕草が面白くて、笑ってしまった。
「これ人間だから攻撃したら駄目だぞ」
「え? ああ、はい、大丈夫です、知ってます」
怪しい返事をして、しばらくパソコンを見ていたが、やがて俺に顔を向けて、にこっと笑った。
「USJ行きましょう」
「おう」
パソコンを受け取って、次は「大阪 観光」で検索をかける。
「大阪行くなら、あと海遊館でも行っとくか」
「それ水族館ですよね」
はしゃいだような声で言った。
「水族館好き?」
「はい、ていうかなんかデートっぽい」
「デートだろ?」
倉知が笑顔のまま硬直して、ゆっくり瞬きをする。
「デートですね」
涙目になって、へへ、と照れ笑いをする。頬を撫でてやると、眉毛を下げて泣きそうになった。
「一泊目はラブホでいいけど、温泉、俺が決めていい?」
「部屋で入れるならどこでもいいです」
変なところにこだわる。俺の視線に気づき、言い訳をする。
「別に、下心とかじゃないです」
「部屋風呂がいい理由、他になんかある?」
「……あの、他の人に、見られたくないんです」
まだそんなことを言うのか。呆れたが、こいつにはこいつの譲れない何かがあるのだろう。
「でも俺大浴場も行くよ。もったいないし」
「そ、そんな……」
それにしても二週連続で温泉なんて贅沢だ。
「有馬温泉でいい?」
「有馬温泉」
「兵庫な。あ、結構あるんだな、露天風呂付きの客室って」
倉知がパソコンを覗き込んでくる。
「倉知君」
「は、はい」
倉知が慌てて距離を取る。初々しい反応は、最初にこの部屋を訪れたときを連想させた。あれは可愛かった。今も可愛いけど。
「ちょっと抱っこして」
「えっ」
動こうとしない倉知のふところに割り込んで背中を預ける。
「もう予約してしまいたいから、一緒に見てて」
俺の背後で背もたれと化した倉知が息を詰める。
「カップルにおすすめ、だって。こういうとこ泊まったらバレバレだよな」
はは、と笑ったが、倉知は凍りついたままだ。
見上げると、緊張した顔がすぐ近くにあった。
「どうした?」
「あの、ほんと理性が……。もう、いいですか?」
倉知の腕が俺の腹に添えられた。
「駄目。宿泊先の次は新幹線も予約するし、まだ我慢してろ」
「この体勢で? 加賀さん、もしかしてどSですか?」
「うん。あー、どうせなら美味いもん食いたい」
「俺は加賀さんが食べたいです」
「はいはい、あとでな。つーかもう予約取れるとこ一件だわ」
「そこでいいです。味見しますね」
「味見?」
倉知の髪が、顔にかかる。首筋にぬめった感覚。
「美味しいです」
「お前な……」
「え、ていうかすごい値段ですね」
俺の肩に顎をのせて、パソコンの画面を凝視する。
「露天風呂付きにこだわる誰かさんのせいだろ」
「こんな高いんですね。じゃあここ、俺が出します」
さらっと言った科白は高校生に似つかわしくないものだった。思わず倉知の顔を確認する。違うところにしよう、ではなく、俺が出す、とくるとは。
「自由に使っていい貯金、十五万円くらいあるんで大丈夫です」
「金使わなそうだもんな、お前」
予約画面に進んで、確定させる。
「でもいいよ。金は別のことに使え」
「え、駄目ですよ。俺のわがままなのに」
「お前の貯金額にゼロ二つ足したくらい俺も貯金あるから」
倉知が黙った。頭の中でゼロを二つ足しているのだろう。
新幹線の予約画面を開いて操作していると、倉知の手が服の中に入ってきた。
「俺、加賀さんが運転するとこ見たかったです」
「ん、ああ、関西方面行くなら車じゃないほうがいいから。つーかどこ触ってんだよ」
「運転する加賀さん……」
「仕事で普通に営業車使ってるし、別に珍しくないよ。乳首をつまむな」
「もう限界です」
耳の裏に、熱っぽい吐息がかかる。倉知が俺のズボンに左手を突っ込んだ。さっきから腰の辺りに倉知の股間が当たっている。言葉通り、限界なのがわかる。
好きにさせたまま、淡々と予約を進める。最終日はなるべく早く帰ってこよう。自室で休息する時間が、きっと必要だ。
俺の背後で倉知の呼吸が荒くなっていく。ゆるゆると動く右手と左手。耳たぶを噛まれたが、堪えて画面に集中する。
「加賀さん、大きくなってきた」
嬉しそうな声で言って、俺の首の後ろに鼻をすり寄せる。
「加賀さん、加賀さん」
ちゅ、ちゅ、と音を立てて首にキスをする倉知の声が、異様にエロく聞こえ、指が震える。やめろと言うと負けたようで嫌だから、意地でも言ってやらない。
「好きです。大好きです。いい匂い」
倉知が俺の匂いを嗅ぎ始めたところで予約が完了した。
パソコンをシャットダウンさせて、ディスプレイを閉じる。肩越しに振り返り、軽くキスをした。
「ベッド行くか」
倉知の喉仏が上下する。
「体、平気ですか? 昨日、すごいしたし、つらくないですか?」
「あれ? つらいって言ったらやめるの?」
「やめます」
ためらわずに、まっすぐ俺を見て答えた。股間を限界までふくらませておいて、随分優しいな、と笑いが漏れた。
「ベッド行くぞ」
手を引っ張って倉知をソファから引きはがし、寝室に移動した。
「コンドーム、なくなったんですよね」
倉知が指摘した。なければないで、ローションさえあれば入る。でも早漏だからイク前に抜いて外に出すなんて芸当はこいつには無理だろう。中に出されるのは避けたい。
「あるよ。今日帰りにコンビニで買った」
鞄からコンドームの箱を取り出してベッドに投げた。
「え、コンビニに売ってるんですか」
「ドラッグストアとかな」
「そういうの、どういう顔で買うんですか? 恥ずかしくないですか?」
「レジの子のほうが照れてたね」
「……それ、女の人ですか?」
「うん、高校生かな? ゴムだけ買ったから若干セクハラになったかも」
コンドームの箱のフィルムをはがしながら、倉知が何か言いたげにじっと俺を見てくる。
「真っ赤になって泣きそうだったし、ちゃんとごめんねって謝ったよ?」
コンドームは売り物だし俺は客だ。本来謝る必要なんてないのだが、困っていたから申し訳ない気持ちにはなった。
「……加賀さん」
なんとも言えない顔で倉知が見てくる。
「なんだよ」
「ちょっといろいろ言いたいことがあるんですけど、あとにします」
言いながら、寝室の電気を点けた。
「なんで電気」
「顔が見たいんです。感じてる顔、見たい」
俺の腰を抱いて、至近距離で倉知が言った。そんな余裕、あるのか? と疑問が口をついて出そうだったが、飲み込んだ。
俺の顎をつかんで、上を向かせると、唇を塞がれた。倉知は目を薄く開けたままだった。舌を絡ませながら、視線を合わせ続ける。どちらが先に目を閉じるか、競争が始まった。
上顎に舌先を這わせると、ビクッと体を震わせて倉知が目を閉じた。あっけない。
静かに体を震わせて、俺にしがみついてくる。倉知の長身を、ベッドのほうに軽く押した。へなへなと崩れ落ちて、ベッドに倒れた倉知の上に、またがった。
「なんか、学ランが新鮮だな。たまに忘れるけど、高校生なんだよな」
学ランとワイシャツのボタンを全部外して、腹筋を指先で撫でさする。
「加賀さん、出そう」
情けない顔で倉知が訴える。
「もう? 何もしてないけど」
笑って、ベルトを外し、ファスナーを下ろす。ズボンとパンツを一緒にずり下げて、股間を剥き出しにすると、ペニスが勢いよく跳ねた。先走りで濡れている。
「しょうがねえな」
軽くこすると、倉知が声を漏らす。こすりながら、咥えた。強めに吸ってやると、声を上げて、あっさり果てた。
相変わらず早い。
「すいません、出して」
赤い顔でティッシュを数枚出して、差し出してくる。飲み込んで、口を拭う。挿入前に一回抜くのが恒例になりつつある。
「あの……、俺もします、そして飲みます」
俺のズボンを下ろして、股間に顔をうずめようとするのを、頭を叩いて止めた。
「いい。それより、繋がるぞ」
俺の科白に倉知の顔が一瞬にして赤く染まった。
肩で息をしながら一度天井を仰ぎ、学ランとシャツを脱いで床に投げ捨てた。
「ローション、どこですか」
囁く声で倉知が訊いた。
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倉知がうつぶせのままの俺の背中に覆いかぶさり、手からローションを奪うと、尻を剥き出しにして、無言で塗り込んできた。黙々と、指を抜き差ししている。
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「加賀さん、好き」
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それはどうだかわからないが、別に俺は何もしていない。あまりにも動揺していたからフォローをしただけだ。
「具体的にどうすればいいのか全然わかんねえ」
「そうですね……、うーん、あー、俺が隠します」
「ええ?」
「誰にも見られないように、隠します。俺、でかいから、隠せます、きっと」
「お前、もう頭動いてねえな」
「ねえ、加賀さん。俺、どれだけ加賀さんのこと、見続けてたと思います?」
唐突に訊かれて、少し考える。
「さあ、一ヶ月?」
ふふふ、と倉知が含み笑いを漏らす。
「ブー、ハズレです。そんなもんじゃないです」
「じゃあ三ヶ月」
「甘いです、その三倍です」
「九ヶ月?」
なんだそれは。
「馬鹿ですよね。その間、全然気づかない加賀さんもすごいですよ。すごい、鈍感だと思います。人の視線に、無関心すぎるんです」
それが言いたかったらしい。だからといって、見てくる他人に見るなと言うのも難しい。それなら気づかないでいたほうがいい。
「ずっと見てて、ごめんなさい。でも、見てるだけでよくて、九ヶ月ずっと、幸せでした。今はもっと、幸せですけど。本当に……」
まばたきが、ゆっくりになっている。俺の顔を寝ぼけ眼で見つめる倉知が、「幸せ」と呟いたあとで、目を閉じた。
「倉知君」
安らかな寝息が聞こえる。まさに、電池切れ、という言葉にぴったりな寝方だ。
「やべえ、寝た。マジかよ。おい、おーい」
頬をつねってみても、揺さぶってみても、起きない。
「どうすんだよ、これ」
時計を見る。もう十時だ。こんな時間まで帰さないと、家族は心配しているかもしれない。
倉知の腕から抜け出し、ベッドから下りた。制服のポケットからスマホを出して、操作する。ロックがかかっていなくて助かった。勝手に触るのは気が引けたが、俺は倉知の家族の連絡先を知らない。
六花の番号を呼び出した。頼れるのは六花しかいない。
『はいはーい?』
「六花ちゃん? 加賀です。こんばんは」
『あ、こんばんは。七世、そっち行ってるんですよね。もうほんと、すいません』
声がにやけている。
「うん、いいんだけど、あの、実は倉知君寝ちゃったんだよね」
『ね』
ね、と言ったあとで何かガタガタと騒々しくなった。
「大丈夫?」
『すいません、椅子から落ちそうになったんです。寝ちゃったって、ベッドでですか?』
期待を込めた質問だった。考えていることが筒抜けだ。
「うん、ベッドで寝た」
ふふ、ふふふ、と怪しい笑いが聞こえた。
『じゃあよかった。七世、一回寝たらなかなか起きませんよ。地震あっても平然と寝てますから』
確かにすぐ近くで電話をしていてもビクともしない。
『申し訳ないんですけど、今晩泊めていただけますか? 制服ですよね? そのまま学校行かせてください』
「俺は構わないけど、ご両親が心配するよね」
『さっき、七世遅いねって話してて、いっそ泊まってくればいいのにって父が笑ってたんで、泊めていただいたほうが安心です。大丈夫ですよ、私から言っておきます』
本当にこの子は頼もしい。
「じゃあ、お預かりします」
『はい、お願いします。おやすみなさい』
おやすみ、と言って電話を切った。
脱ぎ散らかした制服を拾い上げ、クローゼットのハンガーにかけて片付けた。
時計を見る。こんな時間に寝るなんて、俺には無理だ。この時間帯が、俺にとってのゴールデンだ。
寝室の電気を消した。なんとなく、ドアは開けたままにしておいた。
とりあえず、シャワーをすることにした。体を流し、頭を洗いながら湯船にお湯を張って、バスタブの中でぼんやりと歯磨きをした。
六花から、キスマークを早く消すには血行をよくするために風呂に浸かるのがいい、と聞いた。普段はシャワーだが、昨日も風呂に浸かった。薄くなったような気もする。とりあえず土曜日までに消えてくれればいい。
間が持たない。すぐに飽きた。俺は元々烏の行水なのだ。
風呂から上がり、髪を乾かして、テレビを点ける。起きるかな、と思ったが、地震でも起きないのだから大丈夫だろう。
しばらくテレビを眺めていたが、隣が気になって駄目だ。眠れなくても、横になることにした。
ベッドの中には、倉知がいる。さっきと同じ体勢だ。
カーテンが少し開いていて、外の街灯の明かりが差し込んでいる。
布団に潜り込み、寝顔を見る。まるで子どもだ。なんてあどけないのだろう。
俺よりでかいのに、俺より幼い。なぜだか、愛しくて涙が出た。
ずっと見ていてもいいな、と思ったが、あまりにも気持ちよさそうな寝顔を見ていると、つられて眠くなってきた。
あくびが出た。
倉知の頬にキスをして、目を閉じた。
朝、目覚めた倉知は多少混乱していたものの、寝落ちしたことを平謝りし、朝から一緒にいられて嬉しい、と大いに喜んだ。
同じ駅から電車に乗るのは変な感じだった。
妙にうきうきした感じで、道中手を繋ぎたがったり、電車を待っている間も抱きつこうとしたり、制止するのに骨が折れた。
なんだかわからないが、ハイになっている。
「どうでもいいけど、お父さんとお母さんに謝っといてよ」
「すいません、全部俺が悪いんで、土下座しときます」
言いながら、倉知はキョロキョロと駅のホームを見回した。
「どうした?」
「見られてないかな、と思って」
小声で答えて、「二時の方向」と耳打ちしてきた。こういう言い方ができるのか、と感心して、言われたほうにさり気なく視線を移す。
ポニーテールの女子高生が、スマホを触っていた。
「何、誰? 知り合い?」
「あの子、加賀さんのこと見てました」
倉知が囁く。横目で女の子を確認してみたが、うつむいてスマホに没頭している。
「疑心暗鬼になってない? 俺、別に芸能人でもないし、普通のサラリーマンだよ」
「芸能人じゃないけど、普通でもないです」
至って普通のつもりだ。腑に落ちない。
昨日言っていた電車の女のことも、全部倉知の思い過ごしの気がしてきた。
二時の方向にいる女子高生の横顔を、じっと見た。
スマホから目を離さない。こっちを見ることはない。
ほら見ろ、お前の気のせいだ、と言おうとした瞬間、女子高生が顔を上げて、少し振り返って俺を見た。しっかりと、目が合う。彼女は、ものすごく驚いた顔で固まった。
目を逸らすのも失礼な気がして、少し微笑むと、真っ赤になり、スマホで顔を隠してなぜか頭を下げてきた。
「加賀さん」
「はい」
「今、あの子に笑いかけました?」
「ごめんなさい。もうお前の言うこと、全面的に信じるわ」
倉知は九ヶ月、俺を見続けたプロだ。そのプロが「見ている」というのだから、間違いない。
「なんで笑いかけるんですか」
呆れた表情で、ため息をつかれた。
「俺は他人に冷たくできない体質なんだよ」
「……そう、ですよね。俺のときも優しかったし、だから今一緒にいてくれてる」
確かに倉知のときも冷たくはできなかったが、だから一緒にいるというのは少し違う。
告白されたら誰とでも付き合うわけじゃないし、そんなことをしていたら身が持たない。
「大丈夫、突き放すときはちゃんとやってるよ。お前は特別だから一緒にいる」
倉知を見上げると、眉間に皺を寄せ、手で口を覆ってうつむいていた。
「何?」
「やばいです、今、すごいキスしたい」
俺を見下ろして、顔を近づけてくる。
「あの子に、俺のだって、教えてやりたい」
俺の耳に口を寄せて苦しげに言った。キスをされるのかと身構えたのに、期待が外れて少しだけ残念だった。
電車が到着して、乗客の乗り降りが始まる。さっきの女子高生がこっちを気にしながら電車に乗った。俺たちは最後だった。電車に乗り込むと、倉知が俺の体を抱えて壁際に移動した。倉知の両腕が、顔の左右にある。完全に、隔離された。
なんだこれ、壁ドンか?
笑いが漏れた。倉知のでかい体で、視界が遮断されている。
そういえば、昨日の寝落ち前に言っていた。俺が隠します、というのは、言葉通りの意味だったらしい。
倉知の顔を見上げた。自然と笑顔になる。
壁ドンの威力かはわからないが、不思議な男らしさがある。守られている、と感じた。
倉知はずっと、一点を見つめたままで、俺から目を逸らしていた。この態勢で目を合わせるのは確かに危険だ。
倉知は毎朝俺を見る。立場が逆転した。今度は俺が、見てやろう。
下から眺めていると、困ったことに、キスしたくなった。顎のラインに吸いつきたい。
まるで痴漢だな、と自嘲する。
倉知は俺の視線に気づいていたが、こっちを見ない。結局俺が電車を下りるまで、かたくなに視線を合わせなかった。
「いってらっしゃい」
やり遂げた表情の倉知が微笑む。
「おう」
軽く手を上げて、踵を返す。
歩きながら、にやけそうになるのを堪えた。
子どもっぽいのか、男らしいのか、よくわからないが、可愛い奴め、と思った。
ただ愛されているという充足感が、胸に広がっていた。
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