抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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授業

隠れる

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 イアン達と逸れたのは普通の図書館の前だろうと当たりを付け、そちらへ向かってアーロンは走り出した。だが行けども行けども全く人気が無い。

 (何でこんなに人がいないの!)

 たいして距離は離れていない筈なのに、キースどころか、イアンも、火の国の二人の姿も無い。後ろから上級生達が追って来る。

 「おい、待て」
 
 走りながら、こっちじゃなくて、すぐ後ろの魔道具の図書館の中に逃げ込んで誰かに助けを求めるべきだったと後悔する。誰か、誰かと思いながら走る。
 すぐ脇に林があって遊歩道があるが、林に駆け込んで上手く逃げ切れるかどうかは賭けみたいなものだ。木々の陰に隠れてやり過ごす事も考えたが、三年生の方が長く学院に居る分土地勘もあるだろうから、下手したらそちらに逃げるのは暗がりに自ら引き摺り込まれる様なものかもしれないと止めた。木登りも得意だが、慣れていない木は登り難い。手こずっている間に追いつかれたら意味が無い。
 だったら図書館を目指した方が良い。図書館までは一本道だ、途中弓形になっているけれど、迷う事は無い。兎に角追いつかれない様に走る。アーロンはかけっこには自信があるけれど、向こうの方が背が高い分、歩幅が大きい。気を抜いたら追いつかれてしまう。
 走って走ってやっと着いた図書館の扉に手をかけると鍵が掛かっていた。よく見ると、『閉館中』の札が。扉をがたがたと言わせていると、「あー。みっけ」と上級生達が寄って来る。

 「なんかさっきぴりっと来たよな」
 「人に魔道具使うのは禁止だぞう」
 「手間掛けさせやがって」
 「背中と手首に何か仕込んでやがるな、だったらそれ以外を掴めばいいんじゃね?」

 また囲まれてしまい、下がって下がってアーロンは図書館の扉にぺったり貼り付く。

 「引き摺り倒して、服脱がしちゃおうぜ」
 「ざーんねん。今日は図書館はお休みです」

 下卑た笑いが気持ち悪い。皆何処へ行ってしまったんだろう。まるで世の中にアーロンと目の前の上級生達しか居ないんじゃないかと思ってしまう位に、人が居ない。

 「脱がすって此処でかよ」
 「いいんじゃね? 誰も来ないし」
 「見られたら困るのはこのちびの方だろ」
 「確かに、良い見せもんだもんな!」
 「大人しくしてろよ。そしたら可愛がってやるから」

 どんどん距離を詰められ、アーロンは最後の手段にとって置いた物を使うべく、ポケットに手を入れてそれ等を握り締めた。そして上に投げ上げる。

 「うわ! まだ何か持ってやがった」
 「何だこれ」
 「虫!」

 黒い虫達が上級生達の頭に降り注ぐ。彼らが慌て戸惑っているその隙に、這いつくばる様にしてアーロンは上級生達の足の隙間を抜けた。

 「俺、虫嫌い!」
 「落ち着け、おもちゃだ」
 「ほんとだ、何だこれ」
 「馬鹿にしやがって」

 と上級生達が拾い上げたり、靴で踏みつけたりする。

 「臭」
 「なんか臭くねえか」
 「臭え、これだこのおもちゃ。こいつが臭え」
 「うわ、この匂い。あれだあれ、あの虫。げ、制服についた」
 「うわあ、お前の制服臭え」

 げらげらと笑いながら、上級生達が後ろを振り返った。逃げた子羊を捕まえようと。また走って逃げたとしてもそう遠くへは行けない筈。もはや袋の鼠だ。
 しかし、アーロンの姿は何処にも無かった。



         ☆


 アーロンは鍵を握り締めて、秘密の花園に逃げ込んだ。
 はあはあと荒い息を必死に整える。小さな庭は昨日と同じ様に長閑で、立ちしょんをしている男の子の像が居るだけだ。今日は王太子も居ない。講義中なのだから当然だろう。
 アーロンはふらつきながら、ベンチに辿り着くと、どしんと腰を下ろした。

 「全部使っちゃった。また仕込まなきゃ。はぁ」

 気持ち悪かった。ただひたすらに。自分を変な目で見ているあの上級生達が。ぞっとした。

 「この後どうしたら良いんだろう?」

 逃げる事は出来た。鍵を握って願えば行きたい所へ行ける筈だから、男爵家の寮に一旦戻って、寮監の先生に子爵家の上級生達に襲われそうになったとでも言えば何とかして貰えるだろうか。ちょっと教室に戻る勇気は無い。デクスターに会ったら、その兄を思い出してしまう。でもそれで終わりだろうか? また何処かで彼等に会ったら? 今日みたいに逃げ切れない所で。その時はどうすれば良い?

 「うわー、もうやだー」

 頭を抱えて髪の毛をぐしゃぐしゃにして大声で叫ぶ。気持ち悪い。自分をそういう目で見る男達が居ると思うと。何をしようとしていたのかは分かっている。信じられないけど。
 兄達はアーロンを子供扱いしてえっちな話には入れてくれなかったけれど、漏れ聞こえて来る事もあったから全く知識が無かったた訳じゃない。何より田舎に住んでいたから、家畜や犬猫が交尾している所なんてざらだったし。それに入学前に、三番目の兄ケビンに聞きたく無いのに知るべきだと、男同士のあれこれについて無理やり説明された。だから分かっている。でも気持ち悪い。
 

 
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