幼馴染を選んで婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです

睡蓮

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第3話

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――その頃、王宮での会話――

「ノラン様、少しお伝えしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「どうした?」

非常に厳かな雰囲気が包み込む王宮の一室において、ノラン第一王子の臣下の一人であるハルゼーがそう言葉を発する。

「レーベット侯爵に関することなのですが…」
「やれやれ…。またあいつか…」

その名前を聞いた途端、ノランは分かりやすく嫌そうな表情を浮かべて見せる。
そのリアクションから推察するに、おそらくレーベットはこれまでにもなにか厄介ごとを起こしていたのだろう。

「まぁいいさ。それで、レーベットがどうしたと?」
「はい、なんでもついこの間婚約関係を結んだばかりのミリアとの関係を、一方的に破棄してしまわれたそうで…」
「……」
「しかもそれだけでなく、自身の幼馴染だというリナリーとの関係をそのまま決定されたとのこと…」
「……」

…ハルゼーからの言葉を、ノランは非常にイライラした様子で聞き入れている。
その姿は明らかに、レーベットに対して嫌悪感を抱いているそれであった。
ノランは湧き出る不快感を表にしながら、低い口調でこう言葉を漏らした。

「…あいつ、この私の顔に泥を塗ってくれよって…」

その言葉の意味を、ノランに近しい距離にいるハルゼーは瞬時に理解する。

「…そうですね。侯爵様はミリア様との婚約を声高々に口にされていて、その影響もあってノラン様は多忙の合間をぬって婚約祝いのお言葉まで贈られたというのに…。こんな形で婚約関係が終わってしまっては、そのお言葉も台無しにされてしまったに等しい…」
「その通りだともミリア。私は別に侯爵と特別親しい間柄ではないが、あまりに周囲の者たちに対して婚約の話を言って回っているものだから、私もそこに花を添えてやることとしたのだ。にもかかわらず、これでは期待を完全に裏切られたも同然…」

そこまで神経質になる必要はないという声もあるかもしれないが、政治の世界においてこのメッセージは非常に大きな意味を持っていた。
それこそ、言葉の力が絶大に影響しあう貴族の世界においては、宣戦布告であるととられても不思議ではないほどの行いである。
にもかかわらず、どうしてレーベットはそのような行動に出てしまったのか…?

「ハルゼー、お前はどう考える?侯爵のこの行動は私に対する当てつけであると思うか?」
「そうですねぇ…」

ハルゼーの頭の中には二つの可能性があった。

「侯爵様の場合、狙ってそれをやっているのか本当に愚かなままにその行動をとっているのか分かりかねる場合がありますからね…。これを狙ってやったのならなかなかに策士であると言わざるを得ませんが、そうでないなら本当に愚かであると言わざるを得ませんし…。なかなか難しい所ですね…」

ハルゼーは過去にも侯爵と面識があり、その危険性については認識していた。
というのも、侯爵にはどこか第一王子に対して牙をむくようなそぶりが見られたためだ。

「ノラン様からかけられた言葉をスルーしたこともありましたし、呼びかけに応じなかったこともありましたし…。向こうはその度にこれはただの事故である、と言って謝罪をしてきましたが、果たしてどこまで本心で言っているのか…?ノラン様、やはり侯爵様は要注意人物として見た方がよろしいかと思います」
「同感だ」

侯爵の好き勝手なやり方には、以前から想うところがあった様子のノラン。
彼はこの機にそれを試すいい機会であると考え、そのままこう言葉を続けた。

「ハルゼー、今回の侯爵の婚約破棄、あえてエサをたらしてみてはどうか?」
「エサでございますか?」

なかなか予想外のノランの言葉に、やや驚きを隠せない様子のハルゼー。

「今回のリナリーとの新しい婚約、我々は受け入れられないという文言の手紙を送ってみよ。それに対して向こうがどう返事をしてくるのかで、今回の事態がわざとだったのかそうでなかったのかを判断しようと思う」
「なるほど…。わざとでなかったのなら、血相を変えて謝ってくるでしょうし、わざとだったのならおそらく攻撃的な返事をしてくるはず…。それをもってノラン様に対する忠誠心を図るというわけですね?」
「きわめて単純なやり口だが、この上なく簡単で明快なやり方だろう?」

侯爵が抱いている思いがどこまで本当なのか。
本当は婚約破棄などしたくなかったが、ノランの思いを不意にして不快にさせるためだけに婚約破棄をしたのか、それとも何の考えもなしに婚約破棄をしたのか。
そしてその相手はどうして幼馴染を選んだのか。

「ハルゼー、侯爵の返事次第によってはその処遇を大きく考え直さなければならない。準備を怠らないでくれよ?」
「もちろんでございます、ノラン様。お任せください」

侯爵の思いを確かめるための準備に取り掛かる二人。
それは侯爵がきっと裏で何かを企んでいると予見しての行動であったが、実際には公爵は裏で何も考えてなどおらず、ただただ欲望のままに婚約破棄に踏み切ったのだという事を知った時、二人は別の意味で侯爵に対して深く失望させられることとなるのだった…。
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