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第一章
天の原と戦の原に舞う紅の花 《二》
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紫微宮の玉座の間に続く長い廊下を、皇は須格泉を連れて歩いていた。皇に気づいた宮仕えの者達が、慌てたように廊下の端により低頭する。
玉座の間の扉の前では、近衛兵が扉を開け皇を出迎えた。皇は須格泉を扉の前に残し、中へと足を踏み入れる。
「伯父上」
と皇が声をかければ、玉座には鶯光帝が、その前には観世音菩薩が立っていた。
「これはこれは観世音菩薩、お久しぶりです」
「久しいな、皇。」
皇が観世音菩薩に声をかける。仏界と道界を行き来する観世音菩薩と、蒼宮からあまり外に出ることのない皇が会うことはそうない。それを見ていた鶯光帝は
「皇、そなたには時を見て下界へ降りてもらう。わかっていようが、これは修羅界の邪神達との闘いだ。ナタと共に下界へ降りるでは、天界の護りが手薄となろう。ナタとよく話し合い、公女に力を貸すように。よいな」
と言った。皇は
「はい、心得ましてございます」
と大袈裟に畏まって、鶯光帝に頭を下げて見せた。その様子に、僅かに鶯光帝が眉を寄る。伯父と甥と言う関係でありながら、鶯光帝と皇は決して相容れることはない。
妹の聖宮によく似た容姿をしておきながら、皇は何を考えているのかわからぬ。鶯光帝は、皇を見るたびにそう思うのだ。聖宮は兄である鶯光帝から見ても、まさに才色兼備で心優しい妹だった。皇は、その聖宮の血をひいている。だが、鶯光帝が皇を信用ならないと思うのは、最下級神とは言え斑の血筋の父親を持つ、と言うところだ。
高貴な血と斑の血、それが混ざり合い考えもよらぬ者が生まれた。考えつくだろうか、あの化け物である沙麼蘿の血を浴びてなお、生きていられるなどと。それに、何よりも鶯光帝を不快にさせるのは、赤紅を連想させるその猩々緋色の単だ。
天帝一族の徽章である天華の花の衣を纏いながら、その上に猩々緋色の単を身につける。いかに愛染明王からの賜り物と言えど、鶯光帝のその睛眸には今もはっきりと、情けをかけた罪人に命を奪われ己の赤紅でその衣を染め上げ息絶えた父、蒼光帝の姿が刻み込まれているのだ。
賢帝と謳われ、誰からも慕われていた蒼光帝。永らくその治世が続くだろうと誰もが思っていた。だがあの日、自分達の目の前で、蒼光帝は斑の罪人にその命を奪われたのだ。猩々緋色のその単は、あの日の蒼光帝を思い起こさせる。
まるで、下界の人間のように息絶える蒼光帝を見た。だからこそ、鶯光帝は罪人を赦せない。法や秩序を乱す者を憎み、斑に対する不信も拭えないのだ。
鶯光帝の睛眸にはいつでも皇に対する不信が見え隠れし、また皇が鶯光帝を見つめる双眸も、何よりも冷たかった。皇にとって鶯光帝は自分を毛嫌いし、母共々蒼宮に閉じ込めた張本人だ。
その昔、邪神の攻撃を受け下界で遭難した母を命懸けで助け、尽くしてきた父を罪人と呼び生きることを赦さなかった人だ。天都に墓を作ることも許さなかった。そして、皇が誰よりも可愛がっていた沙麼蘿を化け物と呼び蔑んでいたことを、皇は知っている。
「皇、沙麼蘿は私を媒体にし仏界に訴えたのだ。アレには常識と言うものを覚えさせよ」
観世音菩薩が皇を見つめ言った。皇は表情にこそ出さなかったが、心の中でフンと笑った。そして神妙な顔をして
「観世音菩薩にお縋りするしかなったのでしょう」
と呟く。観世音菩薩は眉をひそめ
「縋る、だと」
と言った。皇は “そうです” と言うと
「沙麼蘿は、観世音菩薩にお縋りするよりほかに方法がなかったのです。観世音菩薩は仏閣でも道観でも信仰を集めておられる。道観で、沙麼蘿がどの道神に声をかけられましょうか。私以外、誰も信じられる者などいないのです。ですが、観世音菩薩は違います。仏界に通じ如来に直接話を通すことも出来ましょう。沙麼蘿は、余計な回り道をせず、一刻も早く危険を脱したかっただけなのです」
と、言葉を繋げた。観世音菩薩は、冷めた表情で
「物は言いようだな」
と言った。観世音菩薩とて、決して沙麼蘿や皇が自分に対していい感情を持っているとは思っていない。皇などは、沙麼蘿の亡骸を自分から奪い取った者としか思っていないだろう。だが、それでも
「お前には、沙麼蘿の居場所も考えも、分かっているのだろう」
と、観世音菩薩は皇を見つめた。皇は、ふっと笑って
「これのおかけで、居場所はわかります」
と、左耳の耳飾に触れた。
「私が行くこともできますし、此方へ呼ぶこともできるやもしれません。ですが、沙麼蘿はものではない。沙麼蘿には沙麼蘿の考えがあり、そのすべてを私が分かると言うものではありません。」
何故、あなた方は沙麼蘿をものとしてしか見ない。皇は心の中で呟く。道界も仏界も、沙麼蘿を恐れ疎み関わろうとしない。そのくせ、沙麼蘿の力に頼るのだ。
「しかし、心配には及びません。私が下界に降りますゆえ、沙麼蘿のことは安心してお任せ下さい。釈迦如来にもそのように。」
「そうか」
皇の言葉に観世音菩薩は頷くと、鶯光帝へと向き直り
「では、私はこれにて。」
と、告げた。鶯光帝は
「うむ、既に道観の護りはナタに持たせた。何かあれば連絡してこられよ」
と観世音菩薩に声をかけると、扉の前の近衛兵に視線を移す。その視線を感じた近衛兵は扉を開き、観世音菩薩は玉座の間を後にした。
それを見送った皇もまた、“私もこれにて” と踵を返す。もう此処に用はない、皇は早々と玉座の間を出て行った。
*********
低頭→頭を低くたれること。また頭を低く下げて礼をすること
心得→理解していること。また、理解してとりはからうこと
大袈裟→実際より誇張していること
畏まる→身分の高い人、目上の人の前などで、おそれ敬う気持ちを表して謹んだ態度をとる。命令、依頼などを謹んで承る意を表す。承りました
相容れない→立場や考え方が相反していて互いに受け入れられない
才色兼備→すぐれた才能と美しい容姿の両方をもっていること
猩々緋色→緋(あけ)のなかでも特に強い黄みがかった朱色
徽章→衣服などにつけるバッジ。ここではお印の意味
天華→天上に咲く霊妙な花
賜り物→いただき物、頂戴品(ちょうだいひん)
賢帝→賢王と同じ。賢明な君主。才知と徳を兼ね備えた立派な君主。
謳われる→盛んに言い立てられる。賞賛される
治世→政治が行き届いた穏やかな世の中。大平の世
秩序→物事の正しい順序。社会の諸要素が相互に一定の関係、規則によって結びつき、調和を保っている状態
蔑む→他人を自分より能力、人格の劣るもの、価値の低いものとみなす。見下げる。見くだす
媒体→なかだちをするもの。媒介するもの
縋る→頼りとするものにつかまる。助力を求めて頼りとする
冷めた表情→表情の変化がほとんど無いさま
疎む→いやだと思う。嫌って遠ざける
玉座の間の扉の前では、近衛兵が扉を開け皇を出迎えた。皇は須格泉を扉の前に残し、中へと足を踏み入れる。
「伯父上」
と皇が声をかければ、玉座には鶯光帝が、その前には観世音菩薩が立っていた。
「これはこれは観世音菩薩、お久しぶりです」
「久しいな、皇。」
皇が観世音菩薩に声をかける。仏界と道界を行き来する観世音菩薩と、蒼宮からあまり外に出ることのない皇が会うことはそうない。それを見ていた鶯光帝は
「皇、そなたには時を見て下界へ降りてもらう。わかっていようが、これは修羅界の邪神達との闘いだ。ナタと共に下界へ降りるでは、天界の護りが手薄となろう。ナタとよく話し合い、公女に力を貸すように。よいな」
と言った。皇は
「はい、心得ましてございます」
と大袈裟に畏まって、鶯光帝に頭を下げて見せた。その様子に、僅かに鶯光帝が眉を寄る。伯父と甥と言う関係でありながら、鶯光帝と皇は決して相容れることはない。
妹の聖宮によく似た容姿をしておきながら、皇は何を考えているのかわからぬ。鶯光帝は、皇を見るたびにそう思うのだ。聖宮は兄である鶯光帝から見ても、まさに才色兼備で心優しい妹だった。皇は、その聖宮の血をひいている。だが、鶯光帝が皇を信用ならないと思うのは、最下級神とは言え斑の血筋の父親を持つ、と言うところだ。
高貴な血と斑の血、それが混ざり合い考えもよらぬ者が生まれた。考えつくだろうか、あの化け物である沙麼蘿の血を浴びてなお、生きていられるなどと。それに、何よりも鶯光帝を不快にさせるのは、赤紅を連想させるその猩々緋色の単だ。
天帝一族の徽章である天華の花の衣を纏いながら、その上に猩々緋色の単を身につける。いかに愛染明王からの賜り物と言えど、鶯光帝のその睛眸には今もはっきりと、情けをかけた罪人に命を奪われ己の赤紅でその衣を染め上げ息絶えた父、蒼光帝の姿が刻み込まれているのだ。
賢帝と謳われ、誰からも慕われていた蒼光帝。永らくその治世が続くだろうと誰もが思っていた。だがあの日、自分達の目の前で、蒼光帝は斑の罪人にその命を奪われたのだ。猩々緋色のその単は、あの日の蒼光帝を思い起こさせる。
まるで、下界の人間のように息絶える蒼光帝を見た。だからこそ、鶯光帝は罪人を赦せない。法や秩序を乱す者を憎み、斑に対する不信も拭えないのだ。
鶯光帝の睛眸にはいつでも皇に対する不信が見え隠れし、また皇が鶯光帝を見つめる双眸も、何よりも冷たかった。皇にとって鶯光帝は自分を毛嫌いし、母共々蒼宮に閉じ込めた張本人だ。
その昔、邪神の攻撃を受け下界で遭難した母を命懸けで助け、尽くしてきた父を罪人と呼び生きることを赦さなかった人だ。天都に墓を作ることも許さなかった。そして、皇が誰よりも可愛がっていた沙麼蘿を化け物と呼び蔑んでいたことを、皇は知っている。
「皇、沙麼蘿は私を媒体にし仏界に訴えたのだ。アレには常識と言うものを覚えさせよ」
観世音菩薩が皇を見つめ言った。皇は表情にこそ出さなかったが、心の中でフンと笑った。そして神妙な顔をして
「観世音菩薩にお縋りするしかなったのでしょう」
と呟く。観世音菩薩は眉をひそめ
「縋る、だと」
と言った。皇は “そうです” と言うと
「沙麼蘿は、観世音菩薩にお縋りするよりほかに方法がなかったのです。観世音菩薩は仏閣でも道観でも信仰を集めておられる。道観で、沙麼蘿がどの道神に声をかけられましょうか。私以外、誰も信じられる者などいないのです。ですが、観世音菩薩は違います。仏界に通じ如来に直接話を通すことも出来ましょう。沙麼蘿は、余計な回り道をせず、一刻も早く危険を脱したかっただけなのです」
と、言葉を繋げた。観世音菩薩は、冷めた表情で
「物は言いようだな」
と言った。観世音菩薩とて、決して沙麼蘿や皇が自分に対していい感情を持っているとは思っていない。皇などは、沙麼蘿の亡骸を自分から奪い取った者としか思っていないだろう。だが、それでも
「お前には、沙麼蘿の居場所も考えも、分かっているのだろう」
と、観世音菩薩は皇を見つめた。皇は、ふっと笑って
「これのおかけで、居場所はわかります」
と、左耳の耳飾に触れた。
「私が行くこともできますし、此方へ呼ぶこともできるやもしれません。ですが、沙麼蘿はものではない。沙麼蘿には沙麼蘿の考えがあり、そのすべてを私が分かると言うものではありません。」
何故、あなた方は沙麼蘿をものとしてしか見ない。皇は心の中で呟く。道界も仏界も、沙麼蘿を恐れ疎み関わろうとしない。そのくせ、沙麼蘿の力に頼るのだ。
「しかし、心配には及びません。私が下界に降りますゆえ、沙麼蘿のことは安心してお任せ下さい。釈迦如来にもそのように。」
「そうか」
皇の言葉に観世音菩薩は頷くと、鶯光帝へと向き直り
「では、私はこれにて。」
と、告げた。鶯光帝は
「うむ、既に道観の護りはナタに持たせた。何かあれば連絡してこられよ」
と観世音菩薩に声をかけると、扉の前の近衛兵に視線を移す。その視線を感じた近衛兵は扉を開き、観世音菩薩は玉座の間を後にした。
それを見送った皇もまた、“私もこれにて” と踵を返す。もう此処に用はない、皇は早々と玉座の間を出て行った。
*********
低頭→頭を低くたれること。また頭を低く下げて礼をすること
心得→理解していること。また、理解してとりはからうこと
大袈裟→実際より誇張していること
畏まる→身分の高い人、目上の人の前などで、おそれ敬う気持ちを表して謹んだ態度をとる。命令、依頼などを謹んで承る意を表す。承りました
相容れない→立場や考え方が相反していて互いに受け入れられない
才色兼備→すぐれた才能と美しい容姿の両方をもっていること
猩々緋色→緋(あけ)のなかでも特に強い黄みがかった朱色
徽章→衣服などにつけるバッジ。ここではお印の意味
天華→天上に咲く霊妙な花
賜り物→いただき物、頂戴品(ちょうだいひん)
賢帝→賢王と同じ。賢明な君主。才知と徳を兼ね備えた立派な君主。
謳われる→盛んに言い立てられる。賞賛される
治世→政治が行き届いた穏やかな世の中。大平の世
秩序→物事の正しい順序。社会の諸要素が相互に一定の関係、規則によって結びつき、調和を保っている状態
蔑む→他人を自分より能力、人格の劣るもの、価値の低いものとみなす。見下げる。見くだす
媒体→なかだちをするもの。媒介するもの
縋る→頼りとするものにつかまる。助力を求めて頼りとする
冷めた表情→表情の変化がほとんど無いさま
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