36 / 142
授業
隠れる
しおりを挟む
イアン達と逸れたのは普通の図書館の前だろうと当たりを付け、そちらへ向かってアーロンは走り出した。だが行けども行けども全く人気が無い。
(何でこんなに人がいないの!)
たいして距離は離れていない筈なのに、キースどころか、イアンも、火の国の二人の姿も無い。後ろから上級生達が追って来る。
「おい、待て」
走りながら、こっちじゃなくて、すぐ後ろの魔道具の図書館の中に逃げ込んで誰かに助けを求めるべきだったと後悔する。誰か、誰かと思いながら走る。
すぐ脇に林があって遊歩道があるが、林に駆け込んで上手く逃げ切れるかどうかは賭けみたいなものだ。木々の陰に隠れてやり過ごす事も考えたが、三年生の方が長く学院に居る分土地勘もあるだろうから、下手したらそちらに逃げるのは暗がりに自ら引き摺り込まれる様なものかもしれないと止めた。木登りも得意だが、慣れていない木は登り難い。手こずっている間に追いつかれたら意味が無い。
だったら図書館を目指した方が良い。図書館までは一本道だ、途中弓形になっているけれど、迷う事は無い。兎に角追いつかれない様に走る。アーロンはかけっこには自信があるけれど、向こうの方が背が高い分、歩幅が大きい。気を抜いたら追いつかれてしまう。
走って走ってやっと着いた図書館の扉に手をかけると鍵が掛かっていた。よく見ると、『閉館中』の札が。扉をがたがたと言わせていると、「あー。みっけ」と上級生達が寄って来る。
「なんかさっきぴりっと来たよな」
「人に魔道具使うのは禁止だぞう」
「手間掛けさせやがって」
「背中と手首に何か仕込んでやがるな、だったらそれ以外を掴めばいいんじゃね?」
また囲まれてしまい、下がって下がってアーロンは図書館の扉にぺったり貼り付く。
「引き摺り倒して、服脱がしちゃおうぜ」
「ざーんねん。今日は図書館はお休みです」
下卑た笑いが気持ち悪い。皆何処へ行ってしまったんだろう。まるで世の中にアーロンと目の前の上級生達しか居ないんじゃないかと思ってしまう位に、人が居ない。
「脱がすって此処でかよ」
「いいんじゃね? 誰も来ないし」
「見られたら困るのはこのちびの方だろ」
「確かに、良い見せもんだもんな!」
「大人しくしてろよ。そしたら可愛がってやるから」
どんどん距離を詰められ、アーロンは最後の手段にとって置いた物を使うべく、ポケットに手を入れてそれ等を握り締めた。そして上に投げ上げる。
「うわ! まだ何か持ってやがった」
「何だこれ」
「虫!」
黒い虫達が上級生達の頭に降り注ぐ。彼らが慌て戸惑っているその隙に、這いつくばる様にしてアーロンは上級生達の足の隙間を抜けた。
「俺、虫嫌い!」
「落ち着け、おもちゃだ」
「ほんとだ、何だこれ」
「馬鹿にしやがって」
と上級生達が拾い上げたり、靴で踏みつけたりする。
「臭」
「なんか臭くねえか」
「臭え、これだこのおもちゃ。こいつが臭え」
「うわ、この匂い。あれだあれ、あの虫。げ、制服についた」
「うわあ、お前の制服臭え」
げらげらと笑いながら、上級生達が後ろを振り返った。逃げた子羊を捕まえようと。また走って逃げたとしてもそう遠くへは行けない筈。もはや袋の鼠だ。
しかし、アーロンの姿は何処にも無かった。
☆
アーロンは鍵を握り締めて、秘密の花園に逃げ込んだ。
はあはあと荒い息を必死に整える。小さな庭は昨日と同じ様に長閑で、立ちしょんをしている男の子の像が居るだけだ。今日は王太子も居ない。講義中なのだから当然だろう。
アーロンはふらつきながら、ベンチに辿り着くと、どしんと腰を下ろした。
「全部使っちゃった。また仕込まなきゃ。はぁ」
気持ち悪かった。ただひたすらに。自分を変な目で見ているあの上級生達が。ぞっとした。
「この後どうしたら良いんだろう?」
逃げる事は出来た。鍵を握って願えば行きたい所へ行ける筈だから、男爵家の寮に一旦戻って、寮監の先生に子爵家の上級生達に襲われそうになったとでも言えば何とかして貰えるだろうか。ちょっと教室に戻る勇気は無い。デクスターに会ったら、その兄を思い出してしまう。でもそれで終わりだろうか? また何処かで彼等に会ったら? 今日みたいに逃げ切れない所で。その時はどうすれば良い?
「うわー、もうやだー」
頭を抱えて髪の毛をぐしゃぐしゃにして大声で叫ぶ。気持ち悪い。自分をそういう目で見る男達が居ると思うと。何をしようとしていたのかは分かっている。信じられないけど。
兄達はアーロンを子供扱いしてえっちな話には入れてくれなかったけれど、漏れ聞こえて来る事もあったから全く知識が無かったた訳じゃない。何より田舎に住んでいたから、家畜や犬猫が交尾している所なんてざらだったし。それに入学前に、三番目の兄ケビンに聞きたく無いのに知るべきだと、男同士のあれこれについて無理やり説明された。だから分かっている。でも気持ち悪い。
(何でこんなに人がいないの!)
たいして距離は離れていない筈なのに、キースどころか、イアンも、火の国の二人の姿も無い。後ろから上級生達が追って来る。
「おい、待て」
走りながら、こっちじゃなくて、すぐ後ろの魔道具の図書館の中に逃げ込んで誰かに助けを求めるべきだったと後悔する。誰か、誰かと思いながら走る。
すぐ脇に林があって遊歩道があるが、林に駆け込んで上手く逃げ切れるかどうかは賭けみたいなものだ。木々の陰に隠れてやり過ごす事も考えたが、三年生の方が長く学院に居る分土地勘もあるだろうから、下手したらそちらに逃げるのは暗がりに自ら引き摺り込まれる様なものかもしれないと止めた。木登りも得意だが、慣れていない木は登り難い。手こずっている間に追いつかれたら意味が無い。
だったら図書館を目指した方が良い。図書館までは一本道だ、途中弓形になっているけれど、迷う事は無い。兎に角追いつかれない様に走る。アーロンはかけっこには自信があるけれど、向こうの方が背が高い分、歩幅が大きい。気を抜いたら追いつかれてしまう。
走って走ってやっと着いた図書館の扉に手をかけると鍵が掛かっていた。よく見ると、『閉館中』の札が。扉をがたがたと言わせていると、「あー。みっけ」と上級生達が寄って来る。
「なんかさっきぴりっと来たよな」
「人に魔道具使うのは禁止だぞう」
「手間掛けさせやがって」
「背中と手首に何か仕込んでやがるな、だったらそれ以外を掴めばいいんじゃね?」
また囲まれてしまい、下がって下がってアーロンは図書館の扉にぺったり貼り付く。
「引き摺り倒して、服脱がしちゃおうぜ」
「ざーんねん。今日は図書館はお休みです」
下卑た笑いが気持ち悪い。皆何処へ行ってしまったんだろう。まるで世の中にアーロンと目の前の上級生達しか居ないんじゃないかと思ってしまう位に、人が居ない。
「脱がすって此処でかよ」
「いいんじゃね? 誰も来ないし」
「見られたら困るのはこのちびの方だろ」
「確かに、良い見せもんだもんな!」
「大人しくしてろよ。そしたら可愛がってやるから」
どんどん距離を詰められ、アーロンは最後の手段にとって置いた物を使うべく、ポケットに手を入れてそれ等を握り締めた。そして上に投げ上げる。
「うわ! まだ何か持ってやがった」
「何だこれ」
「虫!」
黒い虫達が上級生達の頭に降り注ぐ。彼らが慌て戸惑っているその隙に、這いつくばる様にしてアーロンは上級生達の足の隙間を抜けた。
「俺、虫嫌い!」
「落ち着け、おもちゃだ」
「ほんとだ、何だこれ」
「馬鹿にしやがって」
と上級生達が拾い上げたり、靴で踏みつけたりする。
「臭」
「なんか臭くねえか」
「臭え、これだこのおもちゃ。こいつが臭え」
「うわ、この匂い。あれだあれ、あの虫。げ、制服についた」
「うわあ、お前の制服臭え」
げらげらと笑いながら、上級生達が後ろを振り返った。逃げた子羊を捕まえようと。また走って逃げたとしてもそう遠くへは行けない筈。もはや袋の鼠だ。
しかし、アーロンの姿は何処にも無かった。
☆
アーロンは鍵を握り締めて、秘密の花園に逃げ込んだ。
はあはあと荒い息を必死に整える。小さな庭は昨日と同じ様に長閑で、立ちしょんをしている男の子の像が居るだけだ。今日は王太子も居ない。講義中なのだから当然だろう。
アーロンはふらつきながら、ベンチに辿り着くと、どしんと腰を下ろした。
「全部使っちゃった。また仕込まなきゃ。はぁ」
気持ち悪かった。ただひたすらに。自分を変な目で見ているあの上級生達が。ぞっとした。
「この後どうしたら良いんだろう?」
逃げる事は出来た。鍵を握って願えば行きたい所へ行ける筈だから、男爵家の寮に一旦戻って、寮監の先生に子爵家の上級生達に襲われそうになったとでも言えば何とかして貰えるだろうか。ちょっと教室に戻る勇気は無い。デクスターに会ったら、その兄を思い出してしまう。でもそれで終わりだろうか? また何処かで彼等に会ったら? 今日みたいに逃げ切れない所で。その時はどうすれば良い?
「うわー、もうやだー」
頭を抱えて髪の毛をぐしゃぐしゃにして大声で叫ぶ。気持ち悪い。自分をそういう目で見る男達が居ると思うと。何をしようとしていたのかは分かっている。信じられないけど。
兄達はアーロンを子供扱いしてえっちな話には入れてくれなかったけれど、漏れ聞こえて来る事もあったから全く知識が無かったた訳じゃない。何より田舎に住んでいたから、家畜や犬猫が交尾している所なんてざらだったし。それに入学前に、三番目の兄ケビンに聞きたく無いのに知るべきだと、男同士のあれこれについて無理やり説明された。だから分かっている。でも気持ち悪い。
0
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる