36 / 58
第36 ただ、貴女を守りたい 2
しおりを挟む
「いっそうのこと、ずっとレナを手元に置くことができれば良いのですが」
それさえできれば、こんな風にまた見失ってしまう不安に苛まれずに済むはずだった。だけどそれが難しいことは分かっているのだ。
「正当な理由がなければ、いくら事故を原因としていても実家への帰省を防ぐことはできませんわ」
そうなのだ。親が持つ子への権利を一方的に阻害すれば、非人道的な扱いをしていると見なされかねない。そうなれば厄介なのだ。特にこのあとの計画を思えば、少しでもホコリは立たない方が良い。
「でも確かにこの状況がもどかしすぎて、いっそうのこと私達の方でレナの存在を公表してしまいたいぐらいですわ」
「しかしそうなれば、ブランシャール卿がそのあと良いように処理をしてしまう可能性が高いと思います」
もしエレナの存在を世間に発表したとしても、人頭税を2人分しっかりと払って、一見すると法を遵守しているように見えるブランシャール卿から、親の権利を奪うことはできないだろう。
そんな中、ブランシャール卿は世間から再びエレナの存在を隠すはずだ。自分がブランシャール卿の立場なら、存在に目を付けたカナトス家の目に2度とつかないような場所へ幽閉する。
それも今度は合法的に婚姻という方法や修道院へ入れてしまうような方法でだ。そうなればもう手出しはできなくなる。
だからこそどんなに回りくどくて、不安が絶えない状況でもこうやって1つずつ進んでいくしかない事態だった。
母が重たい溜息を吐いた。
「エレン嬢が見つかる様子はありませんの?」
「いまはまだ…。ただ本日レナを呼び出して、母上が婚姻をほのめかしたとなれば、そろそろ動き出すかと思います」
カナトス辺境伯家との婚姻となればブランシャール卿は絶対にエレナとエレン嬢を入れ替えようとするはずなのだ。
だからこそブランシャール男爵家が繋がりを持つ貴族が集まったあのレヴァスト子爵家の舞踏会で、俺との噂が立つように振る舞ったつもりだった。
だけど事前に婚姻への確信を持たせてしまえば、こちらがエレン嬢の居場所を掴めない内に手元に引き戻したエレン嬢と、帰省させたエレナを入れ替えてしまいかねない。
だからこそブランシャール卿に見張りを付けている状況下で、エレン嬢にコンタクトを取るように仕向けたかったのだ。
「敵を欺くにはまず味方から、とは言ってもレナの様子を見ていると苦しいですわ……」
「……もしも、ブランシャール卿へこちらが気が付いていることが伝わってしまえば、全てがダメになってしまいます……そうなれば、もう2度と彼女を守れない……」
さっきのエレナの顔色を思い出す。
今すぐにでも抱き締めて全ての不安を取り除きたかった。それなのにまだ追い詰めるようなマネしかできていない自分が情けなくて悔しくなる。
強く噛み締めた唇から、少しだけ血の味が広がった。
この後、顔を見に行ったのなら、部屋の扉を開けてくれるだろうか。今の自分でも何か支えることができるだろうか。
そんな事を考えている中だった。
慌ただしいようなノックと一緒にクラウスの声が聞こえてくる。
「どうした?」
入室を許可すると同時に入ってきたクラウスは、なぜか興奮しているようだった。エレナのことでいっぱいになっていた俺はそんなクラウスへ眉をひそめて見せた。
「ブランシャール卿が動き出したぞ!」
だがクラウスの発したその一言は、いま抱えていた全ての感情を忘れさせるには十分だったのだ。
「ようやくだ」
これでようやく事態が変わる。俺の心臓は跳ね上がっていた。
それさえできれば、こんな風にまた見失ってしまう不安に苛まれずに済むはずだった。だけどそれが難しいことは分かっているのだ。
「正当な理由がなければ、いくら事故を原因としていても実家への帰省を防ぐことはできませんわ」
そうなのだ。親が持つ子への権利を一方的に阻害すれば、非人道的な扱いをしていると見なされかねない。そうなれば厄介なのだ。特にこのあとの計画を思えば、少しでもホコリは立たない方が良い。
「でも確かにこの状況がもどかしすぎて、いっそうのこと私達の方でレナの存在を公表してしまいたいぐらいですわ」
「しかしそうなれば、ブランシャール卿がそのあと良いように処理をしてしまう可能性が高いと思います」
もしエレナの存在を世間に発表したとしても、人頭税を2人分しっかりと払って、一見すると法を遵守しているように見えるブランシャール卿から、親の権利を奪うことはできないだろう。
そんな中、ブランシャール卿は世間から再びエレナの存在を隠すはずだ。自分がブランシャール卿の立場なら、存在に目を付けたカナトス家の目に2度とつかないような場所へ幽閉する。
それも今度は合法的に婚姻という方法や修道院へ入れてしまうような方法でだ。そうなればもう手出しはできなくなる。
だからこそどんなに回りくどくて、不安が絶えない状況でもこうやって1つずつ進んでいくしかない事態だった。
母が重たい溜息を吐いた。
「エレン嬢が見つかる様子はありませんの?」
「いまはまだ…。ただ本日レナを呼び出して、母上が婚姻をほのめかしたとなれば、そろそろ動き出すかと思います」
カナトス辺境伯家との婚姻となればブランシャール卿は絶対にエレナとエレン嬢を入れ替えようとするはずなのだ。
だからこそブランシャール男爵家が繋がりを持つ貴族が集まったあのレヴァスト子爵家の舞踏会で、俺との噂が立つように振る舞ったつもりだった。
だけど事前に婚姻への確信を持たせてしまえば、こちらがエレン嬢の居場所を掴めない内に手元に引き戻したエレン嬢と、帰省させたエレナを入れ替えてしまいかねない。
だからこそブランシャール卿に見張りを付けている状況下で、エレン嬢にコンタクトを取るように仕向けたかったのだ。
「敵を欺くにはまず味方から、とは言ってもレナの様子を見ていると苦しいですわ……」
「……もしも、ブランシャール卿へこちらが気が付いていることが伝わってしまえば、全てがダメになってしまいます……そうなれば、もう2度と彼女を守れない……」
さっきのエレナの顔色を思い出す。
今すぐにでも抱き締めて全ての不安を取り除きたかった。それなのにまだ追い詰めるようなマネしかできていない自分が情けなくて悔しくなる。
強く噛み締めた唇から、少しだけ血の味が広がった。
この後、顔を見に行ったのなら、部屋の扉を開けてくれるだろうか。今の自分でも何か支えることができるだろうか。
そんな事を考えている中だった。
慌ただしいようなノックと一緒にクラウスの声が聞こえてくる。
「どうした?」
入室を許可すると同時に入ってきたクラウスは、なぜか興奮しているようだった。エレナのことでいっぱいになっていた俺はそんなクラウスへ眉をひそめて見せた。
「ブランシャール卿が動き出したぞ!」
だがクラウスの発したその一言は、いま抱えていた全ての感情を忘れさせるには十分だったのだ。
「ようやくだ」
これでようやく事態が変わる。俺の心臓は跳ね上がっていた。
227
あなたにおすすめの小説
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
【完結】2人の幼馴染が私を離しません
ユユ
恋愛
優しい幼馴染とは婚約出来なかった。
私に残されたのは幼馴染という立場だけ。
代わりにもう一人の幼馴染は
相変わらず私のことが大嫌いなくせに
付き纏う。
八つ当たりからの大人の関係に
困惑する令嬢の話。
* 作り話です
* 大人の表現は最小限
* 執筆中のため、文字数は定まらず
念のため長編設定にします
* 暇つぶしにどうぞ
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
両親に溺愛されて育った妹の顛末
葉柚
恋愛
皇太子妃になるためにと厳しく育てられた私、エミリアとは違い、本来私に与えられるはずだった両親からの愛までも注ぎ込まれて溺愛され育てられた妹のオフィーリア。
オフィーリアは両親からの過剰な愛を受けて愛らしく育ったが、過剰な愛を受けて育ったために次第に世界は自分のためにあると勘違いするようになってしまい……。
「お姉さまはずるいわ。皇太子妃になっていずれはこの国の妃になるのでしょう?」
「私も、この国の頂点に立つ女性になりたいわ。」
「ねえ、お姉さま。私の方が皇太子妃に相応しいと思うの。代わってくださらない?」
妹の要求は徐々にエスカレートしていき、最後には……。
見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。
最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。
幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。
一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。
ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。
婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~
ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された
「理由はどういったことなのでしょうか?」
「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」
悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる
それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。
腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる