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第21 サポート役ですから…? 6
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「やっぱりそうだったんですね!? でもそれでしたら当初よりこちらで招待致しております他のご令嬢の方々へ、私どもにてお手配することも可能でございましたのに。リオネル様からのご依頼でございましたら、どの者も喜んでお手伝いさせて頂くかと存じます」
「いや、それは……」
「まぁブランシャール男爵令嬢でございましたら、気兼ねなく色々ご依頼も可能だとは思いますが」
リオネル様が実際にそうされるかは別として、たしかにケガの原因となった者であれば、他の方へ依頼するより気兼ねなくこき使えはするだろう。
もともとリオネル様のケガをした腕の代わりだと、自覚はしているのだ。だからそう言ってチラッと向けられた意地悪そうな視線を私は真っ直ぐに見つめ返していた。
そんな私の横でリオネル様が大きく溜息を吐き出した。その音に私もエディス様も、えっ?とリオネル様をうかがい見た。
「彼女だから、だとしたら?」
「何がでございますか?」
「あの事故から庇ったのも、彼女だと思ったからだとしたら?」
「……それはどういうことでしょうか?」
「さぁ? いま私が言えることはそれだけだ」
エディス様とリオネル様の会話を私はただ呆然として聞いていた。それは一連のやりとりにコッソリと聞き耳を立てていた周りの人達も同じなのだろう。不自然な静けさが私たち3人から広がっていた。
「それではテラスに人を待たせているので、私はこれで失礼しよう。行こうレナ。あと貴女は…いや子爵家の者達は、招待客のパートナーを軽んじることの意味をしっかりと考えるといい」
「……」
なにも言葉を返せないエディス様の顔色は青ざめていた。
「レナ、行くぞ」
「は、はい。ではエディス様、失礼致します」
促されるまま、再びリオネル様の腕に手を添えて歩き出した私たちを、多くの視線が追いかけてくる。
その視線の中を進んでいき、人々の目が届かなくなったところで私ははぁ、と溜息を吐いた。
その溜息をきっかけにリオネル様が私の方へ向き直る。
「私がしっかりとテラスまで連れて行ってから離れるべきだった。すまなかった。まさか私のパートナーへあからさまな嫌がらせをするとは思っていなかった」
最後のやりとりで、リオネル様が離れてから何が起きていたのか、何となく察したのだろう。さっきまで凛々しかったはずのリオネル様が眉尻を下げて情けない表情を浮かべていた。
「いえ、そちらは仕方ありません。どなたかをお待たせしていらっしゃったご様子でしたので、特に気にしておりません。ただ…」
「ただ?」
リオネル様が緊張した表情で繰り返す。
「リオネル様、庇っていただけたのはありがたいのですが、今のはダメだと思います」
そう言って私はもう一度「はぁーっ」と大きく溜息を吐き出した。
「今のは…と言うと、パートナーのくだりか?」
「いえ、そちらではございません。事故のくだりでございます」
だって、あの言葉をそのまま受け取ってしまうのなら、リオネル様はエレンだと思っていたからこそ身をていして庇われたということになる。
でもエレンの口からは1度もリオネル様とお近づきになったとは聞いたことがなかった。
そしてなによりもリオネル様ははっきりと好意をそう口にされたわけではなく、ただ思わせぶりに言っただけなのだ。
「リオネル様が噂やマエリス様のお話とは異なって、女性へのご対応に非常に慣れていらっしゃることは、この数ヶ月で十分に分かっております」
始めの頃にリオネル様の言葉を真に受けるのは止めておいた方が良いと思ったことは間違いではなかったと、今の私は心の底から思っていた。
「先ほどのように仰いますと誤解を生んでしまいますよ」
「…誤解されるのか?」
「はい、そうです! 仰るならばちゃんと仰って、ちゃんと仰れないなら何も言わない、そういうことも大切だと思います」
好意を匂わせるだけ匂わせて、かんじんな言葉は伝えないというのは女性とさまざまな浮名を流す男性に多いことだった。
「このように軽率な発言をしてしまいますと、本命の方が現れた時になかなか信じて頂けなくなりますよ!」
「軽率…そうか、では次回は気をつけよう……」
少し落ち込んだ様子のリオネル様に、私ももうこれ以上は止めておく。次のパーティーがいつになるのか、誰をパートナーとされるのかは分からない。
「…軽率……本命に…誤解……」
でもブツブツとそんなことを呟いているリオネル様も、もう軽々しくそんなことはしないだろう。それに今まで噂に上がっていなかったリオネル様の悪癖は、エディス様やメリーナ様の件で疲れていた私をさらに疲れさせていた。
あぁ、でももし。
リオネル様がこうやって匂わせるのではなくしっかりとエレンへの想いを告げる日が来たのなら、私はすぐに出て行こう。
リオネル様の幸せのためにも、そうするべきだと分かってはいるのだ。ただ、そういう事があるのなら、少しでも先だと良いと思ってはしまった。
「いや、それは……」
「まぁブランシャール男爵令嬢でございましたら、気兼ねなく色々ご依頼も可能だとは思いますが」
リオネル様が実際にそうされるかは別として、たしかにケガの原因となった者であれば、他の方へ依頼するより気兼ねなくこき使えはするだろう。
もともとリオネル様のケガをした腕の代わりだと、自覚はしているのだ。だからそう言ってチラッと向けられた意地悪そうな視線を私は真っ直ぐに見つめ返していた。
そんな私の横でリオネル様が大きく溜息を吐き出した。その音に私もエディス様も、えっ?とリオネル様をうかがい見た。
「彼女だから、だとしたら?」
「何がでございますか?」
「あの事故から庇ったのも、彼女だと思ったからだとしたら?」
「……それはどういうことでしょうか?」
「さぁ? いま私が言えることはそれだけだ」
エディス様とリオネル様の会話を私はただ呆然として聞いていた。それは一連のやりとりにコッソリと聞き耳を立てていた周りの人達も同じなのだろう。不自然な静けさが私たち3人から広がっていた。
「それではテラスに人を待たせているので、私はこれで失礼しよう。行こうレナ。あと貴女は…いや子爵家の者達は、招待客のパートナーを軽んじることの意味をしっかりと考えるといい」
「……」
なにも言葉を返せないエディス様の顔色は青ざめていた。
「レナ、行くぞ」
「は、はい。ではエディス様、失礼致します」
促されるまま、再びリオネル様の腕に手を添えて歩き出した私たちを、多くの視線が追いかけてくる。
その視線の中を進んでいき、人々の目が届かなくなったところで私ははぁ、と溜息を吐いた。
その溜息をきっかけにリオネル様が私の方へ向き直る。
「私がしっかりとテラスまで連れて行ってから離れるべきだった。すまなかった。まさか私のパートナーへあからさまな嫌がらせをするとは思っていなかった」
最後のやりとりで、リオネル様が離れてから何が起きていたのか、何となく察したのだろう。さっきまで凛々しかったはずのリオネル様が眉尻を下げて情けない表情を浮かべていた。
「いえ、そちらは仕方ありません。どなたかをお待たせしていらっしゃったご様子でしたので、特に気にしておりません。ただ…」
「ただ?」
リオネル様が緊張した表情で繰り返す。
「リオネル様、庇っていただけたのはありがたいのですが、今のはダメだと思います」
そう言って私はもう一度「はぁーっ」と大きく溜息を吐き出した。
「今のは…と言うと、パートナーのくだりか?」
「いえ、そちらではございません。事故のくだりでございます」
だって、あの言葉をそのまま受け取ってしまうのなら、リオネル様はエレンだと思っていたからこそ身をていして庇われたということになる。
でもエレンの口からは1度もリオネル様とお近づきになったとは聞いたことがなかった。
そしてなによりもリオネル様ははっきりと好意をそう口にされたわけではなく、ただ思わせぶりに言っただけなのだ。
「リオネル様が噂やマエリス様のお話とは異なって、女性へのご対応に非常に慣れていらっしゃることは、この数ヶ月で十分に分かっております」
始めの頃にリオネル様の言葉を真に受けるのは止めておいた方が良いと思ったことは間違いではなかったと、今の私は心の底から思っていた。
「先ほどのように仰いますと誤解を生んでしまいますよ」
「…誤解されるのか?」
「はい、そうです! 仰るならばちゃんと仰って、ちゃんと仰れないなら何も言わない、そういうことも大切だと思います」
好意を匂わせるだけ匂わせて、かんじんな言葉は伝えないというのは女性とさまざまな浮名を流す男性に多いことだった。
「このように軽率な発言をしてしまいますと、本命の方が現れた時になかなか信じて頂けなくなりますよ!」
「軽率…そうか、では次回は気をつけよう……」
少し落ち込んだ様子のリオネル様に、私ももうこれ以上は止めておく。次のパーティーがいつになるのか、誰をパートナーとされるのかは分からない。
「…軽率……本命に…誤解……」
でもブツブツとそんなことを呟いているリオネル様も、もう軽々しくそんなことはしないだろう。それに今まで噂に上がっていなかったリオネル様の悪癖は、エディス様やメリーナ様の件で疲れていた私をさらに疲れさせていた。
あぁ、でももし。
リオネル様がこうやって匂わせるのではなくしっかりとエレンへの想いを告げる日が来たのなら、私はすぐに出て行こう。
リオネル様の幸せのためにも、そうするべきだと分かってはいるのだ。ただ、そういう事があるのなら、少しでも先だと良いと思ってはしまった。
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